魔狼と人間(拍手SS)
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※リアラの両親のお話。
「今日も変わらず、か」
屋根の上に座り込み、ゼクスはふう、とため息をつく。
100年前に友人スパーダからフォルトゥナ城を譲り受け、この地を守るように頼まれ、日々こうして見守ってきたが、時々出る悪魔を狩る意外には特に目立ったことはなく、平穏な日々が続いていた。
(変わらない、というのも退屈なものだな)
別に毎日悪魔が狩りたいとか平穏が嫌いとか、そういうわけではない。ただ、変わらない平淡な日々が退屈で、何かしら変化がほしいと思うのだ。
こうやって刺激を求めるのは悪魔としての本能なのだろうか、とぼんやりとゼクスは考える。
「…とりあえず、周りの見回りでもしてくるか」
再びため息を吐き、ゼクスは立ち上がった。
***
「特に何もなさそうだな…」
呟きながら、ゼクスは城への帰り道を歩く。
ラーミナ山、ミティスの森、街…順番に見て回ったが、特に異常はなく、悪魔の気配もしなかった。異常がないならこれ以上外にいる必要もないし、あまりうろうろしていると街の人間に姿を見られかねない。
さっさと帰ろうと歩みを早めたゼクスだったが、聞こえた小さな声に足を止めた。
「……」
小さく、微かな声だったが、確かに人間の声だった。助けを求めるような声。
声のする方に目をやると、ミティスの森がある方角だった。
(…そんな簡単にはいかない、か)
心の中で一人ごちて、ゼクスは森に向かって走り出した。
「はあっ、はあっ…!」
ミティスの森の中。息を切らせて走る少女の影が一つ。少し離れた距離から悪魔が三体、彼女の後を追いかけていた。
(まさか、こんな明るい内に悪魔に会うなんて…!)
いくら悪魔が頻繁に出る場所とはいえ、昼間に出ることはないと思っていたのに。
そう思っている内に、地面から出た木の根に足を引っかけ、転んでしまった。少女は急いで身を起こしたものの、すでに周りを悪魔達に囲まれて逃げ場はない。
キシャァァァッ!
「―っ!」
目の前にいた悪魔が鋭い爪を振り下ろす。少女が思わず目を瞑った、その時。
ガキンッ!
「―っ?」
何かがぶつかり合う音に、少女は恐る恐る目を開ける。そこには、自分を庇うように一人の男性が立っていた。
「こんな明るい時までわざわざ出てきたいのか?ご苦労なことだ。だが、さっさと消えてもらおうか」
そう言うと、男―ゼクスは手にしていた槍で悪魔の爪を弾き、空いていた左手を軽く振り上げる。すると、地面から鋭い氷柱が現れ、弾きあげられた悪魔を貫いた。その後、残りの二体の悪魔も地面から現れた氷柱に貫かれ、耳障りな叫び声を上げて消えていった。その様子を呆然と見ていた少女に、ゼクスが振り返り、声をかける。
「大丈夫か?」
「あ…はい」
瑠璃色の目が自分を見つめる。少女は頷き、ゼクスが差し出した手に自分の手を重ねた。
「ゼクスさんはお城に住んでいるんですか?」
「ああ」
少女に問われ、ゼクスは頷く。
フィーリアという名のこの少女は、森に花を摘みに来ていたのだという。両親が街で花屋を営んでいるらしく、いつもここで花を摘んでいくらしい。年を聞いてみるとまだ16歳と若く、まだ世間のことを知らない子供のように思えた。
「ゼクスさんは、何でお城に住んでいるんですか?」
「スパーダからあの城を譲り受けたからだ。もう100年も住んでいる」
今日の自分は不思議だ、とゼクスは思う。なぜ人間相手にこんなにもしゃべっているのだろう。
悪魔を相手にしたあの時点で自分が人間(ひと)ではないことはわかったはずなのに、恐れもせずに彼女は自分に話しかけてくる。
「まあ、スパーダ様から。じゃあ、ゼクスさんはスパーダ様のご友人なんですね」
「ああ。…お前も、魔剣教団とやらを信仰しているのか?」
「いえ、私は…。両親は敬虔な信者ですが、私は神様に頼ろうという気持ちがないので」
フィーリアの言葉に、ゼクスは驚く。この地に住む人間は、全員、魔剣教団を信仰しているとばかり思っていたからだ。
「でも、この地を守ってくださったスパーダ様には感謝しているんです。スパーダ様のおかげで、私達はこうして生活できていますから」
そう言ってから、あ、と何かに気づいたようにフィーリアはゼクスを見上げた。澄んだ深い緑の目がゼクスを見つめる。
「100年前からお城に住んでいたってことは、ゼクスさんもずっとこの地を守ってくれていたんですよね。ありがとうございます」
そう言ってぺこりと頭を下げたフィーリアに、ゼクスは目を見開く。
「…お前は、俺が怖くないのか?」
ゼクスの問いに、フィーリアは首を傾げる。
「怖い?なぜですか?ゼクスさんは私を助けてくださいました、自分を助けてくださった方を怖いなんて思いません」
「だが、俺は悪魔だ」
「スパーダ様だって悪魔です。他に優しい悪魔がいても、おかしくはないでしょう?それに、あなたは悪いことをするような目をしていないわ」
そう言ってじっと見つめるフィーリアに、ゼクスは戸惑う。何と返すべきか言葉を探している内に、街の近くまでやって来た。
「ここまでで大丈夫です。ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げると、フィーリアは街に向かって駆け出す。
だが、少し離れた場所で立ち止まり、振り返って笑顔でこう告げた。
「また、明日会いましょう!私、毎日あの時間にあそこにいますから!」
手を振り、再び街へ駆け出したフィーリアの後ろ姿を見送り、ゼクスは思う。
(また明日、か)
明日、また会ったなら。
(この不思議な気持ちの正体も、わかるだろうか)
今まで感じたことのない気持ちを抱いたまま、しばらく街を見つめた後、ゼクスは身を翻した。
それは、静かに、密やかに
(廻り始めた、もう一つの大きな歯車)
「今日も変わらず、か」
屋根の上に座り込み、ゼクスはふう、とため息をつく。
100年前に友人スパーダからフォルトゥナ城を譲り受け、この地を守るように頼まれ、日々こうして見守ってきたが、時々出る悪魔を狩る意外には特に目立ったことはなく、平穏な日々が続いていた。
(変わらない、というのも退屈なものだな)
別に毎日悪魔が狩りたいとか平穏が嫌いとか、そういうわけではない。ただ、変わらない平淡な日々が退屈で、何かしら変化がほしいと思うのだ。
こうやって刺激を求めるのは悪魔としての本能なのだろうか、とぼんやりとゼクスは考える。
「…とりあえず、周りの見回りでもしてくるか」
再びため息を吐き、ゼクスは立ち上がった。
***
「特に何もなさそうだな…」
呟きながら、ゼクスは城への帰り道を歩く。
ラーミナ山、ミティスの森、街…順番に見て回ったが、特に異常はなく、悪魔の気配もしなかった。異常がないならこれ以上外にいる必要もないし、あまりうろうろしていると街の人間に姿を見られかねない。
さっさと帰ろうと歩みを早めたゼクスだったが、聞こえた小さな声に足を止めた。
「……」
小さく、微かな声だったが、確かに人間の声だった。助けを求めるような声。
声のする方に目をやると、ミティスの森がある方角だった。
(…そんな簡単にはいかない、か)
心の中で一人ごちて、ゼクスは森に向かって走り出した。
「はあっ、はあっ…!」
ミティスの森の中。息を切らせて走る少女の影が一つ。少し離れた距離から悪魔が三体、彼女の後を追いかけていた。
(まさか、こんな明るい内に悪魔に会うなんて…!)
いくら悪魔が頻繁に出る場所とはいえ、昼間に出ることはないと思っていたのに。
そう思っている内に、地面から出た木の根に足を引っかけ、転んでしまった。少女は急いで身を起こしたものの、すでに周りを悪魔達に囲まれて逃げ場はない。
キシャァァァッ!
「―っ!」
目の前にいた悪魔が鋭い爪を振り下ろす。少女が思わず目を瞑った、その時。
ガキンッ!
「―っ?」
何かがぶつかり合う音に、少女は恐る恐る目を開ける。そこには、自分を庇うように一人の男性が立っていた。
「こんな明るい時までわざわざ出てきたいのか?ご苦労なことだ。だが、さっさと消えてもらおうか」
そう言うと、男―ゼクスは手にしていた槍で悪魔の爪を弾き、空いていた左手を軽く振り上げる。すると、地面から鋭い氷柱が現れ、弾きあげられた悪魔を貫いた。その後、残りの二体の悪魔も地面から現れた氷柱に貫かれ、耳障りな叫び声を上げて消えていった。その様子を呆然と見ていた少女に、ゼクスが振り返り、声をかける。
「大丈夫か?」
「あ…はい」
瑠璃色の目が自分を見つめる。少女は頷き、ゼクスが差し出した手に自分の手を重ねた。
「ゼクスさんはお城に住んでいるんですか?」
「ああ」
少女に問われ、ゼクスは頷く。
フィーリアという名のこの少女は、森に花を摘みに来ていたのだという。両親が街で花屋を営んでいるらしく、いつもここで花を摘んでいくらしい。年を聞いてみるとまだ16歳と若く、まだ世間のことを知らない子供のように思えた。
「ゼクスさんは、何でお城に住んでいるんですか?」
「スパーダからあの城を譲り受けたからだ。もう100年も住んでいる」
今日の自分は不思議だ、とゼクスは思う。なぜ人間相手にこんなにもしゃべっているのだろう。
悪魔を相手にしたあの時点で自分が人間(ひと)ではないことはわかったはずなのに、恐れもせずに彼女は自分に話しかけてくる。
「まあ、スパーダ様から。じゃあ、ゼクスさんはスパーダ様のご友人なんですね」
「ああ。…お前も、魔剣教団とやらを信仰しているのか?」
「いえ、私は…。両親は敬虔な信者ですが、私は神様に頼ろうという気持ちがないので」
フィーリアの言葉に、ゼクスは驚く。この地に住む人間は、全員、魔剣教団を信仰しているとばかり思っていたからだ。
「でも、この地を守ってくださったスパーダ様には感謝しているんです。スパーダ様のおかげで、私達はこうして生活できていますから」
そう言ってから、あ、と何かに気づいたようにフィーリアはゼクスを見上げた。澄んだ深い緑の目がゼクスを見つめる。
「100年前からお城に住んでいたってことは、ゼクスさんもずっとこの地を守ってくれていたんですよね。ありがとうございます」
そう言ってぺこりと頭を下げたフィーリアに、ゼクスは目を見開く。
「…お前は、俺が怖くないのか?」
ゼクスの問いに、フィーリアは首を傾げる。
「怖い?なぜですか?ゼクスさんは私を助けてくださいました、自分を助けてくださった方を怖いなんて思いません」
「だが、俺は悪魔だ」
「スパーダ様だって悪魔です。他に優しい悪魔がいても、おかしくはないでしょう?それに、あなたは悪いことをするような目をしていないわ」
そう言ってじっと見つめるフィーリアに、ゼクスは戸惑う。何と返すべきか言葉を探している内に、街の近くまでやって来た。
「ここまでで大丈夫です。ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げると、フィーリアは街に向かって駆け出す。
だが、少し離れた場所で立ち止まり、振り返って笑顔でこう告げた。
「また、明日会いましょう!私、毎日あの時間にあそこにいますから!」
手を振り、再び街へ駆け出したフィーリアの後ろ姿を見送り、ゼクスは思う。
(また明日、か)
明日、また会ったなら。
(この不思議な気持ちの正体も、わかるだろうか)
今まで感じたことのない気持ちを抱いたまま、しばらく街を見つめた後、ゼクスは身を翻した。
それは、静かに、密やかに
(廻り始めた、もう一つの大きな歯車)