氷を落としたタンブラータイプのグラスへと静かに注げば、夕焼け空のようなオレンジ色のスプモーニが出来上がった。
すぐさまディーヴァの元に届けられる初めてのお酒。

「綺麗だね」
「そうだな。まぁ…ものは試しだ、さっそく飲んでみろよ」
「うん」

いつの間に頼んでいつの間に届けられたのだろう、ダンテの目の前にはダンテのよく飲んでいた『ジントニック』が置かれていた。
それをチン！と軽く突き合せて、乾杯すると、ディーヴァはそろりと口に含んでみた。

まず初めにトニックウォーターの炭酸がしゅわしゅわ口の中で弾け、次いでカンパリのほろ苦さと酸味のさわやかなグレープフルーツが広がる。
苦いものは苦手だし、実を言えばあまり炭酸も得意ではないが、これくらいなら美味しくいただける。

「少し苦みがあるけど…、さっぱりしてて美味しい！
これホントにお酒？」

レストランの仕事中などで酔っ払いに近づくと、お酒独特のふわふわする感じがあったりで、それだけでいつも酔いそうになるディーヴァ。
だが、実際飲んでみれば拍子抜けしそうなほど、お酒！！という感じがしなかった。

「まごう事なき立派なお酒。ま、最初は弱いのからってことでスプモーニ。だよなロダン？」
「ああ、ディーヴァのために、少し酒の量も抑えめにしてある」
「へー…美味しい……。まるでジュースみたいだね！」

自分はジントニックを口にしながら、ダンテは笑った。

「はは、そりゃよかったな」

それからは皿の中身を減らしながら、他愛のない話をした。
時にいちゃいちゃ、時にからかわれて赤くなり、時にネヴァン達が参戦しての楽しい時間。

その間にもダンテは二杯目のジントニックを空にしており、今は珍しくも、ジョッキに並々と注がれたビールを飲んでいた。
いい飲みっぷりだがピッチが早い、さすがダンテ。

ダンテのジョッキが空になりそうな頃、ようやくディーヴァのタンブラーが氷だけになった。

「ディーヴァに二杯目のカクテルを作ってやってくれ」
「え、あたしまだ飲むの！？」
「は？……逆に聞きたい。
ディーヴァはたった一杯で酒を理解したのか？少しでも酔ったと言えるか？」
「んー…理解、してないし…酔って、ない……たぶん」
「じゃ、まだ飲むよな？ロダン、頼む」

なんだか言いくるめられた感が否めないが、まだまだディーヴァの飲酒は続く。

「好みは？」
「ディーヴァはリンゴが好きなんだ。だからリンゴジュースベースの飲みやすいやつでよろしく」
「ならビッグアップルにしておこう」

ニューヨークの愛称にもなっているビッグアップル。
スクリュードライバーというオレンジジュースを使ったカクテルのジュースを、リンゴジュースに変えただけの簡単なものだが、リンゴが大好きなディーヴァにはもってこいの逸品であろう。

先ほどのスプモーニよりは度数が高いが、まあ…範疇内なハズ。

「リンゴ！！わぁ、楽しみ！」

うきうきわくわくするディーヴァ。
コロコロと変わるその表情が愛しくて、ダンテは無意識の内にまた撫でた。
こうして一日の内に何回も撫でてしまう。

「そんなに撫でたら縮んじゃうよー…」
「縮んでもかわいいから大丈夫だ」
「もう…。あ、人参さん残ってるよ、はい、あーん」

さもなんでもないように、自然な動きでダンテの口にディップをつけた人参スティックを差し出すディーヴァ。

「あーん…うん、美味い。最後の一本くらい、ポッキーゲーム形式で食べればよかったぜ」
「ふふ、それはおうちでやろうね」

拒否されるかと思ったが、家でならやっていいらしい。
よっしゃ！！