くんくん。
嗅ぎ慣れた香ばしいチーズの焦げる香りが鼻に届く。

(ん……)

ゆっくりと目を開けるとそこには熱々のピザをもきゅもきゅと頬張りながらダンテを覗き込む少女がいた。

「あ、気がついた？」

ピザの香りをかぎ取ったことによってタダでさえ存在を主張し続けていた腹の虫が大合唱を始めた。
ダンテには今やピザしか目に入っていない。

「なーご、にゃぁぁぁぁあ！」
(ふぉぉぉぉお！ピザピザピザぁぁぁあ！)

夢は好物にあり付こうと飛びかかるネコにピザがとられないよう高く持ち上げた。

「何々、お腹すいてるの？」

キミが食べられそうなもの今用意するから待っててね。

だがネコは待ちきれないのか夢のスリッパに爪をひっかけながらぶらさがって抗議した。

「にゃー！にゃにゃ、にゃ！」
(ピザがいい！ピザくれ、ピザ！)
「え、もしかしてピザがいいってこと？…変なネコ」

しょうがないな、と皿に載せて目の前に置いた。

ダンテは喉をゴロゴロさせながら熱々のピザを頬張った。

「にゃー♪にゃああん♪」
(うめー！これお前作ったのか？)
「美味しそうに食べるねー、ピザ食べるネコなんてあたし初めて見た……ネコってピザたべていいのかな……。
絶対ダメな気がするけど」

そもそもネコ舌はどうしたのだろう？火傷しないのかちょっと心配である。

ガツガツと一心不乱に食べ続けるネコを優しく撫でながら聞く。

「キミ野良ネコ？飼いネコ？」

どっかから逃げ出してきたとか？

「にゃ？」
(あぁ？)

ダンテは少し食べて落ち着いた頭で周りを見た。

一般家庭のリビングルームだ。
足の短いテーブルに、対面式のアイボリーのソファー、どういう構造になってるのかわからない超薄型の大画面のテレビらしき板。
そして足元には肌触りのよいラグが敷いてあり、傍には自分を包んでいたのであろう、黄色いウサギのようなものがプリントされたブランケットが転がっている。

向こうにはキッチンが見えていてリビングと対面式になっているようだった。
シンプルだが、暖かみのある木製の家具で統一させていてとても落ち着く。

この目の前の少女の家なのだろう。
少女はサイドで二つ縛りにした栗色の髪と真っ黒な瞳を持つ、典型的な日本人らしかった。
背の高さを考えるとまだ中、高校生、と言ったところである。

大人っぽい感じするがその中にも子供特有のあどけなさが感じられる。
さすが童顔といわれる日本人だ。

少女の黒い瞳に自分の白い毛並みがくっきりと映りこんでいる。

そこで気がついた。
薄汚れていた灰色の毛並みはいつのまにか真っ白な美しい毛並みに戻り、ふわふわに整えられているのだ。
気を失っている間に洗ってくれたようだ。

今はネコとはいえちょっと恥ずかしい。

この少女が何から何までやって助けてくれたようである。
しかも好物のピザで空腹をみたせることができるのだから、これ以上の幸せはない。

空腹は最高のスパイスとはいうが、それにしたって美味いピザだ。
ダンテゆっくりと味わいながらピザを咀嚼した。