二周目 参
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その後やっぱりお腹が痛くなった。まあ、いつも通りか。
それでも今日には結構よくなるはずで、明日退院する。頭の怪我?もうとっくに呼吸で治ってるよ。
因みに呼吸で女性特有の悩みは解決しない。呼吸を高めると逆効果だとわかった。
そして明日には退院するというに、今更ながら見舞いに現れる者があった。
「朝緋はここだな!!」
声の大きさだけでわかる。杏寿郎さんだ。
「きょ、……師範!」
「君が蝶屋敷に運ばれたと聞いてな!任務の合間に寄らせてもらった!!」
扉を豪快に開けて入ってくる姿に躊躇はない。心配してくれたのはわかるけど、女子の病室に断りもなしに入るなんて。
あとでしのぶさんに怒られそうだ。
「鬼の頸を無事に落とせたそうじゃないか。初任務でよくやった!だが怪我を負うとは鍛錬が足りんな」
「油断しました。屋敷に戻ったらまた鍛錬します。空いた時間に稽古をつけてください」
「うむ!……しかし、稽古をつけるにも君はまた具合が悪いのか。困ったものだな」
「あまり言いたくないんですが、色々と重いんですよ。色々とね」
色々で察してくれたらしい。自分でも知識を得ると言っていたから、本でも読んだのかも。任務もあるだろうに勤勉なことで。
「稀血だからこの時は下手に任務に出るわけにもいかないし。はあ〜」
「まあ休め、顔色が悪い。
俺は男だからその苦労がわからないが、少しでも朝緋が楽になる方法はないのだろうか」
杏寿郎さんの指が私の頬に触れ、滑り落ちる。その感触にも心臓が跳ねるがそれより顔の近さにこそ、動悸が止まらなかった。
「と、とにかく温かくするのが一番ですかね!冷やすのは大敵ですから」
「そうか!温かくするのがいいのだな!」
「えっ」
布団に、入ってきた……だとぉ!?
「わはは!幼い頃を思い出すな!どうだ、温かいのではなかろうか!」
「ヒュッ」
たしかに杏寿郎さんの体温はあったかいけど……って、そうじゃなくて!!恥ずかしいんですけど!?
叫びも、言うべき台詞も声として出てこなかった。
「こうして、同じ布団で共に眠ったこともあった。……そうだろう、朝緋?」
「ぴっ」
横から抱き寄せられ、耳元で囁かれた。
何その色っぽい杏寿郎さん!そんな貴方のことも好きですよ、ええとても!!
でもすごい破壊力すぎて、身が保ちそうにありません……!
ついに限界を超えて私は叫んだ。
しのぶさんが飛んできて、すごい剣幕で杏寿郎さんを追い出していた。
何もかもが恥ずかしすぎて穴に入りたくなったけど、でもほんのりと移された体温はとてもあたたかくて。……嬉しかった。
取り敢えず、瑠火さんの命日までには帰れそうだ。私は明日を楽しみに横になった。
杏寿郎さんとの間にすったもんだはあったが、今日は命日。無事に煉獄家に戻って、これから瑠火さんのお墓参りに向かう予定だ。
出かけ前に一汗流してから行くことになったが、三人揃っての鍛錬なんて久しぶりだ。
「二人とも。家のことを任せて申し訳ない。父はまだ酒を?」
「父上は部屋からあまり出てきてくれません。お食事を取らないことも多くて」
「杏寿郎兄さんの心配する通り、相変わらずお酒ばーっかり!このまま行くと、そのうち臓腑を悪くします。腐れ落ちるかもね」
「臓腑が腐る!?朝緋、もっと優しい言い方にしてくれ。父上が聞いていたらどうする。流石に怖いだろう!」
「少し怖い目にあったほうがいいのでは?」
「朝緋……」
今のままだと炎の呼吸を使えなくなるのは時間の問題。
そうなれば、まぁた炎柱返上待ったなしか……槇寿朗さんはそれをわかっているのだろうか。自分でどんどん悪い方へと進んでいることに、気がついていないのだろうか。
「ふむ。酒をやめられず当たり散らしてくることもあろう。でも、二人とも恨んではならないぞ。母が亡くなったことが辛いのだ」
恨みはしないけど。でも、辛いのは私や千寿郎、杏寿郎さんも一緒なのに。
「いつかきっと昔のように戻る。それだけ母の存在が強かったのだ」
いつかきっと。私だってそう信じたい。『前』は杏寿郎さんが亡くなるまで駄目だったけれど、今回は全く同じ道を歩んでいるわけじゃなかった。
初任務が最たる物だ。初っ端から死の恐怖を味わうほどには、違う未来を辿った。
そのいつかが早く来て欲しい。
「僕は母上のことをあまり覚えてません。父上も会話しないから教えて下さらないし」
「えっ、私教えるよ!?」
「姉上から聞く話ではなく、父上から聞ければ少しは会話になると思ったんです」
「なるほどね。じゃあ、千寿郎から話を振ってみたらいいと思うよ。
かあさまの好きだった物。好きな食べ物。好きな花。機嫌が良さそうな時に聞いてみたら、案外いけるかも?」
当たり散らしても、千寿郎に手を出す事はほとんどなさそうだし。炭治郎がうちに来た時くらいかな。
「そうだな!会話の種になるだろうから覚えておくといい!母上は能楽が好きだったぞ!俺と一緒だな!!」
そういえば槇寿朗さんとよく観に行っていたっけ。
「特に好きなのは、羽衣という演目だった。俺は見たことがないから、今度皆で一緒に行こう!それで父上に話しかければいい!」
「じゃあそのお休みを得るために、任務を頑張らないとですね」
「うむ!」
「一緒に……。
任務も一緒に行けたら違うのに。
でも、僕には剣の才がない。今のままでは鬼殺隊には入れないと思います」
先程まで瑠火さんの話を聞いて笑っていた千寿郎の笑顔に翳りが出た。剣術の才について、今この子は行き詰まっている。袋小路に入っている。
こういう時は考えるのをやめてしまうのがいい。邪念だと思って捨てるのがいい。
「私と同じできっと鍛錬が足りないだけよ。一緒に頑張ろう?
さ、これ以上は遅くなるし、そろそろお墓参りに行きましょうか!ね?杏寿郎兄さん」
話を無理やり終わりにして、私達は墓参りに向かった。
「母上。次は父上も共に来れるようにします」
しばらく手を合わせていた杏寿郎さんが、墓前に向かって呟く。
残念ながらよほどの事がないと一緒には来ないと思う。槇寿朗さんは一人で来る。『前』もそうだった。
そんな槇寿朗さんと少しでも話すため、少しでも顔を合わせるため、私もよく一人で墓参りをしていたっけ。だって杏寿郎さん達が行ったあとにしか、槇寿朗さんは来ないから。
それで、私が同じタイミングで行くと大体行き合う。お互い無言なことが多いけど、一緒に墓参りをする時間は父娘にとって結構大切な時間だった。
最後は憎まれ口を叩いちゃう事が多いけどね。
「かあさま、また来ます。……皆で」
だから私の『皆』には、槇寿朗さんは入れたいけど今の時点では入っていない。
本当なら、家族みんなで手を繋いで並んで歩きたかった。あでも、煉獄家の男子が並んで歩いたら壮観だな。絵面がすごい。
今は千寿郎とばかり手を繋ぐ。昔は槇寿朗さんともよく手を繋いだなあ。水を使った事もあり、反対の手が冷たくて寒くて寂しい。
一瞬、温かい物が触れた。その暖をとりたくて、無意識に手を伸ばすと。
「よもや……」
「あ。す、すみません!」
杏寿郎さんの手だった。
ことの他温かな手だったので離し難く、それに懐かしさを覚えてしまいすぐには手を退けられなかった。
「そ、そういえば昔はこうして手を繋ぎましたよね!捕獲された宇宙人みたいに!!」
ぶんばぶんばと繋いだ腕を振りまわして誤魔化す。
「うちゅ……なんだそれは?
って、こらやめないか!そんな振り回したら君の手が千切れてしまう!」
「そうなると兄さんの腕も千切れますから大丈夫です!」
杏寿郎さんに言われたからというより、千寿郎が迷惑そうだったのですぐにやめた。
でも、杏寿郎さんはその手を繋ぎ直してきた。ゆっくり指を絡ませて熱を伝えてきた。
大きくてあたたかな、とても安心できる凄い手だなあ。
恥ずかしさと懐かしさが半々で始終どきどきしちゃったけれど、私はその温かさをずっと感じていたいと思った。
ずっと、ずっとこれから先も。
それでも今日には結構よくなるはずで、明日退院する。頭の怪我?もうとっくに呼吸で治ってるよ。
因みに呼吸で女性特有の悩みは解決しない。呼吸を高めると逆効果だとわかった。
そして明日には退院するというに、今更ながら見舞いに現れる者があった。
「朝緋はここだな!!」
声の大きさだけでわかる。杏寿郎さんだ。
「きょ、……師範!」
「君が蝶屋敷に運ばれたと聞いてな!任務の合間に寄らせてもらった!!」
扉を豪快に開けて入ってくる姿に躊躇はない。心配してくれたのはわかるけど、女子の病室に断りもなしに入るなんて。
あとでしのぶさんに怒られそうだ。
「鬼の頸を無事に落とせたそうじゃないか。初任務でよくやった!だが怪我を負うとは鍛錬が足りんな」
「油断しました。屋敷に戻ったらまた鍛錬します。空いた時間に稽古をつけてください」
「うむ!……しかし、稽古をつけるにも君はまた具合が悪いのか。困ったものだな」
「あまり言いたくないんですが、色々と重いんですよ。色々とね」
色々で察してくれたらしい。自分でも知識を得ると言っていたから、本でも読んだのかも。任務もあるだろうに勤勉なことで。
「稀血だからこの時は下手に任務に出るわけにもいかないし。はあ〜」
「まあ休め、顔色が悪い。
俺は男だからその苦労がわからないが、少しでも朝緋が楽になる方法はないのだろうか」
杏寿郎さんの指が私の頬に触れ、滑り落ちる。その感触にも心臓が跳ねるがそれより顔の近さにこそ、動悸が止まらなかった。
「と、とにかく温かくするのが一番ですかね!冷やすのは大敵ですから」
「そうか!温かくするのがいいのだな!」
「えっ」
布団に、入ってきた……だとぉ!?
「わはは!幼い頃を思い出すな!どうだ、温かいのではなかろうか!」
「ヒュッ」
たしかに杏寿郎さんの体温はあったかいけど……って、そうじゃなくて!!恥ずかしいんですけど!?
叫びも、言うべき台詞も声として出てこなかった。
「こうして、同じ布団で共に眠ったこともあった。……そうだろう、朝緋?」
「ぴっ」
横から抱き寄せられ、耳元で囁かれた。
何その色っぽい杏寿郎さん!そんな貴方のことも好きですよ、ええとても!!
でもすごい破壊力すぎて、身が保ちそうにありません……!
ついに限界を超えて私は叫んだ。
しのぶさんが飛んできて、すごい剣幕で杏寿郎さんを追い出していた。
何もかもが恥ずかしすぎて穴に入りたくなったけど、でもほんのりと移された体温はとてもあたたかくて。……嬉しかった。
取り敢えず、瑠火さんの命日までには帰れそうだ。私は明日を楽しみに横になった。
杏寿郎さんとの間にすったもんだはあったが、今日は命日。無事に煉獄家に戻って、これから瑠火さんのお墓参りに向かう予定だ。
出かけ前に一汗流してから行くことになったが、三人揃っての鍛錬なんて久しぶりだ。
「二人とも。家のことを任せて申し訳ない。父はまだ酒を?」
「父上は部屋からあまり出てきてくれません。お食事を取らないことも多くて」
「杏寿郎兄さんの心配する通り、相変わらずお酒ばーっかり!このまま行くと、そのうち臓腑を悪くします。腐れ落ちるかもね」
「臓腑が腐る!?朝緋、もっと優しい言い方にしてくれ。父上が聞いていたらどうする。流石に怖いだろう!」
「少し怖い目にあったほうがいいのでは?」
「朝緋……」
今のままだと炎の呼吸を使えなくなるのは時間の問題。
そうなれば、まぁた炎柱返上待ったなしか……槇寿朗さんはそれをわかっているのだろうか。自分でどんどん悪い方へと進んでいることに、気がついていないのだろうか。
「ふむ。酒をやめられず当たり散らしてくることもあろう。でも、二人とも恨んではならないぞ。母が亡くなったことが辛いのだ」
恨みはしないけど。でも、辛いのは私や千寿郎、杏寿郎さんも一緒なのに。
「いつかきっと昔のように戻る。それだけ母の存在が強かったのだ」
いつかきっと。私だってそう信じたい。『前』は杏寿郎さんが亡くなるまで駄目だったけれど、今回は全く同じ道を歩んでいるわけじゃなかった。
初任務が最たる物だ。初っ端から死の恐怖を味わうほどには、違う未来を辿った。
そのいつかが早く来て欲しい。
「僕は母上のことをあまり覚えてません。父上も会話しないから教えて下さらないし」
「えっ、私教えるよ!?」
「姉上から聞く話ではなく、父上から聞ければ少しは会話になると思ったんです」
「なるほどね。じゃあ、千寿郎から話を振ってみたらいいと思うよ。
かあさまの好きだった物。好きな食べ物。好きな花。機嫌が良さそうな時に聞いてみたら、案外いけるかも?」
当たり散らしても、千寿郎に手を出す事はほとんどなさそうだし。炭治郎がうちに来た時くらいかな。
「そうだな!会話の種になるだろうから覚えておくといい!母上は能楽が好きだったぞ!俺と一緒だな!!」
そういえば槇寿朗さんとよく観に行っていたっけ。
「特に好きなのは、羽衣という演目だった。俺は見たことがないから、今度皆で一緒に行こう!それで父上に話しかければいい!」
「じゃあそのお休みを得るために、任務を頑張らないとですね」
「うむ!」
「一緒に……。
任務も一緒に行けたら違うのに。
でも、僕には剣の才がない。今のままでは鬼殺隊には入れないと思います」
先程まで瑠火さんの話を聞いて笑っていた千寿郎の笑顔に翳りが出た。剣術の才について、今この子は行き詰まっている。袋小路に入っている。
こういう時は考えるのをやめてしまうのがいい。邪念だと思って捨てるのがいい。
「私と同じできっと鍛錬が足りないだけよ。一緒に頑張ろう?
さ、これ以上は遅くなるし、そろそろお墓参りに行きましょうか!ね?杏寿郎兄さん」
話を無理やり終わりにして、私達は墓参りに向かった。
「母上。次は父上も共に来れるようにします」
しばらく手を合わせていた杏寿郎さんが、墓前に向かって呟く。
残念ながらよほどの事がないと一緒には来ないと思う。槇寿朗さんは一人で来る。『前』もそうだった。
そんな槇寿朗さんと少しでも話すため、少しでも顔を合わせるため、私もよく一人で墓参りをしていたっけ。だって杏寿郎さん達が行ったあとにしか、槇寿朗さんは来ないから。
それで、私が同じタイミングで行くと大体行き合う。お互い無言なことが多いけど、一緒に墓参りをする時間は父娘にとって結構大切な時間だった。
最後は憎まれ口を叩いちゃう事が多いけどね。
「かあさま、また来ます。……皆で」
だから私の『皆』には、槇寿朗さんは入れたいけど今の時点では入っていない。
本当なら、家族みんなで手を繋いで並んで歩きたかった。あでも、煉獄家の男子が並んで歩いたら壮観だな。絵面がすごい。
今は千寿郎とばかり手を繋ぐ。昔は槇寿朗さんともよく手を繋いだなあ。水を使った事もあり、反対の手が冷たくて寒くて寂しい。
一瞬、温かい物が触れた。その暖をとりたくて、無意識に手を伸ばすと。
「よもや……」
「あ。す、すみません!」
杏寿郎さんの手だった。
ことの他温かな手だったので離し難く、それに懐かしさを覚えてしまいすぐには手を退けられなかった。
「そ、そういえば昔はこうして手を繋ぎましたよね!捕獲された宇宙人みたいに!!」
ぶんばぶんばと繋いだ腕を振りまわして誤魔化す。
「うちゅ……なんだそれは?
って、こらやめないか!そんな振り回したら君の手が千切れてしまう!」
「そうなると兄さんの腕も千切れますから大丈夫です!」
杏寿郎さんに言われたからというより、千寿郎が迷惑そうだったのですぐにやめた。
でも、杏寿郎さんはその手を繋ぎ直してきた。ゆっくり指を絡ませて熱を伝えてきた。
大きくてあたたかな、とても安心できる凄い手だなあ。
恥ずかしさと懐かしさが半々で始終どきどきしちゃったけれど、私はその温かさをずっと感じていたいと思った。
ずっと、ずっとこれから先も。