小話

夜が明けたら

2025/01/04 17:51
ジェオ✕イーグル
あけましておめでとうございます。

朝チュン新婚ジェオイの短文です。
続いてはないですが「シロツメクサの丘」直後、指輪してる二人です〜。


※ ※ ※


やわらかな光と、鳥たちの声で目が覚める。
これが「朝」だと認識できるようになったのはつい最近のことだ。

朝になると太陽が昇り、自然と意識が持ち上がる。
まぶた越しに明るさを感じ、のろのろと目を開き……まどろみながら、隣に寄り添う体温にほっとするのだ。

おやすみ、と髪を撫でた時には仰向けに寝ていたような覚えがあるが、いつの間にか向かい合って腕の中にイーグルを抱いていた。
温かい身体。
長いまつ毛。
穏やかに垂れる柳眉。
ジェオは静かな呼吸を繰り返す寝顔を間近に見つめた。
……ぜんぜん動かねぇなあ。
ぴくりともせず眠る様子に、愛しさと申し訳なさがこみ上げる。
昨夜は少し無理をさせた自覚があった。
瞳を潤ませながら『明日は……帰って、しまうんですね』なんて切れ切れに呟くものだから、歯止めがきかなくなってしまった。

……おまえはこっちで暮らしたっていいんだぞ。
ふと、ずっと言えずにきた言葉がまた頭をよぎる。

けたたましいアラームの音で叩き起こされる母国の毎日とは、比べる気も起きないような眩しい世界。
そんな環境ですでに半年ほど生活しているイーグルは、しかし会うたびにオートザムの近況を事細かに訊いてくる。
少しでも関わっていたい、遠ざけないでほしいと。こちらの思惑を察しているかのように訴え続けるのだ。

オートザムに帰ったところで、待っている生活なんて知れているというのに。

あの窮屈な国で軍人として彼が過ごす毎日。
ジェオはいま一度思い描いてみる。

朝は無機質な壁に囲まれて、アラームの音で目を覚まし、
……いや、アラームは無視だな。俺が起こしに行くまで起きて来やしねぇ。
堅苦しい士官衣をいそいそ着込み、
……ぬくくていいんだって気に入ってるし、寝起きが悪けりゃ俺が着せてる。
時間に追われるように食事を摂り、
……俺が用意するようになってからは、ゆっくりティータイムまで満喫してるな。
わずらわしい人間関係に振り回されながら、身を削るような職務に励む。
……そういうの楽しんでるトコあるし、逆境ほどいきいきしてんだよなあ。

あれ?
ジェオは首を傾げた。
どうして今まで気づかなかったのだろう。

オートザムには彼の築き上げてきた日常がある。
セフィーロのみずみずしい自然や心の安寧にも代えられない『ただの日常』が。
導かれるように、シーツからのぞくイーグルの左手に目がとまった。その薬指に光る白色の指輪。前回セフィーロを訪れた際、彼に贈ったものだ。
自分の左手にも揃いの指輪があることを思い出し、胸が熱くなった。

「……ん」
腕の中のぬくもりが小さく身じろぐ。
イーグルの、髪と同じ亜麻色をしたまつ毛が震えた。
まぶたがゆっくりと持ち上がり、半分ほど開いたところで止まる。
……まだ夢ん中だな、こりゃ。
緩慢に瞬く両の目からは、まだ起きません、という断固とした意志を感じる。
そっとしておけば、またすぐ眠りに落ちていきそうだ。

もう少し寝かせてやろう。
そのまま彼の目が再び閉じるのを待つことにしたジェオだったが。
ふと、おぼつかない蜜色の瞳と視線が絡んだ。
「……ジェオ……」
途端、寝ぼけた顔が条件反射のように微笑みにとろける。
……おいおい、たまらんな。
ジェオはこちらも条件反射のように昂りそうになる自身を、ギリギリのところで抑えつけた。

「おはよ。体、つらくねぇか?」
髪を後ろへと梳きながら訊ねると、イーグルはぼんやりと意識をさ迷わせたまま「……すごくだるいです」と正直に答えた。
「う。わりぃ」
「……いえ……ありがとう、ございます」
うとうとと眠たげな声で呟く。
ありがとう、だと。確かにそういう気持ちもあったが。
「おまえなぁ……」
「ふふふ……すてきな置き土産を、いただきました」
面と向かって受け取られると、さすがに気恥ずかしい。

「ほら、俺は昼過までいられるから。もうちょい寝てろ」
ジェオはを誤魔化しがてら、思い切り優しい声を出した。

「……はい。そう、します……」
応え終わった頃には、イーグルのまぶたはすっかり閉じていた。




薄明るかった黎明の空が白白と明けていく。

……今度、何泊かオートザムに帰ってみるか?

遊び疲れた子どものようなあどけない寝顔を眺めながら、新たに浮かんだ言葉。
それは、すぐにでも彼に伝えたいものだった。


end

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