mission 18:baby is cruel ~トラウマ~
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それにしてもあの魔帝はどこか変だ。
まるで隠れ鬼ごっこをしているかのよう。
捕まえられるはずなのに、捕まえる直前であたしが逃げるのを待っている。
何かに映り込んで攻撃してくる時もそう。
じわじわいたぶっているだけ、ともいえるかもしれない。完全に遊ばれている。
もちろん、感じる恐怖の度合いは同じ。ううん、追い詰められていると思うと、余計恐ろしくは感じてるよ。
だって悪魔怖いもん。ダンテのような味方以外、ね。
この夢の続きには、悪夢を頼もしい夢にしてくれるダンテの存在がいつもあった。
魔帝という恐ろしい相手が新しく登場しても、最後にはダンテが助けに来てくれるはず。
小悪魔の戯れとは違うんだから、今回もそうだと信じてる。信じたい。
……諦めない。そもそも今のあたしはあたしだけど、あたしじゃない。
痛みも恐怖も本物だけど、でもこれは夢だしあたしは本物じゃない。
なんだかちょっぴりややこしいわね。
あたしはあたしのできることをしなくちゃ、助けてもらう側だって、やれることくらいやらないと。
そうしてとうとうたどり着いた自分の部屋。開けようと回すドアノブの金属にも、アレの姿が映った。
「あぐっ、ぅ………っ」
脇腹が裂かれる鋭い痛み。
気を失いそうな痛みに耐えながら、あたしは這々の体で急ぎ部屋に入り扉を閉めた。
文字通り這いつくばって、やり過ごす。
鍵はかけた。それに例によってこの部屋では天使の結界が発動している。そういうところは、いつもの夢と同じようでホッとする。
ガチャガチャとノブを回す音、そして結界を叩き壊そうと働きかける音が響くが、そう簡単に悪魔は入ってこれないはずだ。
袋小路。籠の鳥。それでも、少しでも時間稼ぎができればいい。
「ああもう、やだ。魔帝は腹立つし身体中痛いしクラクラするし体つらいし疲れたし。
休みたい……。ダンテ早く来て……」
悲しくて苦しくてすんすん泣いてしまう。
いつもの夢そのままなら、シーツにくるまってダンテを待つのがセオリー。でも横になりたい。
あたしのベッドも夢と同じ感触だとしたら、最高の寝心地がそこに待っているはず。
体の痛みも疲れもあるし、今ベッドに横になったら起き上がれない。あたしは食べることも大好きだけど、寝ることも好きだ。
悪夢だろうとなんだろうと、そこだけはちょっぴり天国に変わる。
あたしはふらふらと、ベッドに近づいた。
なんだか足元が冷たく感じる。花瓶の水でも溢れてるのかも。
それよりベッドの色って、こんな色をしていたっけ?
ワインレッド、いや、ボルドーなんて目に鮮やかな色、あたしは使わない。ダンテじゃあるまいし。
それになんだろう、この嫌な予感。濃い赤色。鉄の匂い。
倒れ込みそうなギリギリの意識の中、白いシーツをゆっくりとめくる。
「ひっ……!」
魔帝の登場もそうだが、今までの夢と違う。
彼が登場するタイミングは本来ここではない。
そこにはダンテが、あたしよりも蒼白な顔をして横たわっていた。
「ダンテ、なんでここに……。え?」
ダンテを起こそうと触れる。あまりの冷たさに手を引っ込めてしまった。
次いで胸に目を向ける。
穴だ。大きな穴が空いて、下のシーツが見えていた。そして赤いベッドだと思っていたのは、すべてダンテの……。
カーペットもその色に濡れていることに、今気がついた。
足元が濡れていたのは、全部……。
「う、そ……そんな。そんな……。
ダンテ……起きてよ……ねぇ目を開けてよ!!」
これは、レディと海で戯れていた時に見たあの夢と同じだ。
ダンテが死んでいる。もう目を開けることもあたしを抱きしめてくれることもない。
「いや、いや……いやあああああ!!」
貧血や痛みで意識が朦朧となるのも気にとめず、ダンテの亡骸にすがり、むせび泣く。
夢だとわかっていても耐えられない。こんなの、耐えきれない!
その時、がちゃがちゃと、回され続けていたドアノブの音がぴたりと止んだ。
いつのまにか結界も消えている。
恐ろしい気配の再来を感じ、あたしは部屋の入り口をゆっくりと見た。
扉の下、その隙間からどす黒い靄が部屋の中へとゆっくり、ゆっくり流れ込んでくる。
「あ、ああ……」
部屋の中で強大な靄になっていくそれを見て、あたしはダンテの亡骸より、さらに後ろへと。壁際へと下がった。
ああ、こんな時でもあたしは助かりたい。生きたいって思えてしまうのね。
なんて浅ましい……。
それは家族を失った時と同じだった。
充満したガスのように部屋を覆い尽くす魔帝の靄。その三つ目。
伸ばされた黒い靄の手が、逃げ場を失ったあたしに触れ、じわじわと絡み付いてくる。
まずは足だ。体。腕。……そして首。
あたしの肌の色が黒く塗りつぶされていくとともに、それが魔帝によってトラウマとなった、あの荊の蔦に変わっていく。
体が靄に覆い尽くされる頃には、全身に棘の生えた蔦ががんじがらめに巻き付いていた。
「うあ゛っ……!」
しゅる、ギシ……ギシギシ、グサグサグサ。
絡み付いた蔦が動くたび、鋭いナイフのような棘が肉に食い込む。
蔦の隙間から、悪魔が求めてやまない甘美な血がとろとろと流れ落ちる。
じゅるじゅるじゅる。
血を啜られているのがわかる。
血が落ちた先、蔦の先端、棘そのものから。
まるで吸血鬼の牙から吸われているかのように。
「いや、いや……これ以上奪わないで。
くるし、い……やめ……」
耳に聞こえてくるその音に気が狂いそうだ。
ぐぐ、ザクッ!!
「かはっ、」
首にまで刺さった棘が、気管をも圧迫しうまく息が吸えなくなった。
ただでさえ血も足りない状態のあたしは何の抵抗もできずに、ただただ奪われるだけ。
じゅるじゅるじゅる。乳飲み子のように、美味しそうに血を啜る相手は笑っている。
目の前で赤い目が、楽しそうににんまりと笑っている。
美味しい。楽しい。面白い。啜られる血を通し、そんな感情が流れ込んでくる。
遊んでいる。この悪魔はあたしで遊んでいる!
おなかが減ったら食事して、目の前のおもちゃでよく遊んで、ケタケタと笑う。
まるで子供のよう……!ううん、赤ん坊みたい。
聞こえてくるのはあの高笑いじゃない、ちがう。魔帝だけど、魔帝じゃない。
けれど痛いのは本物で。苦しいのも本物で。
悪夢なのに、本物で……。
もう、やだ……いたい、いたいいたい……だれか助けて。
この痛みは、すごくリアル。なのにこんなに痛くても悪夢なんだよね。
夢なら、醒めて。……お願い早く醒めて。
醒めさえすれば、ダンテも生き返るかもしれない。
現実に戻して。あたしを、戻して。
「あ、ぁぁ……」
縋るように指を伸ばすとそこには物言わぬダンテ。その赤いコートが指に触れた。
手に馴染むその感触を求め、ぎゅっと掴む。
ダンテ……こわいよ。たすけて。
痛みはなおも与えられ続けた。
死なない程度に与えられる傷。流れ続け吸われる血。
痛みにうめくあたしの声を面白がる悪魔の笑い声。
終わりのない悪魔の食事。終わりのない悪魔の獲物遊び。
長い。痛みが長い。恐怖が長い。
悪夢が、終わらない。
いつまで終わらないの?永遠に終わらない悪夢なの?
ずっと、遊ばれるの?
これが悪夢?夢の中?ほんとに?
こんなに痛いのに悪夢なんて思えないんだけど。
むしろこれが現実に感じる。
わからない、上も下も。何もかも。ぐちゃぐちゃのどろどろ。
すべての感覚がおかしい。
ーーもうこんな世界にいたくないよ。死にたい。一思いに殺して。
次はすきなひとと一緒に悪魔のいない世界に生まれ落ちたい。
今度こそ一緒に、幸せに生きていきたい。
きっとそこでは悪魔による怪我も負わないし、平和に暮らせるもの。
なのに、なんでこんな悪魔のいる世界にあたしは生きてるの?ーー
瞼を閉じると、目に溜まっていた涙が落ちる。
冷えていく。冷えていく。真っ暗闇の中で体が氷のように冷えていく。
血がなくなるよりもっとはやくに冷えていく。
心だけで泣きじゃくるあたしは、そのまま闇の中へと深く落ちていった。
まるで隠れ鬼ごっこをしているかのよう。
捕まえられるはずなのに、捕まえる直前であたしが逃げるのを待っている。
何かに映り込んで攻撃してくる時もそう。
じわじわいたぶっているだけ、ともいえるかもしれない。完全に遊ばれている。
もちろん、感じる恐怖の度合いは同じ。ううん、追い詰められていると思うと、余計恐ろしくは感じてるよ。
だって悪魔怖いもん。ダンテのような味方以外、ね。
この夢の続きには、悪夢を頼もしい夢にしてくれるダンテの存在がいつもあった。
魔帝という恐ろしい相手が新しく登場しても、最後にはダンテが助けに来てくれるはず。
小悪魔の戯れとは違うんだから、今回もそうだと信じてる。信じたい。
……諦めない。そもそも今のあたしはあたしだけど、あたしじゃない。
痛みも恐怖も本物だけど、でもこれは夢だしあたしは本物じゃない。
なんだかちょっぴりややこしいわね。
あたしはあたしのできることをしなくちゃ、助けてもらう側だって、やれることくらいやらないと。
そうしてとうとうたどり着いた自分の部屋。開けようと回すドアノブの金属にも、アレの姿が映った。
「あぐっ、ぅ………っ」
脇腹が裂かれる鋭い痛み。
気を失いそうな痛みに耐えながら、あたしは這々の体で急ぎ部屋に入り扉を閉めた。
文字通り這いつくばって、やり過ごす。
鍵はかけた。それに例によってこの部屋では天使の結界が発動している。そういうところは、いつもの夢と同じようでホッとする。
ガチャガチャとノブを回す音、そして結界を叩き壊そうと働きかける音が響くが、そう簡単に悪魔は入ってこれないはずだ。
袋小路。籠の鳥。それでも、少しでも時間稼ぎができればいい。
「ああもう、やだ。魔帝は腹立つし身体中痛いしクラクラするし体つらいし疲れたし。
休みたい……。ダンテ早く来て……」
悲しくて苦しくてすんすん泣いてしまう。
いつもの夢そのままなら、シーツにくるまってダンテを待つのがセオリー。でも横になりたい。
あたしのベッドも夢と同じ感触だとしたら、最高の寝心地がそこに待っているはず。
体の痛みも疲れもあるし、今ベッドに横になったら起き上がれない。あたしは食べることも大好きだけど、寝ることも好きだ。
悪夢だろうとなんだろうと、そこだけはちょっぴり天国に変わる。
あたしはふらふらと、ベッドに近づいた。
なんだか足元が冷たく感じる。花瓶の水でも溢れてるのかも。
それよりベッドの色って、こんな色をしていたっけ?
ワインレッド、いや、ボルドーなんて目に鮮やかな色、あたしは使わない。ダンテじゃあるまいし。
それになんだろう、この嫌な予感。濃い赤色。鉄の匂い。
倒れ込みそうなギリギリの意識の中、白いシーツをゆっくりとめくる。
「ひっ……!」
魔帝の登場もそうだが、今までの夢と違う。
彼が登場するタイミングは本来ここではない。
そこにはダンテが、あたしよりも蒼白な顔をして横たわっていた。
「ダンテ、なんでここに……。え?」
ダンテを起こそうと触れる。あまりの冷たさに手を引っ込めてしまった。
次いで胸に目を向ける。
穴だ。大きな穴が空いて、下のシーツが見えていた。そして赤いベッドだと思っていたのは、すべてダンテの……。
カーペットもその色に濡れていることに、今気がついた。
足元が濡れていたのは、全部……。
「う、そ……そんな。そんな……。
ダンテ……起きてよ……ねぇ目を開けてよ!!」
これは、レディと海で戯れていた時に見たあの夢と同じだ。
ダンテが死んでいる。もう目を開けることもあたしを抱きしめてくれることもない。
「いや、いや……いやあああああ!!」
貧血や痛みで意識が朦朧となるのも気にとめず、ダンテの亡骸にすがり、むせび泣く。
夢だとわかっていても耐えられない。こんなの、耐えきれない!
その時、がちゃがちゃと、回され続けていたドアノブの音がぴたりと止んだ。
いつのまにか結界も消えている。
恐ろしい気配の再来を感じ、あたしは部屋の入り口をゆっくりと見た。
扉の下、その隙間からどす黒い靄が部屋の中へとゆっくり、ゆっくり流れ込んでくる。
「あ、ああ……」
部屋の中で強大な靄になっていくそれを見て、あたしはダンテの亡骸より、さらに後ろへと。壁際へと下がった。
ああ、こんな時でもあたしは助かりたい。生きたいって思えてしまうのね。
なんて浅ましい……。
それは家族を失った時と同じだった。
充満したガスのように部屋を覆い尽くす魔帝の靄。その三つ目。
伸ばされた黒い靄の手が、逃げ場を失ったあたしに触れ、じわじわと絡み付いてくる。
まずは足だ。体。腕。……そして首。
あたしの肌の色が黒く塗りつぶされていくとともに、それが魔帝によってトラウマとなった、あの荊の蔦に変わっていく。
体が靄に覆い尽くされる頃には、全身に棘の生えた蔦ががんじがらめに巻き付いていた。
「うあ゛っ……!」
しゅる、ギシ……ギシギシ、グサグサグサ。
絡み付いた蔦が動くたび、鋭いナイフのような棘が肉に食い込む。
蔦の隙間から、悪魔が求めてやまない甘美な血がとろとろと流れ落ちる。
じゅるじゅるじゅる。
血を啜られているのがわかる。
血が落ちた先、蔦の先端、棘そのものから。
まるで吸血鬼の牙から吸われているかのように。
「いや、いや……これ以上奪わないで。
くるし、い……やめ……」
耳に聞こえてくるその音に気が狂いそうだ。
ぐぐ、ザクッ!!
「かはっ、」
首にまで刺さった棘が、気管をも圧迫しうまく息が吸えなくなった。
ただでさえ血も足りない状態のあたしは何の抵抗もできずに、ただただ奪われるだけ。
じゅるじゅるじゅる。乳飲み子のように、美味しそうに血を啜る相手は笑っている。
目の前で赤い目が、楽しそうににんまりと笑っている。
美味しい。楽しい。面白い。啜られる血を通し、そんな感情が流れ込んでくる。
遊んでいる。この悪魔はあたしで遊んでいる!
おなかが減ったら食事して、目の前のおもちゃでよく遊んで、ケタケタと笑う。
まるで子供のよう……!ううん、赤ん坊みたい。
聞こえてくるのはあの高笑いじゃない、ちがう。魔帝だけど、魔帝じゃない。
けれど痛いのは本物で。苦しいのも本物で。
悪夢なのに、本物で……。
もう、やだ……いたい、いたいいたい……だれか助けて。
この痛みは、すごくリアル。なのにこんなに痛くても悪夢なんだよね。
夢なら、醒めて。……お願い早く醒めて。
醒めさえすれば、ダンテも生き返るかもしれない。
現実に戻して。あたしを、戻して。
「あ、ぁぁ……」
縋るように指を伸ばすとそこには物言わぬダンテ。その赤いコートが指に触れた。
手に馴染むその感触を求め、ぎゅっと掴む。
ダンテ……こわいよ。たすけて。
痛みはなおも与えられ続けた。
死なない程度に与えられる傷。流れ続け吸われる血。
痛みにうめくあたしの声を面白がる悪魔の笑い声。
終わりのない悪魔の食事。終わりのない悪魔の獲物遊び。
長い。痛みが長い。恐怖が長い。
悪夢が、終わらない。
いつまで終わらないの?永遠に終わらない悪夢なの?
ずっと、遊ばれるの?
これが悪夢?夢の中?ほんとに?
こんなに痛いのに悪夢なんて思えないんだけど。
むしろこれが現実に感じる。
わからない、上も下も。何もかも。ぐちゃぐちゃのどろどろ。
すべての感覚がおかしい。
ーーもうこんな世界にいたくないよ。死にたい。一思いに殺して。
次はすきなひとと一緒に悪魔のいない世界に生まれ落ちたい。
今度こそ一緒に、幸せに生きていきたい。
きっとそこでは悪魔による怪我も負わないし、平和に暮らせるもの。
なのに、なんでこんな悪魔のいる世界にあたしは生きてるの?ーー
瞼を閉じると、目に溜まっていた涙が落ちる。
冷えていく。冷えていく。真っ暗闇の中で体が氷のように冷えていく。
血がなくなるよりもっとはやくに冷えていく。
心だけで泣きじゃくるあたしは、そのまま闇の中へと深く落ちていった。