mission 18:baby is cruel ~トラウマ~
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いつあの時の悪魔が襲ってくるかわからない。
ダンテからしたら雑魚にしかならない、あたしからしたら脅威になる、あたしが初めて目にしたあの悪魔たち。
でも、ホールに出たところでそんなちゃちな悪魔は、この悪夢に存在しないことがわかった。
ホールの中、ぽっかりと浮かぶどす黒い存在。
「なんで、なんで……っ」
ーーなんであたしの家の中に、魔帝の存在が。
まだ雑魚悪魔の方がよかった。
どす黒い靄の中心に、赤く光る三つの目。
腰が抜け、ぺたりと床に膝を、手をついてしまう。強大な魔力の前にあたしの歩みはついに止まった。
ああ、思い出すは魔帝の極悪非道な所業。あたしが受けたトラウマの数々。
恐怖があたしの体をその場へと磔にする。
心臓を握られているかのように胸が苦しい。
呼吸がしづらい。目が回る。
そんなあたしの様子を嘲笑うかのように、黒い靄状の体から、闇色の手が触手のように伸びてきて、周りを侵食し始めた。
手が、あたしに触れる。ただそれだけ。触れただけなのに。
瞬間、頬がすっぱりと切れ、その鮮烈な痛みに意識が覚醒した。
「いたっ……!」
ツツー、ぼたぼたっ。
血が床に落ちてシミを作る。
鮮やかな血を目にした瞬間、手足にも血と酸素が通うようになり、動くことができるようになった。
幸か不幸か、その痛みによって意識を今この時にもどすことが出来たのか。
弾かれたようにホールの階段をかけ上がる。
魔帝は周りへの侵食が遅く、なかなか追ってこない。
それどころか、黒い靄から伸びた無数の手が、あたしが垂らしたたった数滴の血にむらがっているのがみえた。
それは、いつぞやにテレビで見てしまった映画の、人間にむらがるアンデッドさながら。
うぷ、また吐き気が襲ってきた。
「今のうちに急いで行こ」
手はもちろん、あの黒い靄にも触れてはならない。
ただの手に見えるアレに触れられただけで、切れた頬を考えると、触れられればあっという間に血みどろの屍体にされてしまい、ああやって群がられて血肉を啜られてしまう。
しかし、階段を上った先、廊下にもまるで煤やカビか何かのように、ところどころから黒い靄がわきだし、増殖していた。
そのどれにも特徴的な赤い三つ目と、魔力量。
「今、ホールの下にいたよね。なんで上の階にも魔帝の靄が存在しているの?」
ここでなら少しは天使の力が使える。だって思い出の中では、初めて天使の翼が顕現した記念すべき瞬間でもあるんだもの。
その力でよく探ってみれば、屋敷全体、他の部屋にも魔帝と思しき強力な魔の気配を感じ取ることができた。
小さくともそのどれもが、恐ろしい魔帝の塊だ。
「量産型魔帝とかなにそれ聞いてない……!」
この屋敷は見た目はあたしの生家だけど、すでに悪魔に支配された魔界なのね。
思い出を汚されたみたいで本当に悔しい。悔しいけど、あたしには何もできないし恐怖が勝る。
けれど行かなきゃ。他に道がないのはわかってる。
ホールから玄関に出て外へ向かえばよかったって?玄関の扉は開いていたわ。
でもその先は明らかに外じゃなかった。真っ暗闇で、異次元空間のように歪んで見えた。
あんな場所に行ったらどうなっていたかわからない。
なら、いつもの夢と同じ行動するしかない。
比較的大きい屋敷だとは思うけど、迂回できるほどの部屋や廊下があるわけじゃない。
あたしの部屋へは一本道。
進むには、廊下に浮かぶ黒い靄の脇をすり抜けるしかない。
靄から出る手の動きが遅いからきっとなんとかなる。そう思い込むことで、あたしは震えそうになる足を叱咤し駆けた。
すれ違いざまに靄から伸びた手が、腕に軽く触れる。それでも止まるわけには……プシャ、鮮血が迸った。
その時は切られたとわからなかった。
血が噴き出したことに気がついてから、遅れて激痛がやってきた。
「ーーあぁぁぁぁっ!」
痛みに動けない!歩みが止まる!!
特徴的な魔帝の高笑いが脳内にまで響き、トラウマをさらに抉られる。
一瞬のフラッシュバック。目の前がぶれてよく見えない。近づいてくる気配。侵食される。
動かなきゃやられる。……食われる。
「ぁ、ぐ……」
涙で滲む視界の中痛みで激しい息を震わせ、獲物にしかならぬ我が身を恨む。
熱く鼓動を放つ心臓の音と、息の速さは同じだ。
食われる瞬間を、その痛みを想像して涙が一筋頬を伝う。
だが、いつまで経っても魔帝は獲物であるあたしに手を出さなかった。
こぼれ落ちた鮮血にばかり手を這わし、あたし本体には目もくれない。
……むしろあたしが動くのを待っている?
頭痛にまで及ぶ痛みを抱え、あたしは体を叱咤しなおしてゆっくり立ち上がり……そしてそこをあとにした。
「追ってきてる。新手のストーカーみたい」
ずるずると痛む足を引きずり、壁を伝って廊下を歩くと後ろからついてくる気配。
さっきまであたしの血を啜っていたアレが、また動き出した。
もはや魔帝というより、謎の靄。ううん、手が生えてくるから、もじゃもじゃおてておばけって呼びたいくらい。
廊下を進めば壁にかかる鏡が目に入る。
懐かしい鏡だ。学校に行く前はよくここで最後に自分の姿を確認したっけ。
寝癖はなかなか取れてくれなくて、並んで映るお兄ちゃんに髪の毛を直してもらっていたのもまた、この鏡にまつわるいい思い出。
ところが今映るあたしの姿はどうだ。
暗がりの中頬から流れる血は痛々しく首まで垂れ落ち、顔色は蒼白。まるで化け物。
そしてその隣に立つのは最愛の兄ではなくーー
「ぅあ……っ」
ーー黒い靄がともに映り込んだ。
黒い靄から飛び出したその手があたしの腕を素早く滑る。
赤い華が咲いた。
頬、足に飽き足らず、腕まで切られた。
床に作る血のシミが太く、濃くなる。
ずるずると我が身を引きずる速さも、どんどん遅くなる。
魔帝が嘲笑っている気がする。
「うう、痛い……」
血が流れすぎたのか、頭がクラクラしてきた。
ダンテはすごいなぁ……いつもあんなに攻撃受けてるのに、貧血にならないのかな。などと、今考えるべきではなさそうなことが頭をよぎった。
ダンテに、会いたい。
少しでも血を洗い流したくて、廊下の途中にある洗面所の蛇口を捻る。
水道から流れる水が真っ赤に染まっていく中、黒い靄が蛇口の金属にも映り込んだ。
「また……っ!?ん、ぐぅ………、」
白刃が閃くかのように流れる動き。
背中が燃えるように熱く、そしてひどく寒い。
今度は背中が切り裂かれたと気がついた時には、そのまま体が崩れ落ちてしまっていた。
体が動かない。足に力を入れて立ち上がろうとも、生まれたての子鹿のように膝がガクガク震えてすぐに座り込む。
すぐ後ろでは、アレがまた、あたしの血に群がりながら、ニタニタ笑っていた。
物が反射し映り込む媒体は危険だ。
映り込んできたアレを認識した瞬間、切り裂かれた。
ならばもう、何かを見てはいけない。
唇を噛み締め、あたしは壁伝いに必死で歩いた。
あたしが通った後には血の道ができていた。
ここまでこの状態が続くと、恐怖とともにうんざりする気持ちも大きい。
そしてこの満身創痍。怒りすらわいてくる。
さらにはこの終わらぬ廊下。
2階の廊下はこんなに長かったっけ?もうとっくにあたしの部屋についていいはずなんだけど。
なのに、少しずつしか進んでいない気がする。遠くに部屋の扉が見えてはいる。なのにまだ辿り着かない。腹立つ〜!
悪魔によって空間がねじ曲げられ、延々と長い廊下に変わってしまったのかもしれない。
これもまた、あたしを怖がらせるための悪夢を見せているだけなんだろうけど。
ほんと迷惑な悪魔……!あたしにもダンテみたいに悪魔と戦う力があったらいいのに。
悪夢だろうと夢ならば、思いどおりになって然るべき。
美少女スーパー天使ちゃんに変身して、迫り来る悪魔を魔法のステッキで美味しいチーズケーキに変えてしまう、とかどうだろう。
んん、待って。元が悪魔のチーズケーキはお腹壊しそうだし食べるの却下で。
ダンテからしたら雑魚にしかならない、あたしからしたら脅威になる、あたしが初めて目にしたあの悪魔たち。
でも、ホールに出たところでそんなちゃちな悪魔は、この悪夢に存在しないことがわかった。
ホールの中、ぽっかりと浮かぶどす黒い存在。
「なんで、なんで……っ」
ーーなんであたしの家の中に、魔帝の存在が。
まだ雑魚悪魔の方がよかった。
どす黒い靄の中心に、赤く光る三つの目。
腰が抜け、ぺたりと床に膝を、手をついてしまう。強大な魔力の前にあたしの歩みはついに止まった。
ああ、思い出すは魔帝の極悪非道な所業。あたしが受けたトラウマの数々。
恐怖があたしの体をその場へと磔にする。
心臓を握られているかのように胸が苦しい。
呼吸がしづらい。目が回る。
そんなあたしの様子を嘲笑うかのように、黒い靄状の体から、闇色の手が触手のように伸びてきて、周りを侵食し始めた。
手が、あたしに触れる。ただそれだけ。触れただけなのに。
瞬間、頬がすっぱりと切れ、その鮮烈な痛みに意識が覚醒した。
「いたっ……!」
ツツー、ぼたぼたっ。
血が床に落ちてシミを作る。
鮮やかな血を目にした瞬間、手足にも血と酸素が通うようになり、動くことができるようになった。
幸か不幸か、その痛みによって意識を今この時にもどすことが出来たのか。
弾かれたようにホールの階段をかけ上がる。
魔帝は周りへの侵食が遅く、なかなか追ってこない。
それどころか、黒い靄から伸びた無数の手が、あたしが垂らしたたった数滴の血にむらがっているのがみえた。
それは、いつぞやにテレビで見てしまった映画の、人間にむらがるアンデッドさながら。
うぷ、また吐き気が襲ってきた。
「今のうちに急いで行こ」
手はもちろん、あの黒い靄にも触れてはならない。
ただの手に見えるアレに触れられただけで、切れた頬を考えると、触れられればあっという間に血みどろの屍体にされてしまい、ああやって群がられて血肉を啜られてしまう。
しかし、階段を上った先、廊下にもまるで煤やカビか何かのように、ところどころから黒い靄がわきだし、増殖していた。
そのどれにも特徴的な赤い三つ目と、魔力量。
「今、ホールの下にいたよね。なんで上の階にも魔帝の靄が存在しているの?」
ここでなら少しは天使の力が使える。だって思い出の中では、初めて天使の翼が顕現した記念すべき瞬間でもあるんだもの。
その力でよく探ってみれば、屋敷全体、他の部屋にも魔帝と思しき強力な魔の気配を感じ取ることができた。
小さくともそのどれもが、恐ろしい魔帝の塊だ。
「量産型魔帝とかなにそれ聞いてない……!」
この屋敷は見た目はあたしの生家だけど、すでに悪魔に支配された魔界なのね。
思い出を汚されたみたいで本当に悔しい。悔しいけど、あたしには何もできないし恐怖が勝る。
けれど行かなきゃ。他に道がないのはわかってる。
ホールから玄関に出て外へ向かえばよかったって?玄関の扉は開いていたわ。
でもその先は明らかに外じゃなかった。真っ暗闇で、異次元空間のように歪んで見えた。
あんな場所に行ったらどうなっていたかわからない。
なら、いつもの夢と同じ行動するしかない。
比較的大きい屋敷だとは思うけど、迂回できるほどの部屋や廊下があるわけじゃない。
あたしの部屋へは一本道。
進むには、廊下に浮かぶ黒い靄の脇をすり抜けるしかない。
靄から出る手の動きが遅いからきっとなんとかなる。そう思い込むことで、あたしは震えそうになる足を叱咤し駆けた。
すれ違いざまに靄から伸びた手が、腕に軽く触れる。それでも止まるわけには……プシャ、鮮血が迸った。
その時は切られたとわからなかった。
血が噴き出したことに気がついてから、遅れて激痛がやってきた。
「ーーあぁぁぁぁっ!」
痛みに動けない!歩みが止まる!!
特徴的な魔帝の高笑いが脳内にまで響き、トラウマをさらに抉られる。
一瞬のフラッシュバック。目の前がぶれてよく見えない。近づいてくる気配。侵食される。
動かなきゃやられる。……食われる。
「ぁ、ぐ……」
涙で滲む視界の中痛みで激しい息を震わせ、獲物にしかならぬ我が身を恨む。
熱く鼓動を放つ心臓の音と、息の速さは同じだ。
食われる瞬間を、その痛みを想像して涙が一筋頬を伝う。
だが、いつまで経っても魔帝は獲物であるあたしに手を出さなかった。
こぼれ落ちた鮮血にばかり手を這わし、あたし本体には目もくれない。
……むしろあたしが動くのを待っている?
頭痛にまで及ぶ痛みを抱え、あたしは体を叱咤しなおしてゆっくり立ち上がり……そしてそこをあとにした。
「追ってきてる。新手のストーカーみたい」
ずるずると痛む足を引きずり、壁を伝って廊下を歩くと後ろからついてくる気配。
さっきまであたしの血を啜っていたアレが、また動き出した。
もはや魔帝というより、謎の靄。ううん、手が生えてくるから、もじゃもじゃおてておばけって呼びたいくらい。
廊下を進めば壁にかかる鏡が目に入る。
懐かしい鏡だ。学校に行く前はよくここで最後に自分の姿を確認したっけ。
寝癖はなかなか取れてくれなくて、並んで映るお兄ちゃんに髪の毛を直してもらっていたのもまた、この鏡にまつわるいい思い出。
ところが今映るあたしの姿はどうだ。
暗がりの中頬から流れる血は痛々しく首まで垂れ落ち、顔色は蒼白。まるで化け物。
そしてその隣に立つのは最愛の兄ではなくーー
「ぅあ……っ」
ーー黒い靄がともに映り込んだ。
黒い靄から飛び出したその手があたしの腕を素早く滑る。
赤い華が咲いた。
頬、足に飽き足らず、腕まで切られた。
床に作る血のシミが太く、濃くなる。
ずるずると我が身を引きずる速さも、どんどん遅くなる。
魔帝が嘲笑っている気がする。
「うう、痛い……」
血が流れすぎたのか、頭がクラクラしてきた。
ダンテはすごいなぁ……いつもあんなに攻撃受けてるのに、貧血にならないのかな。などと、今考えるべきではなさそうなことが頭をよぎった。
ダンテに、会いたい。
少しでも血を洗い流したくて、廊下の途中にある洗面所の蛇口を捻る。
水道から流れる水が真っ赤に染まっていく中、黒い靄が蛇口の金属にも映り込んだ。
「また……っ!?ん、ぐぅ………、」
白刃が閃くかのように流れる動き。
背中が燃えるように熱く、そしてひどく寒い。
今度は背中が切り裂かれたと気がついた時には、そのまま体が崩れ落ちてしまっていた。
体が動かない。足に力を入れて立ち上がろうとも、生まれたての子鹿のように膝がガクガク震えてすぐに座り込む。
すぐ後ろでは、アレがまた、あたしの血に群がりながら、ニタニタ笑っていた。
物が反射し映り込む媒体は危険だ。
映り込んできたアレを認識した瞬間、切り裂かれた。
ならばもう、何かを見てはいけない。
唇を噛み締め、あたしは壁伝いに必死で歩いた。
あたしが通った後には血の道ができていた。
ここまでこの状態が続くと、恐怖とともにうんざりする気持ちも大きい。
そしてこの満身創痍。怒りすらわいてくる。
さらにはこの終わらぬ廊下。
2階の廊下はこんなに長かったっけ?もうとっくにあたしの部屋についていいはずなんだけど。
なのに、少しずつしか進んでいない気がする。遠くに部屋の扉が見えてはいる。なのにまだ辿り着かない。腹立つ〜!
悪魔によって空間がねじ曲げられ、延々と長い廊下に変わってしまったのかもしれない。
これもまた、あたしを怖がらせるための悪夢を見せているだけなんだろうけど。
ほんと迷惑な悪魔……!あたしにもダンテみたいに悪魔と戦う力があったらいいのに。
悪夢だろうと夢ならば、思いどおりになって然るべき。
美少女スーパー天使ちゃんに変身して、迫り来る悪魔を魔法のステッキで美味しいチーズケーキに変えてしまう、とかどうだろう。
んん、待って。元が悪魔のチーズケーキはお腹壊しそうだし食べるの却下で。