二周目 肆
名前変換
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杏寿郎さんの好物はもちろん、旬の食材をたんまり使ったお料理を作っていれば、煮込み料理を煮込んで手持ち無沙汰になった蜜璃が話しかけてきた。
こちらも手元を止めて平気な行程なので、私も千寿郎も手を止める。
「隊士は藤の花の家紋の家がおうちみたいなものだって聞いたんだけれど、朝緋ちゃんは生家に帰って来てくれるのね」
「うん。私は基本的にここから通いで任務に当たってるから」
あまり遠方の任務だと、藤の家紋の家や、その地域の旅館に泊まったり、何もないところなら野宿したりもあるけども。
野宿は苦手。気をつけなくちゃいけないのは何も鬼だけじゃないし。知らない人もだけど、野生の獣とかあと虫とか!ひぃっゾワゾワする〜!!
「ただ、杏寿郎さ……師範は別。他の隊士同様に根無草で、ここへはたまに帰ってきて稽古をつけてくれるくらいだったの。だから、蜜璃ちゃんが来てくれて、彼が帰ってくることも増えた。
手料理をもっとたくさん食べて欲しい、体にいいもの食べて欲しい。顔を見たい……そう思っていたからとっても嬉しい。ありがとう!」
「そんな、私の事なんて関係ないと思うわ。偶然よ。
それより朝緋ちゃん、師範がいないところでくらいお名前で呼んでしまってもいいんじゃないの?」
「お外で咄嗟の時に名前のほうが出ると色々と困るんだあ」
贔屓がどうのこうのだの。妹がどうの。恋人がどうのと、内容は多岐にわたるけど色々言われる。なんてったって、杏寿郎さんだからね!もてるからね!!しょうがないね!!
でも恋人と間違えられるのはちょっと嬉しかったりする。
「でも姉上って、師範ではなく兄上のお名前が口から頻繁に出てますよね」
スパァン!千寿郎の言葉の壱ノ型不知火が私の頸をとった。なんて斬れ味の鋭い刃だ。
「んまっ!千寿郎!これでも頑張ってるんだからそゆこと言わないで!?千寿郎の分だけ一品少なくするわよ!!」
「ええっ本当のこと言っただけなのに、なんて狭量な姉上なんだ……っ」
なんとでも言うといい。今の私は意地悪な悪鬼なのだ。
「ねぇねぇ。このお芋は何に使うの?」
つんつんと、籠に転がるさつまいもを突く蜜璃。ああ、さつまいものお味噌汁を作った残りの芋だなあ。
「それは余っただけのお芋だよ。多めに持ってきちゃってね……芸がないけどふかし芋にでもしようかなと思ってる」
「本当に芸がないですね大体持ってきすぎなんですよ」
「千寿郎ひどくない?」
「姉上が僕に意地悪を言うから仕返しです」
つらい。
「このお芋さん達、私に譲ってくれないかしら?」
「いいけどどうするの」
杏寿郎さんじゃあるまいし、蜜璃の好物は確か桜餅だったはず。
「スイートポテトを作ろうと思ったの!」
「スイートポテト……」
ここに来てからそんなハイカラなものは作ってこなかったな。
煉獄家は洋菓子にあまり馴染みがないってのもあって、疎遠になってたわ。
「うん!知ってる?」
「知ってる……けど、作る機会がなかったからここでは作ったことないなぁ」
「なら作りましょうよ!簡単に作れるし、師範も大喜びよ!」
「でも、少し作り方が違うかもしれないし、材料の配分も違うかもしれない。蜜璃ちゃんの作り方が知りたいな」
「僕も知りたいです!」
「ええ、ええ。もちろん教えるわ!あ、でも白牛酪や牛の乳がないとだめね。あるかしら」
バターと牛乳はさすがにない、そう述べれば買いに行くとまで言い始めた。
「足りぬ食材を短い時間を設定して買いに行く!これもまた鍛錬、でしょ!」
「ええ……鍛錬にはなるかもしれないけど、今日はやめない?外は寒いし大変よ」
「平気よ、任せて!代わりに朝緋ちゃんは蒸したお芋を滑らかに潰しておいて?」
「鍛錬という言葉が聞こえたのだが!」
「うわぁでたぁ!杏寿郎兄さん、厨の中は侵入禁止ですからね」
ぬっと現れた杏寿郎さん。厨の中に入られては叶わぬと、千寿郎と共にシッシッと追い出す仕草をしてみる。
「言われなくともわかっている!して、甘露寺は厨でまで鍛錬とな?感心感心」
「ここから短時間で白牛酪や牛乳を買いに行くという鍛錬だそうですよ。貴方からも止めてくださいよ……」
「食事前の軽い運動にちょうどいいから俺も行く!」
「まじでか」
「姉上……兄上は甘露寺さんと同じ性格の人です。同調こそすれ、止めるなんてあり得ないかと」
「そのようで」
前向きで明るくて、元気いっぱい。食事をもりもり食べる。まったく、よく似た師弟である。
「帰る頃には夕餉の支度も、その芋潰しも終わっているのだろう?甘露寺、往復半刻で行くぞ!」
「はいっ」
ここから一番近い牧場までを考えると、往復半刻……つまり往復だけで一時間ってかなりキツいのでは?杏寿郎さんならともかく、蜜璃はまだ常中が完璧ではないし。
そう思ったがやる気満々な師と妹弟子を前に、水を差すのは止めた。
行くにあたり、玄関で草履を履く蜜璃は温かそうな毛糸の襟巻きを首に巻いていた。華やかな鴇色が蜜璃に似合っている。
それに倣い、私も柿色の襟巻きを杏寿郎さんに渡した。
「貴方も巻いてください」
「俺は風邪などひかんから大丈夫だ」
「でも速く駆けると冷たい風がびゅんびゅん首元を撫でて寒いはずです。一枚あるだけで温かさはぜんぜん違いますよ」
「むう……そこまで言うならせっかく持ってきてくれたのだし、巻いていく。
悪いが巻き方がよくわからん。巻いてくれるか?」
巻き方なんて適当でいいのだけれど、頼まれてしまった以上やらざるを得ない。
ドキドキしながら首に抱きつくように布を回せば、至近距離で杏寿郎さんの熱い瞳とかちあった。あと数センチで唇まで触れてしまいそうだ。
杏寿郎さんの呼吸や体温まで感じられて、胸が高鳴りすぎて心臓止まるところだった。
「ぬくいな……ん、朝緋の匂いがする」
「私が愛用してる襟巻きですから。気に入らないです?」
思い出すのは無限列車の任務。炭治郎が言っていた内容。体臭は臭くないって言っていたけれど、未だに気にしてしまう。だって女の子だもん。
「いいや、君に包まれているようでひどく愛しく、そして安心できる。ありがとう。
すぐ戻るからいい子で待ってなさい」
目を細めて笑った杏寿郎さんが、頭に手をポンと置く。しばらく優しく撫でられ、ついその手に擦り寄って甘えたくなった。
むずむずと疼く気持ちを我慢していると、その手は名残惜しくも離れていった。
「行ってくる。行くぞ甘露寺っ!」
一瞬で玄関から消える杏寿郎さんに、蜜璃はあっけに取られてから、私に笑顔を向けた。
「んマァ!らぶらぶね!!きゅんきゅんしちゃったわ!!」
「な、何言ってるの蜜璃ちゃん!」
「ふふふ、あんな目で見つめられたら好きになっちゃうわよね。朝緋ちゃん真っ赤よ?
では師範も呼んでるみたいだし、行ってきます!!
遠くからおーいと呼ぶ声がしている。蜜璃も追うようにして、駆けていった。
言うだけ言って、人のことをドギマギさせて二人は行ってしまった。人の顔を茹で蛸みたいに赤くさせるなんて、ほんとよく似た師弟だわ!!
というか、らぶらぶは死語ではなかろうか。いや、逆にこの時代だと最先端に当たると思い出し、さらに意味を考え込んでしまい、頬をさらに染めた。
厨に戻ったら、千寿郎に頬があり得ないくらい真っ赤だと指摘されたので、寒さのせいにした。
そうだ、寒いから赤いのだ。断じて、蜜璃や杏寿郎さんのせいではない。
こちらも手元を止めて平気な行程なので、私も千寿郎も手を止める。
「隊士は藤の花の家紋の家がおうちみたいなものだって聞いたんだけれど、朝緋ちゃんは生家に帰って来てくれるのね」
「うん。私は基本的にここから通いで任務に当たってるから」
あまり遠方の任務だと、藤の家紋の家や、その地域の旅館に泊まったり、何もないところなら野宿したりもあるけども。
野宿は苦手。気をつけなくちゃいけないのは何も鬼だけじゃないし。知らない人もだけど、野生の獣とかあと虫とか!ひぃっゾワゾワする〜!!
「ただ、杏寿郎さ……師範は別。他の隊士同様に根無草で、ここへはたまに帰ってきて稽古をつけてくれるくらいだったの。だから、蜜璃ちゃんが来てくれて、彼が帰ってくることも増えた。
手料理をもっとたくさん食べて欲しい、体にいいもの食べて欲しい。顔を見たい……そう思っていたからとっても嬉しい。ありがとう!」
「そんな、私の事なんて関係ないと思うわ。偶然よ。
それより朝緋ちゃん、師範がいないところでくらいお名前で呼んでしまってもいいんじゃないの?」
「お外で咄嗟の時に名前のほうが出ると色々と困るんだあ」
贔屓がどうのこうのだの。妹がどうの。恋人がどうのと、内容は多岐にわたるけど色々言われる。なんてったって、杏寿郎さんだからね!もてるからね!!しょうがないね!!
でも恋人と間違えられるのはちょっと嬉しかったりする。
「でも姉上って、師範ではなく兄上のお名前が口から頻繁に出てますよね」
スパァン!千寿郎の言葉の壱ノ型不知火が私の頸をとった。なんて斬れ味の鋭い刃だ。
「んまっ!千寿郎!これでも頑張ってるんだからそゆこと言わないで!?千寿郎の分だけ一品少なくするわよ!!」
「ええっ本当のこと言っただけなのに、なんて狭量な姉上なんだ……っ」
なんとでも言うといい。今の私は意地悪な悪鬼なのだ。
「ねぇねぇ。このお芋は何に使うの?」
つんつんと、籠に転がるさつまいもを突く蜜璃。ああ、さつまいものお味噌汁を作った残りの芋だなあ。
「それは余っただけのお芋だよ。多めに持ってきちゃってね……芸がないけどふかし芋にでもしようかなと思ってる」
「本当に芸がないですね大体持ってきすぎなんですよ」
「千寿郎ひどくない?」
「姉上が僕に意地悪を言うから仕返しです」
つらい。
「このお芋さん達、私に譲ってくれないかしら?」
「いいけどどうするの」
杏寿郎さんじゃあるまいし、蜜璃の好物は確か桜餅だったはず。
「スイートポテトを作ろうと思ったの!」
「スイートポテト……」
ここに来てからそんなハイカラなものは作ってこなかったな。
煉獄家は洋菓子にあまり馴染みがないってのもあって、疎遠になってたわ。
「うん!知ってる?」
「知ってる……けど、作る機会がなかったからここでは作ったことないなぁ」
「なら作りましょうよ!簡単に作れるし、師範も大喜びよ!」
「でも、少し作り方が違うかもしれないし、材料の配分も違うかもしれない。蜜璃ちゃんの作り方が知りたいな」
「僕も知りたいです!」
「ええ、ええ。もちろん教えるわ!あ、でも白牛酪や牛の乳がないとだめね。あるかしら」
バターと牛乳はさすがにない、そう述べれば買いに行くとまで言い始めた。
「足りぬ食材を短い時間を設定して買いに行く!これもまた鍛錬、でしょ!」
「ええ……鍛錬にはなるかもしれないけど、今日はやめない?外は寒いし大変よ」
「平気よ、任せて!代わりに朝緋ちゃんは蒸したお芋を滑らかに潰しておいて?」
「鍛錬という言葉が聞こえたのだが!」
「うわぁでたぁ!杏寿郎兄さん、厨の中は侵入禁止ですからね」
ぬっと現れた杏寿郎さん。厨の中に入られては叶わぬと、千寿郎と共にシッシッと追い出す仕草をしてみる。
「言われなくともわかっている!して、甘露寺は厨でまで鍛錬とな?感心感心」
「ここから短時間で白牛酪や牛乳を買いに行くという鍛錬だそうですよ。貴方からも止めてくださいよ……」
「食事前の軽い運動にちょうどいいから俺も行く!」
「まじでか」
「姉上……兄上は甘露寺さんと同じ性格の人です。同調こそすれ、止めるなんてあり得ないかと」
「そのようで」
前向きで明るくて、元気いっぱい。食事をもりもり食べる。まったく、よく似た師弟である。
「帰る頃には夕餉の支度も、その芋潰しも終わっているのだろう?甘露寺、往復半刻で行くぞ!」
「はいっ」
ここから一番近い牧場までを考えると、往復半刻……つまり往復だけで一時間ってかなりキツいのでは?杏寿郎さんならともかく、蜜璃はまだ常中が完璧ではないし。
そう思ったがやる気満々な師と妹弟子を前に、水を差すのは止めた。
行くにあたり、玄関で草履を履く蜜璃は温かそうな毛糸の襟巻きを首に巻いていた。華やかな鴇色が蜜璃に似合っている。
それに倣い、私も柿色の襟巻きを杏寿郎さんに渡した。
「貴方も巻いてください」
「俺は風邪などひかんから大丈夫だ」
「でも速く駆けると冷たい風がびゅんびゅん首元を撫でて寒いはずです。一枚あるだけで温かさはぜんぜん違いますよ」
「むう……そこまで言うならせっかく持ってきてくれたのだし、巻いていく。
悪いが巻き方がよくわからん。巻いてくれるか?」
巻き方なんて適当でいいのだけれど、頼まれてしまった以上やらざるを得ない。
ドキドキしながら首に抱きつくように布を回せば、至近距離で杏寿郎さんの熱い瞳とかちあった。あと数センチで唇まで触れてしまいそうだ。
杏寿郎さんの呼吸や体温まで感じられて、胸が高鳴りすぎて心臓止まるところだった。
「ぬくいな……ん、朝緋の匂いがする」
「私が愛用してる襟巻きですから。気に入らないです?」
思い出すのは無限列車の任務。炭治郎が言っていた内容。体臭は臭くないって言っていたけれど、未だに気にしてしまう。だって女の子だもん。
「いいや、君に包まれているようでひどく愛しく、そして安心できる。ありがとう。
すぐ戻るからいい子で待ってなさい」
目を細めて笑った杏寿郎さんが、頭に手をポンと置く。しばらく優しく撫でられ、ついその手に擦り寄って甘えたくなった。
むずむずと疼く気持ちを我慢していると、その手は名残惜しくも離れていった。
「行ってくる。行くぞ甘露寺っ!」
一瞬で玄関から消える杏寿郎さんに、蜜璃はあっけに取られてから、私に笑顔を向けた。
「んマァ!らぶらぶね!!きゅんきゅんしちゃったわ!!」
「な、何言ってるの蜜璃ちゃん!」
「ふふふ、あんな目で見つめられたら好きになっちゃうわよね。朝緋ちゃん真っ赤よ?
では師範も呼んでるみたいだし、行ってきます!!
遠くからおーいと呼ぶ声がしている。蜜璃も追うようにして、駆けていった。
言うだけ言って、人のことをドギマギさせて二人は行ってしまった。人の顔を茹で蛸みたいに赤くさせるなんて、ほんとよく似た師弟だわ!!
というか、らぶらぶは死語ではなかろうか。いや、逆にこの時代だと最先端に当たると思い出し、さらに意味を考え込んでしまい、頬をさらに染めた。
厨に戻ったら、千寿郎に頬があり得ないくらい真っ赤だと指摘されたので、寒さのせいにした。
そうだ、寒いから赤いのだ。断じて、蜜璃や杏寿郎さんのせいではない。