幕間 ノ 壱
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「さて千寿郎?
私のためだというなら、かわいい弟と一緒に煮炊きくらいさせてよー。やっと帰ってきたんだからもうちょーっと癒しの千寿郎をお姉ちゃんに補給させて?」
猫の子でも撫でくりまわすようにして、わしゃわしゃと愛しの弟の髪をかき回す。もちろん、かわいい髪型は崩さないようにね。
「わぷっ。
癒しのって……仕方ない姉上ですねえ。体は疲れているはずなんですから、休みたい時は言ってください。お風呂も沸かしますから」
「ありがとう。でも一緒に料理してる時のほうが休まるんだよー?」
きゃらきゃらと笑いあい、肉や野菜をどう調理しようかと話に花を咲かせる。
そんなことをしていれば、拗ねるのはこの人。
「朝緋と千寿郎ばかりずるいぞ。俺を除け者にしないでくれ」
不機嫌そうに口を尖らせてこちらを見やる杏寿郎さんは、線の外からこっちに来れず待てをされているわんちゃんのようで、どこか可愛らしく私の目に映った。ふふふ、ずいぶん大きなわんちゃんだなあ。毛先だけ赤いゴールデンレトリバーかな?
「仕方ありませんね。味見係として入ってくることを許します」
「よしきた!」
嬉しそうに厨の中に入り、そして私からまずはお味噌汁用にとったお出汁の皿を受け取り唇へ傾ける。
次に小鉢用に作った蓮のきんぴら。青菜のごまよごし。
「うまいっ!」
「これは?」
「これもうまいっ!」
「はいどうぞ」
「これもまたうまいっ!」
「はいっ」
「うまいなっ!」
「ほいっ」
「うまいっうまいっ!」
「よいせっ」
「頬が落ちそうだっうまいっ!」
「どっこいしょー」
「わっしょーい!」
なにこれわんこ蕎麦みたいで面白い。芋がないのに掛け声だろうわっしょいもいただきました。
調子に乗ってローテーションで次々に与えていたら……。
「姉上?味見だけで無くなってしまいますが?」
「ヒッ!ごめんなさいっ」
この家の陰の支配者に怖い顔されてしまった。ますます瑠火さんに似てきたなあ。とくにこうして笑顔なのに怖い顔するところ。
こわやこわや。
「さっ!兄上の味見係ももうおしまいですよ!狭いので出てください」
「わはは!すまんすまん。あとは見るだけにするからこの兄を追い出さないでくれ」
とは言いつつ結局、線の外側ギリギリまで杏寿郎さんは千寿郎に押されて追い出されてしまった。
「ほー。今夜もさつま芋は使うのだな!」
三十里先までよく見渡せる脅威の視力が、まな板の上でキラッキラと輝くさつま芋を発見した。
すぐそこだからフツーに見えるけれども、まるですごく遠くから見るみたいに、杏寿郎さんは目の上に手をあてて見つめてくる。そんなに見たら芋に穴開いちゃうよ。楽しそうだからいいけれどもね。
「ええ。鶏肉と一緒に甘辛く照り焼きにしようかと思いまして」
「それは楽しみだな」
さつま芋を食べる貴方の幸せそうな顔が、私にとって一番の癒しだなんて、貴方にも千寿郎にも、誰にも言えない。
自分の好物を食べた時と同じくらい、その光景は私の心にとって好物そのもの。
「あ。そういえばお芋で胸焼けしたと言っていましたが、どうです?お芋食べ過ぎで胸焼けってことなら、お芋と照り焼きにするのやめたほうがいいかなって思ったんですが」
「む!今頃聞いてくるとはな。問題ない!忘れてくれ」
蒸し返さなければよかったかも。その話をしたら、芋に向いていた視線が全て私に向いた。私の後ろ姿を、手元を、じっと見つめられている。
特にうなじのあたりに、ひりつくほど熱い視線を感じた。
気にしないようにしていたけれど、今の私のうなじはいつもと違う部位がほんのり露出している。少し前まで結んでいた髪の毛は、解いてそのままだ。
下に流れ落ちる長い髪。それを軽く束にして横に流してあるが、それでも家事には向かない。火加減を調整するのにしゃがめば、とてもとても邪魔。
上の鍋の中を確認しても、髪の先が入りそうになるほどで。
「うわ、髪の毛が鍋に入っちゃいそう。邪魔だなぁ……」
「先程あずまに髪紐を譲ってしまいましたからね。鍋の方は見ていますから、お部屋に行って新しい髪紐で結わえてきてはどうですか?」
「オゥ…………予備の髪紐は一本も買っておいてなぁい…………」
あげたはいいものの、自分の髪を結う分がないのを忘れていた。しばらくはこのままかあ。
「では僕の髪紐を差し上げま、」
その瞬間の杏寿郎さんの動きは凄まじく速かった。
千寿郎が言い切る前に、体が浮く感覚。そひて私の視界がぐるりと回る。
「わっ!?」
「千寿郎、朝緋を少しの間借りるぞ!」
「わかりました。残りのお料理はお任せくださいね」
「うむ!頼んだ!」
いうが早いか、猛ダッシュ!私を俵担ぎにして縁側を、廊下をすったかたーっと走る杏寿郎さん。
「ちょ……杏寿、ろっ兄さっ!お、下ろして!?」
いきなり連れ去られて何が何だかわからないが、米俵みたいに俵担ぎなんて嫌すぎる。
隊服ではなく紬を着ているので、下手に手足を動かせば見せたくないものが見えてしまう。
揺れる視界の中、下ろして欲しいとだけ伝える。その際、あまり大きすぎる声は出さないでおいた。
だって私の悲鳴でも聞こうものなら槇寿朗さんが出てくる。仲が悪かろうと普段は話をしなかろうと。たとえ私が鬼殺隊に入隊しようと、槇寿朗さんにとって私は大事な娘。男親というものは娘にとことん甘い。どこか瑠火さんに似ているなら尚更だ。
人攫いか何かのように無理やり担ぎ上げる杏寿郎さんを見たら、木刀で滅多うちにでもしてくるだろう。
私のためだというなら、かわいい弟と一緒に煮炊きくらいさせてよー。やっと帰ってきたんだからもうちょーっと癒しの千寿郎をお姉ちゃんに補給させて?」
猫の子でも撫でくりまわすようにして、わしゃわしゃと愛しの弟の髪をかき回す。もちろん、かわいい髪型は崩さないようにね。
「わぷっ。
癒しのって……仕方ない姉上ですねえ。体は疲れているはずなんですから、休みたい時は言ってください。お風呂も沸かしますから」
「ありがとう。でも一緒に料理してる時のほうが休まるんだよー?」
きゃらきゃらと笑いあい、肉や野菜をどう調理しようかと話に花を咲かせる。
そんなことをしていれば、拗ねるのはこの人。
「朝緋と千寿郎ばかりずるいぞ。俺を除け者にしないでくれ」
不機嫌そうに口を尖らせてこちらを見やる杏寿郎さんは、線の外からこっちに来れず待てをされているわんちゃんのようで、どこか可愛らしく私の目に映った。ふふふ、ずいぶん大きなわんちゃんだなあ。毛先だけ赤いゴールデンレトリバーかな?
「仕方ありませんね。味見係として入ってくることを許します」
「よしきた!」
嬉しそうに厨の中に入り、そして私からまずはお味噌汁用にとったお出汁の皿を受け取り唇へ傾ける。
次に小鉢用に作った蓮のきんぴら。青菜のごまよごし。
「うまいっ!」
「これは?」
「これもうまいっ!」
「はいどうぞ」
「これもまたうまいっ!」
「はいっ」
「うまいなっ!」
「ほいっ」
「うまいっうまいっ!」
「よいせっ」
「頬が落ちそうだっうまいっ!」
「どっこいしょー」
「わっしょーい!」
なにこれわんこ蕎麦みたいで面白い。芋がないのに掛け声だろうわっしょいもいただきました。
調子に乗ってローテーションで次々に与えていたら……。
「姉上?味見だけで無くなってしまいますが?」
「ヒッ!ごめんなさいっ」
この家の陰の支配者に怖い顔されてしまった。ますます瑠火さんに似てきたなあ。とくにこうして笑顔なのに怖い顔するところ。
こわやこわや。
「さっ!兄上の味見係ももうおしまいですよ!狭いので出てください」
「わはは!すまんすまん。あとは見るだけにするからこの兄を追い出さないでくれ」
とは言いつつ結局、線の外側ギリギリまで杏寿郎さんは千寿郎に押されて追い出されてしまった。
「ほー。今夜もさつま芋は使うのだな!」
三十里先までよく見渡せる脅威の視力が、まな板の上でキラッキラと輝くさつま芋を発見した。
すぐそこだからフツーに見えるけれども、まるですごく遠くから見るみたいに、杏寿郎さんは目の上に手をあてて見つめてくる。そんなに見たら芋に穴開いちゃうよ。楽しそうだからいいけれどもね。
「ええ。鶏肉と一緒に甘辛く照り焼きにしようかと思いまして」
「それは楽しみだな」
さつま芋を食べる貴方の幸せそうな顔が、私にとって一番の癒しだなんて、貴方にも千寿郎にも、誰にも言えない。
自分の好物を食べた時と同じくらい、その光景は私の心にとって好物そのもの。
「あ。そういえばお芋で胸焼けしたと言っていましたが、どうです?お芋食べ過ぎで胸焼けってことなら、お芋と照り焼きにするのやめたほうがいいかなって思ったんですが」
「む!今頃聞いてくるとはな。問題ない!忘れてくれ」
蒸し返さなければよかったかも。その話をしたら、芋に向いていた視線が全て私に向いた。私の後ろ姿を、手元を、じっと見つめられている。
特にうなじのあたりに、ひりつくほど熱い視線を感じた。
気にしないようにしていたけれど、今の私のうなじはいつもと違う部位がほんのり露出している。少し前まで結んでいた髪の毛は、解いてそのままだ。
下に流れ落ちる長い髪。それを軽く束にして横に流してあるが、それでも家事には向かない。火加減を調整するのにしゃがめば、とてもとても邪魔。
上の鍋の中を確認しても、髪の先が入りそうになるほどで。
「うわ、髪の毛が鍋に入っちゃいそう。邪魔だなぁ……」
「先程あずまに髪紐を譲ってしまいましたからね。鍋の方は見ていますから、お部屋に行って新しい髪紐で結わえてきてはどうですか?」
「オゥ…………予備の髪紐は一本も買っておいてなぁい…………」
あげたはいいものの、自分の髪を結う分がないのを忘れていた。しばらくはこのままかあ。
「では僕の髪紐を差し上げま、」
その瞬間の杏寿郎さんの動きは凄まじく速かった。
千寿郎が言い切る前に、体が浮く感覚。そひて私の視界がぐるりと回る。
「わっ!?」
「千寿郎、朝緋を少しの間借りるぞ!」
「わかりました。残りのお料理はお任せくださいね」
「うむ!頼んだ!」
いうが早いか、猛ダッシュ!私を俵担ぎにして縁側を、廊下をすったかたーっと走る杏寿郎さん。
「ちょ……杏寿、ろっ兄さっ!お、下ろして!?」
いきなり連れ去られて何が何だかわからないが、米俵みたいに俵担ぎなんて嫌すぎる。
隊服ではなく紬を着ているので、下手に手足を動かせば見せたくないものが見えてしまう。
揺れる視界の中、下ろして欲しいとだけ伝える。その際、あまり大きすぎる声は出さないでおいた。
だって私の悲鳴でも聞こうものなら槇寿朗さんが出てくる。仲が悪かろうと普段は話をしなかろうと。たとえ私が鬼殺隊に入隊しようと、槇寿朗さんにとって私は大事な娘。男親というものは娘にとことん甘い。どこか瑠火さんに似ているなら尚更だ。
人攫いか何かのように無理やり担ぎ上げる杏寿郎さんを見たら、木刀で滅多うちにでもしてくるだろう。