二周目 伍
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「ここに住まうとよかろう。継子なのだし、朝緋は俺の家族でもあるのだから、当然の権利と言えよう」
『前』にも二年近く住んでいた炎柱邸だ。
候補に入れなかったのかって?正直に言おう。少しは考えていた。相手は拗らせるほどに好きな相手だし。
だがそんな甘えは自分が許さなかったのだ。
けれど己の気持ちを律することに成功した矢先に、他でもない杏寿郎さんによってその思いは打ち破られてしまったわけで。
「いや、さすがにそういうわけには。また同じ轍を踏むわけには……」
「また?わだち?うーん、相変わらず朝緋はよくわからない物言いをする!
俺は兄として、家族として、師範として……そして上官として!朝緋がよくわからぬ場所に住むことを許可しない!!」
ドーン!という効果音付きで、腕組み仁王立ちで堂々と言われた。なんて眩しい顔と声だろう。
でも上官としてだなんて。
「職権濫用……」
「なんとでも言うがいい!俺は君にここに住んで欲しい!」
わはは!と笑う杏寿郎さんのおかげで、なんだか体だけでなく心も暖かくなった気がする。そのままぽんぽんとまた、頭を撫でられた。
「稽古をつけるにも共に住んでしまった方が都合がよかろう。やりとりをするにも鎹烏に負担をかけずに済む」
「んむむ……鎹烏に負担をかけずに……」
今夜もどこか近い場所で待機しているであろう、自らの鎹烏・あずまを思う。杏寿郎さんの鎹烏・要と比べると体が小さく、力のない雌の鴉……。彼らに負担をかけるのはいただけない。
「何より、君の行く場所が本当に安全なところなのか、俺は心配だ。稀血というのもあるが、朝緋は鬼殺隊士だとはいえ一人の魅力ある女性なのだから」
「女性……。じゃあ、お言葉に甘えて。これからよろしくお願いします」
心底心配をしていることが、頭に置かれた手のひらからも伝わってきた。そこにきて魅力ある女性扱い。
ころりと落ちた。
「よし!決まりだ!これでこの話は終いだな!」
パンッ!手のひらを大きく叩いたと思えば、庭に置きっぱなしであった私の大荷物を即座に運んできた杏寿郎さん。
はあーーー相変わらず決断が早い。
って。あれあれあれ?よく考えたら、好いた相手の家に転がり込むことになってしまったわ。
……いいのかしら?
「いいのではないですか?」頭の中にいる、千寿郎の姿をした天使がそう答えた気がする。
そうして勝手知ったるその間取りは、『前』と同じもので。
「まるで朝緋の方がこの家を知っているようだな!通いの奉公さんも必要なさそうだ!」
「あはは、そうですね」
杏寿郎さんからそう言われてしまうほどだった。
しかし奉公人のこれは冗談だと思ったけど、本当のことだった。後日、奉公人の来訪はぴたりと止んだ。
ここは小さめの一戸建てだし、家事についてもやることなんてそんなにないからいいけども、これで杏寿郎さんから余計離れられなくなったわけだ。……杏寿郎さんには火を使わせられないからね。
道場は併設されているし鍛錬のしやすい森が裏手に広がるが、煉獄家の生家よりも小さな炎柱邸。
かつてこの家を賜った槇寿朗さんは、どちらかというと休憩の場。そして他の隊士の詰所としてのみ利用したという。
用立てもなかったそんな炎柱邸には、個室に出来そうな部屋は三つほどしかない。そのうち一つは未来で言うリビングルームに当たる共用スペースだし食事をする部屋でもある。
つまり、襖を開ければすぐに私の部屋と杏寿郎さんの部屋は繋がる。
私の部屋と、杏寿郎さんの部屋は隣同士だ。
『前』の時の経験があるから、そこまで身構える必要はないけれど、今現在ここに存在する煉獄杏寿郎はやたらと距離が近い。
杏寿郎さんは、襖を開けたがった。なんなら取り払ってしまおうというくらいで。
頼むから寝る時くらいは閉めさせて欲しい。
いや!嬉しいけれどもね!?でも乙女としては恥ずかしい気持ちが勝る。
というわけで大抵私はお勝手場に逃げていた。炊ぎは私の独壇場だしね!
しかし、その内装や置いてあるものについてはいただけないものが多かった。
案内された部屋で一晩明かし、朝になってお茶を淹れに明るくなったそこを覗けば。
「これ、いつの茶葉です……?」
昨晩は暗くて気がつかなかったが、お勝手場はあまり綺麗とは言い難い有様だった。こんな場所で湯呑み片手に語り合っていたなんて。いやいい、湯呑みや薬缶は綺麗に洗ってから使ったし、これから掃除すればいいだけのこと。それよりもだ。
茶筒の蓋がきちんと閉まっていない。時化て香りが飛んでいるだけならまだしも、中に虫がついてしまっていた。……キレそう。
「それは確か、少し前までいた継子の男子が……」
「師範が扱ったものではないのですね?」
「断じてちがう!」
お茶の時間を大切にしていた私にとって、茶葉とはとても大事な物。それをわかっているからか、杏寿郎さんが青い顔で断言する。
青い顔の杏寿郎さんなんて、珍しいものを見たなぁ。
「マア、そうですよね。
男の子が全員そうとは限りませんけど、鬼殺隊士の男子、剣技は素晴らしいのに生活の端々がなっていない子がいるのは確かですからね。なんでちゃんと蓋くらい閉めなかったのか……。
私が家から茶葉持ってきていなかったら、今すぐにお茶をいれることはできなかったですよ」
「……小姑のようだな」
「ん゛?」
「訂正する。会ったことはないがまるで上弦の鬼のようだな」
凄んで見せれば、大変不名誉なことを言われた。私を鬼に。しかも上弦になど例えてほしくないものだ。
いつも朝は外で食べるか、奉公人が届けに来る大量のおむすびを食していたとの話だ。
だが、お腹は減るけど今は何もない。お腹の大合唱をBGMに、私は食材の買い出しに出た。杏寿郎さんは同じく腹の虫を子守唄にすやすやと寝ながらお留守番だ。
お互い任務があるにしても、朝から言い渡されることは稀だろうし、そもそもが杏寿郎さんは任務から帰ったばかり。柱だからといってすぐに任務へ……なぁんて、そこまで酷なことはしてこないだろう。あるとしたら昨日非番だった私宛てだ。
買い物ついでに一度生家にこっそりと寄った。大量のあれをとってこないとと思ったからだ。
この時間なら、千寿郎は起きていても槇寿朗さんは起きていないし。
そうして炎柱邸に響き渡る穴掘りの音。それから鼻に届く食欲をそそる料理の香り。
「いい匂いだな!!」
はらっぺらしが起きてきた。
「いつのまに帰ってきたのだ?いい匂いがするまで気がつかないとは柱として不甲斐なし!穴があったら」
「入らなくていいですよ。
よく眠っていたので、起こさないようにしたんです。このお勝手には侵入禁止の線がないからといって、危ないのであまり後ろから覗かないでくださいね」
「すまない。腹が減りすぎてそわそわしてしまってな!俺としたことが、落ち着きのない子供そのものだったな!!」
そんな貴方も好きですけどね。その言葉はぐっと飲み込む。
「仕方のない人ですねー……これを食べていていいので、お部屋で待っていてください」
「これは……!」
杏寿郎さんの前に出したのは、つやつや黄金色に輝き、上にほんのり香ばしく焦げ色のついた俵型の焼き菓子。
「すいーとぽてと!!」
「はい、そうです。全部師範のものですよ。
スイートポテトやお芋のお料理をたくさん作る約束がありましたでしょう?まだでしたからね」
芋を使った菓子を目の前に、芋の黄金色よりもキラキラと輝く杏寿郎さんの瞳。
「わっしょい!ありがとういただきます美味いッ!わっしょい!!」
食べる前からわっしょいが飛び出し、一口食べた後も、裏切ることなくわっしょいの言葉が飛び出した。
「他にもさつまいもの味噌汁も……ってこりゃ聞こえてないな」
気がつけば大喜びで皿を抱えて行ってしまったあとだった。
食事前に菓子はと思ったけど、杏寿郎さんだし、スイートポテトをたくさん食べてもまだまだ入るだろう。今日は特別だ、目を瞑ろう。
「わっしょい!!」
杏寿郎さんの大きな声ではここまでよく聞こえた。
その後スイートポテトだけでなくその他の料理も、綺麗に平らげられた。空の皿を目の前に食後のお茶を啜りながら今後の予定などを話し合う。
よく考えたら、これから正式に継子としての活動もするわけだ。こういう話し合いは早い方がいい。
「あ、そだそだ。
芋は煉獄家の穴から半分以上移動しておきました。勝手して申し訳ありませんが、裏手の一部をお借りしまして貯蔵用のさつま穴を掘らせていただきました」
「それはいいが、やることが早いな!」
「ふふふ。芋は貴方にとって大事な食料でしょう?可能ならさつまいも畑も作らせていただく予定です。煉獄家の一人むす……炎柱の継子なので、判断も行動も素早く、ですよ」
「うむ、早いのはいいことだ」
一人娘という言葉から継子という言葉に変えた私に、何か言いたそうにしながらも杏寿郎さんは頷いた。
「ならばお館様や他の者への挨拶も、早い方がよかろう。通常ならば紹介する必要もそうないことだが、ちょうど臨時柱合会議が開かれるから挨拶しておこう!」
「ええっ」
する必要ないとはいえお館様はともかくとして、他の者ってもしかしなくても他の柱だよね。蟲柱のしのぶさんは友達だからいいし、水柱の冨岡さんも任務を共にしたことがあるからいい。
けれど他の柱は……ちょっと抵抗あるなあ。でもしておこう、って言い切ったから従う他ない。
……それにしたって。
「最近臨時の柱合会議多くないですか?師範の柱就任についても臨時でしたよね」
「まあな。ここ数年で鬼の動向が活発化している。その分臨時の柱合会議も多いのだろう」
鬼の動向が活発化……。私の中の「上弦の某鬼絶対殺すマン」がアップを開始した。
おかげさまで、お互い任務の連絡が入るまでの間、腹ごなしにしては苛烈すぎる鍛錬に熱が入ってしまった。
『前』にも二年近く住んでいた炎柱邸だ。
候補に入れなかったのかって?正直に言おう。少しは考えていた。相手は拗らせるほどに好きな相手だし。
だがそんな甘えは自分が許さなかったのだ。
けれど己の気持ちを律することに成功した矢先に、他でもない杏寿郎さんによってその思いは打ち破られてしまったわけで。
「いや、さすがにそういうわけには。また同じ轍を踏むわけには……」
「また?わだち?うーん、相変わらず朝緋はよくわからない物言いをする!
俺は兄として、家族として、師範として……そして上官として!朝緋がよくわからぬ場所に住むことを許可しない!!」
ドーン!という効果音付きで、腕組み仁王立ちで堂々と言われた。なんて眩しい顔と声だろう。
でも上官としてだなんて。
「職権濫用……」
「なんとでも言うがいい!俺は君にここに住んで欲しい!」
わはは!と笑う杏寿郎さんのおかげで、なんだか体だけでなく心も暖かくなった気がする。そのままぽんぽんとまた、頭を撫でられた。
「稽古をつけるにも共に住んでしまった方が都合がよかろう。やりとりをするにも鎹烏に負担をかけずに済む」
「んむむ……鎹烏に負担をかけずに……」
今夜もどこか近い場所で待機しているであろう、自らの鎹烏・あずまを思う。杏寿郎さんの鎹烏・要と比べると体が小さく、力のない雌の鴉……。彼らに負担をかけるのはいただけない。
「何より、君の行く場所が本当に安全なところなのか、俺は心配だ。稀血というのもあるが、朝緋は鬼殺隊士だとはいえ一人の魅力ある女性なのだから」
「女性……。じゃあ、お言葉に甘えて。これからよろしくお願いします」
心底心配をしていることが、頭に置かれた手のひらからも伝わってきた。そこにきて魅力ある女性扱い。
ころりと落ちた。
「よし!決まりだ!これでこの話は終いだな!」
パンッ!手のひらを大きく叩いたと思えば、庭に置きっぱなしであった私の大荷物を即座に運んできた杏寿郎さん。
はあーーー相変わらず決断が早い。
って。あれあれあれ?よく考えたら、好いた相手の家に転がり込むことになってしまったわ。
……いいのかしら?
「いいのではないですか?」頭の中にいる、千寿郎の姿をした天使がそう答えた気がする。
そうして勝手知ったるその間取りは、『前』と同じもので。
「まるで朝緋の方がこの家を知っているようだな!通いの奉公さんも必要なさそうだ!」
「あはは、そうですね」
杏寿郎さんからそう言われてしまうほどだった。
しかし奉公人のこれは冗談だと思ったけど、本当のことだった。後日、奉公人の来訪はぴたりと止んだ。
ここは小さめの一戸建てだし、家事についてもやることなんてそんなにないからいいけども、これで杏寿郎さんから余計離れられなくなったわけだ。……杏寿郎さんには火を使わせられないからね。
道場は併設されているし鍛錬のしやすい森が裏手に広がるが、煉獄家の生家よりも小さな炎柱邸。
かつてこの家を賜った槇寿朗さんは、どちらかというと休憩の場。そして他の隊士の詰所としてのみ利用したという。
用立てもなかったそんな炎柱邸には、個室に出来そうな部屋は三つほどしかない。そのうち一つは未来で言うリビングルームに当たる共用スペースだし食事をする部屋でもある。
つまり、襖を開ければすぐに私の部屋と杏寿郎さんの部屋は繋がる。
私の部屋と、杏寿郎さんの部屋は隣同士だ。
『前』の時の経験があるから、そこまで身構える必要はないけれど、今現在ここに存在する煉獄杏寿郎はやたらと距離が近い。
杏寿郎さんは、襖を開けたがった。なんなら取り払ってしまおうというくらいで。
頼むから寝る時くらいは閉めさせて欲しい。
いや!嬉しいけれどもね!?でも乙女としては恥ずかしい気持ちが勝る。
というわけで大抵私はお勝手場に逃げていた。炊ぎは私の独壇場だしね!
しかし、その内装や置いてあるものについてはいただけないものが多かった。
案内された部屋で一晩明かし、朝になってお茶を淹れに明るくなったそこを覗けば。
「これ、いつの茶葉です……?」
昨晩は暗くて気がつかなかったが、お勝手場はあまり綺麗とは言い難い有様だった。こんな場所で湯呑み片手に語り合っていたなんて。いやいい、湯呑みや薬缶は綺麗に洗ってから使ったし、これから掃除すればいいだけのこと。それよりもだ。
茶筒の蓋がきちんと閉まっていない。時化て香りが飛んでいるだけならまだしも、中に虫がついてしまっていた。……キレそう。
「それは確か、少し前までいた継子の男子が……」
「師範が扱ったものではないのですね?」
「断じてちがう!」
お茶の時間を大切にしていた私にとって、茶葉とはとても大事な物。それをわかっているからか、杏寿郎さんが青い顔で断言する。
青い顔の杏寿郎さんなんて、珍しいものを見たなぁ。
「マア、そうですよね。
男の子が全員そうとは限りませんけど、鬼殺隊士の男子、剣技は素晴らしいのに生活の端々がなっていない子がいるのは確かですからね。なんでちゃんと蓋くらい閉めなかったのか……。
私が家から茶葉持ってきていなかったら、今すぐにお茶をいれることはできなかったですよ」
「……小姑のようだな」
「ん゛?」
「訂正する。会ったことはないがまるで上弦の鬼のようだな」
凄んで見せれば、大変不名誉なことを言われた。私を鬼に。しかも上弦になど例えてほしくないものだ。
いつも朝は外で食べるか、奉公人が届けに来る大量のおむすびを食していたとの話だ。
だが、お腹は減るけど今は何もない。お腹の大合唱をBGMに、私は食材の買い出しに出た。杏寿郎さんは同じく腹の虫を子守唄にすやすやと寝ながらお留守番だ。
お互い任務があるにしても、朝から言い渡されることは稀だろうし、そもそもが杏寿郎さんは任務から帰ったばかり。柱だからといってすぐに任務へ……なぁんて、そこまで酷なことはしてこないだろう。あるとしたら昨日非番だった私宛てだ。
買い物ついでに一度生家にこっそりと寄った。大量のあれをとってこないとと思ったからだ。
この時間なら、千寿郎は起きていても槇寿朗さんは起きていないし。
そうして炎柱邸に響き渡る穴掘りの音。それから鼻に届く食欲をそそる料理の香り。
「いい匂いだな!!」
はらっぺらしが起きてきた。
「いつのまに帰ってきたのだ?いい匂いがするまで気がつかないとは柱として不甲斐なし!穴があったら」
「入らなくていいですよ。
よく眠っていたので、起こさないようにしたんです。このお勝手には侵入禁止の線がないからといって、危ないのであまり後ろから覗かないでくださいね」
「すまない。腹が減りすぎてそわそわしてしまってな!俺としたことが、落ち着きのない子供そのものだったな!!」
そんな貴方も好きですけどね。その言葉はぐっと飲み込む。
「仕方のない人ですねー……これを食べていていいので、お部屋で待っていてください」
「これは……!」
杏寿郎さんの前に出したのは、つやつや黄金色に輝き、上にほんのり香ばしく焦げ色のついた俵型の焼き菓子。
「すいーとぽてと!!」
「はい、そうです。全部師範のものですよ。
スイートポテトやお芋のお料理をたくさん作る約束がありましたでしょう?まだでしたからね」
芋を使った菓子を目の前に、芋の黄金色よりもキラキラと輝く杏寿郎さんの瞳。
「わっしょい!ありがとういただきます美味いッ!わっしょい!!」
食べる前からわっしょいが飛び出し、一口食べた後も、裏切ることなくわっしょいの言葉が飛び出した。
「他にもさつまいもの味噌汁も……ってこりゃ聞こえてないな」
気がつけば大喜びで皿を抱えて行ってしまったあとだった。
食事前に菓子はと思ったけど、杏寿郎さんだし、スイートポテトをたくさん食べてもまだまだ入るだろう。今日は特別だ、目を瞑ろう。
「わっしょい!!」
杏寿郎さんの大きな声ではここまでよく聞こえた。
その後スイートポテトだけでなくその他の料理も、綺麗に平らげられた。空の皿を目の前に食後のお茶を啜りながら今後の予定などを話し合う。
よく考えたら、これから正式に継子としての活動もするわけだ。こういう話し合いは早い方がいい。
「あ、そだそだ。
芋は煉獄家の穴から半分以上移動しておきました。勝手して申し訳ありませんが、裏手の一部をお借りしまして貯蔵用のさつま穴を掘らせていただきました」
「それはいいが、やることが早いな!」
「ふふふ。芋は貴方にとって大事な食料でしょう?可能ならさつまいも畑も作らせていただく予定です。煉獄家の一人むす……炎柱の継子なので、判断も行動も素早く、ですよ」
「うむ、早いのはいいことだ」
一人娘という言葉から継子という言葉に変えた私に、何か言いたそうにしながらも杏寿郎さんは頷いた。
「ならばお館様や他の者への挨拶も、早い方がよかろう。通常ならば紹介する必要もそうないことだが、ちょうど臨時柱合会議が開かれるから挨拶しておこう!」
「ええっ」
する必要ないとはいえお館様はともかくとして、他の者ってもしかしなくても他の柱だよね。蟲柱のしのぶさんは友達だからいいし、水柱の冨岡さんも任務を共にしたことがあるからいい。
けれど他の柱は……ちょっと抵抗あるなあ。でもしておこう、って言い切ったから従う他ない。
……それにしたって。
「最近臨時の柱合会議多くないですか?師範の柱就任についても臨時でしたよね」
「まあな。ここ数年で鬼の動向が活発化している。その分臨時の柱合会議も多いのだろう」
鬼の動向が活発化……。私の中の「上弦の某鬼絶対殺すマン」がアップを開始した。
おかげさまで、お互い任務の連絡が入るまでの間、腹ごなしにしては苛烈すぎる鍛錬に熱が入ってしまった。