二周目 陸
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その後は伊黒さんと時透君が順に蛇柱、霞柱に就任し、最後の一人。蜜璃が恋柱に就任した。
蜜璃は大事な妹弟子だ。大事な友人で、家族みたいなものだ。
だから柱に就任したと聞いた時は心底嬉しかった。なのに、素直に喜べない自分もいた。
ああ、『また』だ。また蜜璃に追い抜かされた、と。
私が甲だったあの頃は、技の速度こそ蜜璃より遅くとも単純な速さは風柱と肩を並べるほど速かったのだ。まあ、さすがに音柱までの速さはなかったけど。
杏寿郎さんがいうには、細くとも素晴らしいばねの足を持っている事が大きかろうとの話だったっけ。細い足って言われてるわけで、女の子としては嬉しいようなでも時代背景や鬼殺隊の事を考えるとそうでもないような。
お尻しかり足しかり、がっしりして太めが好ましく思われていた時代だからね。
私はこんなに頑張ったのに。素晴らしいばねなどと言われているのに。でも蜜璃に比べると全くもって才能がない。
今、私の中は劣等感で真っ黒だ。
なにも、感情という名の部分まで『前』と同じにならなくていいのに。
また、嫉妬してる。
槇寿朗さんが刀を置きたくなる気持ちも、私に鬼殺隊をやめる様にいう気持ちも今ならわかる気がする。
ただ、私のこれは槇寿朗さんの物とは違う。私のこれはただの小汚い悋気だ。槇寿朗さんと一緒にしてはならない。
そりゃあ、私だってあれから戊から丁、丁から丙と階級は上がったよ?
けれど、甲まではまだある。
柱になりたい、とかはないものの、せめて柱の次に頼りになる存在に。杏寿郎さんのすぐ後ろを任せられるくらいの存在になりたいのに。
なのに、また蜜璃にその場所をーー。
ああいやだ!こんな考えするとか、なんて醜い人間だろうか!
どちらにせよ今の私ではまだまだ上弦を倒すまでには至らない。結局のところ鍛錬あるのみなのだと、修行には更に力が入ることになるのであった……。
「カフェーにお茶しに行きましょっ」
そんな折、炎柱邸を訪れた蜜璃から久しぶりに茶のお誘いを受けた。
悋気から恥ずべき考えを持っていた私はこういう話があっても断ろうと思っていた。多少の後ろめたさがあったからだ。
だが任務後でヘトヘトだったのもあり、気がついたら了承して約束を取り付けた後だった。
そして当日である。柱を就任したばかりの蜜璃が、一般隊士である私のお休みに合わせてもぎ取ってきた大事なおやすみ。
断ることもドタキャンすることも、さすがに頭にない。
「いきなり誘ってごめんね!今日は私持ちだから、遠慮しないでたくさん頼んで?」
「あはは、自分の分くらい自分で払うよ。柱に支払ってもらうなんて恐れ多い……!」
令和の記憶がある私からしたら未だ大正ロマンにしか感じない、流れるようなカタカナで描かれたお品書き。それを蜜璃から受け取りながら、手をぶんぶん振る。
「柱だけど柱扱いしないでよォ〜!兄弟弟子……ウウン、姉妹弟子?同士なんだから、そんな他人行儀にされるなんて悲しいわっ」
「……そうね…………うん、そうだね」
春に花開くようにパッと笑う底抜けに明るい蜜璃。不服に口を尖らせぷりぷりする蜜璃。
ころころと変わるその表情達を見ていると、悋気を抱いていた自分がなんだかとても馬鹿馬鹿しく思えてしまった。
「たくさん頼むのは蜜璃ちゃんでしょ?むしろ私が出したいくらいよ?
さ、蜜璃ちゃんは気にしないで自分のを選んで!早く頼まないと、すぐには届かなくなっちゃう!」
「そ、そうね!」
そう脅すように言えば、蜜璃は慌てたようにお品書きを覗き込んだ。たぶん、片っ端から頼むだろうと読んでるけど。
私は大好物のあいすくりんと、お紅茶で。
「んーー!おいしーー!!」
大量のスイーツ。特にお気に入りなのか、たくさん並んだプリンアラモードやらパフェやらをわんこそばのように口に運びながら、蜜璃が幸せそうに頬をぷっくり桃色に染めていた。
ふふ、見てるだけでこちらも幸せになるような、そんな顔しちゃってさ……。女性が苦手だったはずの伊黒さんが好きになるのも、なんだかわかる気がする。
……伊黒さんとは、もう話したのだろうか?
腹ごなしがある程度済んだのか、紅茶で一息入れた蜜璃が私を呼んだ本当の理由を話し出した。
聞いた私はまたクスリと笑うこととなる。
「あのね、今日は朝緋ちゃんとお茶するだけが目的じゃないの。
朝緋ちゃんって、蛇柱の伊黒さんと知己の仲なのよね?その伊黒さんのことで相談があって……」
ぽっと頬を染める蜜璃。
あら?あらあらあらあらぁ〜??
伊黒さんと蜜璃のことを考えていたらこれである。私は笑うしかなかった。
実は私、蜜璃より先に伊黒さんから相談を受けていた。
前述したように伊黒さんは女性が苦手である。それは育った場所・自身の血族による物が理由として大きいが鬼殺隊に入る女性については別。覚悟や経緯が一般の人と違い生き急いでいる部分が、痛々しくて見ていられないとの事。
私のことはよく知っている相手だからと認めていてくれるが、それでも苦手なことに変わりはなく、一定の距離までしか近寄ることができない。
なのにだ。伊黒さんは、蜜璃に一目惚れした。
惚れられたいわけではないが、私と蜜璃ってあんまり変わらなくない?と、初めて聞いたときに言った。殴られた。
なんでも、お館様の屋敷で迷って声をかけてきた時の蜜璃があまりにも普通の女の子で。鬼殺隊に所属する女性独特の苦しさをひとつも感じさせなかったそうだ。
その普通が愛しいと思えた。その普通に救われた。明るく素直で、その眩しさが惹かれるものなのだと。美しいと。惚れたと聞いた。
そこへ来てこれだ。蜜璃が目の前にて、どう考えても伊黒さんに惹かれているように取れる発言をしている。
こりゃもう、キューピッドになるしかない。
まあこれって、『前』と同じなんだけれどね。ただ伊黒さんは、もし私が何回やり直すことになろうと、いや、例え生まれ変わろうと蜜璃のことを何度だって好きになる。きっととかじゃなく、確実に。
蜜璃も同じだ。
私が相槌打つ中、出るわ出るわ花咲きそうだわ。蜜璃による伊黒さんへの片想いの蕾の数々が!桃色の花がそのうちぽんぽんと満開に咲きそうではないか。
「なら文通から始めてみたら?」
かつて『前』の蜜璃と伊黒さんは、文通で思いを少しずつ育んでいた。だから、さも今思いついたように文通へと促す。蜜璃は目をまん丸くしていた。
「えっどどどどうやって切り出すの!?」
「そんなの文通しよーって、ちょちょいっと書いて烏に頼むだけじゃない?柱同士なら、普段から文のやりとりしてるでしょ。
おーい、あずまー」
鎹烏に軽く一声かけると、窓枠にちょんと止まって「ナァニ?」と首を傾げてきた。外に面した席でよかったあ。
その脚に今し方走り書きしたそれを結びつけ空へと飛ばす。
「はいっ!おーくった!」
「えっえっ!?あわわわ……」
蜜璃は文に書かれていた自分の名前と送り先である伊黒さんの文字が見えたようだ。私による文通の提案を前に、おろおろしている。
「大丈夫。絶対大丈夫……!
とはいえ、少しお節介だったかもね……ごめんなさい」
「エエッううん!いいの!!私じゃあ、そんなこと考えもつかなかったからありがたいわっ!朝緋ちゃんがしたなら信用できるもの!」
勝手なことをしたら嫌がられることがあるって忘れていた。『前』は前で、今は今。文通なんてしないかもしれないのに。ありがた迷惑かもしれないのに。けど、蜜璃は心から嬉しそうな顔で笑ってくれた。……よかった。
「文通したらね、その過程で食事に誘うとかもいいと思うよ。ご飯食べてる時の蜜璃ちゃんは特別可愛いもの」
「そ、そんなことないわぁ……っ」
きゃー!と、照れながら手を振り回す蜜璃。
あらあらプリンアラモードのスプーンが飛んでいきそうだよ〜?暴れるのはだめよ。
それにしても……。
「……ほんとかわいいなぁ。私なんか足元に及ばないくらい、蜜璃は女の子らしくていいな」
ぽわぽわと温かい気持ちになりながら、思ったことを静かに口にする。それを聞いていたか聞こえていないかはわからないけども、蜜璃が何処ぞの音柱の壱ノ型ばりの爆弾を落とした。
蜜璃は大事な妹弟子だ。大事な友人で、家族みたいなものだ。
だから柱に就任したと聞いた時は心底嬉しかった。なのに、素直に喜べない自分もいた。
ああ、『また』だ。また蜜璃に追い抜かされた、と。
私が甲だったあの頃は、技の速度こそ蜜璃より遅くとも単純な速さは風柱と肩を並べるほど速かったのだ。まあ、さすがに音柱までの速さはなかったけど。
杏寿郎さんがいうには、細くとも素晴らしいばねの足を持っている事が大きかろうとの話だったっけ。細い足って言われてるわけで、女の子としては嬉しいようなでも時代背景や鬼殺隊の事を考えるとそうでもないような。
お尻しかり足しかり、がっしりして太めが好ましく思われていた時代だからね。
私はこんなに頑張ったのに。素晴らしいばねなどと言われているのに。でも蜜璃に比べると全くもって才能がない。
今、私の中は劣等感で真っ黒だ。
なにも、感情という名の部分まで『前』と同じにならなくていいのに。
また、嫉妬してる。
槇寿朗さんが刀を置きたくなる気持ちも、私に鬼殺隊をやめる様にいう気持ちも今ならわかる気がする。
ただ、私のこれは槇寿朗さんの物とは違う。私のこれはただの小汚い悋気だ。槇寿朗さんと一緒にしてはならない。
そりゃあ、私だってあれから戊から丁、丁から丙と階級は上がったよ?
けれど、甲まではまだある。
柱になりたい、とかはないものの、せめて柱の次に頼りになる存在に。杏寿郎さんのすぐ後ろを任せられるくらいの存在になりたいのに。
なのに、また蜜璃にその場所をーー。
ああいやだ!こんな考えするとか、なんて醜い人間だろうか!
どちらにせよ今の私ではまだまだ上弦を倒すまでには至らない。結局のところ鍛錬あるのみなのだと、修行には更に力が入ることになるのであった……。
「カフェーにお茶しに行きましょっ」
そんな折、炎柱邸を訪れた蜜璃から久しぶりに茶のお誘いを受けた。
悋気から恥ずべき考えを持っていた私はこういう話があっても断ろうと思っていた。多少の後ろめたさがあったからだ。
だが任務後でヘトヘトだったのもあり、気がついたら了承して約束を取り付けた後だった。
そして当日である。柱を就任したばかりの蜜璃が、一般隊士である私のお休みに合わせてもぎ取ってきた大事なおやすみ。
断ることもドタキャンすることも、さすがに頭にない。
「いきなり誘ってごめんね!今日は私持ちだから、遠慮しないでたくさん頼んで?」
「あはは、自分の分くらい自分で払うよ。柱に支払ってもらうなんて恐れ多い……!」
令和の記憶がある私からしたら未だ大正ロマンにしか感じない、流れるようなカタカナで描かれたお品書き。それを蜜璃から受け取りながら、手をぶんぶん振る。
「柱だけど柱扱いしないでよォ〜!兄弟弟子……ウウン、姉妹弟子?同士なんだから、そんな他人行儀にされるなんて悲しいわっ」
「……そうね…………うん、そうだね」
春に花開くようにパッと笑う底抜けに明るい蜜璃。不服に口を尖らせぷりぷりする蜜璃。
ころころと変わるその表情達を見ていると、悋気を抱いていた自分がなんだかとても馬鹿馬鹿しく思えてしまった。
「たくさん頼むのは蜜璃ちゃんでしょ?むしろ私が出したいくらいよ?
さ、蜜璃ちゃんは気にしないで自分のを選んで!早く頼まないと、すぐには届かなくなっちゃう!」
「そ、そうね!」
そう脅すように言えば、蜜璃は慌てたようにお品書きを覗き込んだ。たぶん、片っ端から頼むだろうと読んでるけど。
私は大好物のあいすくりんと、お紅茶で。
「んーー!おいしーー!!」
大量のスイーツ。特にお気に入りなのか、たくさん並んだプリンアラモードやらパフェやらをわんこそばのように口に運びながら、蜜璃が幸せそうに頬をぷっくり桃色に染めていた。
ふふ、見てるだけでこちらも幸せになるような、そんな顔しちゃってさ……。女性が苦手だったはずの伊黒さんが好きになるのも、なんだかわかる気がする。
……伊黒さんとは、もう話したのだろうか?
腹ごなしがある程度済んだのか、紅茶で一息入れた蜜璃が私を呼んだ本当の理由を話し出した。
聞いた私はまたクスリと笑うこととなる。
「あのね、今日は朝緋ちゃんとお茶するだけが目的じゃないの。
朝緋ちゃんって、蛇柱の伊黒さんと知己の仲なのよね?その伊黒さんのことで相談があって……」
ぽっと頬を染める蜜璃。
あら?あらあらあらあらぁ〜??
伊黒さんと蜜璃のことを考えていたらこれである。私は笑うしかなかった。
実は私、蜜璃より先に伊黒さんから相談を受けていた。
前述したように伊黒さんは女性が苦手である。それは育った場所・自身の血族による物が理由として大きいが鬼殺隊に入る女性については別。覚悟や経緯が一般の人と違い生き急いでいる部分が、痛々しくて見ていられないとの事。
私のことはよく知っている相手だからと認めていてくれるが、それでも苦手なことに変わりはなく、一定の距離までしか近寄ることができない。
なのにだ。伊黒さんは、蜜璃に一目惚れした。
惚れられたいわけではないが、私と蜜璃ってあんまり変わらなくない?と、初めて聞いたときに言った。殴られた。
なんでも、お館様の屋敷で迷って声をかけてきた時の蜜璃があまりにも普通の女の子で。鬼殺隊に所属する女性独特の苦しさをひとつも感じさせなかったそうだ。
その普通が愛しいと思えた。その普通に救われた。明るく素直で、その眩しさが惹かれるものなのだと。美しいと。惚れたと聞いた。
そこへ来てこれだ。蜜璃が目の前にて、どう考えても伊黒さんに惹かれているように取れる発言をしている。
こりゃもう、キューピッドになるしかない。
まあこれって、『前』と同じなんだけれどね。ただ伊黒さんは、もし私が何回やり直すことになろうと、いや、例え生まれ変わろうと蜜璃のことを何度だって好きになる。きっととかじゃなく、確実に。
蜜璃も同じだ。
私が相槌打つ中、出るわ出るわ花咲きそうだわ。蜜璃による伊黒さんへの片想いの蕾の数々が!桃色の花がそのうちぽんぽんと満開に咲きそうではないか。
「なら文通から始めてみたら?」
かつて『前』の蜜璃と伊黒さんは、文通で思いを少しずつ育んでいた。だから、さも今思いついたように文通へと促す。蜜璃は目をまん丸くしていた。
「えっどどどどうやって切り出すの!?」
「そんなの文通しよーって、ちょちょいっと書いて烏に頼むだけじゃない?柱同士なら、普段から文のやりとりしてるでしょ。
おーい、あずまー」
鎹烏に軽く一声かけると、窓枠にちょんと止まって「ナァニ?」と首を傾げてきた。外に面した席でよかったあ。
その脚に今し方走り書きしたそれを結びつけ空へと飛ばす。
「はいっ!おーくった!」
「えっえっ!?あわわわ……」
蜜璃は文に書かれていた自分の名前と送り先である伊黒さんの文字が見えたようだ。私による文通の提案を前に、おろおろしている。
「大丈夫。絶対大丈夫……!
とはいえ、少しお節介だったかもね……ごめんなさい」
「エエッううん!いいの!!私じゃあ、そんなこと考えもつかなかったからありがたいわっ!朝緋ちゃんがしたなら信用できるもの!」
勝手なことをしたら嫌がられることがあるって忘れていた。『前』は前で、今は今。文通なんてしないかもしれないのに。ありがた迷惑かもしれないのに。けど、蜜璃は心から嬉しそうな顔で笑ってくれた。……よかった。
「文通したらね、その過程で食事に誘うとかもいいと思うよ。ご飯食べてる時の蜜璃ちゃんは特別可愛いもの」
「そ、そんなことないわぁ……っ」
きゃー!と、照れながら手を振り回す蜜璃。
あらあらプリンアラモードのスプーンが飛んでいきそうだよ〜?暴れるのはだめよ。
それにしても……。
「……ほんとかわいいなぁ。私なんか足元に及ばないくらい、蜜璃は女の子らしくていいな」
ぽわぽわと温かい気持ちになりながら、思ったことを静かに口にする。それを聞いていたか聞こえていないかはわからないけども、蜜璃が何処ぞの音柱の壱ノ型ばりの爆弾を落とした。