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カーテンコールはまだ遠く。
なまえ
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(Side ACE)
嫌だ、やめてくれ。やめてくれ。もうたくさんだ。真っ黒な人の形をしたモノを前に膝をつく。
「…なんで、だよ」
彼女の名前を呼んでも返事はない。焦げた姿を見れば当然だ。意識も命も無くなってしまったのだから。戦闘で火を浴びるなんてよくある事だ。ただ彼女は油を受け爆炎に巻かれた。衣服も肌も激しい火力に蝕まれ、布で叩く間も水を掛けるのも間に合わなかった。
遺体は布で包まれ医務室のベッドに運ばれて、明日にでも葬送の支度をとマルコが泣く仲間を促し部屋に帰らせる。
「あんた、よりによって火とか…笑えねえよ」
真っ白な布に包まれ動かず話さない彼女は、彼女なのかどうかすらわからない。焦げた匂いが薬品の匂いに混ざる。
「あ、エース君。おはよう」
「?!」
貰った睡眠薬を飲み無理やり寝た翌朝、亡くなったはずの彼女がにこやかに挨拶をしてきた。
「…どうかした?まだ眠いの?」
あんた死んだだろ。昨日油と火を浴びて焼け焦げて水も間に合わなくて。
混乱して捲し立てる俺に困った顔をして、彼女は怖い夢見たのねなんて笑って歩いて行った。あれが夢?だとしたらとんだ悪夢じゃねえかよ。気分が悪い。
「今朝はあまり食わないねい、エース」
「なんか変な夢見てモヤモヤするんだよ」
「…お前に夢見の悪さを気にする繊細な心が備わっているのに驚きだよい」
マルコに悪態吐いてから掃除に向かう。今月は俺の隊が掃除当番だからな。共同風呂とシャワー室、廊下に甲板、武器庫に書庫…。広い船は掃除も楽じゃねえよな。
「お。珍しいな、陽も落ちそうな時間に敵襲だってよ」
船内に鳴り響く放送は敵船の発見、三隻、接触は5分後と怒鳴り、野郎ども晩飯前の運動だぜ!とジョークを飛ばす。夜までに終わらせてえな、と苦笑いの仲間と共に、俺も迎え撃とうと甲板に出た。
三隻の連携はなかなかのもの。日暮れの見難さを狙っての包囲網や武器の扱いも上手い。久々に楽しめそうだと俺を含む幾人かの隊長も愛用の武器を片手に立ち回りする。
「あ」
仲間と敵の入り乱れ、鍔迫り合いも撃ち合いもごった返す甲板の一角。薄闇の中で女の影が数人に囲まれていて、何かの液体を浴びたのが見えて、妙な胸騒ぎが湧くのと同時。ボン、と響いた爆発音がやけに大きく耳に届く。
「…あ」
ぱ、と昼間のような明かりが灯った。華奢なシルエットが炎の中でのたうち辺りの闇を照らし、崩れ落ちる。取っ組み合っていた敵を火拳で散らし彼女の元に駆けた。早く消さないと。火傷の跡が残ったら大変だ。女の子なんだぞ。
「…あ、ああ…」
倒れ伏してなお勢いよく燃える炎。焦げた匂いが鼻をつく。黒い影がパチパチと小さく爆ぜる。火を消さないといけない。早く、早く早く。はやく。水をかけないと。
顔さえわからなくなった女を前に膝をつく。
「…やめてくれ、もう嫌だ」
どうして気がつかなかったんだ。これ夢じゃないだろ。止められたはずだ、俺は知っていたのに。燃えてしまうって。
仲間がこちらに気がついて彼女の炎を消しとめ身体を確保する。医務室で白い布の中に収め、戦闘後の集まりで葬いは明日にでもと決まり、皆が喪失を胸に部屋に散る。
「次は、次こそは必ず…!」
触れた布の下。返事のない彼女に言葉をかけ睡眠薬を飲み眠りにつく。明日はきっとまた今日だろう。
…いったい今日は何度目の今日なんだろう。
▶これは夢?
これは夢。
(おはようエース君…って、隈すごいよ?!)
(…何か変な夢、見て…あれ、夢?)
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