mission 22:old enemy ~VS魔帝~ 前編
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足先に、体に、何かが絡みついた。
どこからともなく……いや違う。ダンテの背後から生えたかのように現れた蔦が体に絡みついている!
あの夢の光景そのままだ。
痛い……!気持ち悪い……!
シュルシュルと絡みつく蔦には荊の棘が無数に生えており、体に食い込み攻撃してくる。
傷口から流れ始めた血が蔦に染み込み、奪われていくのを感じる。
こんなところまで夢と同じなんて。
首を絞めるその手が緩んだ。
急くように酸素を求める喉。
呼吸をしたと同時、今度は首筋へと牙を立てられた。
「かひゅっ……!!っぁ、痛い!!
ああああっ!」
また呼吸が出来なくなった。
肉を裂き、抉り取られるような鋭い痛みに何も考えられなくなった。
体にも、首にも……あちこちに走るそれに、意識を保っているのがやっとだ。
「安心していい。食うと言っても、死なせはしねぇよ」
口を血で赤く染め上げたダンテが、とろりと甘い声で囁く。
少し前まではダンテと歩いていて、幸せな時を過ごしてた。
そのはずなのに。
なんであたしは大切な人を失い、化け物に変えられて。そして、今その大切な人に殺されかかっているの?
この世界は一瞬で絶望に染まってしまった。
むしろ、幸福の裏側で絶望は常に近くにあったのかもしれない。
食べるなら食べて。でも苦しいのは嫌。
もういっそのこと一思いに殺してよ。食べるならそれからでお願いします。
その時間は永遠にも感じられた。
「うぐっ……!」
だが、死を覚悟し弛緩した体へと衝撃が走る。
壁へと強かに叩きつけられたようで、訪れた痛みに背骨がひどく軋んだ。
「何を簡単に死を望もうとしてんだよ。死を選ぶな。
生きたいと足掻いてオレに食われろ」
なんて横暴な。
苦痛や絶望を与えるだけ与えておいて、死すら望んではいけないだなんて。
「んぐ、あぅっ……」
「ほらほら逃げろディーヴァ」
胸ぐらを掴まれ無理矢理立たされた。
そのまま手を放されたが、足も腰も抜け、絡みつく荊で体力も奪われたあたしでは、ただべしゃりと崩れ落ちるだけ。
這いつくばるあたしの目線に合わせてしゃがんだダンテが、動かないあたしの足をぺちぺちと叩いた。
「そうやって震えててもなーんもならないっての。
お前の部屋は鍵をかけられるだろ?遊びに来たオレがイイことしようとするたびに閉め出したよなァ?
お前の兄貴が護身用にって置いた木刀もあるだろ。反撃してみればいい。
オレは大切な家族を殺した悪魔だぜ。仕返ししたくないか?」
仕返し?したいに決まってる。
ここが偽りの世界だろうとどこだろうと、家族は家族。大切な人たちに変わりはない。
目の前の悪魔を憎く思った。
「それに本当のお前には力があるだろ。天使の力ってやつがさあ。それで攻撃してみろよ。
オレは優し〜い悪魔だから、一分だけ待っておいてやる」
首根っこを掴まれ、廊下へと投げ出された。
その背後では「いち、に、さん……」と、数を数えるダンテの声が聞こえていた。
一分!なんて短い……!とか思ってる場合じゃない。
姿形はダンテでも、相手は悪魔。沸いた憎しみを糧に、自分の部屋へ駆け込む。
離れたことで荊の棘も取り払われ、体が軽く感じる。……血の絶対量が足りなくて軽いとも言う。
「はぁっ……」
駆け込んだ部屋の鍵をかけ、ベッドの下に隠してある、内装的に似合わない木刀を手にする。
ずっと置いてあったけど、今まで手にしたことはなかった。意外に重い。
こんなものをあたしが振り下ろす?無理よ。
それにダンテの言っていた天使の力なんてものも、あたしにはない。あるとしても、あたしには使いこなせそうもない。
ずるずると床に座り込み、木刀を抱える。落ち着いている余裕はない。
少しでもホッとしてしまったら力が抜ける。気も抜ける。緊張感が抜ければ全身に受けた傷の痛みが再発する。アドレナリンって大事。
でも一分なんてあっという間。鍵をかけていても、扉ごと破壊されて入ってこられるだろう。
その瞬間を想像して恐怖したあたしは、その身にシーツを纏った。これくらいではどうにもならないのは分かっているが、お守りがわりにはなるのではとシーツの中で木刀を抱きしめる。
シーツ……ああこれは『ダンテ』との出会いの時の。
でも、ここにあの『ダンテ』はいない。いるのは、屍の悪魔と化したあのダンテだけ。
ピシャァァァン!!
「…………ッ!」
ああこの音と光は大嫌いな雷。
その光と音の大きさからいって、雷はすぐ近くに落ちたようだ。
シーツの中から顔を出して、窓の外を見上げる。
おかしい。
今日……ううん、予報ではしばらく快晴が続くはずだった。なのにこの雷雨。
それにまだ時間は黄昏時なのに、雷雨を抜きにしても真っ暗な外界。
夜の闇でもない。真っ白な半紙にこぼした真っ黒な墨汁のように、先の見えない暗闇。赤と黒以外色もないから余計暗い。
ピシャーーン!!
暗闇に目をこらしてその先を確かめようとすればまた雷の音。
雷の光で照らされてもなお、それはどこまでも続く気味の悪い闇でしかなかった。
「……怖いよぉ……」
シーツの中でガタガタと震える。こんな時はいつも、家族や兄、すぐ近くに住む幼馴染のダンテがそばについていてくれた。けれどどんなに望んだところで、今は叶わない。叶えられない。
……孤独も暗闇も、雷も大嫌いだ。
ここにあるのは、あたしが嫌いなもののオンパレード。なんて最悪な悪夢。
そんな中、続く雷の光で扉の様子が一瞬見えた。
雷の音が怖くて耳をふさいでいたけれど、ダンテが外側から殴りつけているのがわかる。扉にわずかながら亀裂が入っていく。少しずつひしゃげていく。
すでに一分が経っていた。
「ディーヴァ〜?なあ、ディーヴァ〜開けてくれよ〜。開けてくれないし無理矢理入るぜ」
「ひぃっ……!入ってこないで。いやだ……怖い。誰か助けて……誰か、誰か……」
あたしが天使の血族だというあの夢……ううん、現実でもこんなことがあった。浅ましくも生きたいと望み、あたしはダンテに助けを求めていた。
けれどあたしを助けてくれたダンテは、この世界だとこちらに危害を加える側。
ここが偽りの夢の中でもよかった。偽りの空間だなんて気がつかなければ良かった。
この悪夢からは覚めたい、でも幸せな夢からは起きたくなかった。
ただ、ダンテとしあわせな学生生活を送っていたかった。
「ほーら、もうすぐ開いちまうぞ。
お得意の天使の結界はどうした?オレが扉を壊す前に張らないと、まぁた痛い思いする事になるぜ」
悪魔と化したダンテの声。扉を壊そうと拳を叩きつける音一回ごとに恐怖が増していく中、同じ声が耳に届いた。
『起きろ、目を覚ませよディーヴァ……!』
ああ、このダンテは扉を叩いているダンテじゃない。あの夢の中での、現実のダンテだ。
あたしに、この世界の正体を気づかせた張本人。
『そこは夢だ。ディーヴァ、現実から……オレから逃げんな!!もう朝だぜ!!』
うん、ここが夢の中なのはもうわかってるよ。
思い出したくなかったけれど、その全てをはっきりと思い出した。
あの夢の中で見た天使のあたしこそが、現実のあたし。ダンテが言う天使の力なんて、使えっこないけれど。
あの『夢』が『現実』で。この世界は全て『夢』で。でもこの世界での『悪夢』は『本当』で。
なら現実のあたしは、死んだ?
結局のところ、ダンテは助けに来なかったの?あたしの死までに、間に合わなかったの?
もう、いやだ。考えたくない、眠らせて。
すべてを忘れさせて。起きたくない。太陽が昇る朝は来なくていい。
……逃げたい。
「ごめんね」
絶望するのはもう嫌なの。
どこからともなく……いや違う。ダンテの背後から生えたかのように現れた蔦が体に絡みついている!
あの夢の光景そのままだ。
痛い……!気持ち悪い……!
シュルシュルと絡みつく蔦には荊の棘が無数に生えており、体に食い込み攻撃してくる。
傷口から流れ始めた血が蔦に染み込み、奪われていくのを感じる。
こんなところまで夢と同じなんて。
首を絞めるその手が緩んだ。
急くように酸素を求める喉。
呼吸をしたと同時、今度は首筋へと牙を立てられた。
「かひゅっ……!!っぁ、痛い!!
ああああっ!」
また呼吸が出来なくなった。
肉を裂き、抉り取られるような鋭い痛みに何も考えられなくなった。
体にも、首にも……あちこちに走るそれに、意識を保っているのがやっとだ。
「安心していい。食うと言っても、死なせはしねぇよ」
口を血で赤く染め上げたダンテが、とろりと甘い声で囁く。
少し前まではダンテと歩いていて、幸せな時を過ごしてた。
そのはずなのに。
なんであたしは大切な人を失い、化け物に変えられて。そして、今その大切な人に殺されかかっているの?
この世界は一瞬で絶望に染まってしまった。
むしろ、幸福の裏側で絶望は常に近くにあったのかもしれない。
食べるなら食べて。でも苦しいのは嫌。
もういっそのこと一思いに殺してよ。食べるならそれからでお願いします。
その時間は永遠にも感じられた。
「うぐっ……!」
だが、死を覚悟し弛緩した体へと衝撃が走る。
壁へと強かに叩きつけられたようで、訪れた痛みに背骨がひどく軋んだ。
「何を簡単に死を望もうとしてんだよ。死を選ぶな。
生きたいと足掻いてオレに食われろ」
なんて横暴な。
苦痛や絶望を与えるだけ与えておいて、死すら望んではいけないだなんて。
「んぐ、あぅっ……」
「ほらほら逃げろディーヴァ」
胸ぐらを掴まれ無理矢理立たされた。
そのまま手を放されたが、足も腰も抜け、絡みつく荊で体力も奪われたあたしでは、ただべしゃりと崩れ落ちるだけ。
這いつくばるあたしの目線に合わせてしゃがんだダンテが、動かないあたしの足をぺちぺちと叩いた。
「そうやって震えててもなーんもならないっての。
お前の部屋は鍵をかけられるだろ?遊びに来たオレがイイことしようとするたびに閉め出したよなァ?
お前の兄貴が護身用にって置いた木刀もあるだろ。反撃してみればいい。
オレは大切な家族を殺した悪魔だぜ。仕返ししたくないか?」
仕返し?したいに決まってる。
ここが偽りの世界だろうとどこだろうと、家族は家族。大切な人たちに変わりはない。
目の前の悪魔を憎く思った。
「それに本当のお前には力があるだろ。天使の力ってやつがさあ。それで攻撃してみろよ。
オレは優し〜い悪魔だから、一分だけ待っておいてやる」
首根っこを掴まれ、廊下へと投げ出された。
その背後では「いち、に、さん……」と、数を数えるダンテの声が聞こえていた。
一分!なんて短い……!とか思ってる場合じゃない。
姿形はダンテでも、相手は悪魔。沸いた憎しみを糧に、自分の部屋へ駆け込む。
離れたことで荊の棘も取り払われ、体が軽く感じる。……血の絶対量が足りなくて軽いとも言う。
「はぁっ……」
駆け込んだ部屋の鍵をかけ、ベッドの下に隠してある、内装的に似合わない木刀を手にする。
ずっと置いてあったけど、今まで手にしたことはなかった。意外に重い。
こんなものをあたしが振り下ろす?無理よ。
それにダンテの言っていた天使の力なんてものも、あたしにはない。あるとしても、あたしには使いこなせそうもない。
ずるずると床に座り込み、木刀を抱える。落ち着いている余裕はない。
少しでもホッとしてしまったら力が抜ける。気も抜ける。緊張感が抜ければ全身に受けた傷の痛みが再発する。アドレナリンって大事。
でも一分なんてあっという間。鍵をかけていても、扉ごと破壊されて入ってこられるだろう。
その瞬間を想像して恐怖したあたしは、その身にシーツを纏った。これくらいではどうにもならないのは分かっているが、お守りがわりにはなるのではとシーツの中で木刀を抱きしめる。
シーツ……ああこれは『ダンテ』との出会いの時の。
でも、ここにあの『ダンテ』はいない。いるのは、屍の悪魔と化したあのダンテだけ。
ピシャァァァン!!
「…………ッ!」
ああこの音と光は大嫌いな雷。
その光と音の大きさからいって、雷はすぐ近くに落ちたようだ。
シーツの中から顔を出して、窓の外を見上げる。
おかしい。
今日……ううん、予報ではしばらく快晴が続くはずだった。なのにこの雷雨。
それにまだ時間は黄昏時なのに、雷雨を抜きにしても真っ暗な外界。
夜の闇でもない。真っ白な半紙にこぼした真っ黒な墨汁のように、先の見えない暗闇。赤と黒以外色もないから余計暗い。
ピシャーーン!!
暗闇に目をこらしてその先を確かめようとすればまた雷の音。
雷の光で照らされてもなお、それはどこまでも続く気味の悪い闇でしかなかった。
「……怖いよぉ……」
シーツの中でガタガタと震える。こんな時はいつも、家族や兄、すぐ近くに住む幼馴染のダンテがそばについていてくれた。けれどどんなに望んだところで、今は叶わない。叶えられない。
……孤独も暗闇も、雷も大嫌いだ。
ここにあるのは、あたしが嫌いなもののオンパレード。なんて最悪な悪夢。
そんな中、続く雷の光で扉の様子が一瞬見えた。
雷の音が怖くて耳をふさいでいたけれど、ダンテが外側から殴りつけているのがわかる。扉にわずかながら亀裂が入っていく。少しずつひしゃげていく。
すでに一分が経っていた。
「ディーヴァ〜?なあ、ディーヴァ〜開けてくれよ〜。開けてくれないし無理矢理入るぜ」
「ひぃっ……!入ってこないで。いやだ……怖い。誰か助けて……誰か、誰か……」
あたしが天使の血族だというあの夢……ううん、現実でもこんなことがあった。浅ましくも生きたいと望み、あたしはダンテに助けを求めていた。
けれどあたしを助けてくれたダンテは、この世界だとこちらに危害を加える側。
ここが偽りの夢の中でもよかった。偽りの空間だなんて気がつかなければ良かった。
この悪夢からは覚めたい、でも幸せな夢からは起きたくなかった。
ただ、ダンテとしあわせな学生生活を送っていたかった。
「ほーら、もうすぐ開いちまうぞ。
お得意の天使の結界はどうした?オレが扉を壊す前に張らないと、まぁた痛い思いする事になるぜ」
悪魔と化したダンテの声。扉を壊そうと拳を叩きつける音一回ごとに恐怖が増していく中、同じ声が耳に届いた。
『起きろ、目を覚ませよディーヴァ……!』
ああ、このダンテは扉を叩いているダンテじゃない。あの夢の中での、現実のダンテだ。
あたしに、この世界の正体を気づかせた張本人。
『そこは夢だ。ディーヴァ、現実から……オレから逃げんな!!もう朝だぜ!!』
うん、ここが夢の中なのはもうわかってるよ。
思い出したくなかったけれど、その全てをはっきりと思い出した。
あの夢の中で見た天使のあたしこそが、現実のあたし。ダンテが言う天使の力なんて、使えっこないけれど。
あの『夢』が『現実』で。この世界は全て『夢』で。でもこの世界での『悪夢』は『本当』で。
なら現実のあたしは、死んだ?
結局のところ、ダンテは助けに来なかったの?あたしの死までに、間に合わなかったの?
もう、いやだ。考えたくない、眠らせて。
すべてを忘れさせて。起きたくない。太陽が昇る朝は来なくていい。
……逃げたい。
「ごめんね」
絶望するのはもう嫌なの。