「おーい、上がったぞー」

「わかったー」


風呂場から聞こえる若の声に返事をし、リアラは髭の髪を手櫛で整える。


「はい、終わりました。お風呂行ってきてください」

「ああ、ありがとな」

「いいえ」


お礼を言って風呂場へ向かう髭を見送ったあと、リアラは床に敷いていた新聞をまとめ始める。


「はい、リアラ」

「あ、ありがとう」


スーパーの袋を持ってきてくれたディーヴァにお礼を言い、リアラは袋にまとめた新聞を入れる。


「いつも思うけど、手先器用だよねぇ、リアラ。こんなこともできちゃうんだもん」

「仕事の経験が上手く繋がってるだけだよ。それに、一年もやってるからもう慣れたしね」


大したことではないという風にリアラはひらひらと手を振る。
リアラは近くのペットショップでトリマーをしており、仕事の丁寧さと動物達への愛情で信頼を得ており、ここらでは有名なトリマーだ。
店に来るペットの動物達も自分達の言葉を理解し、優しくしてくれるリアラが大好きで、毎回喜んで来るのだ。
今日はあの子とこんな話をした、この子は風邪ぎみだから飼い主さんに病院に連れていくように勧めた、などと動物達の話をするリアラは優しい顔をしていて、ディーヴァはリアラのそんなところが好きだった。
袋の口を閉めながら、リアラが言う。


「そういえば、もう少しであの二人に会って一年になるね」

「あ、そういえばそうだね」


二人は壁にかけられたカレンダーを見やる。今日の日付から三日後の日付には、赤い丸で印がつけられており、その日は二人が髭と若に出会った日だった。
リアラは感慨深げに息をつく。


「あの時はこうなるなんて思ってなかったなあ…」

「誰もこうなるなんて考えられないでしょ。ましてや、あの二人と恋人になるなんて思わなかったよ」

「確かに」


くすくすと笑みを溢し、リアラは髭に想いを告げられた日を思い出す。
5ヶ月で恋仲になったディーヴァと若とは違い、リアラと髭は恋仲になるまで半年かかった。髭は若のように積極的に来るわけでもなく、リアラはディーヴァのように上手く感情を表に出せるわけでもなく、二人は付かず離れずの距離で日々を過ごしていた。それでも、日々見える互いの優しさに惹かれていき、少しずつ距離を縮めていった。やがて一緒にいることが心地好くなり、隣りにいることが当たり前のようになった頃、リアラは髭に告白された。その時に何度も頷いたのを今でも覚えている。自分がいいと言ってくれた彼の言葉が、すごく嬉しかったから。
ちらっと隣りのディーヴァを見やると、彼女も同じことを思っているのか、口元に笑みが浮かんでいる。


「何かお祝いしなくちゃね」

「そうだね。ケーキでも焼こうか」


三日後の記念日に向けて、二人は楽しそうに計画を練り始めた。