Tea party beyond the world
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* * *
「いたっ」
紫乃が『ゲート』を通り抜けて自分の世界に戻ってきた直後、硬い何かに顔をぶつけた。
それはすぐ目の前にそびえたつ壁のようなもので──
「目の前からdarlingが現れるなんて、今日の寝起きは最高だな」
紫乃はぶつけた鼻を手でさすりながら見上げると、シャツとジーパン姿というラフな格好のダンテが立っていた。
どうやら彼の厚い胸板にぶつかってしまったらしい。
「あ、ご、ごめん」
ぶつかった非を詫びて離れようとしたが、すぐにダンテの腕に捕らえられて優しく抱き締められる。
「おかえりって言った方がいいのかね」
「た、ただいま」
『ゲート』を通じて戻ってきたのでダンテがそう言えば、紫乃は彼に応じて言葉を返した。
そうやっていつものようにおどけるダンテだったが、彼の表情が普段より若干強張っているように思え、紫乃は不安になった。
「……ダンテ?」
「紫乃、何かあったのか」
語尾が疑問系でないことに、おそらくダンテは異変が起こったことに確信を持っている。
隠す必要もないので、紫乃は先程の出来事の一部始終を話した。
「Hum……パラレルワールド、ねぇ……」
紫乃が拾った羽根からは、魔力だけでなく清浄な力を感じる。
それを敏感に感じ取ったので、紫乃が戻ってきた時に強張ったような表情になったのだ。
「あちら側の事務所にディーヴァちゃんっていう高校生の女の子がいたんだけど、その子、天使の血族なのよ。でも、彼女の羽根じゃないの。天使の羽根に似てるけど魔力もあるなんて……」
「紫乃、気付いてないのか?」
「何を?」
「その羽根から発してる魔力は紫乃の魔力だぞ」
「……え?」
ダンテにそう指摘されて、紫乃は自分の耳を疑った。
羽根からは天使のものと思われる力と、悪魔が持つ魔力が混在している。
天使の力についてはあちら側のディーヴァのものと考えて良いが、魔力が紫乃のものとはどういうことだろう。
「自分の魔力だしな。自分で気付かないのは仕方ない」
例えば、一つの匂いを嗅ぎ続けていると鼻が慣れてしまい、やがてその匂いに対する反応が薄れてしまう。
それと同じ現象なのだとダンテが説明してくれた。
天使と悪魔の力が混在する羽根が引き金となり、パラレルワールドに渡ってしまった事実に、紫乃は不思議だねと呟いた。
「その羽根はきっと時空の歪みで生まれたものなんじゃないか?」
時空が歪み、紫乃の魔力とディーヴァという少女の力が偶発的に融合し、魔力と天使の力を有する羽根が形成されたのではないか、というのがダンテの推測だった。
これまでに悪魔や魔界を見てきて、様々な事態を体験したダンテの言葉に、紫乃はそうかもしれないと頷いた。
「そういえば、あちら側のダンテ見てきたよ」
「ほう。どんな感じだった?」
「昼間だったからやっぱり寝てて、寝顔が可愛かったわ」
「ね、寝顔……?」
「あと、随分若くてかっこよかった。二十歳手前で、今よりも少し細身で」
二十歳になっておらず、今よりも細身ということは、便利屋を開業する前後あたりだろうか。
あの頃は随分やんちゃな盛りだったと自分でもしみじみと思い返すことがある。
それよりも、今紫乃はかっこよかったと言ったか。
確かに自分でもイケてる方だと自負していた。
世界は違っても同じ人物なのだから、もしかしたら紫乃があちら側の自分に惹かれていたらどうしようと思うと、たちまち不安な気持ちになった。
いや、紫乃に限ってそんなことはありえない。
ありえないが、万が一ということがある。
「……向こうの俺に惚れたりはしてないよな?」
「うん。私の好きなダンテは、今ここにいるダンテだもん」
「嬉しいこと言ってくれるねぇ」
ダンテはぎゅっと紫乃を抱き締める。
「あ、そうだ、スーパーに行かないと!」
ダンテに事のあらましを語っていてすっかり忘れていたが、タイムセールのために戻ってきたのだ。
早く行かないと買いそびれてしまう。
「ああ、そうだったな。早く行こうぜ」
ダンテは、起きている時に紫乃が買い物へ向かう場合、荷物持ちとして同行することにしている。
今日はあらかじめ買い物に行くと紫乃から聞いていたので、ダンテは少し早く起きて準備していたのだ。
「トマトジュース買ってもいいか? そろそろなくなりそうだ」
「うん、いいよー」
そんな他愛ない会話をしながら、ダンテと紫乃はスーパーへ向かった。