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世界が崩壊する前に。
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(※99,199リクエスト/まる様)
(※お相手マルコで海賊)
(※おとなしい♀が幼女化してやんちゃ全開)
(※マルコの膝の上で元に戻る)
(※不死鳥に首輪を着けて散歩する描写有りで)
(Side MARCO)
俺たちと交戦中の敵船、その一角から派手な破壊音が聞こえた。近くにいた仲間と目を見合わせ溜息を飲み込む。
「…またまるか、仕方ねえ引き揚げるぞマルコ」
「了解」
足場のある内に俺たちは戦線を離脱した。
数分後、敵船は水中へと泡を上げつつ沈んでいった。
「あいつが出るといつもこうなるな」
ほぼ一人で殲滅させたと言っても過言ではない、破壊神のような奴が泳いでウチへと戻ってきた。黄金の髪が白い肌にまとわりつく。
水を滴らせながら甲板をフラフラと歩き、オヤジの元まで来るとしゃがみ込んで呻いた。
「…頭は倒しました。他は逃がしてあげてくださ…」
「誰が船を沈めろと言った、アホンダラ」
飲みかけの酒を頭っからまるにぶっかけて下がれと言い放った。頭を下げて立ち上がったものの歩き出してぶっ倒れた。べしょ、と間抜けな音を立てて海水と酒の混じった液体が甲板に当たり跳ねる。
「あー、スンマセンまるさん。大丈夫っすか?おれの足邪魔でしたね」
「…ううん。ごめんなさい、あなたの足を蹴っちゃって。すぐに甲板も掃除するから…」
新入りらしき男に困った様な顔をして謝り、まるは立ち上がって船内へ戻った。
「あーあ、敵を逃がしてどうすんだよ!見たかよ泣きそうなあの顔!」
「本当情けねえ人だぜ。…しかも知ってるか、あの人凄え酒に弱いんだ!昨日もグラス一杯でベロベロになってよー」
「へえ、たった一杯で?ぎゃははは!!今度潰してイタズラしてやろうか?!」
まるの姿が無いのをいい事に、新入りたちが彼女を『力だけの弱虫、アレで海賊か情けねえ』とバカにする。
「…おーい、マルコちゃん?切れんなよ」
そいつらに向かって歩き出した俺の肩をサッチが掴む。手を叩き落としてそいつらの元に行った。
「面白え話してるな、なんなら今夜は俺と飲むかい?」
「!!」
「マルコさん、いやその、まるさんの事は…、っ!」
言い訳を遮って胸倉を掴んでやると、息を飲んで黙った。
「ほらもー、止めろっての!…あんまりはしゃぐなよお前らも。次はねえからな?解ったら行け」
背後から来たサッチが俺と新入りを引き剥がして追い払った。
「切れんなって言ったろ」
「…殴っても蹴ってもねえだろい」
「止めなきゃやったくせに」
サッチに促されて食堂に行き、コーヒーで一息つくことにした。そこは既に数人の仲間が居て、コーヒーを飲むつもりが酒を注がれ飲まないわけにいかずに付き合った。
「…けどよー、宝の持ち腐れってのはまるの為にあるようなもんだよな。腕相撲でさえまるに勝てる奴ほとんどいねえのに」
「だいたい新入り相手にも敬語で話すなよ!足かけられても怒らないもんだから舐められんだよあのバカは!」
普段からまるは『親切丁寧』で常に敬語、良く言えば穏やかで優しい良い奴だ。それは海賊としては…まあ、アレなもんで、こうしてあっちこっちで心配されている。
「まるはまるでいいじゃねえか。あの優しさに救われる事も多いだろい」
「オレは納得いかねえ!!ああくそ!酒だ酒!!」
俺たちは流れでそのままツマミを用意して甲板に戻り、ダラダラと座り込んで酒を飲んでいた。
「……、なあ、何か変な音しねえか?」
変に途切れた言葉につられ、耳を澄ませると聞き覚えのないようなあるような…断続的に甲高い音がする。辺りを見渡すと俺は幼女と目が合った。3歳くらいだろうか?ピンクのうさぎの耳付きフードのモコモコしたつなぎを着ていて、辺りを気にしつつもよちよち歩いている。
「…………、……?」
一度目を擦ってから見てみたがやはり子供がモビーディックの甲板に居る。幻覚かと辺りを見渡してみると周りの奴らも気づいて、言葉を無くして無言で子供を注視している。子供は俺たちの視線に気がつくと足を止めた。
「…こんにちは」
礼儀正しく頭を下げて、そして困ったような顔で微笑む。どこか覚えのある面差しだった。
子供を目にした仲間の何人かから『キュン!』という不穏な音がいくつも上がった。
「待て待て待て!なんだこの子供は!」
「ええと、いむしつでモルヒネさんとはなしていたらこうなりました。わたしはまるですよ」
言われてみれば子供はまるに似ているような気がする。
「え?待ってマジでまるなの?」
「何で小さくなってんだよ!」
「あの、…うにー」
「うっわ!伸びる!すげえ伸びる!!」
動転したのか、仲間の一人がまるの頬っぺたを摘んで引っ張った。もちもちのほっぺたが餅のように伸びた。
「い、いひゃいれふ!…うう!」
まると名乗った子供が涙目で数歩後退ると、その足元から音が鳴る。
ぷきゅ、ぷきゅ、とまるが後退りする度に足元から情けないような音が出ていた。
「ていうか、あの変な音はこの靴か!おいまる歩け歩け、…ぶははは!ピヨピヨ言ってる!」
まるはすげえ勢いでつつかれて、撫で回されて、揉みくちゃにされた。
この騒ぎにさらに人が集まり、小さな子供がまると知ると『可愛い』『面白え』『ちょっと触らせろ』の大騒ぎだ。
「え?!まるさん?このちまいのが?!…うわーー!!」
あれだけまるを悪し様に言ってた奴も、可愛いとまるの耳付きフードを引っ張り、被せて笑っていた。
「おい!危ねえだろい、そんなに力任せにつついたら!」
「そう言うなよマルコ!だってあのまるがコレだぞ?!」
「あはははは、くすぐらないで、あは、うふふふ!」
「あー、柔らけえ!子供っていい匂いするよな、乳臭いっていうかさー」
鼻面を押し付けられていたまるをみた瞬間、俺は彼女を抱き上げて確保した。
「触るな、まるが汚れるよい!触りてえなら手を洗って来い!」
「マルコ!へい、パスパス!」
つい反射でサッチに向かってまるを放り投げてしまい、ぶわ、と冷や汗が吹き出た。無事に受け止められて良かったが習慣とは恐ろしいよい!
「うへー、やっべ超可愛い!柔らけー!!」
「返せサッチ!」
「おい待て!おれにも抱っこさせろや!サッチ、マルコ!!」
俺とサッチは甲板の奴らを全力疾走で振り切り、オヤジの部屋に駆け込んだ。
「「オヤジ、まるが!!」」
サッチと同時に部屋へとなだれ込むと、そこではモルヒネがオヤジと対峙していた。
「…話は本当らしいな」
「ええ。申し上げた通りですわ船長。これ以上まるを消耗させたくありませんの。まるの思いを満たさなければ元の身体には戻りませんわ」
モルヒネがサッチから幼い子供の姿に変わったまるを取り上げ、頬ずりした。
「誰も彼もまるに甘え過ぎですわ。彼女を追い詰めたのは貴方がただと思い知ってくださいませね?」
ちゅ、とまるの額に唇を付けてからオヤジの膝にまるを乗せた。
「船長はオヤジ、でしたわね。ではしっかり甘やかしてください」
「「……………」」
同じ金の髪を持ち同じ瞳の色を持つ、大小の生き物が無言で見つめ合う。
「…やっとデカくなったと思ったら、必要以上に縮みやがって」
オヤジに睨み見下ろされ、プルプルと震えるピンクのうさぎ幼児と化したまる。視覚的な暴力にその場の全員が胸を押さえて呻いた。サッチとモルヒネに至っては頬を染めて鼻血を堪えるように顔を手で押さえていた。
「何が不満だ?お前は。言ってみろまる」
「…ないしょです。いうともどらなくなるってモルヒネさんからいわれてます。ね?モルヒネさ…」
「はぁ、はぁ、……嗚呼なんて可愛らしいのでしょうか!!船長、わたくしカメラを持ってきますわ!!」
絶頂を迎えたかのようなエロい顔で息を荒げたモルヒネが飛び出していった。
部屋に残された男三人、プラスオヤジの膝に座る幼女。物凄い異空間に思えた。まるがオヤジの膝から飛び降りると、ぷきゅー、と間抜けな音が響きわたる。
「…わたし、すこしたんけんしてきます!しかいがひくくて、なんだかべつなふねにいるみたい!おもしろいです!」
ぷきゅぷきゅと力の抜けるような音を立てながらまるが走り出し、そして速攻転けて顔面を強打した。
「ああ!…おい待て!まる!~~マルコサッチ捕まえろ!」
「りょ、了解!」
「うわ、待てよまる!」
焦って追いかけたがまるの足の速さは幼児らしからぬ速度で、ちょろちょろ動かれると踏みそうだしフードを引っ張ると締め落としそうだ。
「……まじかよ。見失ったぞマルコ!」
靴の音を頼りに追いかけていたというのに、廊下にシンデレラよろしく靴を残してまるは姿を消した。
「サッチはあっち頼む、俺はこっちから探していく!下手な奴らに捕まったらナニされるか解ったもんじゃねえよい!」
特に新入りたちは駄目だ。まるが幼い姿で力も普段よりは落ちているに決まってるのに…、さっきのようにロリコン丸出しの様子から察して手篭めにでもされたら、と気が気じゃない。
「くそ!見つからねえよい……何処だまる!」
船内を手分けして駆けずり回り、小一時間後に医務室に応援を頼みに行ったら、当の本人はそこに居た。
「しー!お静かに!…うふ、今寝たところでしてよ」
叱責するつもりで開いた口は、モルヒネの胸に抱かれて眠るまるを見て止まった。先ほどのうさぎの服からセーラー服に変わっており、辺りには服と写真が散乱している。
「~~呑気に写真撮ってる場合か!?まるに何しやがったんだ、早く戻せ!」
眠るまるを気遣い小声で恫喝しても、効果はない。ナースたちは全員がニヤつきながら写真を眺めたりまるの頬をつついたりしている。
「うふふ、何から何までちゃあんとわたくしが面倒見てさしあげましてよ、まる…あ!」
「これ以上余計な真似は止めろ!」
良からぬ事を考えているナースからまるを取り上げ走り、ひとまずオヤジにまるを託した。どんな話をして一晩過ごしたのかはオヤジの口からもまるからも語られなかった。
「すげー、あれがまるか?」
「オヤジに引っ付いてると余計小さく見えるなー」
翌日まるを伴ってオヤジが甲板に出てくると波のようにざわめきが広がった。オヤジの腕には熊の帽子をかぶったまるが抱かれていたからだ。
「…昼間、コレの世話を代わってくれねえか?誰でもいい」
疲れた声でオヤジが「おちおち酒も飲めやしねえ」とぼやいて甲板にまるを降ろすと、まるは怯えた顔をして俺たちを見上げた。いつもさんざん嫌味を言われ、馬鹿にされていたせいか、半泣きで走って逃げ出した。
「あ!逃げたぞ!」
「うわ、転けた!…やべえ萌える!!」
「追いかけろ!」
「うわあああん!こないでくださいいぃ!!」
…その日から、日中はウチの中ではまる争奪戦が毎日開催される事になった。
「居たぞ!まるだー!」
「おれは今日こそまると手を繋ぐぜ!」
今日も怒涛のように押し寄せる奴らをサッチが片っ端から殴り飛ばし、ナースは催眠ガスを吹く。
「ぐわ!……くそ、またサッチの妨害だ!!」
「まるっ!頬っぺたつつかせろ!お菓子あるからこっちおいで~」
「まるさん、おれりんごジュース作ったんすよ!飲んでください!!」
それでも捌ききれず何人かはまるに辿り着く。
「うおおお!噂通りのモチみてえな触感!!」
「髪の毛細っ!!サラサラだなー」
「おいコラァ!!そこ!変なこと触ってんじゃねえぞ!!」
巻き舌口調でサッチが引き剥がそうとすると、まるの小さな手が止める。
「サッチさん、ありがとうございます!」
「……うぐぅ!俺のまるマジ天使!!」
「お前のじゃねえだろ!トチ狂ってんじゃねえよい!!」
まるに抱き着いたサッチの脳天に踵を落として奪い取る。
「油断も隙もありゃしねえ、今までまるに構いやしなかった野郎共が揃いも揃ってふざけんなよい!」
死屍累々の甲板を見渡して言うと、いつから居たのかナースが咳払いして俺からまるを取り上げた。
「貴方もでしてよ?マルコ。うら若い女性にこうも容易く触れるものではありませんわ、失礼よ」
反論しかけて、まるの顔が赤いのに気づいた。見た目はコレでも中身はいつものままのはず。いつもの姿じゃないせいで距離感がおかしくなっている。
「わ、悪いまる…その、変なつもりはねえんだよい。お前が潰れたり怪我したら困るから…」
「あ、はい、…マルコさんやみなさんにさわられるのははずかしいけど、わたしはすこしうれしいです」
「え?」
「このすがただと、…なかみはわたしなのにみなさんはやさしいです」
「さあ行きましょう、まる。このお馬鹿さんたちには貴女を元に戻せるような頭はありませんわ。ね?わたくしと遊んでくださいますか?」
「モルヒネ、お前はまるを元に戻す方法しってんだろい?早く戻せよい!」
「…マルコ。あなたもお馬鹿さんの一味ですわ。まるの気持ちも解らぬ愚鈍な雄」
「……!」
ナースは馬鹿にしたような目線を投げ、ヒールの音を響かせて勝ち誇った笑みを浮かべる。まるはナースが決めた日程の一つ、お昼寝へと連れ去られた。俺は投げ付けられた言葉に解呪のヒントを探し、指摘された現状の有様に舌打ちをした。まるの思いだと?それが解るなら俺だって苦労してねえ。
「…何でナースに。俺に相談してくれたらいいだろい、まる…」
呟きは誰の耳にも届かなかった。
曇天の空の下、降り出しそうな気配を感じていたら、館内放送で敵船の発見情報が響き渡った。
「!!」
身体を揺らして反応したまるをオヤジの手が摘むように掴み上げた。
「お前は留守番だ」
「…でもみなさんが」
「今のお前が居ても足手まといにしかならねえ」
「そうだぞまる!オレたちが行くから任せろ!」
表現し難い表情でまるは俺たちが敵船に向かうのを見送って、撃破して戻って来ると駆け寄ってきた。
「けがはありませんか?みなさんぶじですか?!」
足元をうろうろしながら仲間に聞いて周り、怪我人を医務室に連れて行こうとズボンの裾を引く。チョロチョロとちまい生き物に纏わりつかれた仲間たちが焦って身を引いた。
「~~~、うわあ、もう何この生き物!やべえ可愛い!」
「ああ触りてえけど今手が汚れてるわ!!くっそ!」
「まる、また後でな!風呂入って来るから」
戦闘に出た仲間たちはまるに触らないように避けて、まるをナースが抱き上げる。
「怪我人はわたくしたちが診ますわ。まるはこのクマさんと待っていてください」
「…はい」
オヤジの膝に乗りクマを抱っこしてるまるを残し俺もサッチと風呂へ向かった。オヤジが付いててくれるなら心配ねえだろう。
「……なあマルコ。俺、まるを元に戻す方法解ったかも」
湯船に浸かっていたらサッチが隣に来て辺りに聞こえぬ小声で俺に言った。
「本当かい?!それなら早くまるを戻してやってくれよい!」
「んんー…どーしよっかなー。多分オヤジも気付いてると思うんだよな、答えが合ってるなら」
「オヤジも?」
それなら何故、オヤジはまるを元の姿に戻してやらねえんだ?内心の疑問はサッチに伝わったようで、溜息を吐いた。
「そりゃ決まってるさ。まるが好きだからだろ?」
「は?」
全く解らない。どういう繋がりがあるんだ、それ。
「俺はマルコが気付かない事の方が不思議なんだけどさ、マジでわかんねえの?」
「…………」
「睨んでも教えねえよ、パイン頭ちゃん」
にひ、とか嫌な笑い方して俺の頭を軽く叩いて湯船から上がった。誰がパインだよい。
しばらく考えてみたが茹だっただけでまるを元に戻す方法は解らなかった。
「なあ、まる」
「はい、なんですかマルコさん」
翌日。ナースに与えられたお絵描きセットで素直に絵を描いているまるの隣に座り、俺は話し掛けた。背後には吹っ飛ばした争奪戦敗者が転がっているが振り向かなければ気にならない。
「お前は今の姿になって、幸せか?」
「みなさん、このすがただとわたしにやさしくしてくれます」
「皆がどうかじゃねえ、まるがどうなのか、だよい」
今までのまるを思い出す。戦闘に出れば半泣きになりながら敵と対峙し、謝りながら吹っ飛ばす。まるが怖いのは戦うことじゃない。新入りに目を配り怪我をしないかと気を揉んでいるのだ。
「まるさん、さっきの戦闘でおれの前にいたけどスゲえ震えてたぜ!」
「ぎゃははは!それなら前に出てくんなっての!なあ?」
「だよなあ!なんであんなビビリなんだか」
それなのに弱虫、泣き虫、臆病者しと罵られ、馬鹿にされる。片っ端から蹴ってやりたかった。怖がりでビビリで、根っからの優しいまるがどうして『お前を背に庇った』か解らないのか。
「…マルコさん。わたし、また嫌われてしまいました…」
「…コーヒー淹れるけど飲むかい?まる」
「敵と戦うのは怖いです。誰か家族が怪我したらと思うと怖い」
落ち込む彼女に甘いコーヒーを淹れ慰めて話を聞くのは俺の役目で。
「困ったら何でも話してくれよい、俺はまるの…家族だろい?」
……俺だけの役目だったのに。今のまるの周りには引っ切り無しに人が集まる。蹴散らしても蹴散らしても、懲りずに。
「……マルコさんはじんぼうがありますから、わたしのきもちはわからないかもしれません」
画用紙にはまるの視界の先に居るオヤジとビスタの姿が描かれている。クレヨンで描いた割に上手い。
「俺に人望なんか」
「ありますよ。きっと、マルコさんはたいちょうになります。すかれてますから」
顔を上げて笑う顔は泣きそうに歪んでいた。
「…マルコさんのつよさに、わたしはいつもあこがれてました」
「え?」
「居たぞ、おーい!!まる~!!」
数十名が手にまるを釣るための品物を抱え走ってくる。
「おれと鬼ごっこしようぜ!」
「いやオママゴトだろ!食器借りてきたぜ!!」
「馬鹿野郎ッ!まるはお昼寝するんだよ!このおれとな!」
俺はまるを小脇に抱えてダッシュした。背後から怒声と追いかけて来る足音が聞こえたが船内を駆けて振り切った。
「はぁ、はぁ、…大丈夫か?まる…」
俺が小脇に抱えていたのはまるではなく、クマさんのぬいぐるみだった。思わず床に膝を付いてしまった。間違えて持って走ってきたなんて!大きさが似てるからだ!
「くそ!何やってんだ俺は!」
不死鳥に姿を変え高速で船内を移動し、甲板で遊ばれているまるの元に降りた。
「わあ!ふしちょうのマルコさんだ!」
まるが抱き着く。紅葉のような手がしがみつき、柔らかい匂いがする。
「…ふふ。ごめんなさい。いちどなでてみたかったんです。ふわふわですねー」
遠慮なく羽根やら胴体やら首やら、頭を撫でてくるまるの小さな手。
「~~狡いぞマルコ!」
「お前ちょっと鳥になれるからってまるに撫でられやがって!」
「まる!オレも撫でてくうぶえ!!」
目を血走らせ迫ってきた奴の額を嘴で突いた。
「まる!乗れよい!」
「え?いいのですか?」
「早く!」
背にまるを乗せ俺は甲板から舞い上がり船内に飛び込んだ。
「……~~サッチとマルコとナース、鉄壁過ぎだろ!ちょっとは俺たちにも触らせろ!」
「独占禁止法!!異議有りだぞ!!」
攻防戦は既に3週間を越えている。が、俺たちの壁は厚くまるは限られた奴にしか触れる事は許されていない。
「~~駄目だよいまる!変な色の菓子を口に入れるな!」
お菓子やお手伝いしてくれの誘惑に釣られてちょろちょろ走り回るまるは、捕まえるのにかなり苦労する。そこで俺とサッチとナースで協定を組み、ある手段が考え出された。
「まるー、ほらマルコ!今不死鳥になってるぜ?」
「あっ、ほんとうですね!ふしちょうさんです!」
まるは俺の不死鳥姿を大層気に入っていて、姿を変えると『なでていいですか?マルコさん!』と駆け戻ってくるのだ。
「よし、じゃあまる。マルコの事を頼んだぜ」
「はい、サッチさん」
オヤジは毎日微妙な顔で俺たちの騒ぎを見守っていた。何か言いたいが酒と一緒に喉の奥へ流し込むように。
「マルコ、お前ェはそれでいいのか」
「突っ込まねえでくれよいオヤジ。苦肉の策だよい」
興味津々とちょろちょろ動き回るまるの行動を制御するにあたり、考案されたのがコレだ。俺の首に巻かれた紐。その先はまるの手に巻かれている。まるが走ろうとすると俺の首が締まるので、俺が不死鳥の姿で歩く速度に合わせまるも大人しく付いてくるという寸法だ。
「どうみても『幼女まるとマルコのお散歩劇場』だけどな?ぶはははは!お前もピヨピヨ靴履けよ!お揃いでさあ!」
「黙れクソサッチ!写真撮るな燃やすぞ!」
蹴り飛ばしたいがまる付きでは思うように行かず悪態しか吐けない。
「マルコさん、このひもがじゃまならとりましょうか?」
「だ、駄目だよい!…あー、……じゃあ書庫に行きたいからまるも付き合ってくれるかい?」
「はい!うふふ、そのすがたはかわいいですねえ、マルコさん」
二人でヨチヨチと歩くと至る所で笑われ、まるに触ろうとする輩の手を突き、何とか書庫に着いた時には力尽きた。俺はまるに頼み紐を外してもらい人型に戻った。
「……、あ!」
棚の上の方の本を気にしているまるを抱き上げて、見えるようにしてやる。まるは照れたように笑い、マルコさんに抱き上げられると恥ずかしいですと言った。
「別に元のサイズに戻っても、お前一人くらい持てるよい」
軽々と持ち上がる身体。何もかも小さな身体。
「わたし、けっこうきんにくあるからおもくてもてませんよ、きっと」
拗ねたような声が答える。まるは矮躯の中に大きな力を持っていて、それほ俺よりずっと強くて。戦闘中その背に庇われた事も多々ある。
『マルコさん、無事ですか!?』
『だい、大丈夫です!こ、ここから先には絶対に行かせませんから!』
強くなりたいと思った。守られるのではなく、守りたいと。まるを元に戻したいのは俺のエゴだ。
元に戻れば皆まるに興味を失い、まるをまた独り占め出来ると思っているから。でも、まるはこのまま子供の姿でいる方が幸せなのだろうか?
「え?…うひゃ!」
俺はまるを抱いたまま、ズルズルと書庫の床に座り込んでしまった。本棚を背に胡座をかき、まるを膝に乗せたままでかき抱く。ずっとまるを守りたいと望んでいて、今その通りになっているのに、何故こんなに苦しいのだろうか。
「あの、マルコさん?」
戸惑ったまるの声を無視して潰さないように逃さないように力を込めた。
「俺はいつものまるがいいよい」
「……それは、いまのわたしがやくにたたないからですか?」
違う。戦闘以外でもまるは何でもしてくれていただろう。掃除も、新入りの面倒も、俺たちが面倒がるような事も、全部。俺は知ってたのに知らんぷりした。困り果てるとまるは俺のコーヒーを求めに来てくれたから。つまらない独占欲。それが彼女を追い詰めたのなら、なんと言って詫びたら許されるのだろうか?
「もっとまるが役立たずだったらよかったんだ。本当に弱くて情けねえ奴なら、誰も相手にしねえ。皆お前が気になって仕方ねぇんだよい」
「え?」
情けなかった。言えなかった。俺は弱かったし怖かった。拒否されたら、取られたらと臆病で。もっと早く言えば良かったんだ。本当はいつも伝えたくてたまらなかった。まるより強くなれたら伝えようなんてのは言い訳で、そばに居られる心地よさに甘えていた。
「好きだよい。まるが、ずっと好きだった。どんなまるでもいい、他の誰かじゃなくて俺の側にいてくれよい」
「…っ!!」
息を飲む気配が耳元でして、膝の上の質量が一気に増す。柔らかくてもっちりとした非常に気持ちのいい触感もある。
「ん?」
腕を緩めてみると、子供服が引き千切れ、あちこち肌が剥き出しになった格好でまるが俺の膝に乗っていた。幼い子供の姿ではない。いつものまるの姿で。
「まる、元に戻……っうぐ!!」
「きゃあああああ!いやーー!!」
脳震盪起きるほどの平手打ちを喰らい、俺は昏倒した。星が散るどころではなく隕石が爆破したような映像が見え意識は暗転。
眼が覚めると医務室で、痛む頬を抑えて視線を動かすと、真っ赤な顔して涙目のまるがベッド横の椅子に座っていた。
「…返事は?」
「…………」
「まるにいつもコーヒー淹れてやってたのも下心からだよい。お前の悩みを聞かせてくれるのが嬉しかった。悪いなこんな奴で」
「…………」
今までの事を白状したが、まるはむっつりと黙り込んだまま。俺は腕を伸ばしてまるの手に触れた。
「お前が嫌ならもう言わねえ。今まで通り家族をやるよい」
「……マルコさんが、その、わたしを好きって言うなんて…思いませんでした」
まるは口を開き、消え入りそうな声で呟いた。
「皆に好かれたいって馬鹿な望みをモルヒネさんが叶えてくれたのです。でも、…本当はわたしのままで好かれたかった」
まるは、ぎゅ、と俺の手を握り返してくれた。幼い子供とは違う強さで。
「……それは返事かい?」
二度目の催促に何度か視線を彷徨わせ、まるは小さく首を縦に振った。じわじわと胸の辺りに火が灯る。繋いだ手が温かい。異常に火照った顔を隠したくて余った片手で目元を覆った。
ああくそ、俺は嬉しくてたまらないらしい。隠せなかった口が緩んで仕方ない。
自分を捧げる単純なこと。
(わああ、マルコさん大変です!熱があるかもしれません!頬っぺたが真っ赤ですよ!!)
(ああ、いや、…いいからもう少し手を繋いでいてくれよい)
←リクエストありがとうございました!