「大丈夫か？」

「ネロ…」


頭上から降ってきた声に、リアラはのろのろと顔を上げる。
話しかけてきたのはネロだった。暑さのためか、普段着ている青いコートを脱ぎ、フード付きの赤いシャツ姿になっている。
ネロはリアラにコップを差し出す。彼の動きに合わせてコップの中の氷がカラン、と涼やかな音を立てる。


「ほら、これでも飲め」

「ありがとう…」


ソファに座り直し、ネロからコップを受け取ると、リアラはコップに口をつける。冷たいアイスティーが喉を流れていって、生き返ったような気分になる。


「おいしい…」

「ならよかった」


リアラの言葉にネロは微笑むと、自分もコップに口をつける。
一口飲んで息をつくと、ネロはぽつりと呟いた。


「しっかし、こう毎日暑いんじゃ動く気もなくなるな…」

「そうだね…」

「コートなんか暑くて着てられねぇし。リアラもいつもの服着てないもんな」


ぱたぱたと手を団扇のように振り、ネロはリアラを見る。
リアラはいつもの仕事着ではなく、白いショートパンツに碧いキャミソールを着ている。髪を青いバレッタで留めており、普段見えない肌があらわになっている。
正直、少し目のやり場に困る。


「まあ、さすがにね」


リアラは苦笑する。


「ていうか、何でおっさん達はあのコートを脱がないんだ？暑くねえのかよ」

「私もダンテさんに聞いたことがあるんだけど、『暑くない』って言われちゃって…。こだわり、なのかな？」

「こんな暑い中でこだわりも何もあるかよ」

「まあ、確かに」


ネロの言葉に、リアラはくすくすと笑う。
実際、彼等は暑さにぐったりしていて、若なんて「あちーあちー」と繰り返しているし、ダンテの中で一番着込んでいるであろう初代はテーブルに突っ伏していることが多い。二代目と髭は見た目では暑がっているそぶりはないが、リアラから見れば多少動きがだるそうに見えて、やっぱり暑いんだなと思う。
そんなことを思い返していると、ふいに人の気配がして、リアラは顔を上げた。