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appassionato.
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(Side U)
(※Day one)
旅の末に辿り着いた南の海の島。
住み着いて二年目のここは数ある白ひげ海賊団のシマの一つであった。
平凡に平和に、時々少しミスをして落ち込むことはあるけれど何事もなく過ごしてきた。だと言うのに私は冷や汗をかきながら島の公園のベンチで見慣れぬ男の横に座っている。
隣の男性は妙齢で白いシャツに黒のパンツで足元はサンダル。どこにでもいるようなスタイル…そのシャツに隠れた胸元に『白ひげの刺青』さえなければ。
「なまえ、と言ったな。付き合わせて悪いねい」
「いえ、むしろ私がお相手ですみません…」
ダクダクと嫌な汗をかきながらなんとか答える。
一週間前に『簡単なレクリエーションのお手伝い大募集☆三日間の食事補助あり。どなたでもご応募いただけます』なんて張り紙に釣られて応募した結果がコレである。
何がレクリエーションだよ嘘つき!!海賊って書いとけよ、日当の金額の良さと完全食事補助だなんて聞いたら応募するに決まってるじゃないか!今月の食費がピンチだったんだよ!!平和な島だろうが生きるの大変なの!!
「あ、あの。精一杯お手伝いしますが、お役に立てる自信がありません…」
「そう身構えなくて良いよい。お遊びみたいなもんだ」
軽い言葉に曖昧に頷き、気が付いてそうですか、と言葉を口に出す。なにせこの人は今『目が見えない』のだ。溜め息を堪えて静かに息を吐く。
…白ひげの傘下にあり縄張りとして認識されれば略奪や侵略は激減する。なにせあの四皇の一人であり、世界を終わらせる力を持つ、エドワード・ニューゲートのシマなのだから。海軍だって迂闊に手を出さない。
それでもお馬鹿は湧くもので、シマが荒らされてないか偵察が必要になる。
守護下にあると自覚のある島民は白ひげ海賊団に好意的だから彼らに対し物資調達も宿の提供も余念がない。対価の支払いは気前がいいのも利点の一つ。
が、どうやら今回はいつもの調査と違うらしい。
「俺はなまえが相手で助かったよい、運がいい。変な目には合わずに済みそうだからねい」
マルコさんの目には真っ黒な布で目隠しがされていた。島の術士特製の呪いがかかっており、条件を満たさなければ外せない仕様になっている。
聞いた話によるとこの状況は白ひげ海賊団の隊長たちの会議で決まったらしい。乗組員が『負傷者役』『追っ手役』をくじ引きで決め、攻防の実戦訓練を三日かけてするのだそうだ。
負傷者役は捕縛されたらアウト、追っ手役は捕まえたとしても陣地に連れ帰れなければ捕縛カウントされない。
この島も訓練地に選ばれた一つで、負傷者役は目隠しで視界を塞がれ、また島民から有志を募った『援助者』は老若男女問わずだ。助けになるか足枷かは運次第。
「座っていたいところだが…移動した方が良いな。見つかると面倒だ」
差し出される手は私の方から少しずれていて、それがマルコさんの視界が完全に失われていることを示している。
意識して深く息を吸い込む。よし。
大きくて少し乾いた手のひらに触れるとそっと握られて胸が跳ねた。ああ、まさか海賊のエスコートする日が来るだなんて!
「えーと、海賊の人って大変なんですね。いつも修行とか訓練をしているのですか?」
無言が耐えられない性分を恨めしく思いつつも会話の糸口を探す。三日もこの人の世話をするのだから情報は必要。無体を働いて殺されたりしたら最悪だし。
「身体を鍛えるのが趣味の奴もいるが…俺は船医者でねい。専ら本を読んだり日向ぼっこが常だよい」
へえ。この人はお医者様なんだ。
移住してからシマ調査のことを知ったけど白ひげ怖いって事くらいしか解ってない。島の皆も表立って白ひげの話をしないし、詳しく知りたくないあまり情報を避けていた。
マルコさんは緩そうな見た目だし、これならミスしても怒られたり乱暴な目には合わなくて済むかも。
「お腹空いていませんか、何か食べますか?」
市場通りは賑やかで楽しいけど、見えないマルコさんは不安じゃないだろうか。
「そうだな…何が売ってんだい?」
目に写る品物を片っ端から上げていく。
肉の揚げ物を挟んだパンが人気のベーカリー、島特産の果実ジュース専門店、精肉店直営のコロッケ屋さん。ジャズ好きの爺ちゃんがやってる喫茶店に、ラジオDJを兼任のファミレス。
魚料理ももちろんあるけれど、この人たちはいつも海にいるんだし違うのがいいんじゃないか?と外し答えていく。
「贅沢を言やァ、挽き立てのコーヒーが飲みてえな。喫茶店は入れるかい?」
「はい。中立店になっているので安全地帯の一つですよ」
島のどこでも暴れて壊されちゃかなわない。そんなお店は白ひげの海賊旗(ミニバージョン)を掲げて主張をしている。揉め事を起こした時点でアウト、退場失格となり敗者決定。
レクリエーション参加者へのパンフレットに書いてあった注意書きが頭に浮かぶ。鞄から取り出して開いて文面を確認。
「ええと…『中立区での攻撃及び諍いはご法度。負傷者役を見つけた場合でも店外に出てから三分間の追従は不可』って書いてあるので。食事はゆっくり摂れるはずです」
読み上げるとマルコさんは軽く頷いて喫茶店へ連れて行ってくれと言う。
まるで介護でもしている気持ちでマルコさんの手を引いて無事に店内へ。
「いらっしゃい…、ああ。なまえか。お前さんもお遊戯に参加しとったか」
「こんにちは、ワサビ爺ちゃん!」
目隠し男のマルコさんを見て、一瞬ギョッとした顔をしたワサビ爺はレクリエーションの話を思い出してか納得したよう頷き、好きな席に座れと店内へ通してくれた。
「メニュー読み上げますね」
「ありがとさん、頼むよい」
私の食事代はこの人の支払いなので、遠慮なくマスターおすすめセットをオーダー。
メニューを順に読み上げて伝えるとマルコさんはホットサンドセットとコーヒーを選んだ。ちなみに豆まで指定である。コーヒーが好きみたいね。
「…美味いな。トマトの味がしっかりする。パンの焼き加減もいい。この島は野菜の質がいいねい」
食べやすさで選んだホットサンドは私がマルコさんの手を掴んで皿まで導いた。食べさせる羽目にならなくて良かった。奥の席でリーゼント頭の男の口元にスプーンを運ぶ少年の姿を見てしょっぱい気持ちになった。絵面が犯罪である。あそこに見える堅気じゃない体格の良さを放つリーゼントさんは白ひげ一家に違いない。
「…奥の席に目隠しの人がいます。多分、マルコさんと同じ負傷者役の人だと思います」
「どんな奴だい?」
特徴を伝えるとマルコさんの口元が綻び、そいつは放っておいて大丈夫だと断定した。怖そうだけどいいのかな。
「珈琲もいい味だよい。この店明日も来てえな」
呑気に一服。
負傷者役は目隠しが目印になるが追っ手役には目立つ特徴がなく、海賊です!と解り易い外見でもしてなければ判別は難しい。
相手からはこちらが捕捉できても、こちらは向こうを判別不能である。
「ん。財布を預けておくから払ってくれるかい」
「えっ」
そろそろ動こうとマルコさんが肩がけの鞄から徐に財布を取り出して、私の方に向ける。
何この人おかしくない?財布だよ??お金だけ取り出して渡すならまだしも丸ごと渡すとかどうかしてる!
「…お財布を渡すなんて危ないですよ。私に盗まれたらどうするんですか」
「なまえは盗らねえだろい」
唖然として言葉が出ない。
いくら白ひげのシマだからって、全員が好意に溢れてる訳じゃない。見えないんだから何されても解らないんですよ。海賊のくせに危なっかしい人。
「…マスターに一緒に財布の現在金額を確認してもらって一筆いただき、領収書も出してもらいました。店内に追っ手役の人が居るか私には解らないので、お店出たらとりあえず走ってください」
「律儀だねい、食った後にすぐ走るのは推奨しないんだが…」
マルコさんの手を自ら掴んで足速に店を出て、人を避けて走り出す。
私がしっかりしないと!と妙な使命感が芽吹いてた。
「左の方に走って行ったぞ!追え!」
「そう遠くまでは行けないはずだ!」
追っ手役と思われる男の怒号が背後から追ってくる。店に入るのを見たのか店内にいたのか。声からして三人だ。
「マルコさん急いでください!」
「急かすなよい、転んじまう」
路地を曲がり人の家と家の間、一人分しかない幅の小径を駆け足で進み、ペンシルさん家の庭を横切る。
「ここはどこだい?」
「…はぁ、はぁ、…ゲホッ、図書、館です…」
着いた先は入り組んだ住宅街の先、市民図書館だ。ていうか追っ手は振り切れたけど息を切らしているのが私だけってどう言う事?目隠しで走るなんて普通に走るよりずっと緊張して疲れるはずなのに。
「目が見えない人が来る場所じゃないから、安全かなって。一時避難ですけど」
古書が多く得られる情報に喜び勇んで通った古い図書館。棚に並ぶ本だって新刊なんてほとんどないが、代わりに貴重な資料があるとか無いとか。
「確か『睡眠を除き同じ場所に一時間以上留まると、目隠しから居場所が敵役に通知されます。なお食事は二時間以内とする』って書いてあったな」
レクリエーションルールを覚えてきたんだろうな。術師のお爺ちゃんは島で長いこと暮らしてるけど、凄い術師だったんだな…失せ物探しと迷子探し専門だと思ってた。
「そうです。ルールによると『宿泊はランダムで下記に指定場所を記す。午後十一時から午前四時の間、敵役はその時間帯の追跡は禁止』…えっと、私たちは宿屋カボティーヌに連泊になってます」
貰った冊子のルール全てを覚えきれてないので、いちいち開かないといけない。目隠しないから見ればわかるけど、私のミスで敗退したら申し訳ないので貰った直後に全て目は通した。
「本の匂いがして落ち着くよい。見えないのが勿体ないな」
棚に手を触れ本の背表紙をゆっくり撫で、口元はニッコニコのマルコさん。
状況にそぐわない呑気さに私は肩を落として脱力した。
「マルコさんてお医者様だけど海賊なんですよね?」
弱そうとまでは言えず、いっそ捕まって早く終わったら楽なんじゃないか?と進めてみる。
「これは冊子には明記してねえから秘密なんだが」
声を落としたマルコさんに近寄るとマルコさんの手が伸び、少し彷徨ってから私の肩を見つけ出し掴んで顔を寄せた。
「…負傷者役を確保した追っ手役、捕まらなかった負傷者には褒美が出る。もちろんサポート役にもな」
「っ!」
肩の位置から頭の場所に当たりをつけたんだろう、私の耳にマルコさんの息が触れるほど近くで囁かれ腰が砕けそうになった。 顔が茹だったように熱い。耳に息が当たり低い声に背筋が粟立つ。
「なまえ?」
「っ、いえ、一時間経つ前に出ましょう。安全な宿に入れるまであと九時間くらいあるんですよ」
そうだねい。マルコさんはゆったりした仕草で肩から手を滑らせて、たどり着いた私の手のひらを握った。ちょっとカサついた大きな手に顔がまた熱くなる。
「案内を頼むよい」
「は、はい!行きます、足元に段差があるので注意してください」
手に手を取って歩き出す。追っ手らしい姿も声もない、大丈夫そう。道を選んで時々は店に入って、マルコさんと会話をしつつひたすら練り歩く。
「居たぞ!マルコだ」
「きゃー!なんか来ましたよ敵ですよマルコさん!!」
「追え追え!とっ捕まえろ!」
「うん。聞いたことある気がするんだが、声だけだと確証が持てねえなあ」
「マルコさん!考え事は後にしてください、障害物がありますから三つ数えたらジャンプして…一、ニ、三!」
ナイスジャンプ。この人もしかして見えてる?と横目で見るとマルコさんの目元はしっかりと覆われている。のんびり屋っぽいくせに反射神経はいいみたいだ。鉢植えの群れを飛び越えて大通りを横切って、ゴミ捨て場の横に身を隠す。
「…生臭ぇ、なんだここ」
「シッ!静かにしてください!まだあの人たち近くに居るんですよ」
そうやって追いかけ回される事、計五回。
ようやく宿屋に入れた頃には、私のHPは赤く点灯していた。
「良かった…ついた…」
ベッドの一つにマルコさんを座らせ、もう片方に突っ伏す。動きたくないもう無理。
「お疲れさん。助かったよい。ここまでサポートを受けられるとは思ってなかったよい」
「はは…それは、まあ。はい」
勝ち残りご褒美に釣られたってのもあるけれど、途中からあまりに呑気なマルコさんに腹が立って絶対逃げ切ってやるとやけになっていたのだ。
「これがあと二日…長いですね…」
夕食は閉店間際の店でラストオーダーを口に押し込み済ませたが、明日の朝は早い。
起こしたくない身体を気力で起こし買って来た携帯簡易食と飲み物を冷蔵庫に入れた。マルコさんをコンテナに押し込んで隠した隙に、スーパーにダッシュで駆け込んで買ってきた代物である。
「朝ごはんは冷蔵庫に入れてあります。目覚ましは一応、三時にかけますね。ええと後は…」
疲れのせいか頭の働きが落ちている。普段しない事をたくさんしたし。もう早く寝たい。
「なまえ、寝る前にトイレのドアを教えてくれるか。歩数で覚える」
「あ、はい」
伸ばされる前に手を掴んでトイレ前のドアまで導く。こんなので覚えられるなんて凄いなあ。私絶対ぶつかる自信ある。
「ありがとさん。隣のこれが…風呂だな」
「はい」
トイレとお風呂は別仕様。
マルコさんが壁を探り見つけたドアノブに私は返事して教えてあげる。ドアを開くと二人分のタオルと寝巻き一式が置いてあったので、それも口頭で伝える。
「ありがとさん。一緒に入るか?」
「はい…はい?」
何て?一緒に入るか?ぐるぐると言葉が頭の中で処理され、把握した。お風呂に一緒に入るかって?私とこの人が?!
「っ入りません!」
「…ふは、まだ元気があるみたいだねい」
繋いでた手を勢いよく離すとマルコさんが笑い出す。揶揄われたんだ!なんて人だ!!
「冗談だ。風呂は先に使っていいから、上がったらそのまま寝ちまえよい。疲れてりゃ多少うるさくても寝れるだろい」
「そうします!」
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