二周目 肆
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帝都に巣食う下弦の弐を杏寿郎さんが滅した。
彼が主体となり蜜璃や他の隊士を連れ、なかなか大規模な任務になったとのことだ。
帝都。下弦の弐。
……そういえば『前』にもこれくらいの時期にそんな任務へ行っていた気がする。
まさか忘れていたとは。肝心な記憶ばかりが、薄れててほんっと困る。
おかげで一番重要なことを知るのが遅れてしまった。
被害は爆弾での建物の倒壊、隊士・一般人ともに軽症から中傷程度の怪我のみで、死者はいないらしい。
しかし、唯一重症で蝶屋敷に運ばれたものがいる。
杏寿郎さんだった。
「しのぶさん!きょ、師範は……!」
蝶屋敷に駆け込んだ私は挨拶もそこそこに、脱いだブゥツを揃えもせず廊下を駆ける。患者の眠る部屋を次々に開き、見ていくと一番奥の病室に杏寿郎さんが横になっているのが目に入る。
隣には足に包帯を巻く蜜璃、医師であるしのぶさんの姿もあった。
「朝緋さん?屋敷の中を走るのはやめてくださいねー?」
「し、しのぶさん……ごめんなさい」
病院内は騒がずお静かには万国共通、そこに歴史は関係ない常識だ。
それを怠った私は絶対零度に近い微笑みで睨まれてしまい、言葉に詰まった。せめて会話は静かに努めようと決めた。
しかし、目の前の教師さんを見つけると、全てが吹き飛んでしまった。
「っ!!か、彼、あの……顔、青い…………まさか死…………っ!」
私の頭はあの時から容易に最悪を思い浮かべるようになってしまった。
『前』のこの時はどうだったっけ?こんな怪我はしていた?あれ?わからない。
ただ脳裏をよぎるのは、上弦の参にやられてしまった時の貴方。
今回、怪我をしている場所も悪かった。
トラウマを直撃するその場所は、上弦の参に潰された目。その上のほうだったらしく、左目までを隠すかのように左側頭部へ向かっておおきなガァゼが貼られていた。
呼吸が激しく乱れ、視界がぶれた。
「朝緋ちゃん!師範なら眠っているだけよ!心配しないで!?」
「ええそうですよ。治療が終わったあとあまりにも声が大きく煩いので、よく眠れるお薬を投与してあるだけです。
青い顔をしてるのは煉獄さんではなく貴女。
そんな呼吸をしていては、過呼吸で倒れます。全集中の呼吸が途切れてますよ。しっかりなさい」
蟲柱の顔で言われ、呼吸を取り戻す。すぅ、はぁ……うん、少し落ち着いた。
「取り乱してごめんなさい。ありがとうございます。蜜璃ちゃん、しのぶさん」
「いいえ〜。これから私は任務がありますのでこれで失礼します。
長時間いるつもりなら蝶屋敷の仕事の手伝いの一つでもしてくださいね、朝緋さん?」
ここからは蟲柱ではなく、友人としての言葉で言われた。最近運ばれる隊士も増えてきて、人手が足りないのだろうなぁ。猫の手も借りたいくらいに。
「お手伝い!なら朝緋ちゃんにはご飯の支度を手伝ってもらうといいと思うわ!この子のご飯とっても美味しいので!!」
「ならそうしましょう。煉獄さんは起きたらたくさん食べるでしょうし、慣れ親しんだ貴女の味なら尚嬉しいと思います。食事の準備までは時間がありますし急いでいませんが、よろしくお願いしますね」
「あ、うん……わかった」
とんとん拍子に私が食事の準備を手伝う話になってしまった。千寿郎に烏で遅くなるって伝えておかないとなあ。
「気をつけていってらっしゃい!しのぶちゃん!!」
「はい、行ってまいります」
ふーん。しのぶと蜜璃は仲良くなったようだ。友人同士が仲良くしている姿が見られるのはとても嬉しい。
そのうち、女子会と称してカフェーでも行けたらいいなぁ。
「ところで蜜璃ちゃんはその怪我、大丈夫?」
「全然平気よ!かわいくないわんちゃんに太ももをがぶーっとされただけだから!自分で処置が終わってるわ」
聞けば、包帯に血は滲んでいるけれどそれだけで、怪我自体はそこまで深くもなく、呼吸で出血も抑えているようだ。
「ならよかった……。んん?かわいくないわんちゃん……?」
「ぜーんぜんかわいくなくて目がぽぽぽぽぎょろぎょろぎょろー!ギザギザの牙がうぉー!ぐぁぁぁーっていう感じのわんちゃんよ!」
「うん何言ってるかわからないけどなんとなく分かった」
蜜璃の言葉は時々人に伝わりにくい。
「さて、お腹ペッコペコだし、邪魔者はお暇するわね」
「えええっ蜜璃ちゃんは邪魔者なんかじゃないよ……」
「だって食事を作り始める時間まではまだあるでしょう?」
大事な妹弟子だ。むしろ蜜璃にはご飯をうんと食べていって欲しいくらいなのに。
とはいえ蜜璃のためだけに作れるわけじゃないし、今から作っても汁物も主菜も冷めてしまうもんね。でもそれが何なのだろう。
首を傾げていれば、こそりと耳に囁かれた。
「しばらく師範と二人きりなのよっきゃっ」
二人きり……。
ただ影のせいで青く見えただけの杏寿郎さんの顔。
触れたい。貴方に触れてその無事を確かめたい。ひそりと寄り添い、貴方の手の、頬の、ひたいの。
貴方の温もりを知りたい。
「いやいやいや、ふ、二人きりだからって、不埒なこと考えてませんよ!?ないよ!ないからね!?触れたいなんて考えてないっ」
「やだもう!何かしろなんて私言ってないわぁ〜やだぁー、朝緋ちゃんたら助平ね!」
「はうううう」
墓穴を掘った。その穴に入りたい。誰かそのあと埋めてくれ。
じゃないと顔からでた火で、熱くて燃えつきそう。
最後まで私のことを揶揄い尽くした蜜璃は、満足そうににこにこしたまま病室を出ていった。
彼が主体となり蜜璃や他の隊士を連れ、なかなか大規模な任務になったとのことだ。
帝都。下弦の弐。
……そういえば『前』にもこれくらいの時期にそんな任務へ行っていた気がする。
まさか忘れていたとは。肝心な記憶ばかりが、薄れててほんっと困る。
おかげで一番重要なことを知るのが遅れてしまった。
被害は爆弾での建物の倒壊、隊士・一般人ともに軽症から中傷程度の怪我のみで、死者はいないらしい。
しかし、唯一重症で蝶屋敷に運ばれたものがいる。
杏寿郎さんだった。
「しのぶさん!きょ、師範は……!」
蝶屋敷に駆け込んだ私は挨拶もそこそこに、脱いだブゥツを揃えもせず廊下を駆ける。患者の眠る部屋を次々に開き、見ていくと一番奥の病室に杏寿郎さんが横になっているのが目に入る。
隣には足に包帯を巻く蜜璃、医師であるしのぶさんの姿もあった。
「朝緋さん?屋敷の中を走るのはやめてくださいねー?」
「し、しのぶさん……ごめんなさい」
病院内は騒がずお静かには万国共通、そこに歴史は関係ない常識だ。
それを怠った私は絶対零度に近い微笑みで睨まれてしまい、言葉に詰まった。せめて会話は静かに努めようと決めた。
しかし、目の前の教師さんを見つけると、全てが吹き飛んでしまった。
「っ!!か、彼、あの……顔、青い…………まさか死…………っ!」
私の頭はあの時から容易に最悪を思い浮かべるようになってしまった。
『前』のこの時はどうだったっけ?こんな怪我はしていた?あれ?わからない。
ただ脳裏をよぎるのは、上弦の参にやられてしまった時の貴方。
今回、怪我をしている場所も悪かった。
トラウマを直撃するその場所は、上弦の参に潰された目。その上のほうだったらしく、左目までを隠すかのように左側頭部へ向かっておおきなガァゼが貼られていた。
呼吸が激しく乱れ、視界がぶれた。
「朝緋ちゃん!師範なら眠っているだけよ!心配しないで!?」
「ええそうですよ。治療が終わったあとあまりにも声が大きく煩いので、よく眠れるお薬を投与してあるだけです。
青い顔をしてるのは煉獄さんではなく貴女。
そんな呼吸をしていては、過呼吸で倒れます。全集中の呼吸が途切れてますよ。しっかりなさい」
蟲柱の顔で言われ、呼吸を取り戻す。すぅ、はぁ……うん、少し落ち着いた。
「取り乱してごめんなさい。ありがとうございます。蜜璃ちゃん、しのぶさん」
「いいえ〜。これから私は任務がありますのでこれで失礼します。
長時間いるつもりなら蝶屋敷の仕事の手伝いの一つでもしてくださいね、朝緋さん?」
ここからは蟲柱ではなく、友人としての言葉で言われた。最近運ばれる隊士も増えてきて、人手が足りないのだろうなぁ。猫の手も借りたいくらいに。
「お手伝い!なら朝緋ちゃんにはご飯の支度を手伝ってもらうといいと思うわ!この子のご飯とっても美味しいので!!」
「ならそうしましょう。煉獄さんは起きたらたくさん食べるでしょうし、慣れ親しんだ貴女の味なら尚嬉しいと思います。食事の準備までは時間がありますし急いでいませんが、よろしくお願いしますね」
「あ、うん……わかった」
とんとん拍子に私が食事の準備を手伝う話になってしまった。千寿郎に烏で遅くなるって伝えておかないとなあ。
「気をつけていってらっしゃい!しのぶちゃん!!」
「はい、行ってまいります」
ふーん。しのぶと蜜璃は仲良くなったようだ。友人同士が仲良くしている姿が見られるのはとても嬉しい。
そのうち、女子会と称してカフェーでも行けたらいいなぁ。
「ところで蜜璃ちゃんはその怪我、大丈夫?」
「全然平気よ!かわいくないわんちゃんに太ももをがぶーっとされただけだから!自分で処置が終わってるわ」
聞けば、包帯に血は滲んでいるけれどそれだけで、怪我自体はそこまで深くもなく、呼吸で出血も抑えているようだ。
「ならよかった……。んん?かわいくないわんちゃん……?」
「ぜーんぜんかわいくなくて目がぽぽぽぽぎょろぎょろぎょろー!ギザギザの牙がうぉー!ぐぁぁぁーっていう感じのわんちゃんよ!」
「うん何言ってるかわからないけどなんとなく分かった」
蜜璃の言葉は時々人に伝わりにくい。
「さて、お腹ペッコペコだし、邪魔者はお暇するわね」
「えええっ蜜璃ちゃんは邪魔者なんかじゃないよ……」
「だって食事を作り始める時間まではまだあるでしょう?」
大事な妹弟子だ。むしろ蜜璃にはご飯をうんと食べていって欲しいくらいなのに。
とはいえ蜜璃のためだけに作れるわけじゃないし、今から作っても汁物も主菜も冷めてしまうもんね。でもそれが何なのだろう。
首を傾げていれば、こそりと耳に囁かれた。
「しばらく師範と二人きりなのよっきゃっ」
二人きり……。
ただ影のせいで青く見えただけの杏寿郎さんの顔。
触れたい。貴方に触れてその無事を確かめたい。ひそりと寄り添い、貴方の手の、頬の、ひたいの。
貴方の温もりを知りたい。
「いやいやいや、ふ、二人きりだからって、不埒なこと考えてませんよ!?ないよ!ないからね!?触れたいなんて考えてないっ」
「やだもう!何かしろなんて私言ってないわぁ〜やだぁー、朝緋ちゃんたら助平ね!」
「はうううう」
墓穴を掘った。その穴に入りたい。誰かそのあと埋めてくれ。
じゃないと顔からでた火で、熱くて燃えつきそう。
最後まで私のことを揶揄い尽くした蜜璃は、満足そうににこにこしたまま病室を出ていった。