Tea party beyond the world
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* * *
紫乃とディーヴァがお茶会をしているリビングの隣にあるダイニングルーム。
その食卓の椅子に、二人のダンテは腰掛けていた。
お茶会は女子のみだからと言って参加を断られたのだ。
「あー……何が悲しくて野郎と二人っきりにならないといけねぇんだよ……」
「そんなこと言うなよ、若い俺」
「うっせ、おっさん」
「おっさんって言うな。お前もあと十数年すればおっさんの仲間入りだ」
椅子にふんぞり返った若が、クッキーをボリボリかじりながら悪態をついた。
そんな若を、髭は特に怒りもせずに紅茶を飲みながら眺める。
クッキーは女性陣が用意したものだ。
お茶会に参加させてもらえないのなら、せめてお菓子を分けてくれとダンテ両名が申し出たのである。
おかげで、お茶会が終わるまで退屈しそうにない。
いや、男と──それも同じ『ダンテ』と一緒に過ごさねばならないことに、若は不満を抱いていた。
反面、髭は若といることを気にした様子もなくクッキーを食べている。
「ん。美味い」
「……なあ、お前、本当に『オレ』だよな?」
「だろうな。『ダンテ』だし」
そう答えると若はしばし考え込んだ。
「どうした?」
「いや……パラレルワールドっつったか? 並行した世界なら、何でオレ同士の年齢が違うんだ? それに、相手の女も」
疑問に思ったことを素直に口にすると、髭も「それもそうだな」と頷いた。
パラレルワールド。
並行世界と称されるのであれば、同じ人物は同じ年齢、同じ人間関係であるのが普通だろう。
それなのに、同じ人物なのに年齢は違うし、恋人も全く違う。
おかしなことに首を傾げつつも、髭は思い悩むこともなく、
「ま、不思議なことは何処にでも転がってるもんだ」
と言った。
「それより、二人がどんな会話してるか気にならねぇか?」
髭は紅茶の残っているティーカップを右手に持つと、空いた左手で椅子を持ち上げて壁際に移動した。
その壁を一枚隔てた向こう側は、女性二人がお茶会を開いているリビングだ。
「……おっさんもなかなか面白いこと言うじゃねぇか」
若はにやりと笑うと、自分もティーカップと椅子を持って壁際に移動する。
ついでにクッキーを載せた皿も持ってくる。
リビングとダイニングを隔てる壁は、幸いにも分厚くもなく防音対策もされていない。
そのため、耳をすませば壁の向こうの音声なんて簡単に聞こえてしまう。
悪魔としての五感が、意外なところで役に立ちそうだ。
リビングでは、何やら自分達についての話題で盛り上がっているようだ。
シーツを洗いたいのに、ダンテが寝ていると洗えない。
おまけに、前もって早く起きて欲しいと伝えていたのに、起床を促すも子供のように駄々をこねて起きようとしない、と。
「朝早いのは苦手だ」
「だよな。洗うにしても今度やればいい話だ」
年齢は違えど、怠けっぷりは同じなので二人はクッキーをかじりながら小さく笑った。
お茶会ではダンテの話題が続いていたが、それは彼女らがどうやってダンテと出会ったかについてのものへと切り替わっていた。
ディーヴァは天使の血族で、それを狙った悪魔の襲撃を受けている時にダンテと出会い、同居が始まった。
しかし、彼女は家族を亡くして生きる意志を失っていたという。
そんな状態の彼女を励ましたのは「オレが守るからオレのために生きろ」というダンテの言葉だった。
「へぇ……若い俺もいいこと言うじゃねぇか」
「だろ?」
髭が紅茶で喉を潤しながら感心すれば、若は自慢げにクッキーを味わった。
やがてディーヴァは、紫乃に何か異変はないかと尋ねた。
天使の血肉は悪魔にとってはご馳走である。
だから半魔である紫乃にも何か変わったことがあるのかもと思った。
だが、紫乃は最初は悪魔の血が反応していたが、今は何も感じないという。
「そういえば、あんたは大丈夫なのか?」
若がちらりと髭を見る。
「んー、確かにあのお嬢ちゃんのそばにいたらざわつく感じはあったな」
髭は今回初めてディーヴァと会ったのだ。
紫乃のように悪魔の血の反応は薄れはせず、今もまだ自分の中で何かがざわついている。
「実は今もお嬢ちゃんに反応してる」
何の気なしに呟かれた言葉に、若がギクリとした。
「まさかディーヴァを食いたい……とか言うんじゃねぇだろうな」
「まさか。紫乃みたいに何度も会って慣れたわけじゃないから違和感はあるが、そんな衝動はこれっぽっちもないから安心しろ」
やはり髭も紫乃と同じように、悪魔の血を持つにもかかわらず、ディーヴァに対して何かの違和感はあるが食欲はわかないという。
「……それならいい」
若は小さく肩を竦めると、もうこの話題についてはおしまいだと言った。
それからもディーヴァのダンテについてのトークは続いた。
優しくおちゃめでひょうきんで、それに顔立ちも端整なのだと。
しかし、そんなダンテをディーヴァは可愛いと言い、紫乃も賛同した。
「オ……オレが可愛い?」
「女ってのは、時に男から見れば不可思議な生き物だ」
首を傾げる若を髭が諭すように小さく笑んだ。
髭はこれまでに何人もの女性と接してきてきたが、時折男の自分には理解出来ないことを言い出す。
昔は感情のままに応対して女性の機嫌を損ねた経験もあるが、今では女性特有の感性なのだと察することが出来る。