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うちのマルコ蹴りませんよ。
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(※飼い主とペット)
(※マルコが飼われてる)
(Side U)
「あらなまえ、どうしたの?制服なんて着て」
ソファに座って録画しておいた昨日のドラマを見ていたら、お母さんが不思議そうな声で尋ねた。画面から目を離さずわたしは返事をした。
「だって今日の夜サッチお兄ちゃん帰ってくるでしょう?新しい制服姿を見てもらいたいの」
お父さんの居る国の高校に通っていたサッチお兄ちゃんは無事に卒業し、やっとこっちに戻ってくる。卒業後の進路はこちらの大学へと決め、家からも通学圏内。今か今かと会える日を待っていたのに手続きに手違いがあって再会は一週間のお預けとなっていた。待ち遠しさは募るばかり。
「あら、うふふ!お兄ちゃんきっと喜ぶわよ。お父さんの言い付けで夏休みでもこっちに帰って来られなかったものねえ」
そう、国際電話はとても高いらしくてあまり話せなかった。お兄ちゃんから家のPCやお母さんの携帯端末へ電子メールはほとんど毎日届いていた。「なまえはどうしてる?今日はどんな日だった?」と。
だからこの3年間、せっかくの夏季休暇は丸々お父さんのお手伝いに費やされた事はわたしも知っている。添付される写真にお兄ちゃんの姿はなく、撮影者なのだと手や足だけ枠内に無理やり入れたものばっかりだったけれど、お父さんの姿にお母さんはハートマークを乱舞させて喜んでいた。
「お父さんも一緒に帰って来られたらいいのにね」
「そうね…寂しいけれど仕方ないわ!お父さんは一人で頑張っているんだもの」
クリスマスからお正月の間にだけしか会えないお父さんとお母さん。わたしよりもお母さんの方が寂しいんじゃないのかな。お父さんはお兄ちゃんみたいにメッセージでの連絡もほとんどくれないから。
「ホラホラ、なまえもTVばっかり見てないでちょうだい!これお使いメモ。スーパー行ってきて」
「ええー、まだ途中なのに!」
文句を言いつつもわたしはお使いメモを受け取った。お兄ちゃんが帰ってくるから今晩はご馳走を作るってお母さん張り切ってるからね。
スーパーで買った材料は大量で、両手に持った袋の重みは指に食い込むほどだった。
「~~もう!お母さん、わたしの腕力くらい考えてよ…」
落とさないように気をつけて家に帰ったら、お母さんはさっそく料理に取り掛かった。りんごの皮くらいしか剥けないわたしは洗濯物を畳んで片付ける。
お兄ちゃんが帰ってくるまで余った時間は、部屋で髪の毛を梳かしたりリップクリームを塗り直したり…胸元のリボンを何回も結び直した。
鏡の前で笑ってみる。…うん、何か微妙。あーあ。友達みたいにもっと可愛かったらいいのになあ。やっぱり髪留めを変えようかな?と思っていたらドアの開く音と懐かしい声が下から聞こえた。
「ただいま~!うおおおぉ、3年振りの我が家だぜ!」
サッチお兄ちゃんだ!わたしは部屋から飛び出して階段を駆け降りようとして踏みとどまった。二回ほど深呼吸。もう中学生なんだから、子供みたいに駆け降りたら駄目だわ。乙女たるものレディであれ、ですわよ!!読んだ漫画のセリフを脳内再生して逸る気持ちを抑えて普通に階段を降りていくと、玄関の方でお兄ちゃんと話すお母さんの声がする。
「…サッチ!お帰りなさい!まあ大きくなって!」
「ただいま、母さん!会いたかった!」
お母さんの後ろ姿が見えて、そして階段を降り切ったらサッチお兄ちゃんと目が合う。驚くように見開かれた目。一瞬の沈黙の後でお母さんを腕から解放して、投げるように靴を脱いだお兄ちゃんがわたしを抱きしめていた。
「…っ、なまえ!なまえなまえなまえ~あいたかったぜー!可愛子ちゃんになっちゃってチクショウ!」
「お、おに…っ!…おかえりなさ、っ!」
近くで見るとサッチお兄ちゃんはビックリするくらい大きくなっていた。なんだこの巨人!!誰?デカ過ぎない??こんなに大きい人だった?
抱きしめられながらわたしより頭二つくらい大きなお兄ちゃんの、かなり大きな腕に戸惑う。熊とかゴリラが頭に浮かんだ。しかもタバコの臭いがする。しかも何か変な髪型になってる。しかも変なヒゲとか生えてる!!!!
「ん?着てんのなまえの新しい制服?!可愛いなー、似合う似合う!」
混乱して言葉もなく固まっていたら、お兄ちゃんは腕を解いてわたしを見る。その目はちっとも変わってない。懐かしさと戸惑いが入り混じる。
「ホラホラ!立ち話はここまで!ご飯出来てるわよ」
「マジで?!母さんの飯!year!なまえ、早く中入ろう」
引っ張って行こうとするお兄ちゃんを止めて、わたしは気になっていた事を質問した。
「ね、お兄ちゃん!マルコは?」
「あら?そうね。サッチ、マルコはどうしたの?」
「あー、感動の再会に浸るあまり忘れてた!…おいマルコ!何やってんの?早く入れよ!」
サッチお兄ちゃんがドアを開けて外に向かって声をかけると、暗がりで動く影が玄関の明かりに映し出され姿をハッキリさせた。
照明を受けて光る金色の髪。眠そうな目元、頭の天辺で跳ねる独特の髪型。青い首輪をつけて両手に荷物を持って佇んでいた。
「…あー、その…、っ?!」
目線を泳がせるマルコにわたしはスリッパのまま飛びだして抱きついた。
「~ーマルコ!おかえり!」
「…なまえ、危ないよい!」
荷物を離し抱き止めてくれたマルコが焦った声で言う。よい、っていう変な話し方を聞くと本当にマルコだと嬉しくなってしまう。
「まあ、マルコも大きくなったわねえ…うふ。おかえりなさい、マルコ」
お母さんがサンダルを履いて玄関に降り、マルコの頭を撫でる。目を細めて、…ちょっとだけはにかんだような顔でマルコはお母さんを見て言った。
「…ただいま、オカアサン」
サッチお兄ちゃんが荷物を持ち、マルコを囲むわたし達を促した。
「…おーい、とりあえず、中!母さんの飯が冷めちまうだろ」
「そうね。さ、二人とも手を洗って!ご飯にしましょう!」
その日は久しぶりの賑やかな食卓になった。
お兄ちゃんの話す高校生活やバイトの話は面白くて、お母さんもわたしもお腹を抱えた。
「そういやデザートあるんだ。まだ入るなら出すけど」
「「食べたーい」」
わたしとお母さんの声がハモると、お兄ちゃんが天使の合唱かと思ったと真顔で言って携帯端末を取り出して「録音しておけばよかった」と肩を落とす。
「サッチ、俺が手伝うよい。オカアサンとなまえは座っててくれ」
台所に二人が並んで立つととても窮屈そうに見えた。お兄ちゃんの方が高い身長、それでもマルコはわたしよりずっと大きいから。
お母さんはお兄ちゃんのお土産のワインを飲んで更に上機嫌。頬を染めて二人を眺めて…机に頭をぶつけるように寝落ちた。
「オカアサン!」
「うお、母さん!大丈夫かよ!」
ガツンと大きな音に2人揃って飛んできて頭やら額やらを確認する。寝ているだけだと気付くと安堵の息を吐いた。
「お母さん、お兄ちゃんたち帰って来るって張り切って支度してたからきっと寝不足なの。部屋に連れて行くよ」
「あ、大丈夫。俺が運ぶ」
サッチお兄ちゃんは軽々とお母さんを抱き上げて、慣れた足取りでリビングを出て行った。階段を上がる音がする。
「たんこぶにならなきゃ良いんだがねい」
残されたわたしとマルコ。
マルコの方を伺うと心配と顔に書いてあるような表情で閉じたドアを見つめていた。 わたしはマルコのシャツを引いてソファに座る。意図を組んでくれたのか大人しくマルコは隣に腰を下ろした。
「ねえ。マルコ何でヒゲ剃らないの?それ変だよ」
3年前はお兄ちゃんもマルコもヒゲなんかなかった。幻獣化してるマルコはもふもふした青い独特の毛並みの鳥で、わたしは可愛いマルコを抱っこして撫でるのが好きだったのに。
見ない間に急に大きくなってるし、ヒゲも生えてるし…2人ともなんだか知らない人みたいで嫌だ。
「変か?サッチもヒゲなら生やしてるだろい」
「だって変だよ。だから剃ってよ」
顔を両手でつかんでこっちに向けて剃ってと頼むとマルコはたじろいだ声を上げた。ああ、3年前はツルツルだったのに。触るとじょりじょりする。手触り最悪!やだ!!
「伸ばしたいんだよい、剃りたくねえ」
「可愛くないよヒゲなんて!今日はわたしがお風呂に入れてあげるから、その時剃ろうよ」
「嫌だよい」
頑なな拒絶にムッとする。顔から手を離してそっぽ向くとマルコはオロオロしたように話しかけてくる。
「なまえ、サッチのデザート持ってこようか?」
「その服、セイフクだろい。サッチが好きだって言っていた。なまえも好きなのかい?」
「何か飲むかい?」
無視して答えずにいるとマルコも黙ってしまった。沈黙が落ちた部屋は重苦しい。
「あれ?何してんの?デザート食わねえの?」
「サッチお兄ちゃん!マルコのヒゲ何とかしようよ!家にいた頃はヒゲなんてなかったじゃない!」
お母さんを寝かせてきたお兄ちゃんがリビングに戻ってきた。ヒゲについての文句を言うとお兄ちゃんはマルコを見て言った。
「オスって感じでいいだろ、髭!俺もこの髭は毎日整えてるんだぜ」
「~~変だよ、格好悪いよ!」
自慢するように顎を上向けてみせるお兄ちゃんは、わたしが格好悪いと言ったらガッカリした。
「…結構評判良かったんだけどなあ、あっちじゃ…」
あっち、というのは海外でお兄ちゃんが過ごした日々の事で…それは言葉でしか知らないお兄ちゃんの姿があるんだって言われた気がした。
わたしが一緒に居なかった3年間。
「じゃあマルコだけでいい!マルコはわたしのお願い聞いてくれるよね?」
首に嵌った青い首輪はわたしがマルコに選んだものだ。サイズはギリギリなのか金具を通す穴の位置は一番広いところにしてあるけれど窮屈そうに隙間なく首に接している。
「今日からわたしが、またマルコの身体洗ってあげるから。前とシャンプー変えてないんだよ?」
「ブホォ!!」
お兄ちゃんが噴き出したあと凄い勢いでわたしとマルコの間に割り込んできた。
「駄目だ駄目だ!こいつもう成体だぞ?なまえと風呂?止めろ想像しちまった!」
「大丈夫だよ、大きくなっててもちゃんと洗えるよ!わたしだって中学生だよ?もう大人だもん」
「大人だったら余計に悪いの!マルコの風呂は俺が入れる!なまえは絶対に駄目だからな!」
お兄ちゃんは味方になってくれると思ったのに、頭ごなしに怒られて悲しいのと悔しいので、頭が一杯になった。
「お兄ちゃんのバカ!…やっと、帰って来てくれて、…やっと昔みたいに遊べるんだって…ひっく、楽しみにして、たのに!」
喋っている途中で涙が出てきて言葉がつっかえてしまう。溢れた涙は隠しようもなく、それでも手で顔を隠してリビングから逃げ出した。階段を駆け上がって部屋に飛び込む。
「う、うぅ…せっかく、久しぶりに会え、会えたのに…っ!」
これじゃあ駄々をこねる子供じゃない。恥ずかしい。わたし中学生なのに。2人の前で癇癪を起こして泣いて喚いて、…嫌な事を言ってしまった。ぐずぐずと鼻を鳴らしながら制服を脱いでハンガーに掛けた。上はキャミのままで下だけ部屋着のショートパンツを履いた。
ベッドに突っ伏して思い切り泣こうと思ったら控えめなノックの音が聞こえた。
「……なまえ~、お兄ちゃんだけど。開けていい?」
「ダメ」
「お邪魔します」
ダメって言ったのにお兄ちゃんはドアを開けた。わたしはベッドに乗っかり頭から毛布をかぶって悪あがきする。
「なまえー、なまえちゃん。可愛い顔を見せてくれよ」
「……………」
「嫌?駄目?…お兄ちゃんなまえと会うの凄え楽しみにしてたんだぜ?お土産山ほど買ってさあ、なまえ喜ぶかなーってマルコとも話してさ」
「……………」
毛布の陰で泣いていたわたしは、お兄ちゃんの言葉に返事ができない。喋ったら泣いてるのがバレちゃうもん。抵抗していたら毛布の上に何かの乗っかる感触がした。
「なまえ、怒ってるのかい?そんなにヒゲは格好悪いか?…ヒゲはオヤジも生やしてるよい」
お父さんはいいの。昔からヒゲだったし格好いいもん。マルコは小さくてふわふわで顎だってツルツルだったもん。
多分毛布の上にはマルコが居る。青い不死鳥の姿で。見たい。モフりたい。あのフワフワ大好きだから。欲求に負けて毛布から顔を出すと心配そうなお兄ちゃんと…ベッドに座り直した不死鳥が見えた。顔を手で拭ってマルコに手を伸ばす。抱き締めてもマルコは大人しくしていてくれた。
「…ごめんなさい。格好悪いなんて、ウソだよ。ヒゲが生えてると別の人みたいで…なんか寂しくなっちゃったの」
わたしの目元をマルコが舐める。サッチお兄ちゃんがマルコごとわたしを抱きしめた。
「かっわいいなぁ~!なまえ!!変わらねえよ俺は。今も昔もなまえと母さんとオヤジ大好きっ子!」
「……本当?」
「おうよ!超愛してる!…なまえが嫌ならこの髭剃ってもいいぜ」
抱きついていたマルコも同じ言葉をくれた。
家に来たばかりのマルコは小さくて足癖がとても悪かった。一番蹴り飛ばされて嘴で突かれていたのはサッチお兄ちゃん。わたしの事は一度だって突いたり蹴ったりしなかった。じっと目を閉じて撫でられていてくれた。大きくなってもあの頃のマルコと変わってない。マルコはわたしに優しい。
「……ううん……じゃあ、ヒゲ剃らなくてもいいよ。だけどマルコの散歩は明日からわたしが行ってもいい?」
「…んー、俺は仲間はずれ?」
お兄ちゃんに抱っこされてると安心する。腕の中のマルコは温かくてふわふわしてて気持ちいいし。涙も引っ込んだ。
「お兄ちゃん大学でしょ?時間合わないんじゃないの?」
「俺はなまえと2人でもいいよい。サッチと散歩は飽きたからな」
「うわ!酷え!!…ちぇっ、何だよ何だよ。俺だってなまえと散歩してえのにマルコばっか狡いぜ」
お兄ちゃんがそう言って拗ねた。わたしとマルコは声を出して笑った。昔と同じ変わらないんだ。そう思って良いんだよね?
「じゃ、お風呂入ろう?マルコ!」
「「それは駄目」だよい」
「なんで!?」
2人は目を見合わせてから口を閉ざす。ねえ、なんで?だって昔のままで良いのでしょう?どうしてダメって言うの!
子供/大人
(じゃあマルコ一緒に寝よ)
(……なまえが寝るまでだよい)
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