二周目 伍
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「私は杏寿郎兄さんの継子になりたいのです!!
わ、私は……鬼殺隊をやめませんっ!どこの誰とも知らぬ殿方のもとへなど、絶対に嫁ぎません!!」
大体まだそんな歳ではないはずだ。いや違うか、この時代だと私の年で許婚がいるのは結構普通のことだった気もする。
そしてここ重要。私には好きな人がいる。いつも眩しい太陽のようなあの人だ。
一緒になることはできなくとも、生涯ずっとその人を思い続けるだけの覚悟がある。その人と共にあれないのであれば、私は一生独り身でいいという覚悟が。
「私にはすでに好いた相……っ」
「ふざけたことを抜かすな継子だと!?鬼殺隊をやめないばかりか、継子になるだとッ!そんなもの俺が許すと思っているのか!!」
「な、何ヨもうっ!私の羽織を仕立ててくれたのは、とうさまのくせに!
そんなに鬼殺隊に入って欲しくなかったなら、なんで羽織を仕立てたの!!あれだって最初から仕立てなきゃよかったでしょ!!」
私の炎である、青く燃える熱き想いで染め上げられた私だけの羽織。それを仕立てたのは、杏寿郎さんと千寿郎だけではない。
その時の槇寿朗さんはすでに落ちぶれていたから、羽織なんて作らないと思っていたのに。嫌ならなぜ、私が鬼殺隊に入るのを後押しするような真似したの。槇寿朗さんの気持ちがわからない。
「は、羽織なんぞ知らんッ杏寿郎の奴が仕立てたものだろう!俺はいつだって鬼殺隊をやめろと言っている!それ一択だ!!」
やめろやめろと、そればっかりもううんざりだ。とうとう手が出た。
「辞めないわよ!この……頑固ものっ!」
「お前も頑固なやつだな!!」
私のふるった拳は元柱にはまるで敵わなかった。相手はまだ布団の上に身を横たえていたというのにだ。
軽くいなされ、私の勢いを利用してぐるりと体の上にのし掛かられる。背中に肘鉄を喰らい、呼吸が苦しい!
だが私だって伊達に現役鬼殺隊なわけではない。畳についた手を回転軸に、足をぐるりと動かし蹴り飛ばす。
これって明槻がやってた格闘ゲームのチャイナっ娘の技みたいだなぁ。と、庭に続く障子戸が半壊するのを見つめながら他人事のように思った。
蹴り飛ばした槇寿朗さんがブチギレて向かってきたので、そのあと取っ組み合いに発展した。
でも元柱といえど酒のせいか時間が経てば経つほどに息はあがる槇寿朗さん。その反対に時間が経つほどに速くなる私。羽交い締めにしようとする槇寿朗さんの腕から素早い動きでするりと逃げ続け、私はとうとう相手に根を上げさせた。……私も息は切れてるけど。
残るは半壊した障子戸。あとで修理の手配しとこ。
「っはぁはぁ……、ふぅ……、やめ、ませんから……」
「はぁ……くそ、お前も大概しつこいな」
けど回復が早いのは、槇寿朗さんが先だった。元柱は侮れない。
「鬼殺隊を辞めぬというなら、出ていけっ!お前は煉獄家の人間でもない!もう赤の他人だっ……こんなことになると知っていたらお前なんかなぁッ拾わなかったッッ」
起き上がった槇寿朗さんから指を突きつけられ、そう最終通告を受けた。
ショックだった。
お前なんか拾わなかった、だなんて『前』だって言われていない言葉だ。勘当はされたけど。
そもそもが、こんな風に口喧嘩しに来なかったからかもしれないけれど、でもこんなのってない。
空気が凍った。
私も無言、そして槇寿朗さんも無言だった。
呼吸を整えてから私は淡々と言葉を紡いだ。
「わかりました。出て行けというなら出て行きますよ……」
煉獄家の人間じゃない。もう赤の他人。自分で言ったくせに、槇寿朗さんは傷ついたような顔をしていた。
もう遅いよ。だって咄嗟に口をついて出たその言葉が、本心なんでしょ?
「ちょ、待て、今のは言葉の綾で……」
「とうさま……いいえ、槇寿朗さん。今までお世話になりました」
ペコリと頭を下げ、私はその場を後にする。
「朝緋っ、待……っ」
今までどこに力を隠していたのだろう、そう思えるほどの素早さで私は槇寿朗さんを払い除け、布団へと逆戻りさせる。そのままさっさと出て行った。
「千寿郎。私、この家を出ます!出て行きますぅーー!!」
「えっ」
買い物から帰ってきていた千寿郎を見つけた。大してない荷物をまとめながら開口一番に言った言葉について要約してわけを話せば、千寿郎は驚きの声を上げた後、悲しそうな顔をしてからただ苦笑するだけだった。
それに私は既に鬼殺隊に籍を置く身だ。ならば実家から通いで任務にあたる方が本当なら特殊なのだ。家に帰る暇なく任務に明け暮れ、気がつくといつも藤の家紋の家。
千寿郎もそれをわかっているから、悲しくも苦笑に留めたのだろう。
「今だから言いますけど、姉上が選別へ出立した後は、この比ではありませんでしたから。いつものことでした」
そして千寿郎は、槇寿朗さんが怒るところも、癇癪を起こすところも何度も見てきているよう。苦笑の理由もここにある。
ただ私という相手が悪かった。私も限界を越えればああやって癇癪を起こす。そう考えると千寿郎も、杏寿郎さんもよくできた人だ。
「女には刀を持ってほしくないんでしょっ」
この時代、女は男の一歩後ろをついて歩き陰から旦那を支えるもの。男は一歩先で女を全力で守ってやるもの。そういう考えが一番濃く現れている。それこそ、ある程度適当だった江戸時代よりも。
「かあさまが運ぶためだけだったとしても日輪刀を持とうとしたら全力で阻止してたくらいだからね。……って、んん?いつものこと?
千寿郎。あなた、僕には受けごたえも普通だったって言っていなかったっけ」
「そ、それは……っ」
「心配かけないようにそう言っただけなのね。本当は叩かれたりしたってことよね。大丈夫だった?」
「あの時の父上は特に機嫌が悪かったようなので、仕方ありませんよ。兄上の方が僕より怒られていた。
なぜ最終選別へ行かせたと、姉上を死なせる気かと。それはもう烈火の如く怒っていました」
その結果、杏寿郎さんは庭に吹っ飛ばされたわけか。
「出て行けなんて、父上は本心で言ったわけではないと思います。姉上をいつも心配していますから。僕も、いつも心配してます」
「……っんとに、千寿郎は優しいなぁ。ありがとうね。
わかってるよ。言葉の綾だって、自分でも言っていたし」
でも言葉にしてしまったら覆せない。手遅れだ。だから人と話す時は、相手がどう思うかをよく考えて発言する必要があったのに。
「なら……っ」
「それでもとりあえずは一度外に出たほうがいいと思うの。槇じゅ……とうさまとはしばらく距離をおこうかなって」
「外に出るって、どこに行く気なんですか」
「各地の藤の家にお世話になり続けるのは抵抗あるし長屋を借りてみるとかかな」
炎柱邸に、と思ったけれどそれは虫が良すぎる。杏寿郎さんは住んでいいぞ!って言いそうだけど、まずは自分で探さなくては。
かなり抵抗はあるけれど野宿という手もある。でも千寿郎に野宿の話はしない。私の虫嫌いや性別、そして稀血という身の上で心配をかけちゃうから。
「千寿郎には家事のこととか、迷惑かけちゃって申し訳ないけれどね」
「それはいいんです。……姉上、ちゃんと帰ってくるんですよね?出たまま戻ってこないなんてこと、ないですよね?」
「…………、……もちろんよ」
ここには厚意で置いてもらってるだけだったのだ。苗字はもともと一緒なだけだから、家族みたいに見えるだけ。
だから即答はできなかった。
わ、私は……鬼殺隊をやめませんっ!どこの誰とも知らぬ殿方のもとへなど、絶対に嫁ぎません!!」
大体まだそんな歳ではないはずだ。いや違うか、この時代だと私の年で許婚がいるのは結構普通のことだった気もする。
そしてここ重要。私には好きな人がいる。いつも眩しい太陽のようなあの人だ。
一緒になることはできなくとも、生涯ずっとその人を思い続けるだけの覚悟がある。その人と共にあれないのであれば、私は一生独り身でいいという覚悟が。
「私にはすでに好いた相……っ」
「ふざけたことを抜かすな継子だと!?鬼殺隊をやめないばかりか、継子になるだとッ!そんなもの俺が許すと思っているのか!!」
「な、何ヨもうっ!私の羽織を仕立ててくれたのは、とうさまのくせに!
そんなに鬼殺隊に入って欲しくなかったなら、なんで羽織を仕立てたの!!あれだって最初から仕立てなきゃよかったでしょ!!」
私の炎である、青く燃える熱き想いで染め上げられた私だけの羽織。それを仕立てたのは、杏寿郎さんと千寿郎だけではない。
その時の槇寿朗さんはすでに落ちぶれていたから、羽織なんて作らないと思っていたのに。嫌ならなぜ、私が鬼殺隊に入るのを後押しするような真似したの。槇寿朗さんの気持ちがわからない。
「は、羽織なんぞ知らんッ杏寿郎の奴が仕立てたものだろう!俺はいつだって鬼殺隊をやめろと言っている!それ一択だ!!」
やめろやめろと、そればっかりもううんざりだ。とうとう手が出た。
「辞めないわよ!この……頑固ものっ!」
「お前も頑固なやつだな!!」
私のふるった拳は元柱にはまるで敵わなかった。相手はまだ布団の上に身を横たえていたというのにだ。
軽くいなされ、私の勢いを利用してぐるりと体の上にのし掛かられる。背中に肘鉄を喰らい、呼吸が苦しい!
だが私だって伊達に現役鬼殺隊なわけではない。畳についた手を回転軸に、足をぐるりと動かし蹴り飛ばす。
これって明槻がやってた格闘ゲームのチャイナっ娘の技みたいだなぁ。と、庭に続く障子戸が半壊するのを見つめながら他人事のように思った。
蹴り飛ばした槇寿朗さんがブチギレて向かってきたので、そのあと取っ組み合いに発展した。
でも元柱といえど酒のせいか時間が経てば経つほどに息はあがる槇寿朗さん。その反対に時間が経つほどに速くなる私。羽交い締めにしようとする槇寿朗さんの腕から素早い動きでするりと逃げ続け、私はとうとう相手に根を上げさせた。……私も息は切れてるけど。
残るは半壊した障子戸。あとで修理の手配しとこ。
「っはぁはぁ……、ふぅ……、やめ、ませんから……」
「はぁ……くそ、お前も大概しつこいな」
けど回復が早いのは、槇寿朗さんが先だった。元柱は侮れない。
「鬼殺隊を辞めぬというなら、出ていけっ!お前は煉獄家の人間でもない!もう赤の他人だっ……こんなことになると知っていたらお前なんかなぁッ拾わなかったッッ」
起き上がった槇寿朗さんから指を突きつけられ、そう最終通告を受けた。
ショックだった。
お前なんか拾わなかった、だなんて『前』だって言われていない言葉だ。勘当はされたけど。
そもそもが、こんな風に口喧嘩しに来なかったからかもしれないけれど、でもこんなのってない。
空気が凍った。
私も無言、そして槇寿朗さんも無言だった。
呼吸を整えてから私は淡々と言葉を紡いだ。
「わかりました。出て行けというなら出て行きますよ……」
煉獄家の人間じゃない。もう赤の他人。自分で言ったくせに、槇寿朗さんは傷ついたような顔をしていた。
もう遅いよ。だって咄嗟に口をついて出たその言葉が、本心なんでしょ?
「ちょ、待て、今のは言葉の綾で……」
「とうさま……いいえ、槇寿朗さん。今までお世話になりました」
ペコリと頭を下げ、私はその場を後にする。
「朝緋っ、待……っ」
今までどこに力を隠していたのだろう、そう思えるほどの素早さで私は槇寿朗さんを払い除け、布団へと逆戻りさせる。そのままさっさと出て行った。
「千寿郎。私、この家を出ます!出て行きますぅーー!!」
「えっ」
買い物から帰ってきていた千寿郎を見つけた。大してない荷物をまとめながら開口一番に言った言葉について要約してわけを話せば、千寿郎は驚きの声を上げた後、悲しそうな顔をしてからただ苦笑するだけだった。
それに私は既に鬼殺隊に籍を置く身だ。ならば実家から通いで任務にあたる方が本当なら特殊なのだ。家に帰る暇なく任務に明け暮れ、気がつくといつも藤の家紋の家。
千寿郎もそれをわかっているから、悲しくも苦笑に留めたのだろう。
「今だから言いますけど、姉上が選別へ出立した後は、この比ではありませんでしたから。いつものことでした」
そして千寿郎は、槇寿朗さんが怒るところも、癇癪を起こすところも何度も見てきているよう。苦笑の理由もここにある。
ただ私という相手が悪かった。私も限界を越えればああやって癇癪を起こす。そう考えると千寿郎も、杏寿郎さんもよくできた人だ。
「女には刀を持ってほしくないんでしょっ」
この時代、女は男の一歩後ろをついて歩き陰から旦那を支えるもの。男は一歩先で女を全力で守ってやるもの。そういう考えが一番濃く現れている。それこそ、ある程度適当だった江戸時代よりも。
「かあさまが運ぶためだけだったとしても日輪刀を持とうとしたら全力で阻止してたくらいだからね。……って、んん?いつものこと?
千寿郎。あなた、僕には受けごたえも普通だったって言っていなかったっけ」
「そ、それは……っ」
「心配かけないようにそう言っただけなのね。本当は叩かれたりしたってことよね。大丈夫だった?」
「あの時の父上は特に機嫌が悪かったようなので、仕方ありませんよ。兄上の方が僕より怒られていた。
なぜ最終選別へ行かせたと、姉上を死なせる気かと。それはもう烈火の如く怒っていました」
その結果、杏寿郎さんは庭に吹っ飛ばされたわけか。
「出て行けなんて、父上は本心で言ったわけではないと思います。姉上をいつも心配していますから。僕も、いつも心配してます」
「……っんとに、千寿郎は優しいなぁ。ありがとうね。
わかってるよ。言葉の綾だって、自分でも言っていたし」
でも言葉にしてしまったら覆せない。手遅れだ。だから人と話す時は、相手がどう思うかをよく考えて発言する必要があったのに。
「なら……っ」
「それでもとりあえずは一度外に出たほうがいいと思うの。槇じゅ……とうさまとはしばらく距離をおこうかなって」
「外に出るって、どこに行く気なんですか」
「各地の藤の家にお世話になり続けるのは抵抗あるし長屋を借りてみるとかかな」
炎柱邸に、と思ったけれどそれは虫が良すぎる。杏寿郎さんは住んでいいぞ!って言いそうだけど、まずは自分で探さなくては。
かなり抵抗はあるけれど野宿という手もある。でも千寿郎に野宿の話はしない。私の虫嫌いや性別、そして稀血という身の上で心配をかけちゃうから。
「千寿郎には家事のこととか、迷惑かけちゃって申し訳ないけれどね」
「それはいいんです。……姉上、ちゃんと帰ってくるんですよね?出たまま戻ってこないなんてこと、ないですよね?」
「…………、……もちろんよ」
ここには厚意で置いてもらってるだけだったのだ。苗字はもともと一緒なだけだから、家族みたいに見えるだけ。
だから即答はできなかった。