雑誌と恋人
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事務所を掃除していると時折見つけてしまうものがある。
それは大抵机の引き出しの中といった目に見えない場所に収められているのだが、今しがた視界に入ってきたそれに思わず一瞬固まってしまった。
掃除をするためダンテの部屋に入ってみると、脱いで畳まずに椅子の背中にかけられていたり、銃の部品が机の上に置かれていたりと、いつもの光景が広がっていた。
ただ一つ違うのは、机の上に二冊の雑誌が放置されている点だった。
どちらの雑誌も表紙には肌を露出した女性が印刷されている。
異性を魅了するような表情とその格好だけで、どのような内容の雑誌かが窺い知れる。
確認のためにパラパラとページを捲ってみれば、案の定何人もの女性がカメラ目線で扇情的なポーズを取っている写真があった。
成人向けのアダルト雑誌。
つまりはエロ本である。
ガチャ、と部屋のドアが開いた音がした。
振り向いてみれば、ダンテが「あ」と口を開いた状態で紫乃と雑誌を交互に見て、バツの悪そうな顔をした。
「…………」
紫乃は無言でダンテを見つめる。
「……あー……」
一方、ダンテは居心地の悪さを感じていた。
無言になった紫乃の視線が冷たい。
というか痛い。
紫乃は、ダンテがアダルト雑誌を見ていたことは知っていた。
男性である以上、性的欲求は女性よりも強いことは理解しており、彼が雑誌の購入を続けていることについても黙認していた。
だが、このような雑誌を見慣れていない紫乃にとっては、見るだけで恥ずかしくなる。
だから保管場所はせめて目に付かない場所に、と頼んでおいていたはずなのに。
一度ならまだしも、ここ最近、アダルト雑誌が放置されていることが多かった。
見つけるたびにダンテに注意をしていたのに、こう何度も同じことをされると心臓に悪い。
「私、何回も言ったよね。こういう雑誌は隠して、って」
「あ、ああ……何回も聞いた」
紫乃の声が普段よりも低いことに、ダンテは冷や汗を流した。
他人から見ても紫乃と仲睦まじい関係であることはダンテの自慢の一つだ。
それでも時折喧嘩をすることがある。
紫乃が怒るととても怖いことを、ダンテは既に学んでいた。
トリッシュのように眉間に皺を寄せて怒りのオーラ全開で感情をむき出しにするタイプではない。
表情は怒りに歪まないものの、冷徹と表現するのが当てはまると思うほど、紫乃は静かに怒るタイプだった。
表情はもとより、視線、声、オーラといった彼女を形成する全てが普段より冷たく感じる。
「確か今月でもう四回目だよ」
「や、悪い、忘れてた」
忘れていたのは本当である。
先程まで一階のリビングでくつろいでいたのだが、何かを忘れていることに気付いたのは、紫乃が掃除を始めた頃。
それが何だったのかを思い出すのにしばらく時間がかかった。
紫乃が掃除をする際、彼女の目にとまってはいけないものがあったような──
それがアダルト雑誌であることを思い出してからのダンテの行動は素早かった。
まず同じ一階にある事務机の上のチェックに向かうが、雑誌はしっかり引き出しの中に入れてあったので問題なし。
他に雑誌があるのは自分の部屋だ。
急ぎ足で二階に上がってドアを開ける。
が、時既に遅し。
隠し忘れていた雑誌は、紫乃に見つかってしまっていた。
「わっ……私がこういうの苦手ってわかってるでしょっ」
今まで静かな怒りを見せていた紫乃が、今度は困惑して赤面しつつ雑誌を握り締めてダンテに詰め寄る。
これは羞恥による反動から来るものなのだろうか。
怒った顔も可愛いな、と思ったのだが、それを口にするとさらなる怒りを買ってしまうので、ダンテは心の中で呟くだけにした。
「まあ、その、何だ……紫乃と一緒にそれを楽しめたらいいなって思ってる」
「は……!?」
ダンテが鼻の頭を指で掻きながらこぼした言葉に、紫乃は一瞬自分の耳を疑った。
彼は一体何を言っているのだろうか。
「確かにグラビア写真が多いが、通販のページもあるんだぜ」
そう言うと、ダンテは紫乃から片方の雑誌を取ってパラパラとページを捲る。
やがて開かれたページには、アダルトグッズやコスチューム、下着などが掲載されていた。
その一覧を見た途端、紫乃は動揺して視線が泳いでしまう。
「や……見せないでよ……っ!」
つい先程まで優勢だった紫乃が、今はアダルトグッズの写真を見ただけで羞恥し、ダンテから顔を背けてしまった。
『恥ずかしいこと』に慣れていない彼女から、冷徹な部分はすっかり陰を潜めている。
これなら、上手くすれば丸め込めるのではないか。
ダンテはそう踏んで、わずかに口角を上げた。
「恥ずかしがることないだろ。俺達恋人なんだぜ。紫乃と楽しいことシたいんだ」
「…………」
「ほら、顔を上げて可愛い顔を見せてくれよ、darling。何か欲しいものがあったら遠慮なく──」
「ばかぁ!」
紫乃は手に持っていたもう一冊の雑誌を握り締めてダンテをバシッと叩いて部屋を飛び出した。
彼女は自分の部屋へと向かったようで、ドアが閉まる音が聞こえた。
ダンテもすぐにそちらに向かい、ドアを開けて部屋に入ろうとしたが、
ドンッ!!
思いきり顔面激突した。
「いってぇ……」
ドアを開けたら壁があった。
というより、普通の壁ではない。
これに似たものを以前目にしたことがある。
「……亜空間の、壁?」
マンモンを倒す際に紫乃が作り出した亜空間の壁にそっくりだった。
それにしても、ドアを開けるとすぐに亜空間の壁があるなんて。
どうやら部屋全体を亜空間で包んだらしい。
いやいや、今は冷静に状況を分析している場合ではない。
「紫乃」
室内にいる紫乃に呼びかけるが、返事はない。
亜空間の壁があるせいで室内が見えず、彼女がどのような状態なのかもわからない。
「なあ、紫乃」
いくら呼びかけても、やはり返事はなかった。
確かに紫乃はアダルトな話題には敏感かつ繊細で、よく恥ずかしがってばかりだ。
それでも恋人として紫乃を楽しませたいし、自分も一緒に楽しみたい。
雑誌を放置していた言い訳にも聞こえてしまうかもしれないが、紫乃と楽しい時間を過ごしたいという気持ちは本当だった。
だから提案してみたのに、紫乃は聞く耳を持たず部屋に閉じこもってしまう始末。
残念に思う反面、返事をせず話すら聞いてもらえないことに、もどかしさが募っていく。
「……わかったよ、勝手にしろ」
ダンテは顔をしかめるとドアを閉め、一階へと降りていった。
それは大抵机の引き出しの中といった目に見えない場所に収められているのだが、今しがた視界に入ってきたそれに思わず一瞬固まってしまった。
掃除をするためダンテの部屋に入ってみると、脱いで畳まずに椅子の背中にかけられていたり、銃の部品が机の上に置かれていたりと、いつもの光景が広がっていた。
ただ一つ違うのは、机の上に二冊の雑誌が放置されている点だった。
どちらの雑誌も表紙には肌を露出した女性が印刷されている。
異性を魅了するような表情とその格好だけで、どのような内容の雑誌かが窺い知れる。
確認のためにパラパラとページを捲ってみれば、案の定何人もの女性がカメラ目線で扇情的なポーズを取っている写真があった。
成人向けのアダルト雑誌。
つまりはエロ本である。
ガチャ、と部屋のドアが開いた音がした。
振り向いてみれば、ダンテが「あ」と口を開いた状態で紫乃と雑誌を交互に見て、バツの悪そうな顔をした。
「…………」
紫乃は無言でダンテを見つめる。
「……あー……」
一方、ダンテは居心地の悪さを感じていた。
無言になった紫乃の視線が冷たい。
というか痛い。
紫乃は、ダンテがアダルト雑誌を見ていたことは知っていた。
男性である以上、性的欲求は女性よりも強いことは理解しており、彼が雑誌の購入を続けていることについても黙認していた。
だが、このような雑誌を見慣れていない紫乃にとっては、見るだけで恥ずかしくなる。
だから保管場所はせめて目に付かない場所に、と頼んでおいていたはずなのに。
一度ならまだしも、ここ最近、アダルト雑誌が放置されていることが多かった。
見つけるたびにダンテに注意をしていたのに、こう何度も同じことをされると心臓に悪い。
「私、何回も言ったよね。こういう雑誌は隠して、って」
「あ、ああ……何回も聞いた」
紫乃の声が普段よりも低いことに、ダンテは冷や汗を流した。
他人から見ても紫乃と仲睦まじい関係であることはダンテの自慢の一つだ。
それでも時折喧嘩をすることがある。
紫乃が怒るととても怖いことを、ダンテは既に学んでいた。
トリッシュのように眉間に皺を寄せて怒りのオーラ全開で感情をむき出しにするタイプではない。
表情は怒りに歪まないものの、冷徹と表現するのが当てはまると思うほど、紫乃は静かに怒るタイプだった。
表情はもとより、視線、声、オーラといった彼女を形成する全てが普段より冷たく感じる。
「確か今月でもう四回目だよ」
「や、悪い、忘れてた」
忘れていたのは本当である。
先程まで一階のリビングでくつろいでいたのだが、何かを忘れていることに気付いたのは、紫乃が掃除を始めた頃。
それが何だったのかを思い出すのにしばらく時間がかかった。
紫乃が掃除をする際、彼女の目にとまってはいけないものがあったような──
それがアダルト雑誌であることを思い出してからのダンテの行動は素早かった。
まず同じ一階にある事務机の上のチェックに向かうが、雑誌はしっかり引き出しの中に入れてあったので問題なし。
他に雑誌があるのは自分の部屋だ。
急ぎ足で二階に上がってドアを開ける。
が、時既に遅し。
隠し忘れていた雑誌は、紫乃に見つかってしまっていた。
「わっ……私がこういうの苦手ってわかってるでしょっ」
今まで静かな怒りを見せていた紫乃が、今度は困惑して赤面しつつ雑誌を握り締めてダンテに詰め寄る。
これは羞恥による反動から来るものなのだろうか。
怒った顔も可愛いな、と思ったのだが、それを口にするとさらなる怒りを買ってしまうので、ダンテは心の中で呟くだけにした。
「まあ、その、何だ……紫乃と一緒にそれを楽しめたらいいなって思ってる」
「は……!?」
ダンテが鼻の頭を指で掻きながらこぼした言葉に、紫乃は一瞬自分の耳を疑った。
彼は一体何を言っているのだろうか。
「確かにグラビア写真が多いが、通販のページもあるんだぜ」
そう言うと、ダンテは紫乃から片方の雑誌を取ってパラパラとページを捲る。
やがて開かれたページには、アダルトグッズやコスチューム、下着などが掲載されていた。
その一覧を見た途端、紫乃は動揺して視線が泳いでしまう。
「や……見せないでよ……っ!」
つい先程まで優勢だった紫乃が、今はアダルトグッズの写真を見ただけで羞恥し、ダンテから顔を背けてしまった。
『恥ずかしいこと』に慣れていない彼女から、冷徹な部分はすっかり陰を潜めている。
これなら、上手くすれば丸め込めるのではないか。
ダンテはそう踏んで、わずかに口角を上げた。
「恥ずかしがることないだろ。俺達恋人なんだぜ。紫乃と楽しいことシたいんだ」
「…………」
「ほら、顔を上げて可愛い顔を見せてくれよ、darling。何か欲しいものがあったら遠慮なく──」
「ばかぁ!」
紫乃は手に持っていたもう一冊の雑誌を握り締めてダンテをバシッと叩いて部屋を飛び出した。
彼女は自分の部屋へと向かったようで、ドアが閉まる音が聞こえた。
ダンテもすぐにそちらに向かい、ドアを開けて部屋に入ろうとしたが、
ドンッ!!
思いきり顔面激突した。
「いってぇ……」
ドアを開けたら壁があった。
というより、普通の壁ではない。
これに似たものを以前目にしたことがある。
「……亜空間の、壁?」
マンモンを倒す際に紫乃が作り出した亜空間の壁にそっくりだった。
それにしても、ドアを開けるとすぐに亜空間の壁があるなんて。
どうやら部屋全体を亜空間で包んだらしい。
いやいや、今は冷静に状況を分析している場合ではない。
「紫乃」
室内にいる紫乃に呼びかけるが、返事はない。
亜空間の壁があるせいで室内が見えず、彼女がどのような状態なのかもわからない。
「なあ、紫乃」
いくら呼びかけても、やはり返事はなかった。
確かに紫乃はアダルトな話題には敏感かつ繊細で、よく恥ずかしがってばかりだ。
それでも恋人として紫乃を楽しませたいし、自分も一緒に楽しみたい。
雑誌を放置していた言い訳にも聞こえてしまうかもしれないが、紫乃と楽しい時間を過ごしたいという気持ちは本当だった。
だから提案してみたのに、紫乃は聞く耳を持たず部屋に閉じこもってしまう始末。
残念に思う反面、返事をせず話すら聞いてもらえないことに、もどかしさが募っていく。
「……わかったよ、勝手にしろ」
ダンテは顔をしかめるとドアを閉め、一階へと降りていった。