二周目 参
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「お茶を淹れてきますから、姉上はお寛ぎください。疲れているなら尚更、何もしない時間も大切ですよ」
「ありがとう。えへへ、お茶楽しみ。今のうちに着替えくらいはしておくね」
ようやく泣き止んだ私を気遣い、千寿郎がお茶を淹れに行ってくれるそうだ。あの様子だと、同時進行で湯を沸かしたり軽くお腹に入れる物も準備するかもしれない。
近頃お茶を淹れる腕も少しずつ上がってるし、千寿郎は思いやりもある凄い子だ。頑張り屋さんだ。
ザリ。その時、庭の砂利や土を踏む音が響きそちらを見た。
そこには息を切らした杏寿郎さんが立っていた。表の玄関から上がる時間も惜しく、私を心配してきて真っ直ぐに来てくれたのかもしれない。
「朝緋ッ!」
私に声を出す暇すら与えず、思い切り抱きしめてくる。
……あたたかい。懐かしき杏寿郎さんの匂い。無限列車での任務後のお日様と血が混じった貴方の匂い。幼き日に抱きしめあって眠った匂い。鍛錬の痛みに泣いた私をおぶってくれた時の優しい匂い。全部、全部変わらず覚えてる。涙が出そうだ。
「ああ、よかった!帰ってきていた!君の事を信じてはいたが、この七日間はずっと不安だった!」
声がやや震えている。だけど、その声は嬉しそうだった。
つられて私も、声が震えた。
「杏寿郎さ……師範…………っ」
つい、杏寿郎さんと呼びそうになり、あわてて言葉を変えた。相変わらず杏寿郎さんは気にしなかった。
「呼び方なんぞどうでもいい。今は、こうして無事に朝緋が俺の腕の中にいてくれる、それだけで……っ」
「ゔん゛……ありがとう、ございます……っ煉獄朝緋、こうして無事に合格し戻って参りましたっ!」
「うむ!ご苦労であった!」
私に比べ随分広い背中と大きな腕になった。
千寿郎もそうだけど、鬼殺隊に入ってからというもの、いつの間にかこんなに頼もしくなったんだね。
安心すると同時に相手が男である事をどうにもこうにも意識してしまい、心臓がまろび出そうだ。
「対峙した鬼はどうだった?」
「とっても怖かったです。でもしっかりと炎の呼吸がこの身に付いておりまして、鬼の頸を斬ることができました」
「そうか、それは良かった。朝緋は昔から見所がある子だったからな!俺も鼻が高い!」
ううん、違う。私には見所も才能もない。誰かのおかげだとすれば、それは目の前の人たち。
「ここまで稽古をつけてくださったとうさまや杏寿郎兄さん、私の人生に関わってきてくれた皆さん。それから貸していただいた刀の持ち主さんにも感謝しかありません」
そう言えば、抱きしめたまま頭を優しく、それはもう優しく撫でられた。
「……この刀は持ち主のほうへ俺から戻しておこう」
「ええ、ありがとうございます。
ところで、あの……帰宅したばかりで私は大変見苦しい格好なので、そろそろ離していただいても?ちょうど着替えるところでしたし」
「そうであったか!気がつかず悪かった、席を外すとしよう。
だが、その前に。その格好はどうした!藤襲山に向かう時の朝緋はそのような羽織を着ていただろうか」
よく見ている。さすがは杏寿郎さん、目敏いな。
「いえ。鬼からの攻撃や治療に使うのに、何度も破き破れ、ビリビリになってしまって。
それで獪岳……同期が巻いておけって、私に寄越してくださったんです」
獪岳って、ちょっぴりダメなところもあるみたいだけど、ツンデレで優しい人だったなあ。しみじみ〜。
「男物……男の名前……」
ボソリとつぶやく杏寿郎さんは、顔を険しくしていた。え、なんで?
「ムンッ!」
そして、私の足を覆う獪岳の羽織をバリバリと力任せに破いた!
は、はぁ!?
「ぎゃあ!?な、な、……」
巻きスカート状態だったそれがなくなり、私の生足が目の前に晒された!!
令和の世ならまだしも、ここは大正の世。女性が生足を男性の前に晒すなど、あってはならないという風潮がある。
「む!俺の羽織を巻くといい!!」
杏寿郎さんが私の足に触れ、自身の白い羽織を同じように巻き付けてぽんぽんとたたき撫でた。
「い、いやああああ!?
巻くといい!じゃないでしょう!?」
その一連の動き、そして勝手にあらわにされて生足を見られたことに、私の羞恥心は噴火寸前だった。
「姉上っ!!どうかなされまし……あ、兄上!?」
私の叫び声に千寿郎が慌ててすっ飛んできてしまった。ごめん千寿郎。
「うむ!!先ほど帰ったところだ!ただいま!」
「うむでもただいまでもなくて!
着替えたいっていうのになんで足を隠してた服を破くかな!?しかもボロボロとはいえ友達がせっかく巻いてくれたやつを!!
貴方私の薄汚れたみっともない肌を見て笑う気だったんですね!こんな……っ、女に恥をかかせてなんのつもりなんです!ひどいっ」
「そんなつもりはないっ!恥じる物ではないし美しい足だと思う!好感が持てる!見せてくれてありがとう!!」
お世辞ではないだろう。杏寿郎さんは嘘は言わない。けど美しいとか好感が持てるとか、肌を見てありがとうとか……。
「うわあああ穴があったら入りたいいいもうやめて顔から火が出ちゃう!」
「本当の事を言ったのだからいいではないか!な、千寿郎!」
「兄上……それくらいにしましょう」
尚も居座ろうとする杏寿郎さんを、部屋の外へと押し出す。
「もうっ!この羽織はあとで返します!着替えるから出てって!!」
「ナヌ!?俺の羽織では役不足か!!」
羽織がどうとかではない。着替えたいのだ。
「千寿郎っこの人連れて行ってお願い!」
「えっあ、はい。兄上、行きますよ」
「朝緋の顔が耳まで赤い!心配だからここにいたい!」
貴方のせいで赤いんですって。
「連れて行って。そしてお説教しておいて」
「承知しました。さ、行きますよ?」
愛しい弟の笑みの前には何も言えず、杏寿郎さんは大人しくドナドナされていった。
なんだか余計に疲れた。
無性に甘いものが食べたい気分だった。
「ありがとう。えへへ、お茶楽しみ。今のうちに着替えくらいはしておくね」
ようやく泣き止んだ私を気遣い、千寿郎がお茶を淹れに行ってくれるそうだ。あの様子だと、同時進行で湯を沸かしたり軽くお腹に入れる物も準備するかもしれない。
近頃お茶を淹れる腕も少しずつ上がってるし、千寿郎は思いやりもある凄い子だ。頑張り屋さんだ。
ザリ。その時、庭の砂利や土を踏む音が響きそちらを見た。
そこには息を切らした杏寿郎さんが立っていた。表の玄関から上がる時間も惜しく、私を心配してきて真っ直ぐに来てくれたのかもしれない。
「朝緋ッ!」
私に声を出す暇すら与えず、思い切り抱きしめてくる。
……あたたかい。懐かしき杏寿郎さんの匂い。無限列車での任務後のお日様と血が混じった貴方の匂い。幼き日に抱きしめあって眠った匂い。鍛錬の痛みに泣いた私をおぶってくれた時の優しい匂い。全部、全部変わらず覚えてる。涙が出そうだ。
「ああ、よかった!帰ってきていた!君の事を信じてはいたが、この七日間はずっと不安だった!」
声がやや震えている。だけど、その声は嬉しそうだった。
つられて私も、声が震えた。
「杏寿郎さ……師範…………っ」
つい、杏寿郎さんと呼びそうになり、あわてて言葉を変えた。相変わらず杏寿郎さんは気にしなかった。
「呼び方なんぞどうでもいい。今は、こうして無事に朝緋が俺の腕の中にいてくれる、それだけで……っ」
「ゔん゛……ありがとう、ございます……っ煉獄朝緋、こうして無事に合格し戻って参りましたっ!」
「うむ!ご苦労であった!」
私に比べ随分広い背中と大きな腕になった。
千寿郎もそうだけど、鬼殺隊に入ってからというもの、いつの間にかこんなに頼もしくなったんだね。
安心すると同時に相手が男である事をどうにもこうにも意識してしまい、心臓がまろび出そうだ。
「対峙した鬼はどうだった?」
「とっても怖かったです。でもしっかりと炎の呼吸がこの身に付いておりまして、鬼の頸を斬ることができました」
「そうか、それは良かった。朝緋は昔から見所がある子だったからな!俺も鼻が高い!」
ううん、違う。私には見所も才能もない。誰かのおかげだとすれば、それは目の前の人たち。
「ここまで稽古をつけてくださったとうさまや杏寿郎兄さん、私の人生に関わってきてくれた皆さん。それから貸していただいた刀の持ち主さんにも感謝しかありません」
そう言えば、抱きしめたまま頭を優しく、それはもう優しく撫でられた。
「……この刀は持ち主のほうへ俺から戻しておこう」
「ええ、ありがとうございます。
ところで、あの……帰宅したばかりで私は大変見苦しい格好なので、そろそろ離していただいても?ちょうど着替えるところでしたし」
「そうであったか!気がつかず悪かった、席を外すとしよう。
だが、その前に。その格好はどうした!藤襲山に向かう時の朝緋はそのような羽織を着ていただろうか」
よく見ている。さすがは杏寿郎さん、目敏いな。
「いえ。鬼からの攻撃や治療に使うのに、何度も破き破れ、ビリビリになってしまって。
それで獪岳……同期が巻いておけって、私に寄越してくださったんです」
獪岳って、ちょっぴりダメなところもあるみたいだけど、ツンデレで優しい人だったなあ。しみじみ〜。
「男物……男の名前……」
ボソリとつぶやく杏寿郎さんは、顔を険しくしていた。え、なんで?
「ムンッ!」
そして、私の足を覆う獪岳の羽織をバリバリと力任せに破いた!
は、はぁ!?
「ぎゃあ!?な、な、……」
巻きスカート状態だったそれがなくなり、私の生足が目の前に晒された!!
令和の世ならまだしも、ここは大正の世。女性が生足を男性の前に晒すなど、あってはならないという風潮がある。
「む!俺の羽織を巻くといい!!」
杏寿郎さんが私の足に触れ、自身の白い羽織を同じように巻き付けてぽんぽんとたたき撫でた。
「い、いやああああ!?
巻くといい!じゃないでしょう!?」
その一連の動き、そして勝手にあらわにされて生足を見られたことに、私の羞恥心は噴火寸前だった。
「姉上っ!!どうかなされまし……あ、兄上!?」
私の叫び声に千寿郎が慌ててすっ飛んできてしまった。ごめん千寿郎。
「うむ!!先ほど帰ったところだ!ただいま!」
「うむでもただいまでもなくて!
着替えたいっていうのになんで足を隠してた服を破くかな!?しかもボロボロとはいえ友達がせっかく巻いてくれたやつを!!
貴方私の薄汚れたみっともない肌を見て笑う気だったんですね!こんな……っ、女に恥をかかせてなんのつもりなんです!ひどいっ」
「そんなつもりはないっ!恥じる物ではないし美しい足だと思う!好感が持てる!見せてくれてありがとう!!」
お世辞ではないだろう。杏寿郎さんは嘘は言わない。けど美しいとか好感が持てるとか、肌を見てありがとうとか……。
「うわあああ穴があったら入りたいいいもうやめて顔から火が出ちゃう!」
「本当の事を言ったのだからいいではないか!な、千寿郎!」
「兄上……それくらいにしましょう」
尚も居座ろうとする杏寿郎さんを、部屋の外へと押し出す。
「もうっ!この羽織はあとで返します!着替えるから出てって!!」
「ナヌ!?俺の羽織では役不足か!!」
羽織がどうとかではない。着替えたいのだ。
「千寿郎っこの人連れて行ってお願い!」
「えっあ、はい。兄上、行きますよ」
「朝緋の顔が耳まで赤い!心配だからここにいたい!」
貴方のせいで赤いんですって。
「連れて行って。そしてお説教しておいて」
「承知しました。さ、行きますよ?」
愛しい弟の笑みの前には何も言えず、杏寿郎さんは大人しくドナドナされていった。
なんだか余計に疲れた。
無性に甘いものが食べたい気分だった。