二周目 伍
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『前』は確かにここに継子として住んでいた期間もある。
けれど、今回もそこまでお世話になるわけにはいかない。そりゃ一緒にいられるなら本当に、ほんっとうに!嬉しいよ!?
今日の私は完全に非番なので任務もなし。継子にして欲しいと言うがため、ここで杏寿郎さんの帰りを待つのみだ。家を出たので荷物はいつもより多いけどね。
そんなわけで私は今、杏寿郎さんが賜った炎柱邸の前に来ている。正確には炎柱邸の敷地内に塀の上から入らせてもらい、庭に面する縁側近くの切り株の上にだが。
ごめんね。物盗りじゃないから許してね。
「朝緋……?」
日付が変わるか変わらないかの頃になって、杏寿郎さんが炎柱邸に帰宅した。月光に照らされた目が獰猛に光っている姿で。
鬼を討伐してきたばかりだと一目でわかった。命のやり取りを終えた鬼狩りは、この目をしている事が多い。欲を孕んだこの目に宿るのは、一種の生存本能だからしかたがない。私ですらたまにその目になるのだ。
でも衣服に埃ひとつついていないから、大した鬼ではなかったのだろう。今日もまた無事で何よりだ。
その目に私を宿した杏寿郎さんはしばし獰猛な獣の視線で見つめてきた後、一瞬で何事もなかったかのように冷静な瞳に戻った。
切り替え早すぎ!と思うと同時、心底ホッとした。あの目は流石の私もちょっぴり怖いというか、自分が捕食対象になったような気分になるのよね。
「勝手に入り込んで申し訳ありません」
「それはいい。仕事が仕事だからな……任務後を狙えば会うのが夜更けになるのも致し方なき事。ここにいるとは思わなかったから驚いただけだ」
「日を改めて言う時間があるかどうかもわからないですからね」
「下手をすれば朝まで待たせてしまうところだ。任務が早く終わってよかった」
朗らかに笑う杏寿郎さんに、肩をぽんぽんと叩かれる。暖かな気持ちになりながら気を引き締めるように深呼吸する。
夜の冷たい空気が肺をキリリと冷やした。
「師範……私を正式に継子にしてください。今夜はそのお願いに参りました」
言い終えた後杏寿郎さんの表情をうかがえば、みるみるうちに朗らかだった笑みがもっともっと眩しい満面の笑みへと変わった。夜なのに太陽が出ているかのようだ。
「それはもちろんだ!よしきた来いッ!」
「ぎゃあっ!」
タックルするように思い切り抱きつかれ、体がミシリと悲鳴を上げた。
来いじゃなくて、そっちから来ちゃってる……!恥ずかしさより、大型犬に飛びつかれたかのような激しい衝撃と体をバラバラにされそうな痛みがひどい。色気もへったくれもないッ!
柱の力で抱きつくのはやめれ。
「今から朝緋は俺のものだな!!」
どきりとした。
好きな人から「俺のもの」なんて発言、嬉しいに決まっている。
心が震えた。身も心も捧げたい。この人のものになりたい。
あの時も。『前』も……叶うなら、すべてこの人のものにしてほしかった。
手を回せばなんて広い背中。こんなに男らしく成長して……。
炎柱の羽織が纏う戦闘の香りに混じる杏寿郎さんの汗や体温の匂いを拾った。その中に「雄」を感じて、私の未発達な女の部分が反応する。
けれど、今は苦しさが強いッ!!
「俺のものでなくて俺の継子、でしょ!酔ってるんですか?」
我に返り、ぺしぺしと何度もその背を叩く。強くたたき続ければ、杏寿郎さんは笑い声を上げながらようやく放してくれた。
「わはは!任務後だぞ!酒を飲んでいるわけがなかろう!
それに、どちらも変わらん。君はすでに俺の継子だと思っていた。朝緋が俺を師範と呼びたいと言ったあのあたりからな」
「エッそんな前から……」
「まあ中に入れ!いつまでも外で話すことでもない。暖かくなってきたとはいえ夜は冷えるし体もいい加減休まらん」
鍵を開けた杏寿郎さんに中へと連れ込まれる。
んんっ!腰を抱くこの手はなんだ。これ以上私をドキドキさせてどうするつもりだ煉獄杏寿郎。
火鉢で温まるには時間がかかるからと、二人で身を寄せ合いお勝手の炭に火を入れる。
もちろん、杏寿郎さんには火を起こさせない。
赤く染まりパチパチと爆ぜ出す炭、ほんのり湯気がたちだす薬缶。白湯ができるのを待ちながら会話する。
「……で、だ。朝緋は家を出たのだろう。何があった」
「さすが柱。情報が早いですねぇ」
「茶化すな……。今宵はまだ朝緋がいると思い、任務後に生家に寄ったんだ。そうしたら千寿郎が、姉上は家を出られましたと。
朝緋は今まで生家から任務に出ていたろう?どういう風の吹き回しなのだろうと思ったところに、帰ってみればここにきていた。
とても嫌なことがあったのだろうと感じたが違うか?」
嫌なこと……。槇寿朗さんに言われたことが頭をよぎる。それを振り払って答える。
「任務も多岐に渡りますし、遠方への任務も増えてきています。いつ帰れるかもわからないのにそれでは、家で待つ者に心配ばかりかけてしまう。
ならいっその事家には帰らないほうがいいかと思って。そこは柱になった貴方も同じ考えですよね」
「だから家を出た、と。
なんだ、まぁた父上に嫌なことを言われて俺に泣きつきにきたのかと思ったのだが、違ったか!君は怒られるとよく俺のところに泣きつきにきたんだがなぁ」
「む、昔のことですっ!」
怒られるような事はそうそうなかった方だが、それでも引き取られた幼い頃は極たまに親である槇寿朗さん達に怒られることもあった。
幼い体に気持ちが引っ張られ、涙ぐみながらよく杏寿郎さんの布団に潜り込んだものだ。
懐かしい思い出に浸りながら、白湯の湯呑みをお互いふぅふぅと口にする。うん、ちょっと体が温まった。
「でも、私はもう帰りたくありません。千寿郎には悪いけれど……」
「やはり父上と喧嘩したのだな」
湯呑みに口付けたまま言えば、湯気で視界がぼやける。ううん、視界がぼやけるのは槇寿朗さんに言われたことを思い出したからかも。……悲しいなぁ。
言い当てた杏寿郎さんが、私の頭を優しく撫でた。
「父上にも困ったものだ。自分の娘と喧嘩してどうす、「娘じゃない」……なに?」
「私はもう煉獄家の人間じゃない。家族じゃない。槇寿朗さんがそう言ったもの」
「…………、父上をそんな、槇寿朗さんだなどと……。いや、それより本当に父上がそんなことを?」
溜めに溜めてから、大きく頷く。
「誰が何と言おうと、朝緋は俺の大切な家族だ。
だが、そうだな……。飛び出しておいてすぐ帰るのはなかなかむずかしかろうなぁ」
「か、帰ったりしませんもん!」
「ははは、そうか。
しかしこれからどこを拠点にする気だ?好いた相手の家、などとは言ってくれるなよ」
「まさか!そんな予定ありませんって!」
ぶんぶんと手を振って否定するも、疑いの目は向けられたままだ。気にせず話を続ける。
「住むところはこれから探そうかと。長屋をお借りする予定で目星はつけてあります。
いくら鬼殺隊の支援者とはいえ、藤の家にばかりお世話になるのは申し訳ないですから」
その瞬間、両肩を叩かれた。
けれど、今回もそこまでお世話になるわけにはいかない。そりゃ一緒にいられるなら本当に、ほんっとうに!嬉しいよ!?
今日の私は完全に非番なので任務もなし。継子にして欲しいと言うがため、ここで杏寿郎さんの帰りを待つのみだ。家を出たので荷物はいつもより多いけどね。
そんなわけで私は今、杏寿郎さんが賜った炎柱邸の前に来ている。正確には炎柱邸の敷地内に塀の上から入らせてもらい、庭に面する縁側近くの切り株の上にだが。
ごめんね。物盗りじゃないから許してね。
「朝緋……?」
日付が変わるか変わらないかの頃になって、杏寿郎さんが炎柱邸に帰宅した。月光に照らされた目が獰猛に光っている姿で。
鬼を討伐してきたばかりだと一目でわかった。命のやり取りを終えた鬼狩りは、この目をしている事が多い。欲を孕んだこの目に宿るのは、一種の生存本能だからしかたがない。私ですらたまにその目になるのだ。
でも衣服に埃ひとつついていないから、大した鬼ではなかったのだろう。今日もまた無事で何よりだ。
その目に私を宿した杏寿郎さんはしばし獰猛な獣の視線で見つめてきた後、一瞬で何事もなかったかのように冷静な瞳に戻った。
切り替え早すぎ!と思うと同時、心底ホッとした。あの目は流石の私もちょっぴり怖いというか、自分が捕食対象になったような気分になるのよね。
「勝手に入り込んで申し訳ありません」
「それはいい。仕事が仕事だからな……任務後を狙えば会うのが夜更けになるのも致し方なき事。ここにいるとは思わなかったから驚いただけだ」
「日を改めて言う時間があるかどうかもわからないですからね」
「下手をすれば朝まで待たせてしまうところだ。任務が早く終わってよかった」
朗らかに笑う杏寿郎さんに、肩をぽんぽんと叩かれる。暖かな気持ちになりながら気を引き締めるように深呼吸する。
夜の冷たい空気が肺をキリリと冷やした。
「師範……私を正式に継子にしてください。今夜はそのお願いに参りました」
言い終えた後杏寿郎さんの表情をうかがえば、みるみるうちに朗らかだった笑みがもっともっと眩しい満面の笑みへと変わった。夜なのに太陽が出ているかのようだ。
「それはもちろんだ!よしきた来いッ!」
「ぎゃあっ!」
タックルするように思い切り抱きつかれ、体がミシリと悲鳴を上げた。
来いじゃなくて、そっちから来ちゃってる……!恥ずかしさより、大型犬に飛びつかれたかのような激しい衝撃と体をバラバラにされそうな痛みがひどい。色気もへったくれもないッ!
柱の力で抱きつくのはやめれ。
「今から朝緋は俺のものだな!!」
どきりとした。
好きな人から「俺のもの」なんて発言、嬉しいに決まっている。
心が震えた。身も心も捧げたい。この人のものになりたい。
あの時も。『前』も……叶うなら、すべてこの人のものにしてほしかった。
手を回せばなんて広い背中。こんなに男らしく成長して……。
炎柱の羽織が纏う戦闘の香りに混じる杏寿郎さんの汗や体温の匂いを拾った。その中に「雄」を感じて、私の未発達な女の部分が反応する。
けれど、今は苦しさが強いッ!!
「俺のものでなくて俺の継子、でしょ!酔ってるんですか?」
我に返り、ぺしぺしと何度もその背を叩く。強くたたき続ければ、杏寿郎さんは笑い声を上げながらようやく放してくれた。
「わはは!任務後だぞ!酒を飲んでいるわけがなかろう!
それに、どちらも変わらん。君はすでに俺の継子だと思っていた。朝緋が俺を師範と呼びたいと言ったあのあたりからな」
「エッそんな前から……」
「まあ中に入れ!いつまでも外で話すことでもない。暖かくなってきたとはいえ夜は冷えるし体もいい加減休まらん」
鍵を開けた杏寿郎さんに中へと連れ込まれる。
んんっ!腰を抱くこの手はなんだ。これ以上私をドキドキさせてどうするつもりだ煉獄杏寿郎。
火鉢で温まるには時間がかかるからと、二人で身を寄せ合いお勝手の炭に火を入れる。
もちろん、杏寿郎さんには火を起こさせない。
赤く染まりパチパチと爆ぜ出す炭、ほんのり湯気がたちだす薬缶。白湯ができるのを待ちながら会話する。
「……で、だ。朝緋は家を出たのだろう。何があった」
「さすが柱。情報が早いですねぇ」
「茶化すな……。今宵はまだ朝緋がいると思い、任務後に生家に寄ったんだ。そうしたら千寿郎が、姉上は家を出られましたと。
朝緋は今まで生家から任務に出ていたろう?どういう風の吹き回しなのだろうと思ったところに、帰ってみればここにきていた。
とても嫌なことがあったのだろうと感じたが違うか?」
嫌なこと……。槇寿朗さんに言われたことが頭をよぎる。それを振り払って答える。
「任務も多岐に渡りますし、遠方への任務も増えてきています。いつ帰れるかもわからないのにそれでは、家で待つ者に心配ばかりかけてしまう。
ならいっその事家には帰らないほうがいいかと思って。そこは柱になった貴方も同じ考えですよね」
「だから家を出た、と。
なんだ、まぁた父上に嫌なことを言われて俺に泣きつきにきたのかと思ったのだが、違ったか!君は怒られるとよく俺のところに泣きつきにきたんだがなぁ」
「む、昔のことですっ!」
怒られるような事はそうそうなかった方だが、それでも引き取られた幼い頃は極たまに親である槇寿朗さん達に怒られることもあった。
幼い体に気持ちが引っ張られ、涙ぐみながらよく杏寿郎さんの布団に潜り込んだものだ。
懐かしい思い出に浸りながら、白湯の湯呑みをお互いふぅふぅと口にする。うん、ちょっと体が温まった。
「でも、私はもう帰りたくありません。千寿郎には悪いけれど……」
「やはり父上と喧嘩したのだな」
湯呑みに口付けたまま言えば、湯気で視界がぼやける。ううん、視界がぼやけるのは槇寿朗さんに言われたことを思い出したからかも。……悲しいなぁ。
言い当てた杏寿郎さんが、私の頭を優しく撫でた。
「父上にも困ったものだ。自分の娘と喧嘩してどうす、「娘じゃない」……なに?」
「私はもう煉獄家の人間じゃない。家族じゃない。槇寿朗さんがそう言ったもの」
「…………、父上をそんな、槇寿朗さんだなどと……。いや、それより本当に父上がそんなことを?」
溜めに溜めてから、大きく頷く。
「誰が何と言おうと、朝緋は俺の大切な家族だ。
だが、そうだな……。飛び出しておいてすぐ帰るのはなかなかむずかしかろうなぁ」
「か、帰ったりしませんもん!」
「ははは、そうか。
しかしこれからどこを拠点にする気だ?好いた相手の家、などとは言ってくれるなよ」
「まさか!そんな予定ありませんって!」
ぶんぶんと手を振って否定するも、疑いの目は向けられたままだ。気にせず話を続ける。
「住むところはこれから探そうかと。長屋をお借りする予定で目星はつけてあります。
いくら鬼殺隊の支援者とはいえ、藤の家にばかりお世話になるのは申し訳ないですから」
その瞬間、両肩を叩かれた。