二周目 肆
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思ったことはすべて本心だった。
触れることで無事を確かめたかったというのも本心の一部だけど、蜜璃の言われたような少し不埒な気持ちも浮かんだ。
……触れるのは両の手でだけでなく、唇で……とか。
大好きな人に触れたいと思うのは、当然の欲求。……だよね?
私はもう槇寿朗さんのひたいにちゅっとした頃のような幼な子じゃないし、それくらい我慢するけど。
布団の上に投げ出された手をそっとにぎり、そして両の手で頬を包み込む。
杏寿郎さんの体温より少し冷たい私の手。そんな手で触れて申し訳ないけれど、私は確かめずにはいられなかった。
「当たり前だけど温かい。大丈夫、生きてる。無事だぁ……」
手のひらから伝わるこのぬくもりを得たら、少し安心した。
そうだ、上弦の参にやられた時とは違う。左目は傷ついていない。潰れていない。
私の太陽はこの瞼の下、目覚めの時を待って煌めいているのだ。
「んふふ、眠ってて前髪が下がってるとちょっぴり幼く見える。かわいい」
重力に従い顔にかかってしまっている前髪に気がつき、そっとどかす。
そうしたら、形の良い国宝級の額が見えた。
うん、我慢、する。すると言った。けども……。
吸い込まれるように視線が額にむいてしまった。そのまま穴が空きそうなほど見つめ続けてしまう。
早く太陽のような瞳を見たい。私の進む先を明るく煌々と照らしてほしい。
けれど、あと少しだけどうかこのままで。
ドキドキしながらも、顔を近づけるのは止められなかった。
唇が杏寿郎さんのひたいに触れる、と思ったその時。
蝶屋敷に詰めている他の隊士の声がどこか遠くに聞こえ、我に返った。一瞬でベッドから距離を取り、口元を押さえる。
私は!何をしてるの!!
ああなんて恥ずかしくてずるい真似をしたのだろう。許可もなしに唇で触れようとするなんて、この歳では許されない!
「なんだ。かつて父上にしたように、俺にもしてはくれないのか」
またも顔から火が出そうな中、目線を上げれば杏寿郎さんが起きていた。
「な、ななななな。いつから起きてらしたんですか!」
「すまない。朝緋が俺の手に触れただろう?その時から起きていた」
うわ、恥ずかし……無遠慮に触れていたのばれた!もーーーーー!!
「朝緋、こちらにおいで」
優しく、しかし師範たる口調で言われ、恥は飛んでピンと背筋が伸びる思いだ。
言われた通り近くにより、勧められるまま椅子に座る。
「朝緋は任務後か?見舞いに来てくれたのだな。ありがとう」
「十二鬼月を倒したと聞きました。さすがです。大変……、お疲れ様でございました」
深々と首を垂れ、此度一番の功労者に労いの言葉を紡ぐ。
「うむ。だが下弦如きでこのザマだ。情けないな!」
固定された右手を上げて見せる杏寿郎さん。いや、治りが遅くなるから振り回すのやめてください。
「それでも下弦の弐ですよ。下弦の中でも上位の鬼相手に一歩も引かなかったそうじゃないですか。頑張ったじゃないですか。凄いことです」
「凄いか。そうかそうか、俺はやりきったのだな。最後まで頑張れたのだなあ……」
自分に言い聞かせるように味わうかのように、口に言葉を含み復唱している。
私なんかより、槇寿朗さんに頑張ったなと、すごいなと言われたいだろうに。私でごめんなさい。
……って、んん?
杏寿郎さんの左手が私の手の甲をするりと撫でる。甲にできた、鬼による比較的新しい傷跡。骨の筋、掌に続くやわらかい肉の部分。指先に至るまで、じっくりと撫でていく。
そしてから最後に、優しく手を握り取られた。
手が、杏寿郎さんの頬に添えられる。
さすりさすり。
頬を滑らされる私の手は杏寿郎さんの頬への愛撫を丹念に繰り返し、何か別のものになってしまったかのようだ。体がびくりと強張りを覚えた。
動揺して杏寿郎さんをみると。
「……ぁ…………、」
その熱くもある太陽のような目が、じっと私を見つめたまま離れない。私の芯まで、心まで射抜き、より一層熱くさせていった。
「朝緋、俺は頑張ったよな?俺はしてほしい。頑張った褒美が欲しい。欲は言わない、ここにだ」
私の手を離すと、杏寿郎さんが自分の額を指先でとんと突いた。槇寿朗さんにもかつてした、額への口づけ。
たったそれだけの欲と言われたけれど、それでも相手が起きている時なんて、恥ずかしくて出来そうにない。
杏寿郎さんの滅多にないおねだりなのに、叶えてあげられそうにない。
この空気の中その願いを叶えてしまったら、私はこの先この人のことを真っ直ぐ見れなくなる気がする。
「ご、ご褒美なら、あとでいっぱいお芋のお菓子持ってきますから。
あっまた、スイートポテトを作りますよ。前回のスイートポテトは千寿郎作なんですよ?知ってました?次は私がつく、」
「芋の菓子も大変魅力的だが今はいい。ねぎらいの証として、これが。ここに。欲しいのだ。
でないと治るものも治らないかもしれん」
私の唇にぴとりと、杏寿郎さんの親指が触れた。顎を上向かせるように手を添え、指腹でふにふにと潰され、形をなぞられる。
名残惜しくもさっさと離れたそれを、再び自身のひたいに置いた。
「だめなのだろうか」
真剣な眼差しで見つめられ、限界突破した。炎の呼吸が頭から吹き出して、絶対今ならお湯が沸く。
「〜〜ーっどうぞ!!」
ごちん!
「いっ……熱烈だなっ!?」
そうだ。この空気の中でするからいけないのだ!口付けは私からだし、主導権を握っているのも私!
元は杏寿郎さんにバレないようにしたかったことだもの、漂う甘い空気は自らぶち壊す。
ちゅうなんてお優しいものではない。
頭突きかな?良い音したけど私の歯折れてない?大丈夫??という勢いで、杏寿郎さんのひたいに唇をぶつけた。
杏寿郎さんの国宝級の額が赤くなってる。結構痛いはずだ。私も前歯が痛い。折れてる気配はないけど。
「ご褒美はあげました!これで治るんですよね!師範、早く良くなってくださいねっ」
「む。むむむ、むむむむむ。むむむむむむむ!」
杏寿郎さんは呆気に取られてから、じんじん痛むひたいをさすり、そして目をキュッと閉じてしばらく唸っていた。
「……いや、欲しかったものに違いはない。男に二言はないな。ありがたく受け取った!すぐに治してみせよう!!
千寿郎も心配しているのだろう?治したら生家に帰る。君は絶対にここには来ず、あの家で待っていてくれ!!」
「え、芋の菓子はいいのですか?もうお見舞いに来なくていいんですか??」
「………………。帰ったら作ってくれるとありがたい。それまでは君の顔を見るのもお預けだ!」
甘い空気じゃなくても恥ずかしかったから、しばらく顔を合わせなくて済むというのを聞いて、実をいうとほっとした。
見舞いに来るな、というのはちょっぴり寂しいけれどね。
触れることで無事を確かめたかったというのも本心の一部だけど、蜜璃の言われたような少し不埒な気持ちも浮かんだ。
……触れるのは両の手でだけでなく、唇で……とか。
大好きな人に触れたいと思うのは、当然の欲求。……だよね?
私はもう槇寿朗さんのひたいにちゅっとした頃のような幼な子じゃないし、それくらい我慢するけど。
布団の上に投げ出された手をそっとにぎり、そして両の手で頬を包み込む。
杏寿郎さんの体温より少し冷たい私の手。そんな手で触れて申し訳ないけれど、私は確かめずにはいられなかった。
「当たり前だけど温かい。大丈夫、生きてる。無事だぁ……」
手のひらから伝わるこのぬくもりを得たら、少し安心した。
そうだ、上弦の参にやられた時とは違う。左目は傷ついていない。潰れていない。
私の太陽はこの瞼の下、目覚めの時を待って煌めいているのだ。
「んふふ、眠ってて前髪が下がってるとちょっぴり幼く見える。かわいい」
重力に従い顔にかかってしまっている前髪に気がつき、そっとどかす。
そうしたら、形の良い国宝級の額が見えた。
うん、我慢、する。すると言った。けども……。
吸い込まれるように視線が額にむいてしまった。そのまま穴が空きそうなほど見つめ続けてしまう。
早く太陽のような瞳を見たい。私の進む先を明るく煌々と照らしてほしい。
けれど、あと少しだけどうかこのままで。
ドキドキしながらも、顔を近づけるのは止められなかった。
唇が杏寿郎さんのひたいに触れる、と思ったその時。
蝶屋敷に詰めている他の隊士の声がどこか遠くに聞こえ、我に返った。一瞬でベッドから距離を取り、口元を押さえる。
私は!何をしてるの!!
ああなんて恥ずかしくてずるい真似をしたのだろう。許可もなしに唇で触れようとするなんて、この歳では許されない!
「なんだ。かつて父上にしたように、俺にもしてはくれないのか」
またも顔から火が出そうな中、目線を上げれば杏寿郎さんが起きていた。
「な、ななななな。いつから起きてらしたんですか!」
「すまない。朝緋が俺の手に触れただろう?その時から起きていた」
うわ、恥ずかし……無遠慮に触れていたのばれた!もーーーーー!!
「朝緋、こちらにおいで」
優しく、しかし師範たる口調で言われ、恥は飛んでピンと背筋が伸びる思いだ。
言われた通り近くにより、勧められるまま椅子に座る。
「朝緋は任務後か?見舞いに来てくれたのだな。ありがとう」
「十二鬼月を倒したと聞きました。さすがです。大変……、お疲れ様でございました」
深々と首を垂れ、此度一番の功労者に労いの言葉を紡ぐ。
「うむ。だが下弦如きでこのザマだ。情けないな!」
固定された右手を上げて見せる杏寿郎さん。いや、治りが遅くなるから振り回すのやめてください。
「それでも下弦の弐ですよ。下弦の中でも上位の鬼相手に一歩も引かなかったそうじゃないですか。頑張ったじゃないですか。凄いことです」
「凄いか。そうかそうか、俺はやりきったのだな。最後まで頑張れたのだなあ……」
自分に言い聞かせるように味わうかのように、口に言葉を含み復唱している。
私なんかより、槇寿朗さんに頑張ったなと、すごいなと言われたいだろうに。私でごめんなさい。
……って、んん?
杏寿郎さんの左手が私の手の甲をするりと撫でる。甲にできた、鬼による比較的新しい傷跡。骨の筋、掌に続くやわらかい肉の部分。指先に至るまで、じっくりと撫でていく。
そしてから最後に、優しく手を握り取られた。
手が、杏寿郎さんの頬に添えられる。
さすりさすり。
頬を滑らされる私の手は杏寿郎さんの頬への愛撫を丹念に繰り返し、何か別のものになってしまったかのようだ。体がびくりと強張りを覚えた。
動揺して杏寿郎さんをみると。
「……ぁ…………、」
その熱くもある太陽のような目が、じっと私を見つめたまま離れない。私の芯まで、心まで射抜き、より一層熱くさせていった。
「朝緋、俺は頑張ったよな?俺はしてほしい。頑張った褒美が欲しい。欲は言わない、ここにだ」
私の手を離すと、杏寿郎さんが自分の額を指先でとんと突いた。槇寿朗さんにもかつてした、額への口づけ。
たったそれだけの欲と言われたけれど、それでも相手が起きている時なんて、恥ずかしくて出来そうにない。
杏寿郎さんの滅多にないおねだりなのに、叶えてあげられそうにない。
この空気の中その願いを叶えてしまったら、私はこの先この人のことを真っ直ぐ見れなくなる気がする。
「ご、ご褒美なら、あとでいっぱいお芋のお菓子持ってきますから。
あっまた、スイートポテトを作りますよ。前回のスイートポテトは千寿郎作なんですよ?知ってました?次は私がつく、」
「芋の菓子も大変魅力的だが今はいい。ねぎらいの証として、これが。ここに。欲しいのだ。
でないと治るものも治らないかもしれん」
私の唇にぴとりと、杏寿郎さんの親指が触れた。顎を上向かせるように手を添え、指腹でふにふにと潰され、形をなぞられる。
名残惜しくもさっさと離れたそれを、再び自身のひたいに置いた。
「だめなのだろうか」
真剣な眼差しで見つめられ、限界突破した。炎の呼吸が頭から吹き出して、絶対今ならお湯が沸く。
「〜〜ーっどうぞ!!」
ごちん!
「いっ……熱烈だなっ!?」
そうだ。この空気の中でするからいけないのだ!口付けは私からだし、主導権を握っているのも私!
元は杏寿郎さんにバレないようにしたかったことだもの、漂う甘い空気は自らぶち壊す。
ちゅうなんてお優しいものではない。
頭突きかな?良い音したけど私の歯折れてない?大丈夫??という勢いで、杏寿郎さんのひたいに唇をぶつけた。
杏寿郎さんの国宝級の額が赤くなってる。結構痛いはずだ。私も前歯が痛い。折れてる気配はないけど。
「ご褒美はあげました!これで治るんですよね!師範、早く良くなってくださいねっ」
「む。むむむ、むむむむむ。むむむむむむむ!」
杏寿郎さんは呆気に取られてから、じんじん痛むひたいをさすり、そして目をキュッと閉じてしばらく唸っていた。
「……いや、欲しかったものに違いはない。男に二言はないな。ありがたく受け取った!すぐに治してみせよう!!
千寿郎も心配しているのだろう?治したら生家に帰る。君は絶対にここには来ず、あの家で待っていてくれ!!」
「え、芋の菓子はいいのですか?もうお見舞いに来なくていいんですか??」
「………………。帰ったら作ってくれるとありがたい。それまでは君の顔を見るのもお預けだ!」
甘い空気じゃなくても恥ずかしかったから、しばらく顔を合わせなくて済むというのを聞いて、実をいうとほっとした。
見舞いに来るな、というのはちょっぴり寂しいけれどね。