一周目 壱
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我慢できなかったのか、嘴平君がとうとう窓を開けてしまった。
窓から飛び出しそうな彼を、我妻君が必死に抑えて止めている。
外に出て走って、この列車とどちらが速いか競走するって……はあ。
元気な子だなあ。
この走行速度の中飛び出したら、呼吸を使ったとしても確実に大怪我ものじゃない。
「馬鹿にもほどがあるだろ!?」
我妻君の叫びに、それな!って同意した時。
「危険だぞ!
いつ鬼が出てくるかわからないんだ」
鋭く飛んできた言葉に、知っていた私でさえ呼吸が止まりそうになった。でも常中は止めたら杏寿郎さんに怒られるから止めない。
「えっ……。
嘘でしょ。鬼、出るんですか?この汽車」
「出る!」
「鎹烏から聞いてなかったの?
鬼が出るのは、この列車の『中』だよ」
「出んのかい!嫌ぁーーっ!」
震える我妻君にそういうと、諸外国にあると書物で見た『叫び』という絵画もびっくりな表情で杏寿郎さんに詰め寄ってきた。
「鬼の所に移動してるんじゃなくここに出るの!?
嫌ぁーーっ!俺降りる!」
「彼、すごい顔芸なんだけど、いつもこうなの?」
思わず吹き出しながら竈門君に聞けば、
「はい……すみません。
でも動じてない煉獄さんもすごいです」
と苦笑してきた。
「短期間のうちにこの汽車で四十人以上の人が行方不明となっている。数名の剣士を送り込んだが全員、消息を絶った。
だから柱である俺が来た!」
「うん、そういうこと」
残っていたお茶をずず、と啜りふう、と一息。
夜も深まってきた……そろそろ鬼が出てもおかしくなさそうだ。ここに合流した彼らにも、心構えをしていてもらわねば。
「はぁーーーっ!?
なるほどね!降ります!降りまーす!
はわわわわわわ……」
「いや、もう降りられないから……」
……若干一名、心構えができていなさそうな子がいるけどね。
めちゃくちゃ泣いてるけど、ほんとに鬼殺隊の剣士?剣士だよね!?
なんでこんなに泣いているのだろう。階級を聞くと極端に低い階級というわけでもないし、これまでも鬼を討伐してきただろうに。
「師範がいるから大丈夫よ。私は私、我妻君は我妻君のできることをしよう!」
「出来ることなんて俺には何もないです〜うっうっ。あと、俺のことは善逸って呼んでください、語尾にはーとまーくつけて……」
「はあ……?」
なんだそれは。
ところで、何で周りの人は誰もがみな眠っているんだろう。
さっきまで起きていた人もいたような気がするんだけれど…。夜に走る列車だから?でもこれだけ騒いでいるのに眠ったままだなんて。
その時、車掌さんがこの車両に入ってきた。
「切符……拝見……致します」
切符を切りに来たのだろう。やけに生気の感じられない車掌さんだけれど……まさかね。
「……なんですか?」
「車掌さんが切符を確認して切り込みを入れてくれるんだ」
「確認できなかったら、切符も買わずに無賃乗車してる悪い子だよ、ってことなの。
最初に駅舎で買ったでしょ?」
杏寿郎さん、私、嘴平君、我妻君、そして竈門君の切符に切り込みが、ぱちんーーー入った。
あ、れ……?
一瞬、何か変な感じがした。
「拝見……しました」
竈門君の切符に切り込みが入ると同時、その場の空気がガラリと変わった。
杏寿郎さんが、鬼と対峙する時にする鋭い目をしている。
竈門君も、その強い嗅覚で何かを捉えたのか、あたりを見回していた。
「師範、まさか……」
「ーーああ」
ばさ、炎の羽織をはためかせ、杏寿郎さんが刀を手に立ち上がる。
私もその行動に倣い、刀を手に取った。
「車掌さん。危険だから下がってくれ。
火急のことゆえ、帯刀は不問にして頂きたい」
ーーあれ?
さっきは眠っていた乗客が起きている。
ただ起きただけならいいけど、何故だろう?それがとてもおかしい光景に見えた。
灯りが明滅する。
鬼が突然現れたのは、パ、と消えた灯りが、もう一度ついた時だった。
角の生えた大きな体。一つの体に二つの顔。無理やり繋げて目や口が複数ついた気持ち悪い鬼の形相に、周りの乗客や我妻君ーーああ、善逸だったか。彼が怯えている。
正直言うと、あまりの気持ち悪さに私も一瞬怯んでしまった。
「その巨躯を!隠していたのは血鬼術か?
気配も探りづらかった」
気配を消す血鬼術……それは厄介かもしれない。森の中などの広い場所での戦闘でなくてよかった。
刀の鞘を腰に差し、杏寿郎さんが闘気を高める。
「しかし、罪なき人に牙を剥こうものなら、この煉獄の赫き炎刀が!
お前を骨まで焼き尽くす!!」
炎のように赤く染まる刀を抜刀する。
熱い。ごうごうと燃える、炎のようなゆらめきが、闘気となって杏寿郎さんを中心に広がっていく。
鬼が咆哮をあげる。気色悪い顔を醜く歪ませ、こちらに向かってきたと同時、刀を構えた。
炎の呼吸独特の、大きな呼吸音。
「炎の呼吸、壱ノ型ーー不知火!」
燃え盛る炎となった杏寿郎さんが、刃が。真っ直ぐに、真っ直ぐに一閃する。
鬼の頸を一瞬で刈り取った!
その勢いは止まらず、次の車両へとつながる扉すらも破壊してやっと止まった。
杏寿郎さんの背後ーーつまり私達のすぐそばで、鬼の体は燃え尽きるように霧散して消える。
いつもと同じだが、なんてかっこいい太刀捌きだろう。惚れ惚れする。
いや、いつも以上に輝いて見えるのは、なぜだろうか。
まるで夢の中にいるかのようだった。
「すごい、一撃で鬼の頸を……」
「うん。すごいよね、これが柱の実力なんだよ。私はまだまだこの強さに辿りつけない……」
乗客が騒ぎでざわめく中、もう一匹いる、とついてくるように言う杏寿郎さん。
私達はそれぞれが違う反応をしながらも、その後を追った。
悲鳴が響く中、それと対峙する。
その車両に巣食っていたのは、手足が異様に長く、関節がおかしく曲がる鬼だった。
ああ、逃げ遅れた乗客の一人が狙われている!!
「その人に手を出すことは許さん!」
くるうり、こちらを向いた鬼もまた、異質な形相をしていた。善逸もあの鬼を見てやけに怖がっている。
いつも思うけれど、なんで下級の鬼ってこんなに見た目の気持ち悪い子ばかり揃っているのだろう。
いや、下手に人間の姿を取られるよりは斬りやすくていいのだけれど。
「聞こえなかったのか?お前の相手はこっちだと言っている」
臆することなく鬼に言葉と、殺気を放つ杏寿郎さんだったけど、それよりも先に前に出た嘴平君が、先手必勝だと言って飛び出す。
けれど前にはーー。
「待て!逃げ遅れた人がいるんだぞ!」
「ぶっ倒しゃあ問題ねえ!」
人命救助より先に鬼を優先してはいけない。
状況によって前後するけれど、今はあの人を先に助けなくては!
だが、そのギザギザした鋸のような彼の刃は届かなかった。
鬼にあるのは長い手足だけではなかったのだ。腰から新しく長い腕のような物が一瞬にして生え、構えた刀を弾き返した。
咄嗟にただの受け身しか取れなかった彼は、自身に迫る鬼の手に対応できず、握りつぶされそうになっていた。
杏寿郎さんが抱えて跳んでいなかったらと思うと……ゾッとする。
嘴平君を救い終えた杏寿郎さんはそのまま、取り残されていた人を鬼の腕をかわしながら救助し、こちらに戻ってきた。
その間、わずか数秒だ。
「車両の奥は安全だ。行くといい」
「ーーこちらです」
ここに隠はいない。
せめてその代わりを務めねばと、私は民間人の対応を買って出る。
奥へと案内して戻ったら、鬼は退治されていた。
砂埃が上がっており、座席の材質である木が、ところどころに転がっている。
「結局座席を壊しちゃったんだ……」
「ははは!あとで隠がなんとかしてくれるだろう!!」
「なんでもかんでも隠に任せればいいって問題じゃ……。
でも、結局は私達の出番もない、簡単な任務だったようで何よりです」
「うむ!」
鬼の亡骸が燃えるように消えていくのを確認し、刀を鞘に戻す。
その後ろで竈門君がやけに感動していた。
「す、す、」
す?すって何……?
「すげえや兄貴!見事な剣術だぜ!
おいらを弟子にしてくだせぇ!」
「いいとも!立派な剣士にしてやろう!」
「おいらも!」
「おいどんも!」
ええーー!?何、何この展開?
兄貴?おいらに、おいどん?杏寿郎さんも、いいともって!
「みんなまとめて面倒を見てやる!」
「「「煉獄の兄貴ぃ〜」」」
「兄貴!」「兄貴!」「兄貴!」
喜びながら泣いている竈門君に、出っ歯な善逸、それに猪頭の造形が変わってしまっている嘴平君。
「「「煉獄の兄貴!わぁ〜!」」」
「ハハハ……!」
極め付けに、どことなく喜劇的な表情に変わった杏寿郎さん。
「朝緋!もう鬼はいない!安心だな!!」
「はい、杏寿郎さん!すごくかっこよかったです!」
で。どういうこと?
いや、確かに今度は無駄にキラキラしてかっこいい表情に変わっているけども!何でかっこいいとか口に出しちゃってるの私は!!
他の人の前なのに、何故名前を呼んでしまっているの。いつも外では名前を呼ばないのに……!なんてはしたない!
そして何故私は杏寿郎さんに肩を抱かれているのだろうか。
何故彼に倣うように私は彼に寄り添って身を預けてしまっているの……?
一体、これは何事なのだろうか。
私の意思とは裏腹な私の行動に、内心激しく動揺している。
恥ずかしいのに、杏寿郎さんは離してくれないし、顔は勝手に笑顔を向けている。
あっ、肩から腰に手が回ってきた!?
「朝緋……、」
ヒェアハイ!?
いきなり耳元で囁くのは禁止でしょ!って、顔が!杏寿郎さんの御尊顔が近づいてきてるんですが!?
ちょ、ちょっと待って……こ、心の準備が……じゃなくて!
これ絶対夢だよね!?現実じゃないよね!!
結局、脳が沸騰する直前に私の意識は暗転した。
窓から飛び出しそうな彼を、我妻君が必死に抑えて止めている。
外に出て走って、この列車とどちらが速いか競走するって……はあ。
元気な子だなあ。
この走行速度の中飛び出したら、呼吸を使ったとしても確実に大怪我ものじゃない。
「馬鹿にもほどがあるだろ!?」
我妻君の叫びに、それな!って同意した時。
「危険だぞ!
いつ鬼が出てくるかわからないんだ」
鋭く飛んできた言葉に、知っていた私でさえ呼吸が止まりそうになった。でも常中は止めたら杏寿郎さんに怒られるから止めない。
「えっ……。
嘘でしょ。鬼、出るんですか?この汽車」
「出る!」
「鎹烏から聞いてなかったの?
鬼が出るのは、この列車の『中』だよ」
「出んのかい!嫌ぁーーっ!」
震える我妻君にそういうと、諸外国にあると書物で見た『叫び』という絵画もびっくりな表情で杏寿郎さんに詰め寄ってきた。
「鬼の所に移動してるんじゃなくここに出るの!?
嫌ぁーーっ!俺降りる!」
「彼、すごい顔芸なんだけど、いつもこうなの?」
思わず吹き出しながら竈門君に聞けば、
「はい……すみません。
でも動じてない煉獄さんもすごいです」
と苦笑してきた。
「短期間のうちにこの汽車で四十人以上の人が行方不明となっている。数名の剣士を送り込んだが全員、消息を絶った。
だから柱である俺が来た!」
「うん、そういうこと」
残っていたお茶をずず、と啜りふう、と一息。
夜も深まってきた……そろそろ鬼が出てもおかしくなさそうだ。ここに合流した彼らにも、心構えをしていてもらわねば。
「はぁーーーっ!?
なるほどね!降ります!降りまーす!
はわわわわわわ……」
「いや、もう降りられないから……」
……若干一名、心構えができていなさそうな子がいるけどね。
めちゃくちゃ泣いてるけど、ほんとに鬼殺隊の剣士?剣士だよね!?
なんでこんなに泣いているのだろう。階級を聞くと極端に低い階級というわけでもないし、これまでも鬼を討伐してきただろうに。
「師範がいるから大丈夫よ。私は私、我妻君は我妻君のできることをしよう!」
「出来ることなんて俺には何もないです〜うっうっ。あと、俺のことは善逸って呼んでください、語尾にはーとまーくつけて……」
「はあ……?」
なんだそれは。
ところで、何で周りの人は誰もがみな眠っているんだろう。
さっきまで起きていた人もいたような気がするんだけれど…。夜に走る列車だから?でもこれだけ騒いでいるのに眠ったままだなんて。
その時、車掌さんがこの車両に入ってきた。
「切符……拝見……致します」
切符を切りに来たのだろう。やけに生気の感じられない車掌さんだけれど……まさかね。
「……なんですか?」
「車掌さんが切符を確認して切り込みを入れてくれるんだ」
「確認できなかったら、切符も買わずに無賃乗車してる悪い子だよ、ってことなの。
最初に駅舎で買ったでしょ?」
杏寿郎さん、私、嘴平君、我妻君、そして竈門君の切符に切り込みが、ぱちんーーー入った。
あ、れ……?
一瞬、何か変な感じがした。
「拝見……しました」
竈門君の切符に切り込みが入ると同時、その場の空気がガラリと変わった。
杏寿郎さんが、鬼と対峙する時にする鋭い目をしている。
竈門君も、その強い嗅覚で何かを捉えたのか、あたりを見回していた。
「師範、まさか……」
「ーーああ」
ばさ、炎の羽織をはためかせ、杏寿郎さんが刀を手に立ち上がる。
私もその行動に倣い、刀を手に取った。
「車掌さん。危険だから下がってくれ。
火急のことゆえ、帯刀は不問にして頂きたい」
ーーあれ?
さっきは眠っていた乗客が起きている。
ただ起きただけならいいけど、何故だろう?それがとてもおかしい光景に見えた。
灯りが明滅する。
鬼が突然現れたのは、パ、と消えた灯りが、もう一度ついた時だった。
角の生えた大きな体。一つの体に二つの顔。無理やり繋げて目や口が複数ついた気持ち悪い鬼の形相に、周りの乗客や我妻君ーーああ、善逸だったか。彼が怯えている。
正直言うと、あまりの気持ち悪さに私も一瞬怯んでしまった。
「その巨躯を!隠していたのは血鬼術か?
気配も探りづらかった」
気配を消す血鬼術……それは厄介かもしれない。森の中などの広い場所での戦闘でなくてよかった。
刀の鞘を腰に差し、杏寿郎さんが闘気を高める。
「しかし、罪なき人に牙を剥こうものなら、この煉獄の赫き炎刀が!
お前を骨まで焼き尽くす!!」
炎のように赤く染まる刀を抜刀する。
熱い。ごうごうと燃える、炎のようなゆらめきが、闘気となって杏寿郎さんを中心に広がっていく。
鬼が咆哮をあげる。気色悪い顔を醜く歪ませ、こちらに向かってきたと同時、刀を構えた。
炎の呼吸独特の、大きな呼吸音。
「炎の呼吸、壱ノ型ーー不知火!」
燃え盛る炎となった杏寿郎さんが、刃が。真っ直ぐに、真っ直ぐに一閃する。
鬼の頸を一瞬で刈り取った!
その勢いは止まらず、次の車両へとつながる扉すらも破壊してやっと止まった。
杏寿郎さんの背後ーーつまり私達のすぐそばで、鬼の体は燃え尽きるように霧散して消える。
いつもと同じだが、なんてかっこいい太刀捌きだろう。惚れ惚れする。
いや、いつも以上に輝いて見えるのは、なぜだろうか。
まるで夢の中にいるかのようだった。
「すごい、一撃で鬼の頸を……」
「うん。すごいよね、これが柱の実力なんだよ。私はまだまだこの強さに辿りつけない……」
乗客が騒ぎでざわめく中、もう一匹いる、とついてくるように言う杏寿郎さん。
私達はそれぞれが違う反応をしながらも、その後を追った。
悲鳴が響く中、それと対峙する。
その車両に巣食っていたのは、手足が異様に長く、関節がおかしく曲がる鬼だった。
ああ、逃げ遅れた乗客の一人が狙われている!!
「その人に手を出すことは許さん!」
くるうり、こちらを向いた鬼もまた、異質な形相をしていた。善逸もあの鬼を見てやけに怖がっている。
いつも思うけれど、なんで下級の鬼ってこんなに見た目の気持ち悪い子ばかり揃っているのだろう。
いや、下手に人間の姿を取られるよりは斬りやすくていいのだけれど。
「聞こえなかったのか?お前の相手はこっちだと言っている」
臆することなく鬼に言葉と、殺気を放つ杏寿郎さんだったけど、それよりも先に前に出た嘴平君が、先手必勝だと言って飛び出す。
けれど前にはーー。
「待て!逃げ遅れた人がいるんだぞ!」
「ぶっ倒しゃあ問題ねえ!」
人命救助より先に鬼を優先してはいけない。
状況によって前後するけれど、今はあの人を先に助けなくては!
だが、そのギザギザした鋸のような彼の刃は届かなかった。
鬼にあるのは長い手足だけではなかったのだ。腰から新しく長い腕のような物が一瞬にして生え、構えた刀を弾き返した。
咄嗟にただの受け身しか取れなかった彼は、自身に迫る鬼の手に対応できず、握りつぶされそうになっていた。
杏寿郎さんが抱えて跳んでいなかったらと思うと……ゾッとする。
嘴平君を救い終えた杏寿郎さんはそのまま、取り残されていた人を鬼の腕をかわしながら救助し、こちらに戻ってきた。
その間、わずか数秒だ。
「車両の奥は安全だ。行くといい」
「ーーこちらです」
ここに隠はいない。
せめてその代わりを務めねばと、私は民間人の対応を買って出る。
奥へと案内して戻ったら、鬼は退治されていた。
砂埃が上がっており、座席の材質である木が、ところどころに転がっている。
「結局座席を壊しちゃったんだ……」
「ははは!あとで隠がなんとかしてくれるだろう!!」
「なんでもかんでも隠に任せればいいって問題じゃ……。
でも、結局は私達の出番もない、簡単な任務だったようで何よりです」
「うむ!」
鬼の亡骸が燃えるように消えていくのを確認し、刀を鞘に戻す。
その後ろで竈門君がやけに感動していた。
「す、す、」
す?すって何……?
「すげえや兄貴!見事な剣術だぜ!
おいらを弟子にしてくだせぇ!」
「いいとも!立派な剣士にしてやろう!」
「おいらも!」
「おいどんも!」
ええーー!?何、何この展開?
兄貴?おいらに、おいどん?杏寿郎さんも、いいともって!
「みんなまとめて面倒を見てやる!」
「「「煉獄の兄貴ぃ〜」」」
「兄貴!」「兄貴!」「兄貴!」
喜びながら泣いている竈門君に、出っ歯な善逸、それに猪頭の造形が変わってしまっている嘴平君。
「「「煉獄の兄貴!わぁ〜!」」」
「ハハハ……!」
極め付けに、どことなく喜劇的な表情に変わった杏寿郎さん。
「朝緋!もう鬼はいない!安心だな!!」
「はい、杏寿郎さん!すごくかっこよかったです!」
で。どういうこと?
いや、確かに今度は無駄にキラキラしてかっこいい表情に変わっているけども!何でかっこいいとか口に出しちゃってるの私は!!
他の人の前なのに、何故名前を呼んでしまっているの。いつも外では名前を呼ばないのに……!なんてはしたない!
そして何故私は杏寿郎さんに肩を抱かれているのだろうか。
何故彼に倣うように私は彼に寄り添って身を預けてしまっているの……?
一体、これは何事なのだろうか。
私の意思とは裏腹な私の行動に、内心激しく動揺している。
恥ずかしいのに、杏寿郎さんは離してくれないし、顔は勝手に笑顔を向けている。
あっ、肩から腰に手が回ってきた!?
「朝緋……、」
ヒェアハイ!?
いきなり耳元で囁くのは禁止でしょ!って、顔が!杏寿郎さんの御尊顔が近づいてきてるんですが!?
ちょ、ちょっと待って……こ、心の準備が……じゃなくて!
これ絶対夢だよね!?現実じゃないよね!!
結局、脳が沸騰する直前に私の意識は暗転した。