二周目 伍
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「日が落ちて鬼の時間になったな。鬼殺の準備はできているか?」
「ええ、できていますとも」
自身の炎である、日輪刀の柄をそっと撫でる。金属の柄がとってもつめたぁ〜い!触って後悔した。
季節は初冬。今年の冬はたぶんすごく寒い冬なのだろう、初冬だというのにすでに雪がちらつき、川は薄く凍っている。
今回鬼が出没するのは、そんな寒い山奥の川沿いだ。
何でこんな場所に!と、文句たらたらである。こんな寒いのに鬼の奴め!年中無休はコンビニだけにしてくれ!!私はロールキャベツのおでんとふわふわはんぺんが食べたい!!
吐いたため息は真っ白だった。
「ほら、刃を出してくれ」
杏寿郎さんが日輪刀を抜いてその刃をチラつかせる。雪こそ降ってはいないが、寒い中で見るそれは余計に寒さを感じさせる。
「柄を握るにも寒いな。早く鬼を討伐して帰りたいものだ」
「同意します……」
同じように刀を抜き、お互いの刃を重ねて軽く打ち合わせる。
静かな山に金属音がキィンと響き、音の涼しさで余計寒々しく感じた。
生きて帰る。
その意味を込めて私たちはいつからか、合同任務の前に金打を毎回行うようになっていた。
……今回で十回目くらいだろうか。何度打ち合わせてもこの金打には慣れることがない。
互いの目を見つめながら静かに打ち合うこの瞬間、どうしても緊張してしまう。
てか、十回!継子だからか合同任務多いな!?
そう。正式に継子として周りからも認識されたからだろうか。杏寿郎さんとの合同任務が格段に増えている。
今回もまた、柱と継子による連携の鬼退治だ。
まぁ、同じ呼吸を使っている者同士だし、長らく共に暮らしていて互いの癖もわかっている。連携はこれ以上ないほどとりやすかった。討伐数ものびている。
しかし伸びてはいるものの、それは私の討伐数に入ることは少ない。私はあれから階級が上がっていなかった。
焦っても仕方ないけれど、多少焦る。
寒さも本当に身に堪えることだし、早く鬼を倒したくてたまらない。私が頸を取りたい。私の討伐数として数えられるためにも。
金打をしてそのまま、私は鬼の気配を探るべくして川辺を駆けた。
動けば少しでも暖を取れるし、日も落ちた今なら鬼も動き出すだろうから。
それに私は、鬼のだーいすきな稀血だ。
川に隣する茂みの辺りだろうか?鬼独特の禍々しい気配が漏れ出しているよう。
「む。朝緋の方が先に鬼に気がついたか!」
違うよ、杏寿郎さん。
風柱である不死川さんは、自身の稀血を使って鬼を誘い出したり油断させて鬼を討伐する手法をとるらしい。あまり褒められた方法ではないが、今回私も同じ手法を取った。ほんのちょっぴり指先を切り、血の香りをわずかに漂わせた。
この耐え難い寒さが私を駆り立てたのだ。
鬼の姿は未だ見えない。だが、場所は何となく探れる。そうだ、そこだ!ほら、鬼の巨大な体、そして頸が見えてーー。
「壱ノ型・不知火ッ!」
「違うッそこじゃない朝緋っーー!」
「ぇ、」
炎の呼吸最速の技で頸を払おうとしたが、それは不発に終わり鬼の姿が霧散する。杏寿郎さんが叫ぶ中私が躍り出たのは茂みの向こう。薄氷の張る冷たい冷たい川の上。
バリン!ドボンッ!
割れた氷。冷たい飛沫が上がり私は水の中へ。間一髪肺に入れた空気だけが私の頼りだった。
ぎゃあ!冷たいいいいい!?肺が!心臓が凍りそう!!
って、目の前に緩やかに動くのは第一村人ならぬ、一人の鬼!
「ようこそ、稀血の鬼狩りさん。貴女が斬ろうとしたのは私が作った、相手を誘う水の幻。私は人間を川に落として溺れさせてから、ゆっくりと食べるのがだぁい好きなの」
川の中だ!川に潜んでいたのか!
人間の時はさぞや綺麗な女性だったろうに、今は西洋の人魚のような鬼である。水かきやヒレ、エラが美しかったはずの顔の造形を邪魔している。
「貴女は泳げる?どのくらい息が続く?この冷たい水の中、体温は持つのかしら?
この上は薄氷だと思う?残念だけど、薄く見えるこれは鋼より固くて逃げたくとも割れやしない。どちらにせよ、貴女の炎の呼吸は水に弱いでしょう?逃げられないわね。まぁ……」
ニタリと笑う鬼がくるくると私の周りを泳ぎ回り、その形相を変えた。
「息や体温が続くとしても此方は待たないし逃がさないけどねぇぇぇ!!」
「〜〜〜ッ!?」
……気持ちの悪い人面魚に。
ってうわほんとだ!私が割ったはずの氷が元通りに固まっている上に、杏寿郎さんが上から叩き割ろうとしてるぅ!下から見上げた杏寿郎さんもかっこよ……いやそれどころじゃないッ!
つまり自分で何とかしないといけないということだ!
肺に残る酸素を攻撃の呼吸に変換する。同じタイミングで杏寿郎さんの炎も激しく燃え盛っていた。
炎の呼吸使いだからって、私の。そして私達の炎は水なんかで消えたりしない。
「ごぼっ(炎の呼吸が水に弱いと、いつから錯覚していた?)」
「何ですって!?」
水中から私の弐ノ型が、地上から杏寿郎さんの参ノ型が鬼に向かって放たれる。
水の中だろうと関係ない。大顎で獲物を捕らえる大鰐の如く、その刃は鬼を離さない。
こちとら一人は柱だぞ!上と下から閉じたそれに薄氷は割れ、鬼の頸に刃が届く!
あっけなくも鬼の頸が飛んだ。
「ガッ……!な、この私が、私の頸、がぁぁぁ……っ」
水の中、燃えるように消えていく鬼の体。同時に私は地上へと引き上げられた。
「朝緋ッ!!大丈夫かっ!?」
「ぷはぁーーっ!……だ、大丈夫、で……、へ、へ、へっぷしっ!!」
やっとこさ呼吸を再開できる。と思ったら盛大なくしゃみ。だって寒いんだもんよ。
だから肩までもう一度水に浸かる。
「水から上がると空気のせいで余計寒い……」
「だが上がらないと帰れんぞ!」
「わかってますよう……上がりますって。
ここまで寒いといくら水に強い隊服でも効果ないですね。温泉入りたい」
そう思いながらもおでんに思いを馳せる。
おでんはこの時代、煮込み田楽と呼ばれていた。具材も種類があんまりない。
ないなら作るしかないなぁなんておでんの種類を思い出しつつ水から這い出ると、炎柄で体をふわりと包まれた。次いで姫抱っこだ。
「温泉でなくて申し訳ない。少しの間これで我慢してくれ」
「ちょ、これはだめです!大事な炎柱の羽織ですよ!?」
「この羽織は人々を守る象徴だ!その人々の中には、朝緋、君も入っている。人を守るため使うことこそ本望!」
「せめて、私を抱き上げるのはやめてください!柱にだっこなんて恐れ多いっ」
「だが空気にあたれば体が冷えるのだろう!それに君の体の方は正直だぞ?」
寒いからこのあったか炎柱の体から離れたくないと勝手にしがみつく自分の体のことを言ってるのはわかる。
けど、体は正直だなんて!言い方がえっっっち!!
「はあ〜〜〜。隊士なのに寒さに負けて師範に抱えられるとは不甲斐ない……穴があったら入りたいです……」
「うんうん。帰ったら布団で洞穴を作ってやろうな。さ、大人しく俺に抱えられてくれ。
昔のように、そのまま眠っていてもいい」
昔のように、かあ。私が思い馳せる昔というのは、今現在ここにいる私の幼少期ではなく貴方が亡くなってしまったあの悪夢のような昔なのになあ。
あの悪夢は今もなお、不治の病のように私の中に巣食ったままだ。
それでも冷えた体には、この杏寿郎さんの常人よりは高い体温と風除けの羽織、そして揺り籠のような心地よい揺れが程良く。
いつの間にか寝入ってしまっていた。
「ええ、できていますとも」
自身の炎である、日輪刀の柄をそっと撫でる。金属の柄がとってもつめたぁ〜い!触って後悔した。
季節は初冬。今年の冬はたぶんすごく寒い冬なのだろう、初冬だというのにすでに雪がちらつき、川は薄く凍っている。
今回鬼が出没するのは、そんな寒い山奥の川沿いだ。
何でこんな場所に!と、文句たらたらである。こんな寒いのに鬼の奴め!年中無休はコンビニだけにしてくれ!!私はロールキャベツのおでんとふわふわはんぺんが食べたい!!
吐いたため息は真っ白だった。
「ほら、刃を出してくれ」
杏寿郎さんが日輪刀を抜いてその刃をチラつかせる。雪こそ降ってはいないが、寒い中で見るそれは余計に寒さを感じさせる。
「柄を握るにも寒いな。早く鬼を討伐して帰りたいものだ」
「同意します……」
同じように刀を抜き、お互いの刃を重ねて軽く打ち合わせる。
静かな山に金属音がキィンと響き、音の涼しさで余計寒々しく感じた。
生きて帰る。
その意味を込めて私たちはいつからか、合同任務の前に金打を毎回行うようになっていた。
……今回で十回目くらいだろうか。何度打ち合わせてもこの金打には慣れることがない。
互いの目を見つめながら静かに打ち合うこの瞬間、どうしても緊張してしまう。
てか、十回!継子だからか合同任務多いな!?
そう。正式に継子として周りからも認識されたからだろうか。杏寿郎さんとの合同任務が格段に増えている。
今回もまた、柱と継子による連携の鬼退治だ。
まぁ、同じ呼吸を使っている者同士だし、長らく共に暮らしていて互いの癖もわかっている。連携はこれ以上ないほどとりやすかった。討伐数ものびている。
しかし伸びてはいるものの、それは私の討伐数に入ることは少ない。私はあれから階級が上がっていなかった。
焦っても仕方ないけれど、多少焦る。
寒さも本当に身に堪えることだし、早く鬼を倒したくてたまらない。私が頸を取りたい。私の討伐数として数えられるためにも。
金打をしてそのまま、私は鬼の気配を探るべくして川辺を駆けた。
動けば少しでも暖を取れるし、日も落ちた今なら鬼も動き出すだろうから。
それに私は、鬼のだーいすきな稀血だ。
川に隣する茂みの辺りだろうか?鬼独特の禍々しい気配が漏れ出しているよう。
「む。朝緋の方が先に鬼に気がついたか!」
違うよ、杏寿郎さん。
風柱である不死川さんは、自身の稀血を使って鬼を誘い出したり油断させて鬼を討伐する手法をとるらしい。あまり褒められた方法ではないが、今回私も同じ手法を取った。ほんのちょっぴり指先を切り、血の香りをわずかに漂わせた。
この耐え難い寒さが私を駆り立てたのだ。
鬼の姿は未だ見えない。だが、場所は何となく探れる。そうだ、そこだ!ほら、鬼の巨大な体、そして頸が見えてーー。
「壱ノ型・不知火ッ!」
「違うッそこじゃない朝緋っーー!」
「ぇ、」
炎の呼吸最速の技で頸を払おうとしたが、それは不発に終わり鬼の姿が霧散する。杏寿郎さんが叫ぶ中私が躍り出たのは茂みの向こう。薄氷の張る冷たい冷たい川の上。
バリン!ドボンッ!
割れた氷。冷たい飛沫が上がり私は水の中へ。間一髪肺に入れた空気だけが私の頼りだった。
ぎゃあ!冷たいいいいい!?肺が!心臓が凍りそう!!
って、目の前に緩やかに動くのは第一村人ならぬ、一人の鬼!
「ようこそ、稀血の鬼狩りさん。貴女が斬ろうとしたのは私が作った、相手を誘う水の幻。私は人間を川に落として溺れさせてから、ゆっくりと食べるのがだぁい好きなの」
川の中だ!川に潜んでいたのか!
人間の時はさぞや綺麗な女性だったろうに、今は西洋の人魚のような鬼である。水かきやヒレ、エラが美しかったはずの顔の造形を邪魔している。
「貴女は泳げる?どのくらい息が続く?この冷たい水の中、体温は持つのかしら?
この上は薄氷だと思う?残念だけど、薄く見えるこれは鋼より固くて逃げたくとも割れやしない。どちらにせよ、貴女の炎の呼吸は水に弱いでしょう?逃げられないわね。まぁ……」
ニタリと笑う鬼がくるくると私の周りを泳ぎ回り、その形相を変えた。
「息や体温が続くとしても此方は待たないし逃がさないけどねぇぇぇ!!」
「〜〜〜ッ!?」
……気持ちの悪い人面魚に。
ってうわほんとだ!私が割ったはずの氷が元通りに固まっている上に、杏寿郎さんが上から叩き割ろうとしてるぅ!下から見上げた杏寿郎さんもかっこよ……いやそれどころじゃないッ!
つまり自分で何とかしないといけないということだ!
肺に残る酸素を攻撃の呼吸に変換する。同じタイミングで杏寿郎さんの炎も激しく燃え盛っていた。
炎の呼吸使いだからって、私の。そして私達の炎は水なんかで消えたりしない。
「ごぼっ(炎の呼吸が水に弱いと、いつから錯覚していた?)」
「何ですって!?」
水中から私の弐ノ型が、地上から杏寿郎さんの参ノ型が鬼に向かって放たれる。
水の中だろうと関係ない。大顎で獲物を捕らえる大鰐の如く、その刃は鬼を離さない。
こちとら一人は柱だぞ!上と下から閉じたそれに薄氷は割れ、鬼の頸に刃が届く!
あっけなくも鬼の頸が飛んだ。
「ガッ……!な、この私が、私の頸、がぁぁぁ……っ」
水の中、燃えるように消えていく鬼の体。同時に私は地上へと引き上げられた。
「朝緋ッ!!大丈夫かっ!?」
「ぷはぁーーっ!……だ、大丈夫、で……、へ、へ、へっぷしっ!!」
やっとこさ呼吸を再開できる。と思ったら盛大なくしゃみ。だって寒いんだもんよ。
だから肩までもう一度水に浸かる。
「水から上がると空気のせいで余計寒い……」
「だが上がらないと帰れんぞ!」
「わかってますよう……上がりますって。
ここまで寒いといくら水に強い隊服でも効果ないですね。温泉入りたい」
そう思いながらもおでんに思いを馳せる。
おでんはこの時代、煮込み田楽と呼ばれていた。具材も種類があんまりない。
ないなら作るしかないなぁなんておでんの種類を思い出しつつ水から這い出ると、炎柄で体をふわりと包まれた。次いで姫抱っこだ。
「温泉でなくて申し訳ない。少しの間これで我慢してくれ」
「ちょ、これはだめです!大事な炎柱の羽織ですよ!?」
「この羽織は人々を守る象徴だ!その人々の中には、朝緋、君も入っている。人を守るため使うことこそ本望!」
「せめて、私を抱き上げるのはやめてください!柱にだっこなんて恐れ多いっ」
「だが空気にあたれば体が冷えるのだろう!それに君の体の方は正直だぞ?」
寒いからこのあったか炎柱の体から離れたくないと勝手にしがみつく自分の体のことを言ってるのはわかる。
けど、体は正直だなんて!言い方がえっっっち!!
「はあ〜〜〜。隊士なのに寒さに負けて師範に抱えられるとは不甲斐ない……穴があったら入りたいです……」
「うんうん。帰ったら布団で洞穴を作ってやろうな。さ、大人しく俺に抱えられてくれ。
昔のように、そのまま眠っていてもいい」
昔のように、かあ。私が思い馳せる昔というのは、今現在ここにいる私の幼少期ではなく貴方が亡くなってしまったあの悪夢のような昔なのになあ。
あの悪夢は今もなお、不治の病のように私の中に巣食ったままだ。
それでも冷えた体には、この杏寿郎さんの常人よりは高い体温と風除けの羽織、そして揺り籠のような心地よい揺れが程良く。
いつの間にか寝入ってしまっていた。