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We need to talk.
なまえ
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(※ランダム三種)
(マルコ)
同じ海域で鉢合わせの情報を得て、どうせならと同盟船の乗組員と合同で開かれた宴の最中。
料理組は新たな味付けや食材の開拓話に花を咲かせ、航海士連中は専門用語連発の末に謎の大笑い。それぞれの力自慢たちはモビーディックの甲板にリング作ってガチンコ勝負の博打大会という阿鼻叫喚。いつもの宴もうるさいが今回はまた一段と騒がしい。
巻き込み事故を避けるため両船の女性陣は固まって昨今の流行りや美容にライフハックの情報交換だ。どこの通販の何が良いだとかお手頃価格からブランドの品まで、乙女の話というのは尽きることがなかった。
「んー、ちょっとお手洗いに行ってくるね」
「はぁい。もう飲み過ぎよ、転ばないようにね」
アルコールは利尿効果があるのだ、生理現象には勝てない。周りに一言伝えてトイレに抜けた。話題が広がれば新たな情報が散らばる。久し振りに会う同盟船の面々となれば酒が進むのは当然。
鏡で軽く身なりを整えて戻る途中、話し声がした気がして目を向ければ薄闇に華奢なシルエットとマルコの姿があった。喧騒から離れた月明かりの廊下に二人。漂う妙に深刻そうな雰囲気に声をかけられず忍足で去ろうとするも人の気配がない船内。会話が聞こえてしまった。
「……、…特別な相手を作るつもりはないよい」
突き飛ばされたような驚きと困惑が脳と心臓に直撃。破裂しそうな声を口ごと押さえつけて渾身の忍足で甲板への廊下を急いだ。
外に出るドアを開ける前から喧騒と笑い声、賭けの胴元の声を掻き消すほどのブーイングと歓声が聞こえ出し、全力疾走したように跳ね飛ぶ心臓を押さえて混ざる。
何度目だよっていう乾杯の声を縫って自分の席に着席。グラスに残っていた酒を飲み干して一息。
「…え、私セフレだったって事?」
乱暴にかき混ぜられた思考が弾き出した結果がソレだ。
恋人だと思ってたの私だけだった?マルコと身体の関係ができてからもう2年だぞ2年!確かに最初から付き合おうとか好きだとかそんな話はしてないしなし飲んで酔ってなし崩しみたいに始まった関係だけどさ、やるだけじゃなくて上陸の時にお互いの趣味の買い物行ったりとかわざわざちょっといいレストラン予約してお洒落して食べに行ったりとか二人でしてたじゃん。あれは何だったのヤらせてくれるお礼のつもりとかそういうやつ?いや待って、デートじゃなかったとか?だってホテルにも頻繁に行ってた部屋の予約までして。ウチの薄い壁の部屋で致すのは厳しいんだもん思い切りやりたければ選択肢はホテル一択でしょ。豪華なところからやり部屋みたいなところまで風呂でもやったし待ちきれなくて部屋のドア開けてすぐ求め合って始めて朝までやった時だってあった。
「え?何て言ったの?」
「ごめんなさいね。賑やかなものだから聞き逃してしまったわ。もう一度お願いできる?」
優しく聞き返してくるナースのお姉様たちに同盟船の女傑たち。優しい。いっぱいしゅき。
気にしないでと笑って見せても内心は嵐だった。
あの男、陰で笑っていたんだろうか。何度か抱いただけで舞い上がって恋人面しやがってとか…いや私が知っているマルコはそんな男じゃない。だけど、でも。生まれた疑心暗鬼はみるみる心を食い潰して騒ぎの声さえ耳鳴りに負けてしまう。このまま普通を装った顔をして留まっても鋭い彼女たちに突かれれば洗いざらい吐き出してしまうのは目に見えていた。
「…うん、ごめん動いたら急に酔ったかも。早いけど寝ようかな、皆はまだゆっくりしてて」
心配そうな顔をする女性陣へ表情筋総動員で笑って手を振りモタモタと部屋へと足を進めた。廊下に人影がなく安堵しつつドアに辿り着く。シャワー浴びたいけどもう動く力も残ってない。枕に顔をつけたら沈んだように身体は重く動かない。
「特別だって思ってた」
呟きに返事はなく部屋にくぐもった私の愚痴が漂う。
成程成程、はいはいはい。勘違いしてたって訳ね。勝手に一人で思い上がって盛り上がって恋人面してたのか。バッカみたい。ていうか本当に馬鹿愚か。恥ずかしい。むかつく。情けない。たくさんの感情が絵の具のように混ざって形容し難い汚いものを作り上げていく。マルコは恋とか付き合うなんて気はなくて手軽に近くでヤレる都合のいい相手だったんだ。
初めに怒りが湧いてすぐに引いて残るのは虚しさと惨めさ。好きだったのだ。一方的であったとしても恋をしていたのだ。マルコにとってこの気持ちは不要なものだった?
思えば買い物も食事も誘うのは私からだった気がする。食べないお菓子を買っては書類で頭を抱える私に頑張れと手渡してくるところも、ベッドの横で眠る無防備な寝顔も好きだった。大事だった。全部全部が独りよがりだったなんて。
「……、2年だぞ。2年間も私は、」
癇癪起こして泣き喚くと思ったのに涙が出ない。乾いた笑いだけが少しだけ浮かんですぐに消えた。
別れようと伝えるべき?そもそも付き合ってさえないのに別れるもクソもなくない?一発殴っとく?勘違いしたのは自分なんだからそんなの八つ当たりになるじゃん。
眠ってしまいたいのに脳内では幾つもの思いが浮かんで消えて少しも眠くならない。人魚は恋に破れると泡になって消えるらしい。お御伽話の創作演出だって解ってるけど今夜ばかりは心底羨ましい。私も泡になってこのまま消えてしまいたい。
「おはよう」
「あー、うん。おはよ」
「昨晩、途中で抜けたって聞いたが。具合でも悪かったのかい」
「あー、うん。大丈夫。寝てたら治ったから多分寝不足。でも身体壊したくないし、しばらくは早寝する事にした」
翌日からは自然消滅狙って行こうと決意した。
誘いは理由をつけて申し訳なさを装って断り、かつ、できるだけ不自然にならないように顔を合わせても柔かに挨拶雑談は変えずに対応する。これぞ大人の対応ってやつね。
「一週間もすれば物資補給の島へ上陸だねい。島に着いたら…」
「島に着いたらエステ巡りする。宴の時に同盟船のシャネルに教えてもらった店があるの。泊まり込み特別コースを予約した」
「…そうかい。頑張れよい」
「うん、出航には間に合うから」
食い気味に言葉を被せてしまい、しまったと思ったがマルコはいつも通りだった。
白ひげ海賊団は大きな船だし乗組員はたくさんいる。同じ隊でもなし、避けようと思えば顔を合わす回数を減らすのは容易い。上陸の日を過ぎてからも、私は遅効性の毒の如くマルコとの距離を開けていった。どことなく誘いたそうにしてる雰囲気くらい解るがあんなの聞いたら流石に無理でしょ。
疲れてる、忙しい、気分じゃない。理由は何でも良かったので適当にその場で思いついた言葉を吐いた。察しが悪い男じゃないから二人きりを避けて断りを何度も繰り返せばこちらの意思は伝わるだろう。
「ごめん。先に約束があるんだ」
何でも話せるくらい仲が良いと思ってた。けど、肝心な疑問一つ尋ねられない。離れて行く背中を見送って呟く。関係性をはっきりと突きつけられるのがこんなにも恐ろしい。こんな状態で仲が良いと呑気に思ってたなんて悲劇じゃなくて喜劇だろ。
「…わかった。じゃあそのうち都合の合う時にでも」
予想通り何回目かの断りの後。その言葉以降は誘われることは無くなった。食事やお茶も仕事の手伝い要請も。胸が安堵と後悔で潰れそうだった。きっと時間が経てば治るだろう。言い聞かせて日々を消費していく。
「虚しい。しんどい毎日辛すぎる」
声をかけられなくなれば、それはそれで別の痛みとなって全身に絡みつく。月を跨いでもこの有様。姿を見れば目で追いそうになるし誰かと笑い合う声に耳を澄ませてしまう。生活に影響が出る。これではダメだ。
…この失恋を癒すには新しい恋!マルコ以上のいい男に惚れるしかない。私は行動を開始した。
「急にごめん。この間の件だけど、…予定合わせてのフリーの仲間たちでの交流会?私も行っていいかな」
『もちろんよ!来てくれる気になって嬉しい!好みのタイプ教えてくれたら揃えておくからね』
件の宴で知ったのだが、ウチの同盟関係にある男女で恋を求めての集まりが不定期で開かれていたのだ。発端は恋バナ好きの集まりだったところ回数を重ねる都度似たような考えの仲間が集まり、同士が寄り添い合ったり恋バナに花を咲かせまくる集会と形を変えていったのだと教わった。
「…待ち合わせ場所は?…うん、うん、大丈夫。解った。目一杯オシャレしてくね」
手始めに連絡先を交換した同盟船のお姉さんに恋人を探している旨と好みのタイプを伝えた。自分を大事にしてくれる人と恋をしたいと。
「よーし!絶対に良い人見つけて恋人を作ってやる!」
握った拳に力を込め予定を空けるべく仕事や休みの調整に奔走し、ついでに新しい服と靴をカモメ通販で購入。ナースのお姉さんにも恋する心構えとはなんてナイショ話をして。そして。
「へえ、オヤジさんの船に乗ってるんだ!良いなァ。僕はパセリ船長の船で航海士をしてて…」
「君、参加初めてでしょ!楽しんでる?これは食べた?実は俺が捌いたこの島でも有名な大魚なんだ」
迎えた当日。少し派手だったろうか?の懸念は無意味だった。普段の宴とは違い男も女もそれぞれが綺麗な格好をしてキラキラしていた。普段は海賊ですなんて言わなきゃバレない位の紳士淑女の体が凄い。めかし込んできて良かった。
とは言え、会話の内容は海に生きる者あるあるだったりするので脳が混乱する。
「…そうか貴女は失恋を。あれはとても辛い思い。私にも覚えがあります」
そこで出会ったいくつか年下の男との会話は心地よく、忘れられない人がいるのだと共通の恋の痛手で大層盛り上がった。どれだけ相手が好きだったか、過ごす日々を忘れようとする度に思いを上書きしてしまう事、お互いに吐き出すように話しまくった。話し足りない。傷の舐め合いだろうが構わない。ここで終わるのは惜しいとお互いに考えは同じだった。
「そうだ。ぜひ貴女の連絡先を」
「申し訳ないが間に合ってるよい」
喜んで!と返事をしたかったのに声が出なかった。ここへ来た元凶が現れただけではなく私の口を大きな手で塞がれていたから。慌ててその手を引き剥がし突き飛ばせば思った通りの顔がある。
「マルコ?!何でここに居るの、いや待って聞きたく無いわかってる新しいセフレ探しにきたんでしょ」
「は?セフレって何だよい。そっちこそまさかと思えばこんな堂々と浮気しやがって」
「は?浮気って…むぐっ!」
こめかみに血管を浮かせたマルコの両手が私の頭を鷲掴みにし、齧り付くようなキスをした。耳には状況を勘違いしてる周りからの甲高い悲鳴に似た歓声が上がった。待って違うこれカップル成立じゃ無いから!
「んむ、んんん!…〜〜ぅ、うう…ッ」
足を蹴っ飛ばしても両拳で胸や背中を叩いてもマルコのキスは深さを増すばかりで、結局は私の膝が崩れるまで蹂躙された。腰が砕けた私を軽々と抱え上げて辺りを一瞥。
「邪魔して悪かったねい。俺たちは抜けるから続きを楽しんでくれ」
なぜか拍手で送り出され、会場近くの人気のない浜辺まで連れて行かれた。陽の光を受け輝く白浜の遠くにサーフィンを楽しむ小さな影が見える。波の音と鳥の声。風が時折強く新品のスカートを乱す。
「…二回目はねえぞ。次に浮気したら相手の男がどうなるかよく考えておけ」
抜け抜けと言い放ったその顔に履いていたハイヒールを脱いで投げつけたが、あっさりと受け止められてしまう。二投目も同じく新品の靴はマルコの手に収まった。
「何で邪魔するの!これ浮気じゃないし!どうせ私はマルコにとって特別じゃ無いんでしょ、放っておいてくれたらいいのに!私があの日どんな思いで…!」
「ああ?何言って…」
あの夜マルコが同盟船の女性に告げた言葉を、今日の参加を決めた決意を。涙と気持ちの爆発で乱れた呼吸に咽せながら吐き出してしまった。言うまいと仕舞い込んだ言葉も涙も溢れてしまった。
「お前が特別じゃないなんて一言も言ってないよい」
「言った!!きいたもん!!!」
声を大きく遮れば、記憶を辿りマルコは少し黙ってからため息を吐く。その呆れたような仕草は私の傷を抉るのに充分で、子供みたいに泣き喚いたのが余計に惨めで、無言の時間が辛かった。
「言い寄られた時に『今一番大事な奴がいる。その他に特別な相手を作るつもりはないよい』…とは伝えた覚えがあるんだが。当たってほしく無い予想だがお前はあの日の会話を後半しか聞かずに勝手に自分は遊び相手だったと思い込み考えを暴走させた挙句、俺に確認を取ることもせず避けまくった末に新しい相手を見繕いに集会に顔出したってことかい」
「……え、あの、違うの?二人きりで暗がりで話してたし、いい雰囲気に見えたし…てっきり私はセフレだったんだとばかり」
一息に話された内容に気押され、じり、と距離を詰められた分だけ足を引いて離れる。無表情の顔が怖い。海鳥の呑気な声が間抜けなほど響く。高波を乗り切ったサーファーたちがずぶ濡れで爽やかな笑顔で浜へと引き上げてくる姿が近くなる。
「だって一度も、す、好きとか言われてないし!最中だってマルコ言わないじゃない。それに」
言葉を繋ぎつつも二歩、三歩と後退りするがマルコの大きな一歩で詰められて腕を強く掴まれた。
「好きに決まってるだろい、愛してるよい!!」
びっくりするくらいの大声にサーファーたちの方から口笛と指笛、短いからかいの言葉が飛んできたが、当のマルコは気にも留めず私をまっすぐ見たまま。
「っ、ひえ…ッ、なに、そんな大声で、人が聞いて」
「俺は誰に聞かれても構わねえよい。お前があまり言われると勿体無い、特別な時だけにしてくれと言ったんだろうが」
「え、何それ知らない…」
「は?」
渾身の『は?』をぶつけられても困る。記憶にないのだから。もしかして酔った時にでも言ったのかな?釣り上がるマルコの目と眉に恐れ慄くばかりだ。
「知らない?俺がこの数ヶ月どれだけ…今日までどんな我慢を…ああもう…お前本当、そういうところだよい…」
頭を抱えてしゃがみ込んでしまったマルコの頭頂部を見下ろして「私だってこの数ヶ月どれだけ」なんて言えるはずもなく、まして走って逃げるなんて悪手を打つわけにもいかず。ダラダラと冷や汗を流して謝罪の言葉を必死で唱えた。
飲んでも呑まれるな。
(ご、ごめんなさいごめんなさい!本当にごめん!!)
(…『特別』を今夜から解禁してお前が目一杯慰めてくれるなら許してやるよい)
→ありがとうございました!
