mission 21:inside devil's body ~蠢く胎内にて~
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そこについた瞬間の俺の言葉はまるで賊のようだったと言えよう。
「服をよこせ」
ネロアンジェロとして敗北し魔帝の支配から逃れた身とはいえ、このような下層にまでは俺が魔帝を裏切ろうとしている情報はまわっていないらしい。
魔帝の腹心の一人という階級は実に役立つ。
部屋の主は俺の姿を見るなり、幾つもの目玉をギョッとさせ、その場にひれ伏した。
顔についたその目玉の全てに恐れが浮かんでいる。
その悪魔はたくさんある細い触角……いや。手脚を動かし、自分の纏う衣服を脱ぎ始めた。
……ん?自分の服?
「違う!お前の服ではない。俺の服をよこせ」
顔だけは人型に近い悪魔とはいえ、お前の体の構造と俺の身体の構造は全く違うではないか。そもそも男と女だし、体の大きさも異なる。
どうしたら自分の服のことだと思うのか。
「俺がここへと来たときに着ていた青い衣装だ」
被服の才はあるくせ、この悪魔は頭の弱い個体の様だ。
蜘蛛の悪魔は一度に短時間で複数の思考を使いこなすなど、頭がキレる者も多いと聞いていたのだが……。
なに?それは違う世界の蜘蛛だと?
ふん、使えん奴め。
俺は呆れながらも、眼鏡をかけた少し鈍臭そうな蜘蛛の悪魔の返答を待った。
結果、とうの昔に無くなったと言われ、眉間の皺がふえることとなる。
よく考えてみれば何年も前だからな、ないのも仕方あるまい。
「俺の体に合う衣装を作れ。最優先でだ」
そう言って身に纏っていた重苦しい鎧をその場に脱ぎ捨てる。
もう必要ないものだし、ここに置いていこう。片付けは面倒だ。
簡易的にサイズチェックを受け、貸し出された黒いガウンを纏いその場で座って待つ。
おいこれでもクライアントだぞ、茶のひとつくらい出しても良かろうが……。まあ、魔界の者にそこまでの期待をしてはいけないな。
囚われの身ながら、食事や茶を出そうとしていたディーヴァがおかしかったのだ。
手脚をそれぞれの方向へ器用に動かし、一対は針仕事に、一対は資料探しに、一対は動き回りと忙しない蜘蛛。
ファントムやかつて対峙したアルケニー種の悪魔とはまた違うな。
そうして俺の体に合うであろう資料を持ってきたが。
「資料がこの数件しかない、だと?」
ムンドゥスが人間界に侵攻をする際に着るためのものだった。
「くだらん、却下だ。
よく見ろ、サイズも違う。俺はムンドゥスのように体型が崩れていない」
他にもあったのは、上位種の悪魔が人間界へと侵攻を果たした際に着るであろう上等な物ばかりだった。
人の姿に身をやつして奴らは一体何をする気だったのだろう。
そしてその中に紛れていたのは、特別古い資料とその型紙、スパーダのものだった。
あと少しで、素通りしてしまうところだ。
「待て、スパーダのもの?
背格好や姿形が似ていると思います?
……なるほどな」
当たり前ともいえる。俺はそのスパーダの息子だからな。
その言葉は飲み込み、俺は蜘蛛の悪魔へその資料通りの物を依頼した。親父のものならサイズもそう変わらんはずだと確信して。
そうして待つこと数分だ。数十分かかるかもしれないなどと不安だったが、その予想に反して、待機時間はとてつもなく短かった。
イライラする暇もない。
「……早いな。
手を抜いたのではなかろうな」
早いついでに、速かった。……針裁きがだ。
蜘蛛特有の丸みを帯びた腹を支えに、脚の全てで器用に布を縫い合わせ刺繍を施すスピードと技術の素晴らしさといったら。
流石の俺も感嘆の声がわりに唸りそうになった。
そして衣装だけではない、そこには片眼鏡までがついている。
出来上がった衣装に着替えながら、作れるものは服だけではなかったのかと聞けば。
「なに?設計図にあるものは全て用意?
自分の管轄外なのに、か」
いつ連絡したのか、魔鉄を扱う部署で取り急ぎ作って届けてもらったようだ。
魔帝の配下の命だから至急になったわけか。
申し訳なく思う。が。別にいらないものだ。
俺はスパーダのように洒落た眼鏡をかけるような性格はしていない。
「それは要らん」
だが何がなんでも受け取らせようとしてくる。
資料や型紙通りのデザインにしつつ着る対象ぴったりに縫製し、それをきっちりと着てもらわねば気が済まない様だ。
そういえば、少しくらいはぶかぶかになる部分があるかと思ったというに、俺の体型ぴったりに作られている。
なるほど、完璧主義者か。
自分の仕事に誇りを持っているのはいいが、変なところで頭が固い。なんとも変わった性格をしている悪魔だ。
だからこそ、こんな奥地で魔王や配下の者の服なぞを扱う専門職についているのだろう。
魔界にも色々の悪魔が住んでいるからな。上がダメなだけで、ある意味国民とも言える下々のこういった悪魔にはそこまで罪はない。
悪魔にもいろいろいる。
悪魔は全て殺す……そういう時代はとうに終わっているのかもしれん。
だが要らんといったら要らん。
戦闘時におしゃれ眼鏡など邪魔だ!と、今一度断ろうとして気がつく。
いや待て。
もしかしたらディーヴァが喜ぶのでは?
あれは匂いフェチだと聞いた。
そういうフェチを持つものは匂いだけでなく、眼鏡も好きな可能性がある。
「……もらっておこう」
カチャリ、左目に装着した片眼鏡。
ふ、これではスパーダそのものではないか。
ディーヴァのためとも思ったが、ダンテやかつてスパーダと戦ったムンドゥスの顔が見ものだな。
ひとり薄い笑みを浮かべると、トントンと肩を叩かれる。
振り返ると手のひらが向けられていた。……プリーズ、マネー?
「支払いだと?
支払いはムンドゥス……魔帝に言え」
こうなったのは、全ては魔帝のせいなのだから。
「服をよこせ」
ネロアンジェロとして敗北し魔帝の支配から逃れた身とはいえ、このような下層にまでは俺が魔帝を裏切ろうとしている情報はまわっていないらしい。
魔帝の腹心の一人という階級は実に役立つ。
部屋の主は俺の姿を見るなり、幾つもの目玉をギョッとさせ、その場にひれ伏した。
顔についたその目玉の全てに恐れが浮かんでいる。
その悪魔はたくさんある細い触角……いや。手脚を動かし、自分の纏う衣服を脱ぎ始めた。
……ん?自分の服?
「違う!お前の服ではない。俺の服をよこせ」
顔だけは人型に近い悪魔とはいえ、お前の体の構造と俺の身体の構造は全く違うではないか。そもそも男と女だし、体の大きさも異なる。
どうしたら自分の服のことだと思うのか。
「俺がここへと来たときに着ていた青い衣装だ」
被服の才はあるくせ、この悪魔は頭の弱い個体の様だ。
蜘蛛の悪魔は一度に短時間で複数の思考を使いこなすなど、頭がキレる者も多いと聞いていたのだが……。
なに?それは違う世界の蜘蛛だと?
ふん、使えん奴め。
俺は呆れながらも、眼鏡をかけた少し鈍臭そうな蜘蛛の悪魔の返答を待った。
結果、とうの昔に無くなったと言われ、眉間の皺がふえることとなる。
よく考えてみれば何年も前だからな、ないのも仕方あるまい。
「俺の体に合う衣装を作れ。最優先でだ」
そう言って身に纏っていた重苦しい鎧をその場に脱ぎ捨てる。
もう必要ないものだし、ここに置いていこう。片付けは面倒だ。
簡易的にサイズチェックを受け、貸し出された黒いガウンを纏いその場で座って待つ。
おいこれでもクライアントだぞ、茶のひとつくらい出しても良かろうが……。まあ、魔界の者にそこまでの期待をしてはいけないな。
囚われの身ながら、食事や茶を出そうとしていたディーヴァがおかしかったのだ。
手脚をそれぞれの方向へ器用に動かし、一対は針仕事に、一対は資料探しに、一対は動き回りと忙しない蜘蛛。
ファントムやかつて対峙したアルケニー種の悪魔とはまた違うな。
そうして俺の体に合うであろう資料を持ってきたが。
「資料がこの数件しかない、だと?」
ムンドゥスが人間界に侵攻をする際に着るためのものだった。
「くだらん、却下だ。
よく見ろ、サイズも違う。俺はムンドゥスのように体型が崩れていない」
他にもあったのは、上位種の悪魔が人間界へと侵攻を果たした際に着るであろう上等な物ばかりだった。
人の姿に身をやつして奴らは一体何をする気だったのだろう。
そしてその中に紛れていたのは、特別古い資料とその型紙、スパーダのものだった。
あと少しで、素通りしてしまうところだ。
「待て、スパーダのもの?
背格好や姿形が似ていると思います?
……なるほどな」
当たり前ともいえる。俺はそのスパーダの息子だからな。
その言葉は飲み込み、俺は蜘蛛の悪魔へその資料通りの物を依頼した。親父のものならサイズもそう変わらんはずだと確信して。
そうして待つこと数分だ。数十分かかるかもしれないなどと不安だったが、その予想に反して、待機時間はとてつもなく短かった。
イライラする暇もない。
「……早いな。
手を抜いたのではなかろうな」
早いついでに、速かった。……針裁きがだ。
蜘蛛特有の丸みを帯びた腹を支えに、脚の全てで器用に布を縫い合わせ刺繍を施すスピードと技術の素晴らしさといったら。
流石の俺も感嘆の声がわりに唸りそうになった。
そして衣装だけではない、そこには片眼鏡までがついている。
出来上がった衣装に着替えながら、作れるものは服だけではなかったのかと聞けば。
「なに?設計図にあるものは全て用意?
自分の管轄外なのに、か」
いつ連絡したのか、魔鉄を扱う部署で取り急ぎ作って届けてもらったようだ。
魔帝の配下の命だから至急になったわけか。
申し訳なく思う。が。別にいらないものだ。
俺はスパーダのように洒落た眼鏡をかけるような性格はしていない。
「それは要らん」
だが何がなんでも受け取らせようとしてくる。
資料や型紙通りのデザインにしつつ着る対象ぴったりに縫製し、それをきっちりと着てもらわねば気が済まない様だ。
そういえば、少しくらいはぶかぶかになる部分があるかと思ったというに、俺の体型ぴったりに作られている。
なるほど、完璧主義者か。
自分の仕事に誇りを持っているのはいいが、変なところで頭が固い。なんとも変わった性格をしている悪魔だ。
だからこそ、こんな奥地で魔王や配下の者の服なぞを扱う専門職についているのだろう。
魔界にも色々の悪魔が住んでいるからな。上がダメなだけで、ある意味国民とも言える下々のこういった悪魔にはそこまで罪はない。
悪魔にもいろいろいる。
悪魔は全て殺す……そういう時代はとうに終わっているのかもしれん。
だが要らんといったら要らん。
戦闘時におしゃれ眼鏡など邪魔だ!と、今一度断ろうとして気がつく。
いや待て。
もしかしたらディーヴァが喜ぶのでは?
あれは匂いフェチだと聞いた。
そういうフェチを持つものは匂いだけでなく、眼鏡も好きな可能性がある。
「……もらっておこう」
カチャリ、左目に装着した片眼鏡。
ふ、これではスパーダそのものではないか。
ディーヴァのためとも思ったが、ダンテやかつてスパーダと戦ったムンドゥスの顔が見ものだな。
ひとり薄い笑みを浮かべると、トントンと肩を叩かれる。
振り返ると手のひらが向けられていた。……プリーズ、マネー?
「支払いだと?
支払いはムンドゥス……魔帝に言え」
こうなったのは、全ては魔帝のせいなのだから。