雑誌と恋人
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しどろもどろしながらダンテが頭の中で慎重に言葉を選んでいると、マハが二人のところへやって来た。
「主、もう良いのではないか」
「──うん、そうだね」
俯かせていた顔を上げた紫乃が明るい調子で頷くと、腕の拘束をすり抜けてダンテに向き直った。
まるで機械のスイッチを切り替えたかのような様子の紫乃に、ダンテには先程とは違う混乱が生まれた。
一体何が起こったのか。
「謝罪の言葉を出すまではと思ったが、まあ良いだろう」
「……?」
首を傾げるダンテに、紫乃とマハが説明を始めた。
ラブプラネットのコーデリアが付き添って事務所に戻ってきた。
紫乃が出迎えた時、コーデリアに迫っていたダンテを目撃し、その後、紫乃は打ち解けたコーデリアに今回の飲み代を支払った。
ここまでは事実だが、これを利用してダンテに反省を求めることをマハが提案したという。
「じゃあ、別れるってのは……」
「もちろん冗談」
紫乃が苦笑しながら答えると、ダンテが正大な溜息をつくとソファーに腰をおろす。
そのあと、紫乃は「ちょっと待ってて」と言い残すとキッチンへ向かった。
「はあー……何だよ、お前らグルで俺のこと騙したのかよ」
「言っておくが、飲み代を支払ったのは主だ。それをゆめゆめ忘れるな」
つまり、支払いをしなかったダンテより、自分の財布から代金を出した紫乃の方が立場が上であるということ。
わかってる、と苦々しく吐き捨てれば、紫乃がスポーツドリンクのペットボトルと、カットされたグレープフルーツを持って戻ってきた。
「二日酔いになっているでしょう? はい、どうぞ」
受け取ったペットボトルは冷えておらず、常温だった。
何でも、二日酔いで疲れている胃に冷たいものは逆効果らしい。
蓋を開けて飲めば、確かに常温の方が体内に染み渡っていく気がする。
「お主が寝ている間、主がそれらを買いに行ったのだぞ。感謝するんだな」
「紫乃が?」
普段より高圧的な口調と態度が、今は余計に拍車がかかっているのは気のせいだろうか。
「もうマハ、わざわざ言わなくていいのに」
「主は謙虚すぎるのだ。これくらい言っておかねば、こやつは反省の欠片すら見せぬだろうからな」
ダンテの隣に腰掛け、やや困ったようにたしなめる紫乃をマハが諌める。
「あとは二人で話し合うことだ」
そう言い残すと、マハは外に出て行った。
恋人同士の話し合いに自分は不要とでも言うかのように。
ダンテは出て行ったマハの背中を見送る紫乃を見つめた。
「なあ、昨日のことなんだが」
「……感情的になってごめんなさい。ダンテはダンテなりの考えがあったのに」
どうやら紫乃は部屋に閉じ篭ったあと、考えを改め直して雑誌に目を通してみたのだという。
「じゃあ、嫌じゃないんだな?」
「ん……まあ、その……私もダンテとするの、嫌じゃないし……」
次第に声が小さくなっていき、最後は蚊の鳴くような声になっていたが、ダンテの耳はその声をしっかりと捉えていた。
恥ずかしそうに顔をそむけている紫乃を見て、ダンテは酔っておぼろげな記憶からコーデリアの言葉を思い出していた。
──その子もあなたと楽しみたいはずだけど、恥ずかしいから感情的になっちゃったのよ、きっと。
それにしても、コーデリアを紫乃と思い込んでキスをしようとしていたというが、未遂に終わって良かったと心から安堵した。
紫乃以外とキスするなんて考えられない。
ダンテは大きく息を吸い込み、はあ、と吐き出した。
「……ま、ひとまずは一件落着ってとこか」
「騙すようなことしてごめんなさい」
申し訳なさそうな紫乃を見たダンテに、いつもの悪戯心が疼き出した。
ソファーに身体を横たわらせると、紫乃の膝に自分の頭を乗せる。
「ダンテ?」
「二日酔いなんだ、今は休みたい。ついでにそれ食いたいんだが」
ダンテが指差した先には、テーブルに置かれたグレープフルーツの皿。
ダンテは、この際だから甘えておこうと思った。
紫乃の性格からして、体調の優れない相手を放っておくわけはないと考えたからだ。
案の定、紫乃は二つ返事で了承すると、フルーツピックを刺したグレープフルーツをダンテの口元へ運ぶ。
「ちょっとすっぱいな。でも美味い」
甘党のダンテにとっては、酸味の強いグレープフルーツは食べにくいものだろうが、幸いにもすっぱいからと言って食べることはやめず、そのまま全て食べた。
「……あー、やっぱりすっぱい」
最初のうちは酸味も楽しんでいたが、食べ進むにつれて強くなる酸味に顔をしかめるダンテに、紫乃は苦笑する。
「我慢しなくちゃ二日酔い治らないよ」
「甘いもんが欲しいところだな。紫乃、キスしてくれよ」
糖度は控えめだが甘いものならスポーツドリンクがあるのにと紫乃は思ったが、口にするのをやめた。
「雑誌をちゃんと隠すって約束してくれるなら」
「俺とヤるの嫌じゃないって言ったろ」
確かにダンテと肌を重ねるのは嫌ではない。
むしろ愛されていると感じるので彼との行為は幸せな部類に入るのだが、品のない言い方に少しばかり動揺する。
「あ、あれはあれ! これはこれ!」
「俺のdarlingはつれないねぇ。ま、そうやって恥ずかしがるのが可愛いんだがな」
残念そうに言ったダンテだが、その表情は楽しそうに笑っていた。
何はともあれ、ダンテとの関係もこじれることなく仲直りが出来て良かったと紫乃は一安心すると、上半身をかがめて軽いキスをする。
グレープフルーツを食べていたせいで、酸味のある甘さが口の中に広がった。
「すっぱいだろ」
「うん」
「でも、おかげで甘くなった」
ダンテがにんまりと嬉しそうに笑むと、やはり紫乃は恥ずかしそうに目をそらした。
「あ……そういえば、コーデリアさんに今度お店に来てって言われたわ」
「マジか」
ラブプラネットがどういう店か知っているのに足を運んでみたいという紫乃に、ダンテは驚きを隠せなかった。
一体、紫乃とコーデリアの間に何があったというのか。
「私の分の飲み代奢ってくれるって」
「俺の分も奢って欲しいねぇ」
「それはコーデリアさんにお願いしないと」
「……無理かもしれねぇ」
今まで何度も飲み代のツケを残してきたダンテに、コーデリアが首を縦に振ることはないだろう。
むしろ、店に行ったらまだ未払いのツケを請求されるかもしれない。
「なあ、店に行くのはまた今度にしないか?」
先延ばしにしてしまえば支払わずに済む。
だが、そんなダンテの思惑はお見通しらしく、
「ツケの支払いを先延ばしにするつもりでしょ。駄目よ、支払えるものは早く支払わないと」
私からも店長に謝っておくから、と言って、紫乃はいつ行こうかと自分で予定を立て始めた。
どうあってもラブプラネットに行く気らしい。
仕方ないな、とダンテは紫乃を止めることを諦め、休息することを選んだ。
「ひとまず今日は休業だ……」
二日酔いで仕事をする気になれないのだと言って目を閉じたダンテは、数分で寝息を立て始めた。
これは、二日酔いの影響か、それとも単に昼間だから睡魔が訪れたのか。
紫乃もこんな状態の彼に仕事を強要させるつもりはないので、起こさないようにそっと銀髪を撫でる。
「おやすみ、ダンテ」
そんな恋人を撫でる一方で、電話を通じて相談に乗ってくれた親友に仲直りした旨の報告をしなければいけない。
だが、今はダンテとの静かな時間を楽しむことにした。
紫乃の手つきは子供を寝かしつける母親のように優しく、ダンテは実年齢を意識させない、少年のようにあどけない寝顔を晒すのだった。
2013/07/25
「主、もう良いのではないか」
「──うん、そうだね」
俯かせていた顔を上げた紫乃が明るい調子で頷くと、腕の拘束をすり抜けてダンテに向き直った。
まるで機械のスイッチを切り替えたかのような様子の紫乃に、ダンテには先程とは違う混乱が生まれた。
一体何が起こったのか。
「謝罪の言葉を出すまではと思ったが、まあ良いだろう」
「……?」
首を傾げるダンテに、紫乃とマハが説明を始めた。
ラブプラネットのコーデリアが付き添って事務所に戻ってきた。
紫乃が出迎えた時、コーデリアに迫っていたダンテを目撃し、その後、紫乃は打ち解けたコーデリアに今回の飲み代を支払った。
ここまでは事実だが、これを利用してダンテに反省を求めることをマハが提案したという。
「じゃあ、別れるってのは……」
「もちろん冗談」
紫乃が苦笑しながら答えると、ダンテが正大な溜息をつくとソファーに腰をおろす。
そのあと、紫乃は「ちょっと待ってて」と言い残すとキッチンへ向かった。
「はあー……何だよ、お前らグルで俺のこと騙したのかよ」
「言っておくが、飲み代を支払ったのは主だ。それをゆめゆめ忘れるな」
つまり、支払いをしなかったダンテより、自分の財布から代金を出した紫乃の方が立場が上であるということ。
わかってる、と苦々しく吐き捨てれば、紫乃がスポーツドリンクのペットボトルと、カットされたグレープフルーツを持って戻ってきた。
「二日酔いになっているでしょう? はい、どうぞ」
受け取ったペットボトルは冷えておらず、常温だった。
何でも、二日酔いで疲れている胃に冷たいものは逆効果らしい。
蓋を開けて飲めば、確かに常温の方が体内に染み渡っていく気がする。
「お主が寝ている間、主がそれらを買いに行ったのだぞ。感謝するんだな」
「紫乃が?」
普段より高圧的な口調と態度が、今は余計に拍車がかかっているのは気のせいだろうか。
「もうマハ、わざわざ言わなくていいのに」
「主は謙虚すぎるのだ。これくらい言っておかねば、こやつは反省の欠片すら見せぬだろうからな」
ダンテの隣に腰掛け、やや困ったようにたしなめる紫乃をマハが諌める。
「あとは二人で話し合うことだ」
そう言い残すと、マハは外に出て行った。
恋人同士の話し合いに自分は不要とでも言うかのように。
ダンテは出て行ったマハの背中を見送る紫乃を見つめた。
「なあ、昨日のことなんだが」
「……感情的になってごめんなさい。ダンテはダンテなりの考えがあったのに」
どうやら紫乃は部屋に閉じ篭ったあと、考えを改め直して雑誌に目を通してみたのだという。
「じゃあ、嫌じゃないんだな?」
「ん……まあ、その……私もダンテとするの、嫌じゃないし……」
次第に声が小さくなっていき、最後は蚊の鳴くような声になっていたが、ダンテの耳はその声をしっかりと捉えていた。
恥ずかしそうに顔をそむけている紫乃を見て、ダンテは酔っておぼろげな記憶からコーデリアの言葉を思い出していた。
──その子もあなたと楽しみたいはずだけど、恥ずかしいから感情的になっちゃったのよ、きっと。
それにしても、コーデリアを紫乃と思い込んでキスをしようとしていたというが、未遂に終わって良かったと心から安堵した。
紫乃以外とキスするなんて考えられない。
ダンテは大きく息を吸い込み、はあ、と吐き出した。
「……ま、ひとまずは一件落着ってとこか」
「騙すようなことしてごめんなさい」
申し訳なさそうな紫乃を見たダンテに、いつもの悪戯心が疼き出した。
ソファーに身体を横たわらせると、紫乃の膝に自分の頭を乗せる。
「ダンテ?」
「二日酔いなんだ、今は休みたい。ついでにそれ食いたいんだが」
ダンテが指差した先には、テーブルに置かれたグレープフルーツの皿。
ダンテは、この際だから甘えておこうと思った。
紫乃の性格からして、体調の優れない相手を放っておくわけはないと考えたからだ。
案の定、紫乃は二つ返事で了承すると、フルーツピックを刺したグレープフルーツをダンテの口元へ運ぶ。
「ちょっとすっぱいな。でも美味い」
甘党のダンテにとっては、酸味の強いグレープフルーツは食べにくいものだろうが、幸いにもすっぱいからと言って食べることはやめず、そのまま全て食べた。
「……あー、やっぱりすっぱい」
最初のうちは酸味も楽しんでいたが、食べ進むにつれて強くなる酸味に顔をしかめるダンテに、紫乃は苦笑する。
「我慢しなくちゃ二日酔い治らないよ」
「甘いもんが欲しいところだな。紫乃、キスしてくれよ」
糖度は控えめだが甘いものならスポーツドリンクがあるのにと紫乃は思ったが、口にするのをやめた。
「雑誌をちゃんと隠すって約束してくれるなら」
「俺とヤるの嫌じゃないって言ったろ」
確かにダンテと肌を重ねるのは嫌ではない。
むしろ愛されていると感じるので彼との行為は幸せな部類に入るのだが、品のない言い方に少しばかり動揺する。
「あ、あれはあれ! これはこれ!」
「俺のdarlingはつれないねぇ。ま、そうやって恥ずかしがるのが可愛いんだがな」
残念そうに言ったダンテだが、その表情は楽しそうに笑っていた。
何はともあれ、ダンテとの関係もこじれることなく仲直りが出来て良かったと紫乃は一安心すると、上半身をかがめて軽いキスをする。
グレープフルーツを食べていたせいで、酸味のある甘さが口の中に広がった。
「すっぱいだろ」
「うん」
「でも、おかげで甘くなった」
ダンテがにんまりと嬉しそうに笑むと、やはり紫乃は恥ずかしそうに目をそらした。
「あ……そういえば、コーデリアさんに今度お店に来てって言われたわ」
「マジか」
ラブプラネットがどういう店か知っているのに足を運んでみたいという紫乃に、ダンテは驚きを隠せなかった。
一体、紫乃とコーデリアの間に何があったというのか。
「私の分の飲み代奢ってくれるって」
「俺の分も奢って欲しいねぇ」
「それはコーデリアさんにお願いしないと」
「……無理かもしれねぇ」
今まで何度も飲み代のツケを残してきたダンテに、コーデリアが首を縦に振ることはないだろう。
むしろ、店に行ったらまだ未払いのツケを請求されるかもしれない。
「なあ、店に行くのはまた今度にしないか?」
先延ばしにしてしまえば支払わずに済む。
だが、そんなダンテの思惑はお見通しらしく、
「ツケの支払いを先延ばしにするつもりでしょ。駄目よ、支払えるものは早く支払わないと」
私からも店長に謝っておくから、と言って、紫乃はいつ行こうかと自分で予定を立て始めた。
どうあってもラブプラネットに行く気らしい。
仕方ないな、とダンテは紫乃を止めることを諦め、休息することを選んだ。
「ひとまず今日は休業だ……」
二日酔いで仕事をする気になれないのだと言って目を閉じたダンテは、数分で寝息を立て始めた。
これは、二日酔いの影響か、それとも単に昼間だから睡魔が訪れたのか。
紫乃もこんな状態の彼に仕事を強要させるつもりはないので、起こさないようにそっと銀髪を撫でる。
「おやすみ、ダンテ」
そんな恋人を撫でる一方で、電話を通じて相談に乗ってくれた親友に仲直りした旨の報告をしなければいけない。
だが、今はダンテとの静かな時間を楽しむことにした。
紫乃の手つきは子供を寝かしつける母親のように優しく、ダンテは実年齢を意識させない、少年のようにあどけない寝顔を晒すのだった。
2013/07/25