二周目 肆
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鬼舞辻無惨。
始祖の鬼である相手方にも、柱のような存在がいる。
上弦・下弦の鬼。合わせて十二体。
そこには上弦の壱が一番強く、下弦の陸が一番弱いという序列があり、上弦の鬼ほどになると鬼殺隊の柱が束になっても叶わない……などと言われるほど強い。
その上弦の能力はほぼ未知数で、実際に対峙した隊士達や柱はその能力がどのようなものであるかの情報を、ほとんど持ち帰っていない。出会った者が皆死んでしまっているからだ。
束になっても叶わない、の意味がこれでわかっただろう。
とはいえ幸か不幸か、上弦の鬼と遭遇する機会はなかなかなく、どこぞの風柱のような交戦的な人はそれを不幸に。私のような一隊士は上弦の鬼なんぞに出会わずにすんで幸せだなんて思ってしまっている。
強い鬼を恐れるな?隊士失格?なんとでもいえ、怖いものは怖い。
ただし!上弦の参の頸は何がなんでも取りたい。恐怖はない。
そこに咲くのは醜く歪んで花開いた、憎悪の華。
そしてまた一輪、醜くてそしてどこまでも美しい憎悪の華は咲いてしまった。
『上弦の弐と戦闘の末、花柱、胡蝶カナエ死亡』
その知らせを聞いたのは、遠方の任務から帰る途中のこと。
『前』の時の柱合会議に花柱がいなかったのは、こういうことだったのか。
「あの美しい人が……亡くなった……?」
美人薄命とはいうが、早すぎる。
彼女の纏う花のような香りは、もう嗅ぐことができないのか。もうあの笑顔を見ることは出来ないのか。
会うことは、もう出来ないのか……。
鬼殺隊に身を置く以上、知り合いが。仲の良い隊士が。昨日笑い合った仲間が死ぬことはよくあること。慣れなくてはやっていられない。
それどころか、明日は我が身。気を張っていなくては、心を強く保っていなくては次に死を迎えるのは自分自身。
だけど、訃報を聞くのはいつだってつらく悲しい。
「そうだ。しのぶさん……!」
数回しか会っていない私ですらこんなにも悲しく思うのだ。肉親なら。妹であるしのぶさんなら、どんなに悲しかったろう。
あの勝気な少女だ。無理して強がってやしないだろうか。友人として心配でたまらない。
任務後の疲れもなんのそので、私は花々を手に蝶屋敷へと急いだ。
「こんにちは。任務の帰りですか?」
「……うん。カナエさんの、花柱様のことを聞いて……。これ、よかったら供えてください」
「そうですか、綺麗な花……姉さんも喜ぶと思います。
すでにお葬式は終わってしまったので、仏壇に手を合わせていかれてはどうでしょう」
「そうさせてもらうね」
勝気な少女は既にどこにもいなかった。
『前』の私が会った蟲柱の胡蝶しのぶと同じ笑みが、私のことを迎えてくれた。
友人間だから壁は感じない。けれど言葉が敬語に変わっている。
花柱の胡蝶カナエさんと似た、心を閉ざしたような嘘くさい笑顔で、私を迎え入れる姿のなんと痛々しいことか。
それでも直後は荒れていたのだろう。涙もたくさんたくさん流したろう。施された化粧の下に、涙跡の腫れや色はうっすら見えていた。
友人でなかったら、この穏やかな笑顔の裏には気がつかなかった。『前』の私なら化粧で隠れたそれすら見抜けなかった。
「姉さんの願いは、私が普通の女の子の幸せを手に入れることだった。鬼殺隊に入ってほしくなかったみたい」
線香の香り満ちる仏間で、しのぶさんはぼそりとそう漏らす。私としのぶさんしかいない仏間では、他の人は聞いていない。心の内も吐露しやすかったのかもしれない。
「でも私はどんな手を使っても仇を討ちます。上弦の弐を倒します。そう決めました。
……柱を目指します」
しのぶさんは、自分は上背もなく体の部位が小さいので鬼の頸を斬ることができないと言っていた。このまま裏方に回るのは嫌だなぁと、思い悩んで前にもらしていた。
彼女はこれから毒使いに身を転じて、鬼の頸を斬れない柱へとのし上がっていくのだろう。鬼殺隊士には悲しい過去を持つ者が多すぎる。
「私も。……私も仇を討つ手伝いがしたい」
気がつけば言葉を発していた。
「朝緋さん……。ありがとう。
私ではその鬼に負けると、姉さんはそう言い残そうとしていた。だから、貴女も手伝ってくれるなら心強いわ」
カナエさんによってもたらされた上弦の弐の情報をもらった。
頭から血をかぶったような見た目の鬼であり、にこにこと中身のない笑顔を浮かべ、穏やかに優しい言葉を話すそうだ。
わあ……上弦の鬼という長く生きていそうな地位に、穏やかで優しい言葉の鬼とかどっかの宗教団体の教祖か、現代なら詐欺師かホストでもやっていそう。
そして鋭利な対の鉄扇を駆使して、氷の血鬼術を使う。その血鬼術を吸い込むと肺が内側から壊死。呼吸法が使い物にならないとのこと。
更には女を喰うことに異常なほどの執着を持つーー。
私は女で、隊士で、何より稀血だ。ならば囮として最高の逸材かもしれない。
ちなみに教祖をしているなんてこと、この時の私は知らなかった。なのにまさか当たっているとはね。
「上弦の弐……絶対に殺す」
「しのぶさん……」
カナエさんの死が彼女を憎悪の鬼と変えた。鬼舞辻無惨の生み出す鬼とは違う、人の鬼に。
表面上は笑っていようともその笑顔の下。水面下で憎悪の華が大きく強く、咲いているのがよくわかった。
私の友達の笑顔、見つめる先、心。その全てを奪った鬼を、私も許さない。
私の中の憎悪の華がまた、しのぶさんのもの以上にぽっぽっ!と蕾を増やして鮮やかに咲いた。
上弦の弐。よく知らぬその鬼を心底憎んだ。
その後しのぶさんは断言した通り、憎しみを胸に秘めながら、蟲柱を就任した。
悲しみにくれようと、憎しみを募らせようと時間は止まらない。鬼殺の指令はやまない。
巡りゆく季節の中で、杏寿郎さんにはたくさんの継子が出来た。
柱ではないのに、継子?と思うかもしれない。形式上は槇寿朗さんの継子なのだが、稽古をつけるのが杏寿郎さんという形に落ち着いているだけだ。
まだ私は正式な継子ではない。けれど、その中でも一番の古株の継子扱いを受けた。
まあ、そのうち実際に継子になるのだから今から継子だろうとなんだろうとそう変わらない。
ただし、一週間と持たずに次々に辞めていった。杏寿郎さんの稽古がきつすぎること。そして隊士が我が生家である煉獄家に、杏寿郎さんがあまり帰らない中で逗留し続けるのが難しかったからだ。槇寿朗さんだけでなく、杏寿郎さんや千寿郎も隊士の滞在を少し複雑そうな顔で対応してたもんなぁ。
中にはとてもよくしてくれた男性隊士もいたけど、その人も継子を辞退していった。かわりに文通でもしようとしたけれど、それも断られた。なんで!?
……仲良くしたかったのに、みんないなくなって悲しい。
ちなみに全員が男性隊士だった。女性で炎の呼吸使いはそうそういない。
いたのは、私と後の恋柱くらいか。
始祖の鬼である相手方にも、柱のような存在がいる。
上弦・下弦の鬼。合わせて十二体。
そこには上弦の壱が一番強く、下弦の陸が一番弱いという序列があり、上弦の鬼ほどになると鬼殺隊の柱が束になっても叶わない……などと言われるほど強い。
その上弦の能力はほぼ未知数で、実際に対峙した隊士達や柱はその能力がどのようなものであるかの情報を、ほとんど持ち帰っていない。出会った者が皆死んでしまっているからだ。
束になっても叶わない、の意味がこれでわかっただろう。
とはいえ幸か不幸か、上弦の鬼と遭遇する機会はなかなかなく、どこぞの風柱のような交戦的な人はそれを不幸に。私のような一隊士は上弦の鬼なんぞに出会わずにすんで幸せだなんて思ってしまっている。
強い鬼を恐れるな?隊士失格?なんとでもいえ、怖いものは怖い。
ただし!上弦の参の頸は何がなんでも取りたい。恐怖はない。
そこに咲くのは醜く歪んで花開いた、憎悪の華。
そしてまた一輪、醜くてそしてどこまでも美しい憎悪の華は咲いてしまった。
『上弦の弐と戦闘の末、花柱、胡蝶カナエ死亡』
その知らせを聞いたのは、遠方の任務から帰る途中のこと。
『前』の時の柱合会議に花柱がいなかったのは、こういうことだったのか。
「あの美しい人が……亡くなった……?」
美人薄命とはいうが、早すぎる。
彼女の纏う花のような香りは、もう嗅ぐことができないのか。もうあの笑顔を見ることは出来ないのか。
会うことは、もう出来ないのか……。
鬼殺隊に身を置く以上、知り合いが。仲の良い隊士が。昨日笑い合った仲間が死ぬことはよくあること。慣れなくてはやっていられない。
それどころか、明日は我が身。気を張っていなくては、心を強く保っていなくては次に死を迎えるのは自分自身。
だけど、訃報を聞くのはいつだってつらく悲しい。
「そうだ。しのぶさん……!」
数回しか会っていない私ですらこんなにも悲しく思うのだ。肉親なら。妹であるしのぶさんなら、どんなに悲しかったろう。
あの勝気な少女だ。無理して強がってやしないだろうか。友人として心配でたまらない。
任務後の疲れもなんのそので、私は花々を手に蝶屋敷へと急いだ。
「こんにちは。任務の帰りですか?」
「……うん。カナエさんの、花柱様のことを聞いて……。これ、よかったら供えてください」
「そうですか、綺麗な花……姉さんも喜ぶと思います。
すでにお葬式は終わってしまったので、仏壇に手を合わせていかれてはどうでしょう」
「そうさせてもらうね」
勝気な少女は既にどこにもいなかった。
『前』の私が会った蟲柱の胡蝶しのぶと同じ笑みが、私のことを迎えてくれた。
友人間だから壁は感じない。けれど言葉が敬語に変わっている。
花柱の胡蝶カナエさんと似た、心を閉ざしたような嘘くさい笑顔で、私を迎え入れる姿のなんと痛々しいことか。
それでも直後は荒れていたのだろう。涙もたくさんたくさん流したろう。施された化粧の下に、涙跡の腫れや色はうっすら見えていた。
友人でなかったら、この穏やかな笑顔の裏には気がつかなかった。『前』の私なら化粧で隠れたそれすら見抜けなかった。
「姉さんの願いは、私が普通の女の子の幸せを手に入れることだった。鬼殺隊に入ってほしくなかったみたい」
線香の香り満ちる仏間で、しのぶさんはぼそりとそう漏らす。私としのぶさんしかいない仏間では、他の人は聞いていない。心の内も吐露しやすかったのかもしれない。
「でも私はどんな手を使っても仇を討ちます。上弦の弐を倒します。そう決めました。
……柱を目指します」
しのぶさんは、自分は上背もなく体の部位が小さいので鬼の頸を斬ることができないと言っていた。このまま裏方に回るのは嫌だなぁと、思い悩んで前にもらしていた。
彼女はこれから毒使いに身を転じて、鬼の頸を斬れない柱へとのし上がっていくのだろう。鬼殺隊士には悲しい過去を持つ者が多すぎる。
「私も。……私も仇を討つ手伝いがしたい」
気がつけば言葉を発していた。
「朝緋さん……。ありがとう。
私ではその鬼に負けると、姉さんはそう言い残そうとしていた。だから、貴女も手伝ってくれるなら心強いわ」
カナエさんによってもたらされた上弦の弐の情報をもらった。
頭から血をかぶったような見た目の鬼であり、にこにこと中身のない笑顔を浮かべ、穏やかに優しい言葉を話すそうだ。
わあ……上弦の鬼という長く生きていそうな地位に、穏やかで優しい言葉の鬼とかどっかの宗教団体の教祖か、現代なら詐欺師かホストでもやっていそう。
そして鋭利な対の鉄扇を駆使して、氷の血鬼術を使う。その血鬼術を吸い込むと肺が内側から壊死。呼吸法が使い物にならないとのこと。
更には女を喰うことに異常なほどの執着を持つーー。
私は女で、隊士で、何より稀血だ。ならば囮として最高の逸材かもしれない。
ちなみに教祖をしているなんてこと、この時の私は知らなかった。なのにまさか当たっているとはね。
「上弦の弐……絶対に殺す」
「しのぶさん……」
カナエさんの死が彼女を憎悪の鬼と変えた。鬼舞辻無惨の生み出す鬼とは違う、人の鬼に。
表面上は笑っていようともその笑顔の下。水面下で憎悪の華が大きく強く、咲いているのがよくわかった。
私の友達の笑顔、見つめる先、心。その全てを奪った鬼を、私も許さない。
私の中の憎悪の華がまた、しのぶさんのもの以上にぽっぽっ!と蕾を増やして鮮やかに咲いた。
上弦の弐。よく知らぬその鬼を心底憎んだ。
その後しのぶさんは断言した通り、憎しみを胸に秘めながら、蟲柱を就任した。
悲しみにくれようと、憎しみを募らせようと時間は止まらない。鬼殺の指令はやまない。
巡りゆく季節の中で、杏寿郎さんにはたくさんの継子が出来た。
柱ではないのに、継子?と思うかもしれない。形式上は槇寿朗さんの継子なのだが、稽古をつけるのが杏寿郎さんという形に落ち着いているだけだ。
まだ私は正式な継子ではない。けれど、その中でも一番の古株の継子扱いを受けた。
まあ、そのうち実際に継子になるのだから今から継子だろうとなんだろうとそう変わらない。
ただし、一週間と持たずに次々に辞めていった。杏寿郎さんの稽古がきつすぎること。そして隊士が我が生家である煉獄家に、杏寿郎さんがあまり帰らない中で逗留し続けるのが難しかったからだ。槇寿朗さんだけでなく、杏寿郎さんや千寿郎も隊士の滞在を少し複雑そうな顔で対応してたもんなぁ。
中にはとてもよくしてくれた男性隊士もいたけど、その人も継子を辞退していった。かわりに文通でもしようとしたけれど、それも断られた。なんで!?
……仲良くしたかったのに、みんないなくなって悲しい。
ちなみに全員が男性隊士だった。女性で炎の呼吸使いはそうそういない。
いたのは、私と後の恋柱くらいか。