ああ、またか。
ここに入るのは何度目だろうか。

自分の予想が外れていなけば、自分は今、ダンテの記憶や思い出の中にいる入り込んだ白血球のようなもの。
なんとなくそうだとわかるのだ。
どちらに行けばいいのかも、ディーヴァはわかっていた。

一寸先も見えぬ白い白い霧の中を進めば、聞こえてくるのは小さな啜り泣き。
スンスンと嗚咽を上げるのを必死で耐えているようなそれに、足の動きが早まる。

「泣いてたのはキミ？」

霧の真ん中にいたのは、銀髪に青い目、赤いTシャツに半ズボンという出で立ちの、年の頃は10歳くらいの少年。
この少年がダンテであるのはすぐわかった。
赤いTシャツだからでもなく、見た目からでもなく、なんとなく…としか言いようがないのだ。
10歳前後ということは、ちょうど母親を失い、トニーとして便利屋を営む前か。
ダンテにしては、どこか影のある暗い顔の少年である。

泣いていたのかと聞けば、ブンブンと首を振って目をゴシゴシ擦ってしまった。

「ダンテ、こすっちゃだめだよ」

ディーヴァは、今は自分より小さくなってしまった少年ダンテの手に、そっと触れた。

触れた瞬間。
ダンテが受けただろう、蔑み、憎しみ、負の感情。
ダンテ自身の悔しさ、憤り…そして深い悲しみが一気に、ディーヴァの中に入り込んできた。

まるで感情の坩堝のど真ん中に突き落とされたかのよう。

まだ幼いというのに母親は目の前で死に、双子の兄も、父もいない。
たった一人だから、学生生活も送れずに、ひもじい思いをして過ごした少年時代。
その時受けた、人々からの侮蔑の目と言葉。
スパーダを憎み、その血族である自身を殺そうとする悪魔から逃げ、生活する日々。

今では雑魚と言っているような悪魔にさえ勝てなくて逃げる悔しさ。
そんな弱い自分に向ける怒り。
たった1人で過ごす寂しさ。
そして、時折思い出す、父や母、兄を恋しいと感じた時の隣に誰もいない悲しみ。

そこにいたのは、そんな子供時代を過ごしたダンテだった。
自分が体験したわけでもないのに、まるで自分が体験したかと、そう思うくらいその辛さにホロリと涙がこぼれる。