雑誌と恋人
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「ラブプラネットって店、知ってるかしら?」
「……ええ」
紫乃が頷くと、良かった、話が早いわ、とコーデリアはわずかに安堵する。
「ダンテは確かに店には来たけどお酒を飲んでばかりで、あなたが考えてるようなことはしてないわ。さっきもあたしとダンテがキスしているように見えたでしょうけど、してないから」
「そう……ですか」
居心地悪そうに紫乃が視線をそらす。
(ああどうしよう……あたしが変に弁明しても逆効果になりそうだし……)
やましいことなど何一つしていないのだが、状況的にコーデリアは内心冷や汗を流していた。
早くダンテが起きてくれれば良いのだが。
あ、とコーデリアは小さく声をあげて、ハンドバッグから一枚の紙切れを取り出して紫乃に差し出した。
「これ、今日ダンテが飲んだ分。後日で構わないから支払いお願いしたいんだけど」
それは領収証で、一人で飲むには結構な金額が記されていた。
「ちょっと待っていてください。今お支払いしますから」
金額を確認した紫乃はそう言って、一度店の奥へと引っ込んだ。
どうやら今支払ってくれるようだ。
コーデリアはわずかに安堵すると、ちらりと黒猫を見る。
「猫ちゃんもここに住んでるの?」
にこりと笑みを向けてみると、黒猫がコーデリアを一瞥する。
しかし、その澄ました表情を崩さないまま、すぐにツンと顔をそむけてしまった。
そんな態度の黒猫に腹を立てることもなく、コーデリアは苦笑した。
そんなやり取りをしていると紫乃が一枚の封筒を持って戻ってきた。
コーデリアが受け取って中身を見れば、紙幣と硬貨が入っていた。
「はい、飲み代です」
「ん、きっちりあるわね。ありがとう」
金額を確認すれば、領収証に記されている額面と一致した。
「あたしが言うのも何だけど、ダンテがお酒飲むの止められなくてごめんなさい。早く止められてたら、こんな額にならなかったのに」
「いえ……」
コーデリアは紫乃とダンテを交互に見比べたあと、お節介かもしれないけど、と前置きして紫乃に話しかけた。
「ダンテと喧嘩したみたいね。彼、お酒飲みながら愚痴ってたわ」
紫乃の口元がきゅっと引き締められる。
「彼の言葉は本当なのよ。大好きなあなたと楽しみたいの。でも、あなたは恥ずかしいんでしょ」
コーデリアの口調は責めるものではなく、諭すような優しいものだった。
自分の気持ちを言い当てられたことに驚きつつも、紫乃はこくりと頷く。
「で、これはあたしの憶測なんだけど……あなたもダンテと楽しみたいって思ってない?」
「どうしてそれを……」
「あたしだって女だもの。好きな男の人と楽しいことしたいわ」
あの店で働く自分じゃ説得力に欠けるかもしれないけど、とコーデリアは笑った。
「ちゃんと一度ダンテと話し合った方がいいわよ」
「……そう、ですね」
「うん、素直でいい子ね。こんなに可愛い子が恋人なんて、ダンテが羨ましいわ」
コーデリアがにこりと笑うと、紫乃がきょとんとした表情で彼女を見つめた。
「どうしたの?」
「あ、いえ……意外だなと思って……って、失礼ですよねっ、すみません」
正直な気持ちを口にしたが、それが失礼に当たるものだと気付き、慌てて謝る。
そんな紫乃に、コーデリアは声を出して明るく笑い飛ばした。
「あっはははは!
いいのいいの。そう思っちゃうのも無理ないわ」
コーデリアは店で一番人気であり、同じように働く女性店員達からの信頼も厚い。
美貌が第一の仕事で、職業柄異性関係にふしだらだと思われてしまうが、その性格は面倒見の良い一人の女性である。
男性客はもちろん、女性店員全員の教育と世話も自ら進んでやるので、コーデリアを知る人間は一度は彼女の世話になっている。
「……あたし、あなたのことが羨ましかった」
「え……?」
「あのダンテの心を射止めたあなたに興味があったし……実は心の奥では嫉妬してた」
コーデリアがラブプラネットで働き出した時分には、既にダンテは店の常連となり、彼と知り合ってからしばらくもしないうちにコーデリアは店のナンバーワンへと駆け上っていった。
もちろんダンテとも顔馴染みとなり、よく話をする間柄にはなったが、男女の関係になることはなかった。
それはダンテが便利屋で特定の相手と関係を持つことをしなかったからだ。
だから今回、東洋人の娘と深い関係になったと聞いた時、最初は信じられなかった。
店で一番の美貌を持ち、ダンテと親しくなった自分でさえ、彼の心を射止めることが出来なかったのに何故。
しかし、実際に紫乃と会ってみて、自分とは違うことに気付いた。
この娘は純粋で、素直で、正直だ。
店のどの女性達とも違う。
だからこそダンテは惹かれたのだろう。
「あたしみたいな女じゃ駄目だった。あなただからこそ、ダンテは好きになったんでしょうね」
社会の闇が潜んでいるスラム街で暮らす自分とは違う。
同じスラム街に住みながらも、まっすぐな光を放ち続ける存在。
それが紫乃なのだと、コーデリアは思い至った。
「負けちゃったけど、何だか納得のいく敗北だわ」
ふう、と達観したような表情でコーデリアは小さく息をついたが、すぐにあることを思い出して「そういえば」と声を上げる。
「まだ飲み代のツケが残ってるの。でも、今日の分も貰ったことだし、支払いはまた後日でいいわ」
「す、すみません」
ダンテには昔から借金がらみの問題が付きまとっていると聞いている。
ここ最近はあまり耳にしていないのですっかり忘れていたが、まさかまだ飲み代のツケが残っていたなんて。
紫乃が申し訳なさそうに謝ると、コーデリアは特に気にした様子もなく笑った。
「それにしても、ダンテにはもったいない子ね。あたしが食べちゃいたいくらい」
「えっ」
「うふふ、冗談よ」
満面の笑みで冗談めかすコーデリアだったが、その目がわりと本気に見えてしまい、紫乃は思わず身構えてしまった。
そんな紫乃のことを、コーデリアはますます気に入り、
「紫乃って言ったかしら。良かったら今度、うちの店に来てちょうだい。あなたの飲み代はあたしのおごりにするから」
男性客ばかりで、なおかつ風俗店慣れしていない紫乃には少々刺激が強いだろう。
しかし、紫乃のことを気に入ったコーデリアは、是非とも来店して欲しかった。
紫乃は、風俗嬢の自分を軽んじたり蔑んだりはしていないことに気付いたからだ。
「それじゃ、あたしはそろそろ帰るわ。ダンテと仲良くね」
「はい」
ぱちりとウィンクをすると、コーデリアは『Devil May Cry』を出て行った。
「……ええ」
紫乃が頷くと、良かった、話が早いわ、とコーデリアはわずかに安堵する。
「ダンテは確かに店には来たけどお酒を飲んでばかりで、あなたが考えてるようなことはしてないわ。さっきもあたしとダンテがキスしているように見えたでしょうけど、してないから」
「そう……ですか」
居心地悪そうに紫乃が視線をそらす。
(ああどうしよう……あたしが変に弁明しても逆効果になりそうだし……)
やましいことなど何一つしていないのだが、状況的にコーデリアは内心冷や汗を流していた。
早くダンテが起きてくれれば良いのだが。
あ、とコーデリアは小さく声をあげて、ハンドバッグから一枚の紙切れを取り出して紫乃に差し出した。
「これ、今日ダンテが飲んだ分。後日で構わないから支払いお願いしたいんだけど」
それは領収証で、一人で飲むには結構な金額が記されていた。
「ちょっと待っていてください。今お支払いしますから」
金額を確認した紫乃はそう言って、一度店の奥へと引っ込んだ。
どうやら今支払ってくれるようだ。
コーデリアはわずかに安堵すると、ちらりと黒猫を見る。
「猫ちゃんもここに住んでるの?」
にこりと笑みを向けてみると、黒猫がコーデリアを一瞥する。
しかし、その澄ました表情を崩さないまま、すぐにツンと顔をそむけてしまった。
そんな態度の黒猫に腹を立てることもなく、コーデリアは苦笑した。
そんなやり取りをしていると紫乃が一枚の封筒を持って戻ってきた。
コーデリアが受け取って中身を見れば、紙幣と硬貨が入っていた。
「はい、飲み代です」
「ん、きっちりあるわね。ありがとう」
金額を確認すれば、領収証に記されている額面と一致した。
「あたしが言うのも何だけど、ダンテがお酒飲むの止められなくてごめんなさい。早く止められてたら、こんな額にならなかったのに」
「いえ……」
コーデリアは紫乃とダンテを交互に見比べたあと、お節介かもしれないけど、と前置きして紫乃に話しかけた。
「ダンテと喧嘩したみたいね。彼、お酒飲みながら愚痴ってたわ」
紫乃の口元がきゅっと引き締められる。
「彼の言葉は本当なのよ。大好きなあなたと楽しみたいの。でも、あなたは恥ずかしいんでしょ」
コーデリアの口調は責めるものではなく、諭すような優しいものだった。
自分の気持ちを言い当てられたことに驚きつつも、紫乃はこくりと頷く。
「で、これはあたしの憶測なんだけど……あなたもダンテと楽しみたいって思ってない?」
「どうしてそれを……」
「あたしだって女だもの。好きな男の人と楽しいことしたいわ」
あの店で働く自分じゃ説得力に欠けるかもしれないけど、とコーデリアは笑った。
「ちゃんと一度ダンテと話し合った方がいいわよ」
「……そう、ですね」
「うん、素直でいい子ね。こんなに可愛い子が恋人なんて、ダンテが羨ましいわ」
コーデリアがにこりと笑うと、紫乃がきょとんとした表情で彼女を見つめた。
「どうしたの?」
「あ、いえ……意外だなと思って……って、失礼ですよねっ、すみません」
正直な気持ちを口にしたが、それが失礼に当たるものだと気付き、慌てて謝る。
そんな紫乃に、コーデリアは声を出して明るく笑い飛ばした。
「あっはははは!
いいのいいの。そう思っちゃうのも無理ないわ」
コーデリアは店で一番人気であり、同じように働く女性店員達からの信頼も厚い。
美貌が第一の仕事で、職業柄異性関係にふしだらだと思われてしまうが、その性格は面倒見の良い一人の女性である。
男性客はもちろん、女性店員全員の教育と世話も自ら進んでやるので、コーデリアを知る人間は一度は彼女の世話になっている。
「……あたし、あなたのことが羨ましかった」
「え……?」
「あのダンテの心を射止めたあなたに興味があったし……実は心の奥では嫉妬してた」
コーデリアがラブプラネットで働き出した時分には、既にダンテは店の常連となり、彼と知り合ってからしばらくもしないうちにコーデリアは店のナンバーワンへと駆け上っていった。
もちろんダンテとも顔馴染みとなり、よく話をする間柄にはなったが、男女の関係になることはなかった。
それはダンテが便利屋で特定の相手と関係を持つことをしなかったからだ。
だから今回、東洋人の娘と深い関係になったと聞いた時、最初は信じられなかった。
店で一番の美貌を持ち、ダンテと親しくなった自分でさえ、彼の心を射止めることが出来なかったのに何故。
しかし、実際に紫乃と会ってみて、自分とは違うことに気付いた。
この娘は純粋で、素直で、正直だ。
店のどの女性達とも違う。
だからこそダンテは惹かれたのだろう。
「あたしみたいな女じゃ駄目だった。あなただからこそ、ダンテは好きになったんでしょうね」
社会の闇が潜んでいるスラム街で暮らす自分とは違う。
同じスラム街に住みながらも、まっすぐな光を放ち続ける存在。
それが紫乃なのだと、コーデリアは思い至った。
「負けちゃったけど、何だか納得のいく敗北だわ」
ふう、と達観したような表情でコーデリアは小さく息をついたが、すぐにあることを思い出して「そういえば」と声を上げる。
「まだ飲み代のツケが残ってるの。でも、今日の分も貰ったことだし、支払いはまた後日でいいわ」
「す、すみません」
ダンテには昔から借金がらみの問題が付きまとっていると聞いている。
ここ最近はあまり耳にしていないのですっかり忘れていたが、まさかまだ飲み代のツケが残っていたなんて。
紫乃が申し訳なさそうに謝ると、コーデリアは特に気にした様子もなく笑った。
「それにしても、ダンテにはもったいない子ね。あたしが食べちゃいたいくらい」
「えっ」
「うふふ、冗談よ」
満面の笑みで冗談めかすコーデリアだったが、その目がわりと本気に見えてしまい、紫乃は思わず身構えてしまった。
そんな紫乃のことを、コーデリアはますます気に入り、
「紫乃って言ったかしら。良かったら今度、うちの店に来てちょうだい。あなたの飲み代はあたしのおごりにするから」
男性客ばかりで、なおかつ風俗店慣れしていない紫乃には少々刺激が強いだろう。
しかし、紫乃のことを気に入ったコーデリアは、是非とも来店して欲しかった。
紫乃は、風俗嬢の自分を軽んじたり蔑んだりはしていないことに気付いたからだ。
「それじゃ、あたしはそろそろ帰るわ。ダンテと仲良くね」
「はい」
ぱちりとウィンクをすると、コーデリアは『Devil May Cry』を出て行った。