二周目 参
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姿形は特殊でもたかが初任務の弱い鬼。そう侮っていた。他の隊士もいたし簡単に勝てると、そう踏んでいた。
その油断が死や怪我を容易に招くと忘れていた。私は血を流してはいけなかったのに!
私の頬を薄く裂き、流れる稀血に鬼の動きが一瞬止まる。その間にも飛んでくる爪目掛け、伍ノ型炎虎の改で相殺して止めた。
先輩方の一人はようやく抜いた刀を恐怖で取り落としている。他の者もほとんど同じ状態だった。
戦意喪失ーー?たかがこの程度の鬼で?
「貴方達は最終選別を乗り越えた隊士でしょ!?なんのための日輪刀なの!?刀を拾いなさい!」
爪を、牙を弾きながら檄を飛ばす。だが、先輩方の足は震えていた。
「こんな化け物みたいな奴と戦うなんて知らなかった!選別の鬼は遠くから見かけただけだったし人型だった!」
「顔が人なだけのただの大きな猫でしょ!たいした鬼じゃない!!これから先相対する鬼の強さはこんなものじゃ済まない!!」
そう、あの上弦の参が思い出される。腹が立って。殺意が湧いてきて仕方がなかった。
「お、俺は人より剣術に長けてたし給金がいいから鬼殺隊に入っただけだ!!これより強い鬼とか知らねぇ!」
「ああそうですかッもういい!
でも自分の身くらいは自分で守って!」
先輩風をあれだけ吹かせておいてこの体たらく。なら私がやるしかない。
周囲への爪飛ばしは続いているし、それを弾くための伍ノ型炎虎改はもう打つ暇ない。今は目の前の鬼を滅することが全て。
守りでなく攻撃へと全振りしたのがわかったか、鬼も全身に力を入れて襲ってきた。
「!?ぐっ……!!」
押されている。刃で押し戻せない!
このままじゃ裂かれる、噛みつかれる……!すごい力だ!
「み、水の呼吸、弐ノ型・水車ッ!」
「っ、ありがとう助かった!」
他の隊士の一人が刀を取ってくれてなんとかなった!
水車の回転斬りを諸に顔へ喰らったようで、鬼が頭を振っている。鬼の回復力で治し、体勢を立て直そうとしている。腕なんかそろそろ生えそうだ。
かたや此方は、頭から血が流れるのを感じている。爪か牙が触れたのかもしれない。早く仕留めないと鬼が血に興奮して余計危険になるかも。
危険、つまるところ『死』。
こんなところで死ぬわけにはいかない。こんなところで!!
『兄上、姉上……父上も母上のように天国へ行ってしまわれるのですか?』
瑠火さんが亡くなって。そのあとの落ちぶれた槇寿朗さんの姿が、千寿郎には同じように病いで床に臥したかのように見えてしまったらしい。
死というものを理解した幼き日の千寿郎が、泣いて抱擁をせがんだ時のことを思い出した。
千寿郎の心は今もまだ幼く、人の死に弱い。
そして鬼殺隊には向かないと言われてしまうほど優しすぎる。うん、優しすぎた。
あの子は杏寿郎さんが亡くなった時も身を裂くような思いをしていたはずだ。その表情が、全身が語っていた。
ならばもし私が死ぬようなことがあったら、あの子はまた心を痛める。
私が死の影を纏うわけにはいかない!
鬼が此方へと向かってくるその前に頸を落とす!!
「うあああああっ!壱ノ型・不知火っ!!」
全力を出す。
青い炎が走り抜け、鬼の頸が横に滑り落ちた。燃え尽きるように消えていく鬼の頸と体。
他に鬼の気配はない。けれどたった一匹にこの人数での手こずり具合。なんだか恥ずかしい。けども。
「はー。よかった、倒せた……」
うん、この体での初任務にしては、頑張ったと思う。
「あの……さっきはありがとうございました」
「んえ?私何かしましたっけ?」
「僕、貴女に励まされて頑張れました!
今一度お名前を伺っても?」
ああ。先輩達の中に、気が弱そうな先輩が一人がいたな。さっき水の呼吸を使った人だ。
気弱だとしても、今回のことでこれからちゃんとした剣士になれるかも。
……他の人は鬼殺隊を除隊するか、隠に転じるかわからないけれど。今も戦々恐々してるし。いや意外とお金目的の人は必死で頑張るかもしれない。
とりあえずあの人たちのことは事後処理の隠さんに任せよう。
「別に気にしないでいいんですけどね。逆に貴方のおかげで鬼の頸を落とせましたし。私の名前は煉獄朝緋…………っ、あれ?」
目が、回る。
「えっ朝緋さん?朝緋さーーーん!!」
頭から血が出てたからかな?私は倒れたらしい。気がついたら蝶屋敷だった。
この時期の蝶屋敷はまだ建ったばかり。人もそこまでいないようで、庭の蝶々の数の方が圧倒的に多い。いや、もとから蝶の方が多いか。
この屋敷にいるのは、花柱の胡蝶カナエさん、まだ一般隊士の妹の胡蝶しのぶさん、そして血の繋がりはないものの妹の栗花落カナヲさんだ。みんな美人さん揃い。
かつてお世話をしてくれた小さい子達や、アオイさんはまだ鬼殺隊と関わりすらないのだろう。姿が見えなかった。
しかしあの蟲柱には姉がいたのか。
花柱……なんて素敵な響きの柱名。ここまでフローラルな香りがしてきそうだ、本当にすっごく美人だし。
でもあの時はなんで柱として居なかったんだろう?んんー、思い出せないけれど、怪我で前線から身を引いたとかなのかな。
「うふふ、少なくともあと二日は退院しちゃだーめ」
たいした怪我でもないしすぐに退院しようとしていた折、忙しい柱である胡蝶カナエさんがお見舞いに訪れ、話をしてくれた。隣には胡蝶しのぶさんもいる。
カナエさんから聞いた話だが、なぜ私が今回、他の隊士と合同で鬼を討伐に行くことになったのかようやくわかった。炎柱を輩出している煉獄家の杏寿郎以外の人間である私にはお館様が期待していたらしい。活躍が見たかったとの事。私にそんな価値ないのに。
また、他の癸隊士の鬼殺に対する心構えがまだまだ幼かったため、この任務で鍛え直すと決めるか、それとも新人を前にして先輩として頑張れるようになるか。そういうのを見る考えもあったらしい。
なるほどね。まあ、やる気のあるなしはかなり大事だからね。大してやる気がないのに鬼殺隊にいても、無駄死にするだけだ。
「それは分かりましたが、なんでまだ退院してはいけないのですか?頭の怪我は出血が酷く見えるだけで、実際大したことないのに」
「それはね。貴女が稀血であり、頭以外からも血が出ているからよ。今回はその貧血で倒れたのね」
「えっ」
そう言われて初めて自分の体の異変に気がついた。なんと恥ずかしい。私は顔の半分を布団で隠した。
「周期的になるのはまだ早いはずなんですけど〜。うう、穴があったら入りたいです」
「穴じゃないけど、布団に入ってるじゃない!一緒よ!」
胡蝶しのぶさん、鋭い一言ごもっともです。
「体が緊張してたのでしょうね。その周期を忘れるほどに」
「周期というか、前日くらいから具合悪くなったり食欲が落ちるので、それで予想を立ててました……」
「貴女稀血なのに自己管理が足りないわ!」
「うっ、不甲斐ない」
「まあまあ、しのぶはそんなに怒らないの。漢方薬と痛み止めの両方を出しておくわね」
胡蝶しのぶさん、前と性格も口調も違くない?前はいつも笑顔だったし、こんなにツンツンしてなかった気がする。もしかしてお姉さんの真似してたのかな。
前のことでちょっと苦手意識があったけど、今の方が本来の彼女らしく見えて親近感が湧いた。
そのまま胡蝶しのぶさん、以下しのぶさんとは、文通することになった。私の体が心配だそうで。
この新しい友達、素直じゃないな。
私の周りにはツンデレが多い。
その油断が死や怪我を容易に招くと忘れていた。私は血を流してはいけなかったのに!
私の頬を薄く裂き、流れる稀血に鬼の動きが一瞬止まる。その間にも飛んでくる爪目掛け、伍ノ型炎虎の改で相殺して止めた。
先輩方の一人はようやく抜いた刀を恐怖で取り落としている。他の者もほとんど同じ状態だった。
戦意喪失ーー?たかがこの程度の鬼で?
「貴方達は最終選別を乗り越えた隊士でしょ!?なんのための日輪刀なの!?刀を拾いなさい!」
爪を、牙を弾きながら檄を飛ばす。だが、先輩方の足は震えていた。
「こんな化け物みたいな奴と戦うなんて知らなかった!選別の鬼は遠くから見かけただけだったし人型だった!」
「顔が人なだけのただの大きな猫でしょ!たいした鬼じゃない!!これから先相対する鬼の強さはこんなものじゃ済まない!!」
そう、あの上弦の参が思い出される。腹が立って。殺意が湧いてきて仕方がなかった。
「お、俺は人より剣術に長けてたし給金がいいから鬼殺隊に入っただけだ!!これより強い鬼とか知らねぇ!」
「ああそうですかッもういい!
でも自分の身くらいは自分で守って!」
先輩風をあれだけ吹かせておいてこの体たらく。なら私がやるしかない。
周囲への爪飛ばしは続いているし、それを弾くための伍ノ型炎虎改はもう打つ暇ない。今は目の前の鬼を滅することが全て。
守りでなく攻撃へと全振りしたのがわかったか、鬼も全身に力を入れて襲ってきた。
「!?ぐっ……!!」
押されている。刃で押し戻せない!
このままじゃ裂かれる、噛みつかれる……!すごい力だ!
「み、水の呼吸、弐ノ型・水車ッ!」
「っ、ありがとう助かった!」
他の隊士の一人が刀を取ってくれてなんとかなった!
水車の回転斬りを諸に顔へ喰らったようで、鬼が頭を振っている。鬼の回復力で治し、体勢を立て直そうとしている。腕なんかそろそろ生えそうだ。
かたや此方は、頭から血が流れるのを感じている。爪か牙が触れたのかもしれない。早く仕留めないと鬼が血に興奮して余計危険になるかも。
危険、つまるところ『死』。
こんなところで死ぬわけにはいかない。こんなところで!!
『兄上、姉上……父上も母上のように天国へ行ってしまわれるのですか?』
瑠火さんが亡くなって。そのあとの落ちぶれた槇寿朗さんの姿が、千寿郎には同じように病いで床に臥したかのように見えてしまったらしい。
死というものを理解した幼き日の千寿郎が、泣いて抱擁をせがんだ時のことを思い出した。
千寿郎の心は今もまだ幼く、人の死に弱い。
そして鬼殺隊には向かないと言われてしまうほど優しすぎる。うん、優しすぎた。
あの子は杏寿郎さんが亡くなった時も身を裂くような思いをしていたはずだ。その表情が、全身が語っていた。
ならばもし私が死ぬようなことがあったら、あの子はまた心を痛める。
私が死の影を纏うわけにはいかない!
鬼が此方へと向かってくるその前に頸を落とす!!
「うあああああっ!壱ノ型・不知火っ!!」
全力を出す。
青い炎が走り抜け、鬼の頸が横に滑り落ちた。燃え尽きるように消えていく鬼の頸と体。
他に鬼の気配はない。けれどたった一匹にこの人数での手こずり具合。なんだか恥ずかしい。けども。
「はー。よかった、倒せた……」
うん、この体での初任務にしては、頑張ったと思う。
「あの……さっきはありがとうございました」
「んえ?私何かしましたっけ?」
「僕、貴女に励まされて頑張れました!
今一度お名前を伺っても?」
ああ。先輩達の中に、気が弱そうな先輩が一人がいたな。さっき水の呼吸を使った人だ。
気弱だとしても、今回のことでこれからちゃんとした剣士になれるかも。
……他の人は鬼殺隊を除隊するか、隠に転じるかわからないけれど。今も戦々恐々してるし。いや意外とお金目的の人は必死で頑張るかもしれない。
とりあえずあの人たちのことは事後処理の隠さんに任せよう。
「別に気にしないでいいんですけどね。逆に貴方のおかげで鬼の頸を落とせましたし。私の名前は煉獄朝緋…………っ、あれ?」
目が、回る。
「えっ朝緋さん?朝緋さーーーん!!」
頭から血が出てたからかな?私は倒れたらしい。気がついたら蝶屋敷だった。
この時期の蝶屋敷はまだ建ったばかり。人もそこまでいないようで、庭の蝶々の数の方が圧倒的に多い。いや、もとから蝶の方が多いか。
この屋敷にいるのは、花柱の胡蝶カナエさん、まだ一般隊士の妹の胡蝶しのぶさん、そして血の繋がりはないものの妹の栗花落カナヲさんだ。みんな美人さん揃い。
かつてお世話をしてくれた小さい子達や、アオイさんはまだ鬼殺隊と関わりすらないのだろう。姿が見えなかった。
しかしあの蟲柱には姉がいたのか。
花柱……なんて素敵な響きの柱名。ここまでフローラルな香りがしてきそうだ、本当にすっごく美人だし。
でもあの時はなんで柱として居なかったんだろう?んんー、思い出せないけれど、怪我で前線から身を引いたとかなのかな。
「うふふ、少なくともあと二日は退院しちゃだーめ」
たいした怪我でもないしすぐに退院しようとしていた折、忙しい柱である胡蝶カナエさんがお見舞いに訪れ、話をしてくれた。隣には胡蝶しのぶさんもいる。
カナエさんから聞いた話だが、なぜ私が今回、他の隊士と合同で鬼を討伐に行くことになったのかようやくわかった。炎柱を輩出している煉獄家の杏寿郎以外の人間である私にはお館様が期待していたらしい。活躍が見たかったとの事。私にそんな価値ないのに。
また、他の癸隊士の鬼殺に対する心構えがまだまだ幼かったため、この任務で鍛え直すと決めるか、それとも新人を前にして先輩として頑張れるようになるか。そういうのを見る考えもあったらしい。
なるほどね。まあ、やる気のあるなしはかなり大事だからね。大してやる気がないのに鬼殺隊にいても、無駄死にするだけだ。
「それは分かりましたが、なんでまだ退院してはいけないのですか?頭の怪我は出血が酷く見えるだけで、実際大したことないのに」
「それはね。貴女が稀血であり、頭以外からも血が出ているからよ。今回はその貧血で倒れたのね」
「えっ」
そう言われて初めて自分の体の異変に気がついた。なんと恥ずかしい。私は顔の半分を布団で隠した。
「周期的になるのはまだ早いはずなんですけど〜。うう、穴があったら入りたいです」
「穴じゃないけど、布団に入ってるじゃない!一緒よ!」
胡蝶しのぶさん、鋭い一言ごもっともです。
「体が緊張してたのでしょうね。その周期を忘れるほどに」
「周期というか、前日くらいから具合悪くなったり食欲が落ちるので、それで予想を立ててました……」
「貴女稀血なのに自己管理が足りないわ!」
「うっ、不甲斐ない」
「まあまあ、しのぶはそんなに怒らないの。漢方薬と痛み止めの両方を出しておくわね」
胡蝶しのぶさん、前と性格も口調も違くない?前はいつも笑顔だったし、こんなにツンツンしてなかった気がする。もしかしてお姉さんの真似してたのかな。
前のことでちょっと苦手意識があったけど、今の方が本来の彼女らしく見えて親近感が湧いた。
そのまま胡蝶しのぶさん、以下しのぶさんとは、文通することになった。私の体が心配だそうで。
この新しい友達、素直じゃないな。
私の周りにはツンデレが多い。