mission 32:Jackalope ~天使の飼う悪魔~
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家に着くとすぐ、ウサギの治療に入った。
とはいっても相手は悪魔だ、傷を拭いて包帯を巻くとかはあとにして主にディーヴァの『力』を使う。
血を与えて直す、という比較的素早い治療法もあったのだが、それについてはこの家でトップに君臨する赤いコートの悪魔様が首を縦に振らないわけで……。
結局、ディーヴァの手を患部近くにかざしての治癒になった。
手から放出される淡い光。
それはとても優しく癒しの効果こそ高いが、回復のスピードは非常にゆっくりとしたもの。
ウサギの背中についた大きな噛み跡は出血と痛みこそ癒せど、その深い傷跡までは完全に治せなかった。
あまりにも酷かった傷跡は、ウサギの心にも深い傷を負わせたのかもしれない。
心に負った傷は時として肉体に傷跡という形で残る。
「うーん、いくらやってもちゃんと治らない、傷跡残っちゃいそう。痛いよね、ごめんね…」
これ以上やっても自分の方が倒れてしまうだけだ。
天使の力が許すギリギリまで治癒を施し終え、その頭を撫でるディーヴァを心配そうに眺めながら、ダンテは件の悪魔についてこの家で絡みやすい物知り悪魔に聞いた。
「ふむ、悪魔には変わりなさそうだが、ウサギの悪魔…。我も人間界に来てそう長くないからな、そんな弱々しい悪魔の事までは知らぬ」
絡みやすい物知り悪魔とは、ダンテの目の前にお座りする大きな黒いレトリバー、ケルベロスだ。
だが物知りとは言え、テメンニグルの入り口を長らく守っていた門番であるケルベロスが、魔界階級の最下層まで知っているはずもなかった。
ましてや、テメンニグルから離れダンテとディーヴァの元に来てしまった以上、知識を得る術もない。
「やっぱ弱っちい悪魔か。でも弱かろうが悪魔は悪魔だろうしなぁ、どうするかな」
どんなに弱かろうと天使であるディーヴァには危険な生き物。
魔具でダンテと契約しているならまだしも、拾ってきただけの信用できない悪魔は絶対飼いたくない。
だが、愛しのディーヴァが、手当て後にそのまま飼いたいという顔をしているため、勝手にどこかに捨ててくるのはできない。
はてさて困った。
「まず悪魔の素性がわからぬ事にはどうしようもないだろう。…我は話をしたくともあちらは嫌そうだしな」
そうなのだ。
ケルベロスが近づくと何故だか身をよじって嫌がるのだ。
「しゃーねぇ。明日ロダンのとこで聞いてくるか」
「それがよかろう。あの男ならば大抵の悪魔の情報を知っている」
……と、一向によくならない傷跡に包帯をくるりと巻いて治療を終わらせたディーヴァがやってきた。
その手にはいつものエプロンが握られている。
「ダンテ、ケル。あたしこれからご飯の支度しちゃうから、あの子の事よろしくね」
「ディーヴァの頼みとあらば」
「ああ、わかった。その代わり美味いピザ頼むな」
「うふふ、任せて!」
笑顔のディーヴァの、着たばかりのエプロンを外してあーんなことやこーんなことをしたいと心のどこかで考えつつ、ダンテはいつも通りの返事をした。
楽しいことをするのは胃袋が膨れたあとでいい。
ディーヴァがキッチンに行ってしまったあと、ヒソヒソするダンテとケルベロスに囲まれるウサギの悪魔。
「ところでこやつ、何故我を恐れるのだろうな?」
「知らん」
ケルベロスが一歩近づくと壁の隅に一歩逃げる。
何もしてないのに逃げられるという身に覚えのない態度に、さすがのケルベロスも軽くショックだ。
「…まるで普通のウサギのようだな」
「フリだろ、フリ」
猟犬に追われるウサギ狩りのウサギそのままな態度も、ダンテから見れば全てがディーヴァをそそのかすための演技らしい。
だが、その怯え方はそこらへんに生息する野ウサギと同じだった。
「とりあえず他に用がなくば、我は戻る」
「おい、お前もディーヴァにこいつの事頼まれたばっかだろうが」
「我がいたら逃げるのだから、いたところで我に出来ることはなにもあるまい」
そう言って階段下の物置きへと戻っていくケルベロスに、しかたないと溜息を吐きだすダンテ。
「それにしても……」
と、再びウサギの方を見てみる。
「なんとなく小憎たらしいんだよな」
隅で縮こまる様子は確かに、ツノが生えている以外ただのウサギ。
だが、かわいらしい仕草や体躯で、ディーヴァの視線を釘付けにするのが許せん。
……でも、少しディーヴァの気持ちを味わってみたい気もするのだ。
もしかしたらこんな自分でさえ、フワフワしていそうな毛を触ってみれば、どんなに小憎たらしくともかわいく思えるのかもしれない。
同じフワフワなら、ディーヴァの髪の毛でも触っていた方がどれほどいいか…そう思うのを許してほしい。
試しにそろりと手を出して、その背を撫でようとしたら。
「い゛っ!?……こンのっ…!」
ディーヴァ同様、噛まれた。
強さだけで言えばディーヴァを噛んだ時の数十倍もの顎の力で。
すぐに振りほどいたおかげで悪魔の力も働き治ったが、この噛み方…普通の人間なら指が持って行かれていたろう。
さすが、ウサギのナリをしていても悪魔なだけある。
ダンテ、激おこ。
怒りのボルテージが一気に釣り上がり、一瞬にして握られたアイボリーがウサギの体へと突きつけられた。
「あれ?ダンテ、何してるの?」
「ゲッ!ディーヴァ!!な、なんでもねぇよ!?」
と、思いきや背後からやってきたディーヴァの声ですぐに隠す。
お前、命拾いしたな。
「ディーヴァこそどうした?」
「んー。サラダ用に切ってた人参持ってきたの。食べるかなーと思って」
振り返ったディーヴァの手には人参が乗った皿。
それをまだ多少警戒しているウサギの前にそっと置いて、しばし様子を伺い待つ。
「悪魔が人参なんか食うわけな「あ、食べた」は?」
ポリポリ、小気味良い音を立てて噛り、咀嚼している。
朝食の時に見た、サラダを食べるディーヴァそっくり!
それはともかく。
「悪魔なのに人参んん!?こいつ、とことんウサギのフリしやがって!」
「うさぎだもの。ね、ピーター」
ガタリと立ち上がって、抗議。
そんなダンテにも驚かず、のほほんと返事してディーヴァはウサギ……ピーターを撫でた。
「ピーターだぁ?」
「だって名前がないと不便でしょ。あ、ピザが焦げちゃう!」
ディーヴァがいたのはここまで。
キッチンの方から香ばしい匂いがしてきて、彼女はパタパタと戻ってしまった。
「……名前なんかつけたら捨てづらくなるだろうが」
至極嫌そうにダンテは顔を歪めて、人参を食べるピーター(仮)を睨んだ。
とはいっても相手は悪魔だ、傷を拭いて包帯を巻くとかはあとにして主にディーヴァの『力』を使う。
血を与えて直す、という比較的素早い治療法もあったのだが、それについてはこの家でトップに君臨する赤いコートの悪魔様が首を縦に振らないわけで……。
結局、ディーヴァの手を患部近くにかざしての治癒になった。
手から放出される淡い光。
それはとても優しく癒しの効果こそ高いが、回復のスピードは非常にゆっくりとしたもの。
ウサギの背中についた大きな噛み跡は出血と痛みこそ癒せど、その深い傷跡までは完全に治せなかった。
あまりにも酷かった傷跡は、ウサギの心にも深い傷を負わせたのかもしれない。
心に負った傷は時として肉体に傷跡という形で残る。
「うーん、いくらやってもちゃんと治らない、傷跡残っちゃいそう。痛いよね、ごめんね…」
これ以上やっても自分の方が倒れてしまうだけだ。
天使の力が許すギリギリまで治癒を施し終え、その頭を撫でるディーヴァを心配そうに眺めながら、ダンテは件の悪魔についてこの家で絡みやすい物知り悪魔に聞いた。
「ふむ、悪魔には変わりなさそうだが、ウサギの悪魔…。我も人間界に来てそう長くないからな、そんな弱々しい悪魔の事までは知らぬ」
絡みやすい物知り悪魔とは、ダンテの目の前にお座りする大きな黒いレトリバー、ケルベロスだ。
だが物知りとは言え、テメンニグルの入り口を長らく守っていた門番であるケルベロスが、魔界階級の最下層まで知っているはずもなかった。
ましてや、テメンニグルから離れダンテとディーヴァの元に来てしまった以上、知識を得る術もない。
「やっぱ弱っちい悪魔か。でも弱かろうが悪魔は悪魔だろうしなぁ、どうするかな」
どんなに弱かろうと天使であるディーヴァには危険な生き物。
魔具でダンテと契約しているならまだしも、拾ってきただけの信用できない悪魔は絶対飼いたくない。
だが、愛しのディーヴァが、手当て後にそのまま飼いたいという顔をしているため、勝手にどこかに捨ててくるのはできない。
はてさて困った。
「まず悪魔の素性がわからぬ事にはどうしようもないだろう。…我は話をしたくともあちらは嫌そうだしな」
そうなのだ。
ケルベロスが近づくと何故だか身をよじって嫌がるのだ。
「しゃーねぇ。明日ロダンのとこで聞いてくるか」
「それがよかろう。あの男ならば大抵の悪魔の情報を知っている」
……と、一向によくならない傷跡に包帯をくるりと巻いて治療を終わらせたディーヴァがやってきた。
その手にはいつものエプロンが握られている。
「ダンテ、ケル。あたしこれからご飯の支度しちゃうから、あの子の事よろしくね」
「ディーヴァの頼みとあらば」
「ああ、わかった。その代わり美味いピザ頼むな」
「うふふ、任せて!」
笑顔のディーヴァの、着たばかりのエプロンを外してあーんなことやこーんなことをしたいと心のどこかで考えつつ、ダンテはいつも通りの返事をした。
楽しいことをするのは胃袋が膨れたあとでいい。
ディーヴァがキッチンに行ってしまったあと、ヒソヒソするダンテとケルベロスに囲まれるウサギの悪魔。
「ところでこやつ、何故我を恐れるのだろうな?」
「知らん」
ケルベロスが一歩近づくと壁の隅に一歩逃げる。
何もしてないのに逃げられるという身に覚えのない態度に、さすがのケルベロスも軽くショックだ。
「…まるで普通のウサギのようだな」
「フリだろ、フリ」
猟犬に追われるウサギ狩りのウサギそのままな態度も、ダンテから見れば全てがディーヴァをそそのかすための演技らしい。
だが、その怯え方はそこらへんに生息する野ウサギと同じだった。
「とりあえず他に用がなくば、我は戻る」
「おい、お前もディーヴァにこいつの事頼まれたばっかだろうが」
「我がいたら逃げるのだから、いたところで我に出来ることはなにもあるまい」
そう言って階段下の物置きへと戻っていくケルベロスに、しかたないと溜息を吐きだすダンテ。
「それにしても……」
と、再びウサギの方を見てみる。
「なんとなく小憎たらしいんだよな」
隅で縮こまる様子は確かに、ツノが生えている以外ただのウサギ。
だが、かわいらしい仕草や体躯で、ディーヴァの視線を釘付けにするのが許せん。
……でも、少しディーヴァの気持ちを味わってみたい気もするのだ。
もしかしたらこんな自分でさえ、フワフワしていそうな毛を触ってみれば、どんなに小憎たらしくともかわいく思えるのかもしれない。
同じフワフワなら、ディーヴァの髪の毛でも触っていた方がどれほどいいか…そう思うのを許してほしい。
試しにそろりと手を出して、その背を撫でようとしたら。
「い゛っ!?……こンのっ…!」
ディーヴァ同様、噛まれた。
強さだけで言えばディーヴァを噛んだ時の数十倍もの顎の力で。
すぐに振りほどいたおかげで悪魔の力も働き治ったが、この噛み方…普通の人間なら指が持って行かれていたろう。
さすが、ウサギのナリをしていても悪魔なだけある。
ダンテ、激おこ。
怒りのボルテージが一気に釣り上がり、一瞬にして握られたアイボリーがウサギの体へと突きつけられた。
「あれ?ダンテ、何してるの?」
「ゲッ!ディーヴァ!!な、なんでもねぇよ!?」
と、思いきや背後からやってきたディーヴァの声ですぐに隠す。
お前、命拾いしたな。
「ディーヴァこそどうした?」
「んー。サラダ用に切ってた人参持ってきたの。食べるかなーと思って」
振り返ったディーヴァの手には人参が乗った皿。
それをまだ多少警戒しているウサギの前にそっと置いて、しばし様子を伺い待つ。
「悪魔が人参なんか食うわけな「あ、食べた」は?」
ポリポリ、小気味良い音を立てて噛り、咀嚼している。
朝食の時に見た、サラダを食べるディーヴァそっくり!
それはともかく。
「悪魔なのに人参んん!?こいつ、とことんウサギのフリしやがって!」
「うさぎだもの。ね、ピーター」
ガタリと立ち上がって、抗議。
そんなダンテにも驚かず、のほほんと返事してディーヴァはウサギ……ピーターを撫でた。
「ピーターだぁ?」
「だって名前がないと不便でしょ。あ、ピザが焦げちゃう!」
ディーヴァがいたのはここまで。
キッチンの方から香ばしい匂いがしてきて、彼女はパタパタと戻ってしまった。
「……名前なんかつけたら捨てづらくなるだろうが」
至極嫌そうにダンテは顔を歪めて、人参を食べるピーター(仮)を睨んだ。