ダンテは２人っきりになった瞬間を思い浮かべて、生唾を飲み込んだ。
むちむちの胸とその胸の谷間、折れてしまいそうな細い腰、そして丸みを帯びたやわらかそうなヒップライン。
全てがダンテを誘う。

想像するとどんどん欲望がわいてきて喉をカラカラに焼けつかせ、それはまるで悪魔の自分が天使を求めている時と同じ。

ダンテはその欲を紛らわすように、あさっての方向を向いた。

「…あちぃな。喉乾いちまった。
泳ぐ前になんか飲もうぜ。買ってくるから何がいい？」
「えーと、お水、かな」
「ＯＫ、じゃあひとっ走り行ってくる」

ダンテは小銭入れを手にすると、走って行ってしまった。

なんかダンテ、変にあせってたなぁ。
不思議そうにしながらディーヴァはダンテを見送ると、目の前の海を眺めた。

人々のはしゃぐ声を抜きに考えれば、さざ波と海鳥だけが歌う海。
髪を傷めてしまいそうだが、潮風が長い髪の間を吹き抜ける。

「綺麗…小さい頃は家族とも来たっけ……」

ダンテと出会う前。
昔に思いを馳せ目を閉じると、家族との想い出がたくさん瞼の裏へ浮かんでくる。

その様子は傍目から見ると一枚の絵画のようでもあり、周りの男達を魅了した。

だが声はかけられずにいる者がほとんど。
神々しく穢してはいけないもののように思えてしまうからだ。
それは無意識にも放たれる天使の気配か否か…。

「キミかわいいね。１人？」
「俺らと遊ばない？」

その時、勇気ある若者がとうとう声をかけた。
勇気あるというかは、この場合自分の欲望に忠実といった方が正しかろう。

「えっ！？…あの……？」

ディーヴァは腕を掴まれ、無理やり立ち上がらされた。
背は小さい方ではあるのだが、たゆんたゆんと揺れる胸など全身が日の光の下へ晒され、露わとなる。

男たちは唾をごくりと飲み込んだ。

「背がちょっと低いけど、やっぱかわいい」
「抱き心地よさそう…。俺に先貸せよ」
「しゃーねぇ。次はおれだからさっさとしろよな」

コソコソ話しているつもりだろうが、聞こえている。
どこかへ連れ込んで何やらするつもりだろうが、それよりも『背が低い』というワードがひっかかった。

ぴくっ
ひきつるディーヴァの表情。

「あたし、連れがいますので……」
「いいじゃんいいじゃん」
「なんならその連れの子も一緒にさぁ？」

この様子では連れ＝女の子と勘違いしているようだ。
ぐいぐいと、そのまま引っ張られて、ディーヴァは歩かされた。

このままでは本気でどこかに連れ込まれてしまう！
ひいいいい！誰か助けてー！！

誰かに助けてもらいたくも、厄介ごとに巻き込まれたくないのか誰も目線を合わせようとはしない。