海月夜時最憶君。

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リクエスト主様



(※110,110リクエスト/ナナシ様)
(※ポルノ.グラ.フィ..ティ/まほろば◯△のような世界観で海賊)
(※↑あくまでマムが聞いたイメージです。ご了承下さい)
(Side U)




「ちょっとー、ナナシ!置いてくよ?早く早く!」

「そうよ!早くしないと良いところ全部取られちゃうんだからー」

入念に化粧と服を鏡の前でチェックしては、女の子たちが競うように駆けていく。

「いってらっしゃい、あたしはパスするから稼いでおいでよ」

料理やお酒もあるのよ、と誘ってくれるのを断り一仕事終えた身体を伸ばした。

昨日、港に大きな海賊船が着いた。海の屑と呼ばれる海賊共も中には赤毛の船長率いる海賊団のように悪い噂の殆どない奴らも居ると言うがクズはクズ。
今回停泊してる海賊団はかなり羽振りがいいと有力情報も入ってるらしく、何より大きな船ほど乗組員は多い。とすれば『娼婦』にとっては稼ぎ時。いそいそと出ていく背を見送る。

「お疲れ様。あたしはいつもの所にいるから、何かあったら電伝虫に連絡して」

娼館の繋ぎ役に一声かけ、仕事を終えた店を出た。街中を歩くと見慣れない顔が飲食店や酒場、武器商の店内に溢れ街の懐を温めている。港はもっと騒がしいのだろう。

ナナシちゃん、これ持って行きな!ちょうど出来立てよ!」

「お!ナナシ。良い酒入ってるぞ、センセイに持ってってくれ」

滞在期間が三ヶ月にもなると街人もあたしを覚え、こうして気さくに声をかけてくれる。ご飯とお酒をありがたく頂戴し、一眠りして月が出た頃、海賊船の着いた港から離れた海岸へ。日課になってしまった散歩として波音を聞きながらただ歩く。

「ああ、おい。そこの…」

履いていたヒールの靴を脱ぎ、足裏で砂浜の感触を楽しんでいたら声を掛けられた。振り返ると男の二人組。月の光を跳ね返す金髪頭が、もう片方を肩で支えながら歩いていた。

ナナシか、丁度いい。少しコイツの面倒見ててくれねえか」

そう言った男…胸元に大きな刺青、四皇白ひげのマークが刻まれた男をあたしはよく知っていた。

「新しくウチの家族になったんだが、祝宴で寄ってたかって飲ませたらこのザマでな。船医を呼んでくるからそれまで頼むよい」

白ひげの船が来てると知っていた。だから会わないように港から距離を置いたのに、なんだってわざわざ出会わねばならないのか、こいつと。なんでこっちの浜辺まで来てるの。

「…お断りよ。他を当たって、一番隊の隊長さん」

「仕事の依頼を持ってきてる。先に連絡していたろうが。ナシーナに取り次げ」

「師匠から『私は別件の仕事で暫し離れる。待つ気があるなら待ってろ、なければ勝手にしろ』…マルコが訪ねたらそう伝えろと賜ってます」

踵を返したあたしの背に、さらに声がぶつかる。振り返って師匠からのメッセージをマルコへ伝えると舌打ちが答えた。

「ああ?行くと連絡したろうが、何で居ないんだよい」

「決まってんでしょ、隊長サンより優先事項だからよ」

嫌味を込めたあたしの言葉に可笑しそうに笑い、マルコは連れの男を浜辺に寝かせた。

「…お前をここに置いて行ったって事は、ナシーナの留守を任される程になったか、ナナシは」

こちらの返事も聞かずにサッサと離れていくマルコ。ちょっと持って行ってよソレ!

「すぐ戻る。頼んだぞ」

家族家族とうるさいくせに何の基準であたしに泥酔の仲間の面倒見させるのか解らない。寝首掻いたら…とか考えないのか。

「…………」

行き倒れ状態で放置された男が呻く。
仕方なくあたしは男に近寄り、仰向けにしてやった。

「ねえ、大丈夫?」

生憎、財布はあるけど水など持っていない。
顔をタオルで押さえた男は、顔こそ見えないけどまだ青年と呼べるくらいの年頃。マルコよりずっと若いが、頭もシャツも酒で濡れてかなり酒臭い。

「……あいつ、もう行ったか?」

タオルを押し付けたままでくぐもった声が尋ねた。

「あいつって…マルコ?ええ、もう居ないわよ、ここには」

教えてあげると青年は上半身を起こした。顔を覆うタオルを口元まで下げ、辺りに目を走らせた。

「ここで待っていればマルコが医者を連れて来てくれるそうよ」

意識もあるし大丈夫そうだと判断し、ここを離れようと立ち上がった。面倒見る気なんてないし気遣ってあげただけでも偉いと思う。

「なあ、お前…」

引き止めるみたいにスカートの裾を引かれた。
手を振り払って見下ろすと、意志の強そうな黒い目があたしを見返す。僅かな夜風に青年の癖毛がふわりと揺れた。

「……吐きそうだ」

眉根を寄せた青年のそばにしゃがんで背中を撫でた。溜息が出る。放り出して帰りたい。

「吐いちゃえば。楽になるよ」

「嫌だ。勿体ねえだろ」

「…じゃ、膝貸してあげるから迎えが来るまで頭乗っけてていいわよ。寝てる方が楽でしょ」

砂浜に座ると青年は目を見開き、少し戸惑った後、そろりと頭を乗せてきた。

「…………」

「…………」

波の音と、遠く聞こえる騒ぎ声。無言でいたのはどの位だろう。

「…何か、話してくれ」

「え?」

「頭の中がグルグル回って困る」

…波が酔った頭に響くのだろうか。青年の気を紛らわす為の話を考え口を開いた。こんな月夜は感傷的になるのかもしれない。昔の事を思い出す。

「…じゃあ、あたしの友達の話をしてあげる。つまんない話だけど」

話し始めると波にあたしの声が混ざる。もう何年も前の話なのに、あの事を今も忘れる事が出来ないでいる。







親に捨てられ、生きていく方法はその位しかなかった。初めはこそ泥。次が盗賊、転げ落ちるよう行き着いたのは、自分の身体を売る娼婦。

「お前はこの金額と値段をつけられる事に嫌悪しながら、高値がつくと歪んだ喜びが湧くんだって言ってた」

青年は相槌も打たず、聞いてるのか聞いてないのか解らないけどあたしは続けた。

「振る舞いも見た目も、人気の娼婦をよく見て自分で思考錯誤して努力して、…でも無茶な事をたくさんしてた。心身が壊れてくみたいに見えたよ」

瞼の裏に浮かぶ。着飾り化粧し、媚び、甘え、昼夜構わず男に声を掛ける。愛想よく笑う顔の下で精一杯叫んでた。愛して欲しいと。

「…ふーん。頑張り屋のいい女なんだな、その友達」

ポツリと青年が溢す。話は聞こえていたらしい。

「あはは、頑張り屋!そう言う言い方もあるのね。だけどあの子は男を選ばないから揉めるのもしょっ中。ボコボコにされて入院も何度もしてた。懲りずに娼婦続けてたのは早く死にたかったんでしょうよ」

「………」

暫しの沈黙。波間に光が散る。

「さっき、オヤジの船で宴会して貰ってた時…娼婦もたくさん来てた。お前の友達もそこに居たのか」

「見た所、あなたは結構いい身体してるから、たくさんお声がかかったでしょう。酔いが覚めたら買ってあげたら?」

肯定も否定もせず喉の奥で小さく笑い、この島の娼婦はいい娘ばかりだと保証しておく。膝上の頭を撫でると酒で湿り少し軋んでいた。

「話の子はこの島の娘じゃあ無いよ。遠い昔、…死んじゃったから」

マルコはまだ戻る気配がない。あたしは話の続きをする。懐かしくも痛みを伴うこの話を、誰かにしようと思ったのは…こんな夜に出会ってしまったからかもしれない。

「…ふふ。その子はまたどうしようも無いクズと揉めて、今度は仲間も引き連れた男に囲まれた。ボコボコにされて強姦か、強姦されてから殺られるか…とさすがに死を覚悟した時にね、会ったんだって」

「誰に」

じゃり、という砂を踏む音に話は止まる。
マルコが一人で歩いてくるのが遠く見えた。
船医らしい姿は無し。ということは…やっぱり謀りやがったな。

「…さ、話はおしまい。気は紛れたでしょ?」

「続きは?まだ最後まで聞いてねえ」

膝をそっと外して立ち上がる。これ以上マルコの謀に付き合っていられるか。絶対ロクな目見ない。
青年はタオルを顔から外しあたしを見つめる。何かを訴えるように。月明かりで見えた顔にはそばかすが散り、精悍な顔立ちを少しだけ子供っぽく感じさせていた。

「…お迎えよ。さようなら」

裾を引かれる前に離れた。脱いでいた靴を履く。ピンヒールだけど砂浜で足を取られるような無様な真似はしない。すれ違いざまにマルコを睨むと、腕を掴まれた。

「あいつと話したか?」

「少しね。手を離して」

「あいつをどう思う?」

「手を離して」

この男を振り解けないのは解ってる。力で敵う訳がない。あたしの主張を無視してマルコは言う。

「オヤジの刺青をまだ入れてねえんだよい。ナシーナに頼むつもりだったが…ナナシ入れてやってくれ」

「お代は」

「あいつが払う」

あたしは駄目もとで腕を振り払うと、存外簡単に外れた。マルコが力を緩めてわざと離したからだろう。腹立たしい。

「気に入らなきゃ受けない。あたしは『稀代の彫り師ナシーナ』の唯一の弟子、それなりの矜持がある」

「知ってるよい。だからお前があいつと話をするよう仕向けた」

自信満々。あたしがあの青年を気にいるに決まってると思ってる。

「あいつの方は、もうナナシを気に入ってる」

あたしとマルコの側まで青年は歩いてきた。少しよろめいたのは酒のせいか。

「…ポートガス・D・エースだ。マルコから話を聞いて是非あんたにと」

「…知ってるわ。5億5000ベリーのルーキー。初めてまして、ナナシよ」

手を差し出すと驚いた顔で、ぎこちない握手を返した。掌は海の男らしく硬い。その割に肌にはキメの細かさが残ってる。丈夫だし健康だ。

ナナシ、俺の肌に刺青を入れて欲しい」

「他を当たって」

「いや、お前…ナナシに頼みたいんだ。他は考えられねえ。腕前は文句なしと聞いてるし、それに…」

頼むと下げた頭を上げ、真っ直ぐにあたしの目を見てはっきりと言う。

「もう少し話がしたい」

ぷ、とマルコが噴き出した。あたしとエースが揃って睨むと、さらに笑いが深まる。わざわざ顔を寄せて耳に囁く声も、からかい口調。

「…ウチのベッドを空けてある。身体見てから決めてくれてもいいよい」

気持ち悪いので手で押しのける。あたしがマルコを嫌ってると知っていての嫌がらせだろう。

「…………」

「ふは、即答で断らねえな。決まったも同然じゃねえか」

嫌な男だ。ナシーナ師匠に従事してから会ったマルコの印象は当初から少しも良くならず、悪化の一途を辿ってる。いちいち突かれたくない所を確実に刺してくるから。

「…道具を取ってくる。船番に一言、あたしの事伝えておいて」

先に行けというと、マルコは不死鳥に姿を変える。

「エース、歩けるか」

「うるせえ、当たり前だろ…うわ!」

「海に落ちるなよ」

からかうように光の尾でエースを翻弄したマルコが夜空で舞う。モビーディックの方へ流星のように飛んでいく姿を苦く見送った。

「…じゃあ。後で」

あたしはエースに背を向け仕事道具を取りに向かった。電伝虫に連絡も無く師匠にかけてみたが案の定繋がらない。

「忘れてると、思ってたのに」

一人きりの部屋の中、呟きは小さく落ちる。瞼を閉じると記憶の中で、真っ白な布の切れ間から忘れられない顔が覗く。
過ごした期間は長くない。過ごした時間は濃厚だった。

「…留守を預かってるんだ。あたしは彼の方の唯一の弟子。あたしの行動が師匠の行動」

パチンと鞄の鍵を止め部屋を後にした。月が道を照らす。
あたしの色は赤、師匠は青。お揃いのピンヒールを足に背を伸ばして歩く。いざという時は武器にもなるという美しくも危うさを孕む女の象徴。背骨ごと真っ直ぐになれるこの靴は師からの贈り物。

『姿勢は大事だよ。辛くって苦しいなら余計に胸張っていなさい』

姿勢も自分の在り方も、誇りも何も無かったあたしを拾ってくれた。

『私の真似などするな。ナナシにはナナシのやり方があるのだから』

生きていく術を示してくれた大恩の、敬愛して止まない師匠。

『難儀な男に惚れると苦労するよ、私みたいにね』

師であり、母であり、姉であり…あたしの家族の言葉を思い起こし心を鎮める。
モビーディックの港に近づくと売り手と買い手でごった返し、踊る人、歌う人、食べて飲んでの大騒ぎの乱痴気騒ぎで凄かった。
ぶつかりながら人混みを縫って、顔見知りの洗礼…挨拶を受ける。酒のコップを持たされたり食べ物の乗った皿を次々差し出されて、丁寧に断るのに一苦労。

ナナシ

喧騒に近い声の中、あたしを呼ぶその声が一直線に耳に届いたのが不思議だった。鞄を持つ手が僅か震えた。大きく手を振り、エースはあたしの元にやって来た。

「良かった。遅えからナナシの事、迎えに行くところだったんだ」

あたしが揉みくちゃにならぬよう、庇いつつ甲板に導く。掴まれた手首は温かい。体温が高いんだろう。

「こっち真っ直ぐ行くと食堂。サッチの飯が凄え美味いんだ!後で一緒に食おう。で、あっちにある階段降りて左行くと書庫と保管庫があって…」

廊下を歩きながらあたしにモビーディック船内の説明をしていく。

「そう。で、あたし達のベッドはどこ?」

「…ベッドは、こっちだ」

何故か顔を赤らめて歩いてきた道と逆方向を歩き出す。

「ああ、そうだ。ベッドに行く前にシャワー浴びて良い?」

「何で?」

「…マルコから聞いてないの?」

キョトンとした顔が是と語っていた。あのパイナップル野郎、説明丸投げしたわね。覚えてろよ。

「師匠は顔相を観れるから問題無いんだけれど、あたしはその辺がまだ足りなくてね。客を選ぶ時は身体を見せて貰って決めてるの」

「シャワー関係あんのか?身体って…脱げばいいんだろ?」

補足を付け足す。解りやすく簡潔に。

「一糸纏わず肌を重ね、触って確かめたい。挿れないけど、ほとんど性交に近い状態になる。お互い綺麗な方が気分良く出来るでしょう?」

「……せいこう……」

「嫌だったら止めても全く構わないけど。ヤってあたしが気に食わなきゃ受けないし」

迷いはあったのか、無かったのか。エースはまた歩く方向を変えた。

「何処へ?」

「シャワー室」

気軽に手も繋いでくるし、女慣れしてるんだろう。それなら…。

「じゃあ一緒に入っていい?」

「はあ?!」

「手っ取り早いじゃない」

シャワー室に着くと、自分は外で待つから先に使っていいと言う。

「女の裸なんて飽きる程見てるでしょ」

さっきも甲板に着くまでにエースを目で追い声を掛けている娼婦や女の子が居たし、男からは「おう、何だよ女連れ込む気か?エース!」と背や肩を叩かれていた。

「そんなに見てねえよ、悪かったな!」

顔を赤らめたエースが自爆する。まあ何人かとはしたのだろう。多分。

「さっきも言ったけど、無理強いはしないわ。嫌なら別に入…」

「入るよ、嫌なんて言ってねえだろ」

…面白いな、エースって。すぐにムキになる。
単純というより、気持ちに素直なのかもしれない。あたしとエースは脱衣所で服を脱いで裸になりシャワー室に入った。

「おい!あんまりくっつくなって、ナナシ

「狭いのよ、我慢して」

「…こっち見んな」

シャワーヘッドを取ろうとしたら顔に掌が押し付けられた。目隠しのつもりなのかしら。

「…ッ、待っ、何して…!」

「触ってるの。なかなか肌質良いわね」

目隠しされたまま、手探りで肌を弄る。腹筋は形が良く綺麗に割れている。脇腹も締まり固く、肩の付け根や首筋にもしっかりといい肉がついている。

「~~やめろ!」

「きゃ!」

視界が開けたと思ったら両手首を掴まれ、シャワー室の壁に押されつけられた。

「…ごめん…ちょっと待ってくれ」

顔を背けたエースは頬が赤い。何を照れているのか、耳まで赤いわ。

「…とりあえず、お湯出してもいいかしら。寒い」

ふと手首が自由になり、エースは後ろを向く。
背筋もいいバネが組み込まれている、と観察してたら、シャワーの水音が聞こえ始め温かな湯気が立ち上った。

「熱くねえか?」

「ううん。気持ちいい」

なるべくあたしを見ないようにしつつ、シャワーを当てる。不慣れな様が愛らしい。

ナナシはいつも、こういう事してんのか」

「ええ、依頼があれば老若男女問わず」

髪と身体を清め、脱衣所で服を着て、ベッドに行くまでエースは無言だった。
ベッドに着くとあたしが言う前に服を脱いでいった。あたしも無言で下着まで全て取り外して、ベッドに乗った。

「楽にして横になってて。時々、横とかうつ伏せになってもらうけど」

逞しい胸に指を這わせると少しエースの身体が跳ねたものの、逃げたりしなかった。

「…さっきの…友達の話。聞かせてくれ」

「…どこまで話したかしらね」

あたしの手が一瞬止まり、また蠢く。はぐらかそうと思ったのにエースはしっかりと続きを求めた。

「男に輪姦されそうになって、そのあと、誰と会ったんだ?ナナシの友達は」

「……馬鹿な男に出会ったの。それで友達は死んだわ」

首を撫で耳の後ろを辿る。水に触れ、濡れた肌はしっとりと馴染んで好き。鎖骨を撫でて乳首に触れると、エースが息を詰めた。

「…っ、…どれくらい、バカ野郎だったんだよ、そいつ」

「声は我慢しないで。皮膚ってね、全身一枚で繋がってるの。引っ張られ伸び、曲げて縮む。そういうの全部確かめるから」

シャワー室では逸らされていたエースの目は今はあたしに据えられている。その視線が胸やウエスト、その下へと辿っているのを知っていて無視した。

「…友達の前に現れた馬鹿男は、囲んでいた男たちを一掃した後、彼女の手を引いて娼館まで送った」

腕を持ち上げて曲げて伸ばす。少し肩が痛んでる。曲げた時の感触から察し、ツボを押す。

「助けたお礼に、これしか持ってないと自分の身体を彼女は差し出した。馬鹿男は一晩、彼女と過ごした」

足首は丈夫ね。太ももから足首はかなり鍛えられている。野山で駆け回ったりしてたのかしら。

「…そ、れで?」

時折身体を揺らし、あたしの手でエースは息を乱していく。気持ちいいでしょうね。マッサージと愛撫を同時に受けてるようなものだから。

「キス一つしないで一晩中、彼女の話をただ聞いていたそうよ。その翌日、馬鹿男はどう交渉したのか娼館の用心棒に収まってた」

うつ伏せになって、と指示すると素直に転がる。さっき少し見たけど、触ると尚、この背中は凄くいい。墨を入れるならここだ。絶対。

「くすぐってえ、んだけど…」

「気持ちいいでしょう。指圧とツボの免許皆伝してるのよ、あたし」

ぐ、ぐ、と凝りを見つけて押しほぐすと、エースは声を漏らした。

「…ふ、く…ッ、そこ、…」

一通り背中を撫で、脇に手を滑らすとケラケラと笑った。首の付け根から頭皮をじわじわと探り上げる。

「…つ、づき…早く」

話ではなくて、愛撫を強請られているみたい。
顔が見えなくてよかった。その気になりそう。

「金が貯まると、ある晩馬鹿男は友達に言った。自分は海賊だからもう次の冒険に行かないといけないと」

腰から下、臀部、膝裏を通って脹脛。馬乗りになり気になる場所を全て調べ上げる。
エースは発汗が良い。興奮する。濡れてきた肌と肌が擦れ合う感触に、あたしの口からため息が細く漏れた。

「変な、声、出すなよ。ナナシ

あたしが組み敷き、跨っているこの身体は、稀に見る恵まれた骨格に筋肉を纏っている。肌質も海風に当たってるくせに上々。

「エース、仰向けに」

ゾクゾクと背中が仰け反る。堪らない、指示する声が少し掠れた。

「……いや、今、ちょっとやばいと思う」

枕に顔を押し当てたまま呻く。事情はお察し。

「勃ってても気にならないから、早く」

「~~俺は気にするんだよ!!」

顔を捻ってあたしを睨むエースの目には隠しようもない欲望が光る。馬乗りの姿勢をさらに前傾させ、エースの顔にに覆いかぶさって唇を合わせた。

「んく、…ナナシ、っ…」

「…口の中、温かい。エースって体温高いのね」

至近距離で見つめ合い、先に逸らしたのは私の方だ。仰向けに、ともう一度言うとエースは渋々ひっくり返った。

「手を退けて、触るから」

観念したのか隠していた股間部を露わにし、あたしが触れると呻いて顔を手で隠した。少し撫でただけですぐに硬度は増し、臍の辺りまで元気よく反り返った。裏筋、睾丸、…女泣かせそうだな。

「…ま、だか?…本当やばいんだけど…っ!」

しなくても良いんだけど、何となく亀頭をぐりぐりと弄り回してやったら、切羽詰まった声がまだかと急かす。手で隠してないでこっち見てたら、…あたしがどんな顔してエースに乗っかってるか解るのにね。
股間を離し、身体を移動する。濡れた自分の秘部を屹立したモノに擦り寄せると、エースの身体が一気に強張った。見てなくても感触で何をされたか解ったらしい。

「……ナナシ…、それ、ダメだろ…ッ!」

「合格。花丸くれてやりたいわ、この身体」

「…そーかよ、そりゃ光栄だ」

身を離そうとすると上半身起き上がったエースに抱き締められた。

「身体検査はおしまいよ、離して」

「馬鹿な海賊の続き。まだ話しの途中だろ」

首元で喋られると吐息がかかる。
エースにはマルコにされた時のような不快感は無い。興奮に乾いた唇を舐め、あたしは続きを語った。

「…出て行く前の晩、海賊は友達と身体を繋げた。どうしようもない言葉を残して、クソ海賊は心を寄せた彼女を置いてけぼりにした」

なぜ、彼女が死んだのか。それは海賊なんかに心を許し、挙句、甘言を鵜呑みにしたからだ。
ふ、とエースが小さく笑った。顔を上げてあたしと額を合わせ、口を開いた。

「名を上げて、必ず迎えに来るから」

それは一言一句、あたしの記憶と違わぬ台詞。

「……っ!」

エースは薄手の白い毛布を手繰り寄せ、あたしの頭から被せた。そしてその端を軽く摘んで持ち上げ唇を寄せる。

「そうしてると、お嫁さんみたいだ」

…真っ白な布の切れ間から、忘れられない顔が覗く。あの頃よりずっと大人びた、でも、変わらない優しい笑顔が、面影が重なる。あの時と同じ、将来を誓い合う真似事のママゴト遊び。
鮮やかに記憶が舞い踊る。もう思い出したくないと押し込めたのに。

『初めてだから上手くできねえけど、ごめん、出来る限り丁寧にするから』

ごめん、と何度も謝りながら恐々と触れてくる不慣れな手に、まるで自分が大事な物になったみたいな気持ちになれた。離れたくないと何度も縋って求めた。愛おしいと思った相手との、最初で最後の夜だった。

「なあ、お前の話の馬鹿男って俺の事だろ?」

…だだ、一緒に連れて行ってと一言、口にする勇気があたしには無かった。

「…友達の話よ、よく似た話はどこにでもあるわ」

瞑目して、密か祈る。笑うと子供みたいに無邪気に見えた。空気ごと温かくなるような笑顔で、抱き締めてくれた。

「それに最初に言ったわよ。その子、もう死んだって」

海賊だと言ったけど卑下た言動なんかなくて、エースが時折見せる礼儀正しさに触れるたび胸が震えた。

「…お前の事ずっと探してた。オヤジの息子になって、マルコに話聞いた時驚いた。絶対ナナシだと思った」

あのクソマルコ野郎、本気で疫病神だわ。
忘れた日なんか一度もなかった。辛い時ほどエースのと思い出があたしを燃え立たせる。炎のように何度でも。…それは今も。

「人違いよ。明日から仕事に取り掛かるわ。オススメは背中ね、エースの身体で一番綺麗に入るから」

頼りない不確かな約束を信じられる強さがなかった。

「はぐらかすなよナナシ、俺は本気だ」

儚く僅かな希望を拠り所にする諦めの悪さが祟った。

「あの夜に約束した通りナナシを貰ってく」

座位から体重をかけて押し倒される。手首は顔の横に押さえつけられ固定された。

「思い上がりもいい加減にして。あたしがエースにあげられるものは刺青だけよ」

「……俺が海賊だと解ってんだろ。刺青もナナシも俺のものだ」


拒否を許さない獰猛な笑い方をして、強引に唇を重ねられた。唇に歯を立て血の味がしても、それは離れることはなかった。







生きたい、行きたい、逝きたい。
…遠い日の君と。


(離さないと酷いわよ)

(…へえ、やってみろよ)




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