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酒場にて。
なまえ
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(Side U)
モビーディックはこの島に滞在して一ヶ月になる。ここでのログを溜めるのに時間がかかり、派手な戦闘もない日々は少し退屈だった。
なにせ『四皇・白ひげ』の海賊旗がはためくモビーディック号が港にあるのだ。
海軍すら迂闊に近寄れないのだから、当然他の海賊も港に船をつけようとはしない。アホ以外は。
「グララララ!はしゃいで島のモン壊すんじゃねェぞ、息子たち!」
髑髏マークの海賊旗を上げる船は容赦なく瞬殺しても商船や漁船に無闇に手を上げたりはしない。鬼悪魔化け物と恐れられるオヤジだけど、そういうところは筋を通す。もう流石だよね惚れるよね男の中の男過ぎるよね!!!
「…はぁ」
オヤジの勇姿の思い出に浸っている私を溜息が現実に呼び戻した。
「…マルコ隊長、元気出してくださいよ。辛気臭いですよ!」
うるさ過ぎないBGM、ムーディな照明。いかにもいい感じのバーのカウンターで、憧れのマルコ隊長とサシ飲み。うんそうだね、シチュエーションとしては最高だよね。
「辛気臭くて悪かったな」
お酒を一気飲みする隊長。何杯目だったかな、これ。少し乱暴に乱暴に空になったグラスを机に置くのを見て虚しさが増す。
「~くそ、何処のどいつだよい!彼女を買い上げたのは!!金積んで店から買い取るなんてのは狡いだろ!!」
「まあ、一番人気でしたもんね。マルコ隊長のお目当の彼女」
…ていうか溜息吐きたいのって私の方なんですけどね。何の因果で好きな人の失恋を慰めなきゃならんのですかね。しかもコレ、今回が初めてじゃない。最悪。
「…彼女に店で会って一目惚れだった。色気のある流し目、甘い声に宝石みたいな瞳…あんな美しい女はそうそう居ねえ」
「…あんたブロマイドとか買ったんですか、マルコ隊長…」
「写真だけでも欲しかったんだよい」
今回は相当入れ込んでいたみたい。穴を開けそうな勢いで写真を見てる隊長に苦い思いがこみ上げた。
「…ルネッタ」
愛おしげに彼女の名前を呼ぶ。私の事もそんな風に見てくれたらなぁ、なんて。考えても悲しくなるだけだ。写真の彼女と私じゃ違いすぎる。
「ふん。彼女は他の人にお店から買い上げられたんですよ。もうマルコ隊長の指名は受けられないし会う事も無いんです。サッサと次いきましょうよ」
「お前は他人事だからそう言えるんだよい。言っただろう、彼女のようないい女はそうそう居ねえ」
身体を撫でた時の気持ち良さそうな声だとか、店に顔を出すと駆け寄って来てくれた時の事。
プレゼントを持って行くたびに喜んで気に入ってくれた事。
「他の客にルネッタと呼ばれても、俺の側が良いと跳ね除けた事だってあったんだ」
「へーそうですか~、それはそれはー貢ぎまくってたんですね~」
一ヶ月。どれだけ彼女と親密だったのか聞きたくもない惚気を聞かさせる。
私も手元のお酒を一気飲みして、バーテンにおかわりを要求した。
「あのですね、マルコ隊長。何で毎回失恋する度に私に聞かせるんですか?!サッチ隊長に言ってくださいよ」
「こんな話お前以外に出来るか。サッチは面白がって茶化す」
「一番隊の隊員なら他にも口の固いのいるでしょ」
「お前がいいよい」
~~くそ。何なのその殺し文句?私を殺る気ですか?言葉に詰まる私の顔を覗き込むようにマルコ隊長が身を乗り出してくる。
「ルネッタに妬いたのかい」
「…な、に言って…」
「彼女は素直で可愛かった。俺に甘えて身を寄せて、キスだって何度もしたよい」
マルコ隊長は、ちゅ、と写真にキスをしてから横目で私を伺う。写真を机に置いたその手で私の顎を撫でた。
「…ん、ひゃ!」
「お前が代わりにしてくれるかい?」
何それ。いつから?知ってたんですか、私があんたを好きな事。これでも隠してたんですけど。バレないようにいい部下でいたつもりなのに。
「してくれるなら、お前の好きなところ撫でてやるよい」
待ってくださいよ、こんな急に迫るなんて狡い!私の事なんて歯牙にもかけてなかったくせに。
マルコ隊長の顔が見れずに俯くと机に置かれた写真が目に入った。勝気そうなキラキラした瞳、よく整えられた艶やかな毛。マルコ隊長の通っていた『キャッツ★アイズ』のNo. 1の、純白の天使ルネッタが、写真の中で目を細める。
そう、マルコ隊長を魅了していた彼女は…真っ白でふわふわの、青い首輪を付けた猫。
さあ、可愛く鳴いて。
(お前も青い首飾りつけるかい?)
(…猫に妬いてるんじゃなくて、呆れてんですよ!!)