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正直、重いの。
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(※##B8_1081128##の二人)
(Side THATCH)
春爛漫、サクラサク。俺は恋をした。
サッチは惚れっぽいんだよと仲間はバカにするけど女の子って可愛いから。好きになるのは仕方ねえと思う。
あの子の、なまえちゃんの第一印象は「気持ち良く飯を食う女の子」で「楽しく酒を飲める娘」だった。俺の店に女の子来るとか珍しくて、常連やアホの仲間が絡んでも笑顔で対応する感じのいい娘だと思った。
「…これ美味しいですね!」
笑顔ってのは最高だ。あっという間に俺の店に花が咲いた。やっぱりイイな、女の子!!なんであんまり女の子の客来ねぇんだろう?俺の店!外観にもメニューにも、BGMにもかなり気を回したつもりなのに常連として固定したのは野郎100%だ。
ありえねぇ、俺の野望とか辛い修行時代とか打ち砕かれ過ぎだろ!!そんな時に会ったのが仕事帰りに偶然俺の店に迷い込んできたなまえちゃんだ。
「グラスワインお代わりお願いします」
「追加でおでん三種盛りと八海山」
「…この梅酒!もしかしてイゾウの梅酒じゃないですか?!凄い!」
いやもう惚れたね。可愛いなって一目惚れしたし、話してさらに惚れ込んだ。俺の出した料理のどこが美味しいか言ってくれるところとか食べてる時の表情とか。
「へえ、店長さんはサッチさんて言うんですかー、えへへ、髭が格好いいですねえ!」
どうしても仲良くなりたくて俺の店で酔った彼女の介抱を勝ち取った。潰れたなまえちゃんを看護したのは下心があった事は否めない。
一夜明けてすっかり記憶が飛んでた時には流石の俺も天を仰いだけど、話をして、二人で二度寝して、…ここは天国だと思った。いや俺の部屋なんだけど。
「こんばんはー、また来ました」
「いらっしゃいませ!お待ちしておりました!」
律儀ななまえちゃんが俺の貸したジャージと菓子折り持って店に来てくれた時に、お客として友達も連れてきてくれたもんだから俺は張り切った。
なまえちゃんと彼女の友人によく思われたかったし。特になまえちゃんにはいい男だと思われたいじゃん。
「…うわ!本当に美味しい!何この店?!」
「でしょー、ふふん!」
「何でなまえが得意そうな顔してんの」
「いやいや、本当ありがとうなまえちゃん!…お友達さんも、デザートサービスどうぞ~」
「「きゃー美味しそう!」」
二ヶ月くらい二人は俺の店の常連になってくれた。その間は野郎共よりサービス手厚く出迎えた。
それなのになまえちゃんの友人は現在俺の店に顔を出してくれなくなった。でも我慢できた。なまえちゃんは変わらず通ってくれたからだ。
「こんばんは、サッチさん」
「いらっしゃいなまえちゃん」
なまえちゃんが居りゃ幸せだった。
店は華やかだし俺のテンションは上がるし、新しいメニューにデザート、店内の内装までなまえちゃん好みに併せ少しずつ染まっていった。
その間、四ヶ月ほど。
会うのは俺の店が多かったけど休みの日合わせて遊びに行ったりもしたし、手を繋いでデートしてキスもした。なまえちゃんは俺が告白した時、照れた感じでオッケーしてくれた。
これからもっと仲良くなるんだと有頂天だった。
「…え、何で?」
携帯端末に向かって俺は焦って尋ねた。聞きたくなかった言葉が届いたから。
『…ごめんなさい、サッチさん。言った通りです。お店にはしばらく行かないしサッチさんにも会わない』
「なんで?!俺はなんか気に触る事とかしたか?なまえちゃんに!ごめんな、謝るよ」
正直、覚えがない。なまえちゃんに対して俺の出来る限り誠心誠意尽くした。出来る限りをやった。
『ううん、…私が気が付かなかったのが悪いの…』
「何?なんか嫌な所あったら改善に務めるし言ってくれ!」
会わない?店にも来ない?急にどうして。
俺が何かやったんだろう。教えてくれたら直すから。
「なあ、…会いたい。なまえちゃんの顔見てえし電話じゃ足りないよ…」
本当にそう思う。声聞くのも好きだけど顔見たり触りたいし。側に居たい。くっついていたい。
『私は会いたくない』
キッパリとした彼女の答えは変わらない。頑として意志を変える気はなさそうな声音に、情けないが落ち込んだ。
「…俺はもしかして振られたかな」
優しいなまえちゃんは言葉をハッキリ言わないだけで、心変わりしたのかもしれない。いつもそうなんだ。惚れた相手に、俺がどれだけ愛してるかを言葉でも態度でも示すのに、彼女達は最終的に俺から離れていく。
『サッチさんが、嫌いになったって訳じゃ…』
そうだ。皆そう言うんだ。
『一緒に居るとサッチさんの優しいところに甘えてしまうの』
口を揃えたように、そう言うんだ。
『一緒に居て楽しいし、優しいし、面白いし』
『…だけどね、気づいちゃった』
『気づいたら、血の気が引くほど後悔して…』
なまえちゃんの話す事は、俺が付き合った彼女達の言葉をなぞるように同じ内容を語る。そして、はっきりと言った。
『もうサッチさんの料理を食べないって誓ったわ!!』
違うって解ってるけど念の為聞いた。
「不味いから?」
『~~~っ、美味しいからよ!!』
ブチ切れたみたいに、なまえちゃんが叫ぶ声が端末から耳に直撃した。
『信じられない!最低!体重計に乗った時の私の気持ちがサッチさんに解る?!』
「わ、解らねえけどさ、えっと、そんなに変わって見えな」
『そんなに変わって見えない?!変わったのよ、なんで解らないの!?』
この話で俺のフォローが効いた試しがない。 こうなってしまった女性に何と伝えたら正解をもらえるんだろうか。本当に太ってないし、仮に体重が増えたのが事実としても俺は変わらずになまえちゃんが好きなのに。
『友達がもう行かない方が良いよ、って何度も言うのおかしいな?って私も不思議だったの…』
「で、でもなまえちゃん来てくれたじゃねえか!」
『気が付かなかったからです!!』
キーンと耳に響く泣き声混じりの怒声。相当怒っていらっしゃる。どうしたらいい?
『……5キロですよ』
「え?」
『5キロも体重が増えていたんですよ!!最低~~っ!!もう死ぬ!!』
「大丈夫だって、なまえちゃんもとが痩せ過ぎなんだよ。今ぐらいでちょうど良い…」
『…は?』
どす黒い声がした。
本当になまえちゃんの声かと疑わしいくらい重量級の声に、思わず生唾を飲み込んだ。
『ちょうど良いよ?』
「…あ…いや、ほら、女の子は柔らかい方が、いいかな、って…」
『いい訳あるかああああ!!だいたい何で同じように食べていてサッチさん太らないの?信じられない!ずるいわ、卑怯者っ!!』
俺の趣味が料理以外なら、ジム通いとランニングだと知っているはずなんだけど、こうなった彼女達は何を言っても聞いてくれない。
案の定、俺がどんなに言葉を尽くそうと裏目にしか出なかった。
『とにかくしばらく会わないから!体重が落ちるまで絶対会わないからっ!!』
貴方の愛で、
重たいの!
(えー、なまえちゃんの為に新作いちごデザート作ったんだぜ?)
(…お、鬼っ!どうしてそういうこと言うんですか?!)
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