『家族……ね』

そうつぶやいたダンテの気持ちは今どんなだろう。
自分の兄弟であるバージルと戦っていることについてどう考えてるんだろうか。

もし自分がダンテだったら？
例えば……今は亡き最愛の兄が人として間違った道に進もうとしているとしたら…。

果たして喧嘩してでも止めるだろうか。
いや、止めたいけど、喧嘩してまで止めることはしないかもしれない。

家族と戦うなんて、ましてや殺し合うなんて考えられないこと。

ダンテに聞いてみたい気がしたが、結局聞けなかった。
その代わりにディーヴァは、繋がれた手のひらを強く握り返した。

二人が部屋を出た後、もはや息がないだろうと思われていたアーカムの指がピクリと動く。
あれだけおびただしい血を流したというのに、まだ生きていたようだ。

「ここはどこだ……暗くて何も見えない」
「……まだ生きてるとはね」

ゆっくりと目を開けたアーカムは、その瞳には何も映していないような言い方をする。
レディは憎き父親に銃口を向けた。
今度こそ、自分でトドメを刺してやる。
そんな意味を込めて。

「メアリ？お前なのか？」

レディの言葉を聞き、その姿を探すように優しい声が発せられた。
メアリ、と呼ばれたレディ。
名前は捨てた、と言っていた彼女の本名はメアリ。

「何が起こった？母さんは無事なのか？」

白々しい。
セーフティを外し今にも発砲しそうになる。

「……母さん？自分で殺しておいて！」
「ああ……そうだ、私はこの手で彼女を……」

怒りに震えるレディ。
その指はちょっとした衝撃で引き金をひくだろう。

「なんて事をしてしまったんだ。私は弱すぎた。……奴に抗う事ができなかったんだ」
「操られてたって言うの？」

アーカムの言葉の意味をとると、今までの行動すべてが何者かに操られてしていたということになる。
レディはもうしゃべれない状態で死にそうになっている父親に駆け寄った。

「父さん！」
「そうだ、私は操られていた。……あの悪魔、バージルに」
「……バージル」

繰り返しつぶやいてその名前を脳に刻み込む。
そしてレディはアーカムの差し出した手を掴んだ。

「あの男は魔界を蘇らせようとしている。スパーダの封じた魔界を」
「スパーダ？あの伝説の？」

ディーヴァがスパーダについて、おとぎ話や伝説としか知らなかったように、レディもスパーダについては同じくらいの事しか知らない。
そんなレディがスパーダが関係しているとわかるわけがない。
ただ、母親と大勢の人間を殺したという父親を追ってきたに過ぎないのだから。

「このままでは世界は混沌に包まれる。奴を止めろ」

一度起き上ろうと試みるが、もうその余力は残されていなかった。
再び横になると起き上ることも、呼吸すらも容易ではない。

「バージルを……止めるんだ……！」
「私が……」

レディのヘテクロミアには透明な滴が光り、零れ落ちていく。
もう一つ零れそうになっていた涙を手で救い上げると、アーカムは父親の優しい顔つきでつぶやいた。

「お前は優しい子だ、母さんによく似て……」

まるで離れていく自分の魂を掴むかのように、天井に腕を伸ばすが、パタリと落ちて……。

そのまま動かなくなった。

「父さん？父さん！」

父の亡骸の前に泣き崩れるレディ。
その手に生前大事に抱えていた本を握らせると、顔をゆっくりと上げた。

「……バージル！」

『バージルを止めろ。』
そう託されたレディの瞳には、涙と共にバージルへの強い憎しみが燃えていた。