mission 22:old enemy ~VS魔帝~ 前編
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恐ろしさに震える足に喝を入れ、リビングへと向かう。
最初に見えたのは、倒れている誰かの足。その傍に裏返ったスリッパ。
そしてーー。
「マ……ママ!」
自らの血の海に沈む、母親の姿。
すでに事切れている事は明らかだった。
「ああああぁっ!そんな……!」
更に血で濡れることも構わず駆け寄って、その手を取る。ほんのりと温かい手のひら。
まだ手は温かいのに。なのに。
もうこの手があたしの手を握り返してくれることはない。
恐ろしい目にあっても流れなかった涙が、あとからあとからこぼれ落ちた。
嗚咽混じりにリビングをあとにし、父親がいるはずの書斎を開ける。
年々建て付けが悪くなって音がうるさいその扉。どこかの洋館の扉のような少しだけ怖い音をBGMに、父親の姿を探す。
探すまでもない。彼は書斎の机で突っ伏している。
よかった、ただ寝ているだけだ。
「パパ!!
ねえ、パパ起きて!ママが、ママが……!」
揺り動かすと、その体がずるりと傾いていく。
支えようとした手のひらに、べっとりと血が付着していた。
ダンテ、母親、父親と、塗り重ねられていく血液に恐怖を覚え、手を引っ込めてしまった。
重力に従って床へと倒れ込んだその背には、ダンテと同じように大きな穴が空いていた。
「パパ……ま、で…………」
父親の手を取れば、母親以上にまだあたたかい。
ついさっきまで生きていた。なのになんでこんなことに。
怖い。怖いよ……!
「うっ、お兄ちゃ……」
視界が滲む。
止まらずに流れ続ける涙で肌がはりついたようにヒリヒリする。
そんな中、自分の呟いた兄の名にハッとした。
「まさかお兄ちゃんも……?」
どうか無事でいて。
父親の手をそっと胸の上へと戻し、その場をあとにする。
危ないからと、階段はゆっくり上り降りしなさいっていつも言われていた。だから、今までこんなに急いで階段を上がったことはない。
足を踏み外しそうになりながら、息を切らして階段を上る。
階段を駆け上がれば、兄の部屋はすぐだ。
「お兄ちゃん!」
兄の部屋の扉を開け放つ。
映画を観ていたのか、カーテンが引かれて暗い部屋。その中央に、テーブルを支えに扉の方へと向かおうとする兄の姿。
「ディーヴァ…………?」
「お兄ちゃん!?そうよ、ディーヴァよ!
大変なの!パパもママも一階で……っ」
頭から血を流している兄。その血が目に入って視界が悪いのか、あたしのことも一瞬分からなかったようだ。
けれど怪我は頭だけではない。その体にも無数の裂傷が走っていた。
「ああ、なんてこと……ひどい……!待ってて、いま救急車を呼ぶから!」
黒い服を着ていたようでわからなかったが、支えた肩にも染み込んだ血。
致命傷に近い、深い傷だった。それでも病院へ行けばもしかしたら……!
だが、兄はそんなあたしの手を掴んだ。救急車は必要ないと、そう言いながら。
「ごほ、僕はもうだめだ……ディーヴァ、お前はにげ、なさい……」
「そんな!
やだ、やだよ……お兄ちゃん、ひとりにしないで……」
兄が、微笑んだ。
それは、夢の中で見た兄の最期の表情と同じで。
「ごふっ、!!」
その光景がフラッシュバックした瞬間、兄の胸から腕が突き出ていた。
激しい痙攣ののち、弛緩して動かなくなる体。離れる手。
吐き出された血が、あたしの顔にビシャンとかかる。
鋭く尖った爪を生やした、どこか見覚えのある指輪がはまるその腕が、ゆっくりと引き抜かれていく。
これはあたしがダンテにプレゼントした、シルバーの……。
だが、シルバーの色はどこへやら。指輪も腕も、全てが血で赤い。
どしゃ。
倒れる兄の体。皆同じように、背中が空洞と化している。
「ヒッ……!」
「おいおい、ディーヴァがだーい好きなオレだぞ?そう怖がるなって」
暗がりの中、その向こうに立つ最愛の人。ダンテだ。
先回りされていた。
自身の血と返り血に濡れた様は、真っ赤なコートを纏ったかのよう。
既視感ーー。
赤い、コートを纏うダンテ。
夢の中のダンテも赤いコートを着ていたような気がする。あれも血で赤かった?それとも元から赤いコート?
どちらなのかわからない。見分けがつかない。
……怖い。
「お揃いだ。ディーヴァもオレも、全身赤くていい色に染まってるぜ」
「やっ……!触らないで……来ないで!」
頬に血でぬめる手のひらが添えられる。生温かくて、気持ちの悪い感触。
振り払って後退し、ダンテだったモノを睨みつける。
血のペアルックなんて、誰が望むもんか。
「なんで、こんなこと……!」
「そんな睨むなよ、可愛い顔が台無しだぜ。
お前がそうやって逃げるから、だからオレはこうするしかなかったんだ。
他の人間は要らないだろ?」
あたしの兄の亡骸を邪魔そうに足でどかし、一歩踏み出してくる。
逃げられない。
「なあディーヴァ。一緒になろうって、ずっと一緒って言ったの、覚えてるよな」
「ひっ……ぐっが、あ……」
首を掴まれ締め上げられる。
いくらダンテが男性とはいえ、考えられないほど強い力だ。
「お前のせいだ。お前のせいでお前の周りの人間は最悪な最期を迎えた。わかってるよな。
責任をとってお前はオレに。悪魔に食われろよ」
霞む視界の中青くない、禍々しく赤く光る目が朧げに浮かんでいる。
その目には憎しみが浮かび、絶望と恐怖と悲しみが呼び起こされる。
お前のせいだ。
微笑みで最期を迎えたはずの兄の亡骸までもが、そう言ってあたしを見つめているように感じる。
あたしのせい?この苦しみを、あたしは甘んじて受け入れるべきなの……?
涙がぽろりと溢れる。
『そうだ。お前のせいだ。
お前は気が付かねばよかったのだ。この世界の正体に。
そうすれば、ぬるま湯のような世界の中、いつまでも幸せな夢を見ていられた。
悪夢など見ずに済んだ』
目の前のダンテの口から、ダンテではない誰かの声がする。
どこかで聞いた声。けれども、これが誰なのかはわからなかった。
最初に見えたのは、倒れている誰かの足。その傍に裏返ったスリッパ。
そしてーー。
「マ……ママ!」
自らの血の海に沈む、母親の姿。
すでに事切れている事は明らかだった。
「ああああぁっ!そんな……!」
更に血で濡れることも構わず駆け寄って、その手を取る。ほんのりと温かい手のひら。
まだ手は温かいのに。なのに。
もうこの手があたしの手を握り返してくれることはない。
恐ろしい目にあっても流れなかった涙が、あとからあとからこぼれ落ちた。
嗚咽混じりにリビングをあとにし、父親がいるはずの書斎を開ける。
年々建て付けが悪くなって音がうるさいその扉。どこかの洋館の扉のような少しだけ怖い音をBGMに、父親の姿を探す。
探すまでもない。彼は書斎の机で突っ伏している。
よかった、ただ寝ているだけだ。
「パパ!!
ねえ、パパ起きて!ママが、ママが……!」
揺り動かすと、その体がずるりと傾いていく。
支えようとした手のひらに、べっとりと血が付着していた。
ダンテ、母親、父親と、塗り重ねられていく血液に恐怖を覚え、手を引っ込めてしまった。
重力に従って床へと倒れ込んだその背には、ダンテと同じように大きな穴が空いていた。
「パパ……ま、で…………」
父親の手を取れば、母親以上にまだあたたかい。
ついさっきまで生きていた。なのになんでこんなことに。
怖い。怖いよ……!
「うっ、お兄ちゃ……」
視界が滲む。
止まらずに流れ続ける涙で肌がはりついたようにヒリヒリする。
そんな中、自分の呟いた兄の名にハッとした。
「まさかお兄ちゃんも……?」
どうか無事でいて。
父親の手をそっと胸の上へと戻し、その場をあとにする。
危ないからと、階段はゆっくり上り降りしなさいっていつも言われていた。だから、今までこんなに急いで階段を上がったことはない。
足を踏み外しそうになりながら、息を切らして階段を上る。
階段を駆け上がれば、兄の部屋はすぐだ。
「お兄ちゃん!」
兄の部屋の扉を開け放つ。
映画を観ていたのか、カーテンが引かれて暗い部屋。その中央に、テーブルを支えに扉の方へと向かおうとする兄の姿。
「ディーヴァ…………?」
「お兄ちゃん!?そうよ、ディーヴァよ!
大変なの!パパもママも一階で……っ」
頭から血を流している兄。その血が目に入って視界が悪いのか、あたしのことも一瞬分からなかったようだ。
けれど怪我は頭だけではない。その体にも無数の裂傷が走っていた。
「ああ、なんてこと……ひどい……!待ってて、いま救急車を呼ぶから!」
黒い服を着ていたようでわからなかったが、支えた肩にも染み込んだ血。
致命傷に近い、深い傷だった。それでも病院へ行けばもしかしたら……!
だが、兄はそんなあたしの手を掴んだ。救急車は必要ないと、そう言いながら。
「ごほ、僕はもうだめだ……ディーヴァ、お前はにげ、なさい……」
「そんな!
やだ、やだよ……お兄ちゃん、ひとりにしないで……」
兄が、微笑んだ。
それは、夢の中で見た兄の最期の表情と同じで。
「ごふっ、!!」
その光景がフラッシュバックした瞬間、兄の胸から腕が突き出ていた。
激しい痙攣ののち、弛緩して動かなくなる体。離れる手。
吐き出された血が、あたしの顔にビシャンとかかる。
鋭く尖った爪を生やした、どこか見覚えのある指輪がはまるその腕が、ゆっくりと引き抜かれていく。
これはあたしがダンテにプレゼントした、シルバーの……。
だが、シルバーの色はどこへやら。指輪も腕も、全てが血で赤い。
どしゃ。
倒れる兄の体。皆同じように、背中が空洞と化している。
「ヒッ……!」
「おいおい、ディーヴァがだーい好きなオレだぞ?そう怖がるなって」
暗がりの中、その向こうに立つ最愛の人。ダンテだ。
先回りされていた。
自身の血と返り血に濡れた様は、真っ赤なコートを纏ったかのよう。
既視感ーー。
赤い、コートを纏うダンテ。
夢の中のダンテも赤いコートを着ていたような気がする。あれも血で赤かった?それとも元から赤いコート?
どちらなのかわからない。見分けがつかない。
……怖い。
「お揃いだ。ディーヴァもオレも、全身赤くていい色に染まってるぜ」
「やっ……!触らないで……来ないで!」
頬に血でぬめる手のひらが添えられる。生温かくて、気持ちの悪い感触。
振り払って後退し、ダンテだったモノを睨みつける。
血のペアルックなんて、誰が望むもんか。
「なんで、こんなこと……!」
「そんな睨むなよ、可愛い顔が台無しだぜ。
お前がそうやって逃げるから、だからオレはこうするしかなかったんだ。
他の人間は要らないだろ?」
あたしの兄の亡骸を邪魔そうに足でどかし、一歩踏み出してくる。
逃げられない。
「なあディーヴァ。一緒になろうって、ずっと一緒って言ったの、覚えてるよな」
「ひっ……ぐっが、あ……」
首を掴まれ締め上げられる。
いくらダンテが男性とはいえ、考えられないほど強い力だ。
「お前のせいだ。お前のせいでお前の周りの人間は最悪な最期を迎えた。わかってるよな。
責任をとってお前はオレに。悪魔に食われろよ」
霞む視界の中青くない、禍々しく赤く光る目が朧げに浮かんでいる。
その目には憎しみが浮かび、絶望と恐怖と悲しみが呼び起こされる。
お前のせいだ。
微笑みで最期を迎えたはずの兄の亡骸までもが、そう言ってあたしを見つめているように感じる。
あたしのせい?この苦しみを、あたしは甘んじて受け入れるべきなの……?
涙がぽろりと溢れる。
『そうだ。お前のせいだ。
お前は気が付かねばよかったのだ。この世界の正体に。
そうすれば、ぬるま湯のような世界の中、いつまでも幸せな夢を見ていられた。
悪夢など見ずに済んだ』
目の前のダンテの口から、ダンテではない誰かの声がする。
どこかで聞いた声。けれども、これが誰なのかはわからなかった。