二周目 参
名前変換
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すっかり身綺麗にしてから厨に向かうと、そこにはふわふわと優しくて甘い香りが立ち込めていた。思わずお腹が「くぅ」と鳴るけれど、これは私というより杏寿郎さんの好物の匂いだ。
「兄上も帰って来てくださいましたので、お芋をふかしました」
うちには芋が好物の男のためにと、保存食としてのさつまいもが大量に貯蔵されている。槇寿朗さんは作ることに相当渋ったが、庭の一角には畑が。蔵が連なる棟の端には長期保存用のさつま穴があるほどだ。
「師範、「うん゛?」杏寿郎兄さんといえばさつまいもだものね」
「わはは!そうだな!」
杏寿郎さんは呼び方が非常に気になるらしい。今は名前で呼んでやるが、徐々に『師範』呼びに変えてやる。目指すは貴方と共に戦い、貴方の手となり足となる炎柱の継子なのだから。
今年のさつまいもは特に出来がいいようだ。九里(栗)四里(より)美味い十三里とはよく言ったもので、栗のようなほくほくとした味わいと食感だ。まさにわっしょいだ。
わっしょいわっしょい!という、好物を食べた時にのみ発せられる杏寿郎さんのいつもの独特な言葉をききながら味わっていると、ニコニコ笑った千寿郎が父上にも届けてくると言って席を外した。
すでに夕餉の準備も始まっているし、庭には塵一つ落ちていない。何から何までよくできた弟だ。
「杏寿郎兄さん、とうさまへの出立報告ありがとうございました。助かりましたが相当怒られたそうで……」
「わかっていたことだから気にする事はない。それより、帰還の報告はしたのか?」
「はい。めちゃくちゃ怒られました。蔵に閉じ込められるところでした」
思い出すだけですえ恐ろしい。だって、あの蔵の中薄暗いし幽霊でそうだもの。実態があって斬れる分、鬼の方がマシだ。
「なんと!父上も手段を選ばなくなったものだな!だがそれも過保護ゆえ、か……。
あまり我慢がならぬようなら、藤の花の家紋の家のお世話になるといい。任務が長引いたり、遠くの任務に当たる際利用する隊士は多い」
そのあとは藤の花の家紋の家について教えてくださった。……まあ、何度も利用したことがあるからわかっているんだけども、もしかしたら『前』と設定が違うかもしれないし、大人しく聞いた。
藤の花の家紋の家は全国各地にある。
かつて鬼殺隊によって鬼から救われた一族が担うことが多く、鬼狩りであれば無償で尽くしてくれる。うん、全く同じだ。
「鬼殺隊は非公式の組織だからな!普通の宿屋では帯刀していることで怪訝な顔をされてしまう。それだけならまだしも、最悪の場合警官を呼ばれることもある。
だから協力を惜しまないでいてくれる、藤の花の家紋の者達には感謝しかないな!」
そうそう。刀は長物で目立つから隠して移動するのも一苦労なんだよね。
とはいえ、有事の際に抜きにくくては本末転倒。すぐに取り出せる位置にないと困るし。
不便な世の中になったもんだ。いや、鬼なんかがいるのが悪い!
「そうだ朝緋!
日輪刀が来る日がわかったら烏で教えてくれ。俺も君の刀が色変わりするところを見たいのだ」
「ええ。分かり次第すぐに連絡しますね」
私が杏寿郎さんの色変わりの儀を見たくて堪らなかったように、杏寿郎さんもまた私の日輪刀の色が変わる瞬間を見たいのだ。うん、あの瞬間はえもいわれぬ高揚感がある。
「ありがとう!
なら烏を知っておかねばな。朝緋の烏はどんなだ?」
芋をもそもそ食べる手を止め、「ピィ」と口笛をひとつ。
まもなくして、私の肩に一匹の烏が止まった。杏寿郎さんの鎹烏、要より若干小さい。
「私の烏は雌のこの子です。この子に」
「姉上の烏に名前はないのですか?」
見れば、千寿郎が戻ってきていた。その手の芋は減っていない。
「あら千寿郎、とうさまはお芋はお食べになられなかったの?」
「はい、召し上がりにならないそうです」
「はー……とうさまってばお酒ばーっかりなんだから。なんてもったいない。ふかしたては体にもいいし美味しいのにねぇ〜」
「父上は損をしている。こんなに美味いのになぁ〜」
「ね〜!」と笑いあう。
美味しいものは人を幸せにする。私と杏寿郎さんは、結構食いしん坊だ。
「にしても名前かぁ。幼名はないの?それで呼んじゃだめ?」
「カァー!新シイ名前、ツケテホシイ!」
新しい名前か。前は特につけてなかったから初の試みだ。
口笛を吹くだけで飛んできてくれたから不便に感じたこともなかったけど、名前欲しかったのかな?もしそうなら悪い事をした。
「なら、キミは何が好き?烏だから、きらきらしたものかな?つやつやどんぐりとか、宝石とか」
そう言った瞬間、杏寿郎さんのところに飛んだ。え、好きなものって私と同じで杏寿郎さ……あ。違った。
「よもや!俺の芋っ!」
杏寿郎さんが大きな口でかぶりつこうとしたさつまいもを、横から奪い去ったのだ!杏寿郎さんが持っていた芋をだ!!
「イモ!スキ!!」
「兄上のお芋を盗るなんて、姉上の烏は侮れませんね」
「烏に盗られるとは不甲斐なしっ!だがさすがは朝緋の烏!尊敬する!!」
うん、ほんとこの烏やりおる……。何事もなかったように芋を食べてるし、大物だ。
「なぁるほど、お芋が好きなんだね。おいもちゃん、いも子、なんか変……品種?……安納芋、シルクスイート、べにはるか、紅あずま……。
あずまちゃんで!東と書いて、あずまとかどう?」
「アリガトウ!気ニ入ッタ」
「あずま!変わった名前だな!!」
「お芋の品種から取っただけですよー」
今の時代には品種も何もないだろうけど。
名前をつけるだけでは足りないと、私は自分の髪を結っている紐をほどき、あずまの首に緩くリボン結びした。
「君の髪紐がなくなってしまうではないか。
名前さえついていれば、見分けはつくだろう。呼べば来るぞ?」
「あずまも女の子だから可愛くしてあげたいと思って」
ほどいたことで長い髪がちょっと邪魔だ。落ちてくる髪の毛を耳にかけてやりながらにこりと笑いかければ、杏寿郎さんは胸のあたりを「うっ」と押さえてそっぽ向いていた。
「兄上、どうかなされましたか?」
「胸焼けだから気にするな!」
杏寿郎さんが好物で胸焼け?珍しいこともあるものだ。
「兄上も帰って来てくださいましたので、お芋をふかしました」
うちには芋が好物の男のためにと、保存食としてのさつまいもが大量に貯蔵されている。槇寿朗さんは作ることに相当渋ったが、庭の一角には畑が。蔵が連なる棟の端には長期保存用のさつま穴があるほどだ。
「師範、「うん゛?」杏寿郎兄さんといえばさつまいもだものね」
「わはは!そうだな!」
杏寿郎さんは呼び方が非常に気になるらしい。今は名前で呼んでやるが、徐々に『師範』呼びに変えてやる。目指すは貴方と共に戦い、貴方の手となり足となる炎柱の継子なのだから。
今年のさつまいもは特に出来がいいようだ。九里(栗)四里(より)美味い十三里とはよく言ったもので、栗のようなほくほくとした味わいと食感だ。まさにわっしょいだ。
わっしょいわっしょい!という、好物を食べた時にのみ発せられる杏寿郎さんのいつもの独特な言葉をききながら味わっていると、ニコニコ笑った千寿郎が父上にも届けてくると言って席を外した。
すでに夕餉の準備も始まっているし、庭には塵一つ落ちていない。何から何までよくできた弟だ。
「杏寿郎兄さん、とうさまへの出立報告ありがとうございました。助かりましたが相当怒られたそうで……」
「わかっていたことだから気にする事はない。それより、帰還の報告はしたのか?」
「はい。めちゃくちゃ怒られました。蔵に閉じ込められるところでした」
思い出すだけですえ恐ろしい。だって、あの蔵の中薄暗いし幽霊でそうだもの。実態があって斬れる分、鬼の方がマシだ。
「なんと!父上も手段を選ばなくなったものだな!だがそれも過保護ゆえ、か……。
あまり我慢がならぬようなら、藤の花の家紋の家のお世話になるといい。任務が長引いたり、遠くの任務に当たる際利用する隊士は多い」
そのあとは藤の花の家紋の家について教えてくださった。……まあ、何度も利用したことがあるからわかっているんだけども、もしかしたら『前』と設定が違うかもしれないし、大人しく聞いた。
藤の花の家紋の家は全国各地にある。
かつて鬼殺隊によって鬼から救われた一族が担うことが多く、鬼狩りであれば無償で尽くしてくれる。うん、全く同じだ。
「鬼殺隊は非公式の組織だからな!普通の宿屋では帯刀していることで怪訝な顔をされてしまう。それだけならまだしも、最悪の場合警官を呼ばれることもある。
だから協力を惜しまないでいてくれる、藤の花の家紋の者達には感謝しかないな!」
そうそう。刀は長物で目立つから隠して移動するのも一苦労なんだよね。
とはいえ、有事の際に抜きにくくては本末転倒。すぐに取り出せる位置にないと困るし。
不便な世の中になったもんだ。いや、鬼なんかがいるのが悪い!
「そうだ朝緋!
日輪刀が来る日がわかったら烏で教えてくれ。俺も君の刀が色変わりするところを見たいのだ」
「ええ。分かり次第すぐに連絡しますね」
私が杏寿郎さんの色変わりの儀を見たくて堪らなかったように、杏寿郎さんもまた私の日輪刀の色が変わる瞬間を見たいのだ。うん、あの瞬間はえもいわれぬ高揚感がある。
「ありがとう!
なら烏を知っておかねばな。朝緋の烏はどんなだ?」
芋をもそもそ食べる手を止め、「ピィ」と口笛をひとつ。
まもなくして、私の肩に一匹の烏が止まった。杏寿郎さんの鎹烏、要より若干小さい。
「私の烏は雌のこの子です。この子に」
「姉上の烏に名前はないのですか?」
見れば、千寿郎が戻ってきていた。その手の芋は減っていない。
「あら千寿郎、とうさまはお芋はお食べになられなかったの?」
「はい、召し上がりにならないそうです」
「はー……とうさまってばお酒ばーっかりなんだから。なんてもったいない。ふかしたては体にもいいし美味しいのにねぇ〜」
「父上は損をしている。こんなに美味いのになぁ〜」
「ね〜!」と笑いあう。
美味しいものは人を幸せにする。私と杏寿郎さんは、結構食いしん坊だ。
「にしても名前かぁ。幼名はないの?それで呼んじゃだめ?」
「カァー!新シイ名前、ツケテホシイ!」
新しい名前か。前は特につけてなかったから初の試みだ。
口笛を吹くだけで飛んできてくれたから不便に感じたこともなかったけど、名前欲しかったのかな?もしそうなら悪い事をした。
「なら、キミは何が好き?烏だから、きらきらしたものかな?つやつやどんぐりとか、宝石とか」
そう言った瞬間、杏寿郎さんのところに飛んだ。え、好きなものって私と同じで杏寿郎さ……あ。違った。
「よもや!俺の芋っ!」
杏寿郎さんが大きな口でかぶりつこうとしたさつまいもを、横から奪い去ったのだ!杏寿郎さんが持っていた芋をだ!!
「イモ!スキ!!」
「兄上のお芋を盗るなんて、姉上の烏は侮れませんね」
「烏に盗られるとは不甲斐なしっ!だがさすがは朝緋の烏!尊敬する!!」
うん、ほんとこの烏やりおる……。何事もなかったように芋を食べてるし、大物だ。
「なぁるほど、お芋が好きなんだね。おいもちゃん、いも子、なんか変……品種?……安納芋、シルクスイート、べにはるか、紅あずま……。
あずまちゃんで!東と書いて、あずまとかどう?」
「アリガトウ!気ニ入ッタ」
「あずま!変わった名前だな!!」
「お芋の品種から取っただけですよー」
今の時代には品種も何もないだろうけど。
名前をつけるだけでは足りないと、私は自分の髪を結っている紐をほどき、あずまの首に緩くリボン結びした。
「君の髪紐がなくなってしまうではないか。
名前さえついていれば、見分けはつくだろう。呼べば来るぞ?」
「あずまも女の子だから可愛くしてあげたいと思って」
ほどいたことで長い髪がちょっと邪魔だ。落ちてくる髪の毛を耳にかけてやりながらにこりと笑いかければ、杏寿郎さんは胸のあたりを「うっ」と押さえてそっぽ向いていた。
「兄上、どうかなされましたか?」
「胸焼けだから気にするな!」
杏寿郎さんが好物で胸焼け?珍しいこともあるものだ。