二周目 参
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「朝緋チャン!初任務ダヨ!北北西!北北西ニ鬼ガ出タ!至急向カエ!」
あずまが私の肩に止まる。
とうとう鬼討伐の任務を言い渡された。
「『今回』は北北東なのね」
「今回ハッテ何?」
返答代わりに、顎付近をこしょこしょと掻いてやる。ウットリする時の表情は要のものとは別。個体差があってうちの子かわいい。
それにしても方角が前と違う。『前』にはじめての任務で行った場所とは真逆の方角だ。
全てが同じ轍を辿っているわけではないのか。
未来は少しずつ変わっているようだ。
なんにせよ鬼は討つべし。滅するべし。
もうすぐ瑠火さんの命日も迫っていることだし、墓前にいい報告をするためにも頑張らないと。
真新しい隊服に着替え、髪の毛を今一度強く結いつけ縛る。少し痛いくらい突っ張るけれど、身が引き締まる思いだ。
真っ白な鞘に、杏寿郎さんがくれた橙の飾り紐の日輪刀を腰に差し、羽織をしっかり身に纏う。
「朝緋チャン、用意デキタ?」
「うん」
槇寿朗さんには……言わないでおく。最近どんどん会話が減っていて、話しづらい。いつ見ても気も立っていることだし。
「千寿郎、切り火を頼んでもいいかな?」
出掛けにそう頼めば、私の初任務を知った千寿郎の顔に翳りが見えた。
鬼殺の任務だからね。不安だよね。……ただ、本人である私はもっと不安なんだけど。
「姉上……、御武運を」
杏寿郎さんにする時よりも、さらに強く熱く千寿郎は切り火をしてくれた。
絶対に帰ってきて。目はそう語っていた。
鬼が出るという北北西の森の前についたのは夕方のこと。もうすぐ夜の闇が世界を覆い、鬼の時間になる頃だ。
そこには、隊服を着た若者がすでに待機していた。
「ねえ、他の隊士がいるんだけど」
小さな声であずまに聞けば、彼女がしまった!という顔をした。
「ミンナ同ジ任務二着ク隊士!ミンナ癸!言ウノ忘レテタ!」
「えっ」
新人だし一人で軽い任務をこなすのだと思っていた。
……だって、『前』の初任務では一人だったし、そもそも一人のほうが周りを気にせず刀を振るえて楽だったんだもの。苦ではないけれど、その人の癖も知らないのに合わせるのは難しいし面倒だ。
いや待て。普通、コンビニバイトしかり、レストランのウェイターしかり初仕事は先輩について教わりながら行うものが多いのだから、むしろ初任務を一人で行う方が実は珍しいのではないか。今頃気がついた。
私含めて数は五名、階級は癸のみ、ね。
残念ながら獪岳はおろか同期の人は一人もおらず、癸の中でも私が一番の新人になる。
つまり周りは階級は同じでも先輩。杏寿郎さんよりも歳が上に見える人も多い。
どうせなら獪岳達に会いたかった。
「階級癸、煉獄朝緋。此度の任務を共にすべくまいりました」
「遅いぞ新人」
「申し訳ありません」
挨拶と謝罪を口にすれば、隊士達がこちらに一瞥をよこす。
一応待っていてくれたのか。と思い、顔を上げるとそこにあるのはニヤニヤと私のことを上から下まで眺める下卑た顔ばかり。……は?
「これだから女は……身支度に時間かけてんじゃねぇぞ」
「先輩待たしておいて、何もなしかぁ?女なら詫びの仕方わかってるよな。鬼を片付けたら付き合えよ」
支度に時間かけてないし、別に時刻も遅れていないし待たせてもいないと思うんだけど。言うのは面倒くさい。
大体詫びの仕方?なんだ付き合うって。
任務が終われば次の任務に明け暮れるのが、鬼殺隊の常でしょ。家に帰るならまだしも、友好的でもない同僚に付き合う気はない。
「この森を抜ければ家に帰るのが早いぞ。急いで帰ろう」「待ってよにいちゃーん」
一般人、それもどちらも童だ。上の子は千寿郎ほどくらいか。
私達の真横を駆けていくのを、私を詰るのに夢中な先輩はそのまま見逃した。え、先輩達、私に構ってる場合か。
「……ねえあずま、この森の中には『確実に』鬼が出るのよね?」
「ソウダヨ」
胸を張って答えられ、先輩へ向ける私の目が一気に冷たくなる。
「すみません先輩方。隊士の到着を待つのはいいですが、やっておくこと、気をつけるべきことなど多々あったのではないでしょうか?」
「は?なンだよそれ」
「たとえば。
……少々お待ちを」
私はそこから素早く動き、森に入った先ほどの兄弟を抱えてまた戻ってきた。数秒のことだ。
童達は何が起こったか分からずキョトンとしていた。なかなか肝が据わってるな。
「いきなり連れてきてごめんね。この森は危ないから、少し遠回りになっても違う道から帰りなさい」
「「えー」」
「ほら、飴をあげるからいうことを聞いて?」
「わぁ美味しそうな飴だぁ」「あっちから帰るね!」
じゃらじゃらと飴玉をその手の中に転がせば、甘味につられた童達は言われた通りにしてくれた。
「そう。たとえば一般人の誘導などです」
先輩方は私の移動速度と行動に口をあんぐりと開けていた。
「貴方方はただのんびりと何をしていたんですか。確実に鬼が出るんですよね?
早く着いていたなら、市井の人の安全を最優先に考えて辺りを立ち入り禁止にしておくなどしておいて下さい。鬼殺はその後です」
杏寿郎さんなら一般人を遠ざけておくだろうし、誰も死なせないよう気をつけながら任務にあたる。この程度は当然だ。
「ちっ。新人のくせに生意気な……鬼殺では足引っ張るんじゃねぇぞ」
「俺たちが鬼の頸を斬る。黙って見てろ」
相手は先輩。自分にそう言い聞かせ、足を引っ張らないよう黙ってついていった。
夕暮れ時とはいえ森の中はすでに暗く、鬼の活動時間になっていた。
鬼の気配も濃い。……既に鬼殺隊士に気がついて様子を伺っていそうだけど、先輩達は談笑してるし鬼の油断を誘っているのかも。
ガサリ、目の前の茂みが動いた。
「ひぃっ!」
「なんだよお前、たかが野ウサギじゃねぇか」
「ご、ごめん……」
鬼の気配は別のところからしているから違うとわかっていたけど、中から飛び出したのはウサギ。
けど先輩方、笑ってる場合じゃないです。
「上から鬼です!先輩方避けてッ!!」
「なっ!?」「ええっ!!」
私は後方に飛びながら刀を抜いた。
目の前に現れた鬼は、人の形をしていなかった。
とんがった獣の耳が着いている姿はまるで山猫。言葉も発せないのか、ぐるぐると唸り声をあげている。顔だけが人ベース……人面犬ならぬ、人面猫かあ。
「うっわ、かわいくない猫だこと」
空中からの参ノ型・気炎万象を繰り出すが、体も猫だけあり敏捷。攻撃がかわされてしまった。
柔軟な動きは、まさに四足獣を相手にしているような気分にさせる。
鬼の方も特に私を狙ってきた。鋭い爪の振り下ろしが迫る。
うんわかる。女の方が弱そうだし美味しそうだもんね!私が鬼でも狙うのは女からだわ。
かわして刀を振るうも、すぐに避けられる。避けて攻撃しての繰り返し。
動きが速いしヒットアンドアウェイ戦法をとるとは、この鬼なかなかやる。
「でも私よりは遅いっ!」
まだ私の速度はこんなものではない。足を大きく踏み込んで速さを出すと、弐ノ型・昇り炎天で腕を切り落としながら鬼の体を大きく打上げた。
宙に浮いた隙に、鋭く呼びかける。
「みんな刀を取って!逃げられないうちに仕留めないと!!」
私と鬼の攻防をただただ見ていただけの先輩方が、その言葉にハッとした。
「新人!お前が指図するんじゃねぇ!」
「俺達の命令で動け!!」
むかちーん!腹が立った。
「鬼に気がついてもいなかったくせに何言ってるんです!命令がどーだこーだ言う暇あるなら動い……ッつぅっ!?」
鬼の爪が飛んできた。
「ぎゃあ!!」
「うわあああ!」
血鬼術にしては弱いけれど、まわりに爪を飛ばして攻撃してくるとは。
一本一本が太い包丁レベルの殺傷力だった。
あずまが私の肩に止まる。
とうとう鬼討伐の任務を言い渡された。
「『今回』は北北東なのね」
「今回ハッテ何?」
返答代わりに、顎付近をこしょこしょと掻いてやる。ウットリする時の表情は要のものとは別。個体差があってうちの子かわいい。
それにしても方角が前と違う。『前』にはじめての任務で行った場所とは真逆の方角だ。
全てが同じ轍を辿っているわけではないのか。
未来は少しずつ変わっているようだ。
なんにせよ鬼は討つべし。滅するべし。
もうすぐ瑠火さんの命日も迫っていることだし、墓前にいい報告をするためにも頑張らないと。
真新しい隊服に着替え、髪の毛を今一度強く結いつけ縛る。少し痛いくらい突っ張るけれど、身が引き締まる思いだ。
真っ白な鞘に、杏寿郎さんがくれた橙の飾り紐の日輪刀を腰に差し、羽織をしっかり身に纏う。
「朝緋チャン、用意デキタ?」
「うん」
槇寿朗さんには……言わないでおく。最近どんどん会話が減っていて、話しづらい。いつ見ても気も立っていることだし。
「千寿郎、切り火を頼んでもいいかな?」
出掛けにそう頼めば、私の初任務を知った千寿郎の顔に翳りが見えた。
鬼殺の任務だからね。不安だよね。……ただ、本人である私はもっと不安なんだけど。
「姉上……、御武運を」
杏寿郎さんにする時よりも、さらに強く熱く千寿郎は切り火をしてくれた。
絶対に帰ってきて。目はそう語っていた。
鬼が出るという北北西の森の前についたのは夕方のこと。もうすぐ夜の闇が世界を覆い、鬼の時間になる頃だ。
そこには、隊服を着た若者がすでに待機していた。
「ねえ、他の隊士がいるんだけど」
小さな声であずまに聞けば、彼女がしまった!という顔をした。
「ミンナ同ジ任務二着ク隊士!ミンナ癸!言ウノ忘レテタ!」
「えっ」
新人だし一人で軽い任務をこなすのだと思っていた。
……だって、『前』の初任務では一人だったし、そもそも一人のほうが周りを気にせず刀を振るえて楽だったんだもの。苦ではないけれど、その人の癖も知らないのに合わせるのは難しいし面倒だ。
いや待て。普通、コンビニバイトしかり、レストランのウェイターしかり初仕事は先輩について教わりながら行うものが多いのだから、むしろ初任務を一人で行う方が実は珍しいのではないか。今頃気がついた。
私含めて数は五名、階級は癸のみ、ね。
残念ながら獪岳はおろか同期の人は一人もおらず、癸の中でも私が一番の新人になる。
つまり周りは階級は同じでも先輩。杏寿郎さんよりも歳が上に見える人も多い。
どうせなら獪岳達に会いたかった。
「階級癸、煉獄朝緋。此度の任務を共にすべくまいりました」
「遅いぞ新人」
「申し訳ありません」
挨拶と謝罪を口にすれば、隊士達がこちらに一瞥をよこす。
一応待っていてくれたのか。と思い、顔を上げるとそこにあるのはニヤニヤと私のことを上から下まで眺める下卑た顔ばかり。……は?
「これだから女は……身支度に時間かけてんじゃねぇぞ」
「先輩待たしておいて、何もなしかぁ?女なら詫びの仕方わかってるよな。鬼を片付けたら付き合えよ」
支度に時間かけてないし、別に時刻も遅れていないし待たせてもいないと思うんだけど。言うのは面倒くさい。
大体詫びの仕方?なんだ付き合うって。
任務が終われば次の任務に明け暮れるのが、鬼殺隊の常でしょ。家に帰るならまだしも、友好的でもない同僚に付き合う気はない。
「この森を抜ければ家に帰るのが早いぞ。急いで帰ろう」「待ってよにいちゃーん」
一般人、それもどちらも童だ。上の子は千寿郎ほどくらいか。
私達の真横を駆けていくのを、私を詰るのに夢中な先輩はそのまま見逃した。え、先輩達、私に構ってる場合か。
「……ねえあずま、この森の中には『確実に』鬼が出るのよね?」
「ソウダヨ」
胸を張って答えられ、先輩へ向ける私の目が一気に冷たくなる。
「すみません先輩方。隊士の到着を待つのはいいですが、やっておくこと、気をつけるべきことなど多々あったのではないでしょうか?」
「は?なンだよそれ」
「たとえば。
……少々お待ちを」
私はそこから素早く動き、森に入った先ほどの兄弟を抱えてまた戻ってきた。数秒のことだ。
童達は何が起こったか分からずキョトンとしていた。なかなか肝が据わってるな。
「いきなり連れてきてごめんね。この森は危ないから、少し遠回りになっても違う道から帰りなさい」
「「えー」」
「ほら、飴をあげるからいうことを聞いて?」
「わぁ美味しそうな飴だぁ」「あっちから帰るね!」
じゃらじゃらと飴玉をその手の中に転がせば、甘味につられた童達は言われた通りにしてくれた。
「そう。たとえば一般人の誘導などです」
先輩方は私の移動速度と行動に口をあんぐりと開けていた。
「貴方方はただのんびりと何をしていたんですか。確実に鬼が出るんですよね?
早く着いていたなら、市井の人の安全を最優先に考えて辺りを立ち入り禁止にしておくなどしておいて下さい。鬼殺はその後です」
杏寿郎さんなら一般人を遠ざけておくだろうし、誰も死なせないよう気をつけながら任務にあたる。この程度は当然だ。
「ちっ。新人のくせに生意気な……鬼殺では足引っ張るんじゃねぇぞ」
「俺たちが鬼の頸を斬る。黙って見てろ」
相手は先輩。自分にそう言い聞かせ、足を引っ張らないよう黙ってついていった。
夕暮れ時とはいえ森の中はすでに暗く、鬼の活動時間になっていた。
鬼の気配も濃い。……既に鬼殺隊士に気がついて様子を伺っていそうだけど、先輩達は談笑してるし鬼の油断を誘っているのかも。
ガサリ、目の前の茂みが動いた。
「ひぃっ!」
「なんだよお前、たかが野ウサギじゃねぇか」
「ご、ごめん……」
鬼の気配は別のところからしているから違うとわかっていたけど、中から飛び出したのはウサギ。
けど先輩方、笑ってる場合じゃないです。
「上から鬼です!先輩方避けてッ!!」
「なっ!?」「ええっ!!」
私は後方に飛びながら刀を抜いた。
目の前に現れた鬼は、人の形をしていなかった。
とんがった獣の耳が着いている姿はまるで山猫。言葉も発せないのか、ぐるぐると唸り声をあげている。顔だけが人ベース……人面犬ならぬ、人面猫かあ。
「うっわ、かわいくない猫だこと」
空中からの参ノ型・気炎万象を繰り出すが、体も猫だけあり敏捷。攻撃がかわされてしまった。
柔軟な動きは、まさに四足獣を相手にしているような気分にさせる。
鬼の方も特に私を狙ってきた。鋭い爪の振り下ろしが迫る。
うんわかる。女の方が弱そうだし美味しそうだもんね!私が鬼でも狙うのは女からだわ。
かわして刀を振るうも、すぐに避けられる。避けて攻撃しての繰り返し。
動きが速いしヒットアンドアウェイ戦法をとるとは、この鬼なかなかやる。
「でも私よりは遅いっ!」
まだ私の速度はこんなものではない。足を大きく踏み込んで速さを出すと、弐ノ型・昇り炎天で腕を切り落としながら鬼の体を大きく打上げた。
宙に浮いた隙に、鋭く呼びかける。
「みんな刀を取って!逃げられないうちに仕留めないと!!」
私と鬼の攻防をただただ見ていただけの先輩方が、その言葉にハッとした。
「新人!お前が指図するんじゃねぇ!」
「俺達の命令で動け!!」
むかちーん!腹が立った。
「鬼に気がついてもいなかったくせに何言ってるんです!命令がどーだこーだ言う暇あるなら動い……ッつぅっ!?」
鬼の爪が飛んできた。
「ぎゃあ!!」
「うわあああ!」
血鬼術にしては弱いけれど、まわりに爪を飛ばして攻撃してくるとは。
一本一本が太い包丁レベルの殺傷力だった。