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Blind Walker.
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(※95,559リクエスト/まる様)
(※お相手マルコでとにかく愛される)
(※モビーディックにて)
(Side U)
マルコが食堂にやって来てカウンターに顔を出し、この粥少し貰っていいかい?と言った。
「良いけど。お腹空いてるなら何か作るわよ?あと粥じゃなくてこれリゾットだから」
「いやいい。俺用じゃねえ、あいつ餌付けしてくるよい」
「…ああ、あのとんがりナイフ坊主ね」
ちょっと前オヤジが拾ってきた件の少年。ウチに乗せられてからこの方、懲りずにオヤジの命を狙っている(らしい)。
らしい、というのはとんがりナイフがあまりにもやられっぱなしだからだ。挑戦回数100を越えても掠りもしないし。見ていて可哀想になるくらい。
皿にリゾットを盛り甲板に向かうマルコの後を追う。光が眩しくて目を眇めつつ離れた位置から二人を観察し、マルコの唇を読んで会話を見守った。
膝に顔を埋め休むとんがりナイフの前に皿を直置きした。犬の餌かよ。スプーンくらいつけてやんなよ。
「そろそろ決断しろよい」
風に乗って会話が耳に届く。マルコがオヤジに『息子』と呼ばれる事の嬉しさを語り柔らかく諭した。
「…この船を降りて出直すか…ここに残って”白ひげ”のマークを背負うか…!!」
モビーディックの海賊旗が風にはためいていた。オヤジの誇りが心地良さそうにはためく。
…あの子がどう返事を出すかは解らない。でも。
「綺麗な黒い目の子ね」
顔を上げたその子の目は力強く、真っ直ぐだった。明るい甲板は眩しくて目が痛い。私はそこから離れ食堂に戻った。
「まる、まる!」
でかいザルを抱えたエースが私の隣にくる。ピンと立った耳と千切れんばかりに振られる尻尾の幻覚が見える。
マルコの言葉に何を思ったのか?この子もついにオヤジの息子になると決めたらしい。決意を固めたとんがりナイフ君は、あの寄らば燃やす!という尖った雰囲気が嘘のようによく笑うようになった。
「何?エース」
「ジャガイモ剥いた!他は?」
さっき頼んだ一箱分のジャガイモの皮剥きを終え、次は?と尋ねてくる。私はボウルを二つ取り出してエースが剥いたジャガイモのザルと交換する。
「じゃあ玉ねぎの微塵切り。このボウル二つ分ね」
まな板と包丁を用意して渡すと、ぎこちない手つきで玉ねぎを刻み出す。
「……………ぐすっ」
「ぶは!鼻水垂らさないでよ?ほら」
涙目になりつつ一所懸命に包丁で玉ねぎと格闘するエースに一度手を止めさせ、私はエプロンのポケットから取り出したハンカチで目を拭いてやる。
「……お前よー、本っ当懐かれたな。まる」
そうなのだ。何故か私はエースにめちゃくちゃ懐かれていた。マルコが与えた食事を作ったのが私と解ると『凄くうまかった、ご馳走様でした』とわざわざお礼を言いに来て、それ以降これだ。キッチンに居ればキッチンに、甲板で洗濯していれば甲板に。
「あ、まる!」
私の姿を見つけると犬みたいに駆け寄ってくる。そして何かする事ねえか?とうろうろと後ろを付いてくる。ピヨピヨと擬音が聞こえるような足取りで。
…あのとんがりナイフがコレだ。別人か?何だか私はオヤジの次くらいにはエースから好かれてる気がする。一途に懐かれて悪い気はしないし、何となく犬っぽいので可愛がってしまう。
「ごめんごめん、髪の毛弄ってたら遅れたわ~」
当たり前に遅れてきたサッチ隊長の足を踏む。ヒールの部分でにじにじするのを忘れずに。
「来るの遅い!さっさと仕事してサッチ隊長」
「~~っ、いってえ!…あー、目ェ覚めたわ…」
「エース。サッチ隊長の言う事は殆どクソだから聞かないようにね。バカが移ると困るからね」
「…お、おう…」
呻きながらニヤつくサッチ隊長を見てエースは微妙な顔をした。 何で蔑みの目で見られて喜ぶのか不思議だよね。その気持ちよく解る。
「あ、そうだ。これ献立の予定な」
「了解。…これだと肉の在庫足りないけど?」
渡された献立表に目を通してから思わず小声になる。サッチ隊長も苦い顔して、私に合わせて小声になった。乗組員が増えれば当然、食べ物の消費も増える訳で。
「いやー…はは、結構ギリギリ?」
「ギリギリっていうか…肉は次の島までもたないよ。最悪、魚なら釣ればいいけど。燻製とか塩漬けの方はもう切らしてるのよ?」
「だ~からホラ、あれあったろ?豆腐凍らせた保存食。前にレシピ漁って見つけた『肉もどき』作ってみようかと思ってんだ」
「…ああ!イゾウ隊長から聞いた例のアレ!」
モビーディックの胃袋をがっちり握っているのは我等が四番隊である。メインは食事関係だけど、戦闘時には惚れ惚れする位の立ち回りを見せてくれるサッチ隊長は本当に頼れる隊長だ。
「2日…、いや。3日手作り豆腐で持たせる。その間にお前、ちょっとその辺の島から狩ってきてくれね?鹿とか果物とか食えそうなもん」
「あんた私に狩って来いとかよくあっさり言えたわね、…まあ、行くけど」
「…何か食うもん残ってるかい?」
サッチ隊長と悪巧み…じゃなくて。献立相談していたら、マルコ隊長が怠そうな顔してカウンターの向こうから声を掛けてきた。
「おはよう、マルコ隊長」
「おう…もう昼だけどな。寝坊しちまったよい」
眠そうに欠伸をする。また夜通し本でも読んでたな。年だからやめろって言ってんのに聞きやしない。
「サッチ、コーヒーくれ」
「只今セルフサービスとなっとりまーす」
とか言っても、既に抽出済みのコーヒーサイフォンとコップは出してあげるんだから笑える。
人の、特に食事の世話をするのは隊長の仕事というより多分生き甲斐だ。
カウンターの中に入ってきて自分のコップにコーヒーを入れ、マルコ隊長はエースに気付く。
「…エース。またお手伝いかい?」
「ああ、まるの手伝いしてるんだ…ぐすっ」
涙目で鼻をすすり返事するエースは、少し粗いけど微塵切りを進めていく。玉ねぎを刻み終わったら洗い物。あれこれやらせても文句一つ言わず、私が魚を捌く横で『スペードの海賊団、船長』だった頃に行った島の話や美味しかったものの事を話す。
「それでな…」
「!」
ノイズ音が少ししてから、艦内放送が響き渡った。
『…敵襲~!九時の方向に二隻、二時の方向から三隻!』
キッチンの中のクルーは手を止めない。包丁を使う音も火を使う音も、そのまま。
「久しぶりだな、敵襲。1週間振りか?」
「たった五隻でウチとやり合おうなんて、馬鹿かよ」
甲板にいる暇なやつが行くだろう。私たちは仕込みの手を止めず、鼻歌すらしてる奴もいる。戦闘が終われば腹減ったとやってくる仲間のためにも離れるわけにはいかない。
「…エース。行っといで」
「え?!」
お皿を拭きながら物凄くソワソワしている末の子に苦笑いが浮かぶ。
「……いや、いい。俺手伝いしてる途中だし」
食堂でお茶やコーヒー飲んでた連中も、持て余していた暇を潰せる!とばかりに走り出ていく。エースの目は正直にそれを追う。私はエースから布巾を取り上げた。
「行っといで」
「………行ってくる!ありがとな、まるッ!」
戸惑って布巾と私の顔を見比べた後。にか、と満面に笑みを浮かべて飛び出して行った。
「コーヒーおかわり貰えるかい」
「あら?敵船来てるのに行かないの、マルコ隊長は」
「若え奴に手柄譲ってやらねえと」
あらそう、余裕です事!私も仕事の手を休めコーヒーで一服する事にした。
ここのところ忙しいのかボンヤリして見えるマルコ隊長の為に濃い目のコーヒーを淹れなおして渡す。外から漏れ聞こえる大砲や銃の音がする食堂で、マルコ隊長とコーヒー飲みつつ次の上陸地での買い出しや新しく入った家族用のあれこれについて話した。
「ああそうだ、まる。お前次の島で…」
「まるー!まる、まる居るか?」
けたたましい音とエースが転がり込んできた。
泥と(返り)血だらけで、その腕に宝箱を抱えて。
「オヤジが見つけた奴が貰っていいって言うから、これ!まると中身見ようと思って持ってきた!」
「はいはい、おかえり」
「……ただいま!なあ早く見よう!」
鍵を捩じ開けて蓋をあけると、幾つかの宝石と細工刃、貴重石のアクセサリーが入っていた。
「この中でどれがいい?まるにやるよ」
「え?」
宝石なんか興味ないし要らん!…と、いつもなら言うところだけど。私はどうもこの末の子が可愛いらしい。
「…うーん。私にはサイズとか合わないから、これは次の島で換金したらいいよ。それでエースの好きなの買いなさい」
ぶかぶかだから、と赤い石の指輪を親指に嵌めてクルクルと回して見せたら、エースはキッチンに入って行き紐を片手に戻ってきた。
「金に換えてもいいけどさ…ほら!これなら失くさなくていいだろ?」
「……うん、まあ、これベーコン用の紐なんだけど…」
ベーコン用の紐に指輪を通してネックレスのようにして私に渡す。なんの見返りもなく、ただ私を喜ばせたいと、キラキラした目でプレゼントを貰うのはいつぶりだろう。くすぐったいし嬉しい。
「ありがとね、エース」
「おう!」
一緒に宝箱の中を見ていたマルコ隊長にもエースは指輪を渡していた。ベーコン紐ネックレスにして。
「…コーヒーごちそうさん」
マルコ隊長も苦笑いしてネックレスを受け取り、コーヒーカップを持つと去り際に私の頭を撫でるように軽く触って食堂から出て行った。
「……?」
私の髪にゴミでもついてたのかしら?仕込みの支度はサッチ隊長と当番の仲間に任せ、食料庫の鍵を借りて中の状態を見にいく。
島に着いてからの買い出しリスト作成のメモを取りつつ、凍り豆腐の個数を数えてカートに入れた。その後は書庫にレシピ探しに行った。5時までにメモ取って覚えておこうと思ったからだ。
「…あれ?」
普段はあまり書庫には来ない。そのせいか棚の並び、本の種類、何並びかさっぱり解らない。
あの本はどこにあったかまるで思い出せず、ウロウロと棚の間を彷徨った。
「何探してんだい?」
「!!」
書庫に入り浸りのマルコ隊長が、不審な私に気がつき、声を掛けてきた。
「お前殆どここに来ねえだろう。珍しいな」
「まあちょっと、ね」
乾燥させた豆腐で肉もどきを作るのは内緒だ。
ここで喋ったらマルコ隊長も騙せるかどうか?という楽しみが半減してしまう。
「すぐ必要なものではないから。マルコ隊長は読書続けて」
誤魔化しつつ、そう言って横を通り抜けた。通り抜けようとしたのに。
「…っ!」
「そうかい」
マルコ隊長の伸ばされた腕に阻まれ、通せんぼされた。何故壁ドンされてんの?
真意は計りかねるがあまりよろしくない感情があるのだとは解る。長年の付き合いと刻まれた眉間のシワ具合で。
「何か?マルコ隊…、っ!」
誤魔化そうとしたら首を掴まれてしまい、息を飲んだ。まさか絞め落とす気か?!と、応戦しようとした身体が固まる。
「…っ、…!」
私は両手で首を掴まれたまま、マルコ隊長が顔を寄せる。吐息が触れた。鼻がぶつかり、キスの気配に思わず目を閉じた。
「……ぁ」
それは勘違いで、マルコ隊長は身をずらし私の顔の横の本を一冊抜き取った。
「…料理の本は、あっちにまとまって置いてあるよい」
奥の本棚の一つを指差すとそのまま離れて行く。マルコ隊長の奇行に疑問を抱きつつ掴まれた首を摩ると、エースがくれたベーコン紐ネックレスに触れた。これが気になったのか?紐だから?
「…島に着いたらチェーンでも買おうか」
マルコ隊長はあの指輪をどうするだろう?
お揃いみたいでくすぐったい気がして指で弄んだ。
教えて貰った棚に行くと料理関係の資料と本が揃っていた。タイトルを思い出しつつ、幾つかの本のページを捲っていたらお目当ての文献に当たる。必要なメモを取り本棚に戻して書庫を後にした。
夕食、肉もどきで作った唐揚げは大成功。クルーの9割は気がつかなかったと見える。サッチ隊長と目配せして『よし任せろ』『頼みます』と確認しあった。賑わい食事と酒を楽しむクルー。私の座る机でも皆が気にもせずから揚げもどきを頬張っている。無言で夢中でガツガツ食べていたエースが、突っ伏した。
「……ぐがー」
最初は大騒ぎしたこの悪癖も慣れた。またやってるな、と誰もが見て見ぬ振り。
「そうだサッチ隊長。食料を狩りに行くの、今夜発ってもいい?」
「早いほど助かる!頼むわ、まる」
「じゃあマルコ隊長。舟三隻と狩りできて獲物を捌ける隊員を何人か借して。近場に散らしていろいろ調達したいの」
「食料問題は他人事じゃねえし、隊員も船の貸し出しも構わねえよい。…まると組むのは俺でもいいか?」
海路で行くより空路の方が早い。航路から少ししか離れてない目的の無人島は、マルコ隊長なら地図を見れば楽に辿り受けるだろう。けど。
「…飛んで行く気?聞きたくないけど、私と狩った獲物持ってウチまで戻れるの?重さ的に」
「まる一人担いで飛べねえほどヤワじゃねえよい」
それに手なら俺も空いている、とマルコ隊長は言う。荷物の重さ差し引いてもマルコに担がれるのって好きじゃない。
「今夜発つんだろい、一時間後に甲板でな」
「…了解」
不承不承頷く。忙しくて寝不足なんじゃないの?手が空いている…?疑問はいくつか浮かんだけれど飲み込んだ。人前じゃ口を割ったりしないだろうから。
空に出て二人きりになったら問い詰めてやろう。マルコ隊長が不安定なのは珍しい。だからこそ何か抱え込んでるなら力になりたい。一応あなたの女なんだからね、私。
支度を整え、胸の内で呟き甲板に向かった。
→(Side MARCO)