二周目 参
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遠くからでもよくわかる黄色と赤のカラーリングの髪の毛。その子は屋敷の前であっちこっちウロウロして待っていてくれた。
「せ、千寿郎ぉーー!」
体の痛みも吹き飛ぶ気分だ。声を上げながら駆け寄れば、千寿郎も顔を上げ駆け寄ってきた。
不安そうだった顔が、泣き顔に変わる。嬉し泣きだった。
「姉上ぇぇっ!お帰りなさい姉上!生きてるんですよね!幽霊じゃないですよね!!」
「ただいま……っ!生きてる、生きてるよぉぉぉお!!幽霊じゃないよっ!怖い事言わないで……っ」
思い切り抱きしめて持ち上げ、くるくると回る。わあ、千寿郎も大きくなって抱っこしづらくなってきたなぁ。
その事実もまた嬉しくて、更に泣いちゃうよ。
「ご無事で何よりです!!よかった……!本当によかった!お弁当も全部食べたんですね!」
「もちろん!とっても美味しかったよ!千寿郎のおかげで、七日間を無事に生き残れた。ありがとう!」
「僕が姉上にできることなんてそれくらいですから……。それより怪我は!?」
そう言って改めて私の姿を上から下まで眺める。擦り傷切り傷多いもんね。
でも、いくら弟とはいえボロボロで薄汚れた姿はあまり見られたくないなあ。
「怪我はほとんどしてないよ。いや、したはしたけど重症ってわけじゃないし、あとで自分で消毒しておくね。今は疲れの方が深刻かな」
ふわぁ。
おっと、疲れすぎて大欠伸が。こりゃ失敬。
「でも、千寿郎の顔を見たら、生きて戻ってこれたって感じするなぁ。疲れも吹き飛びそう。現実に戻ってきたって感じする」
「現実……。あの、姉上。現実ついでに、父上が大層御立腹で……」
言いづらそうにちらちらと私の顔を見ながらいう。うん、槇寿朗さんが怒り心頭なのはわかってたから大丈夫。苦笑が漏れた。
「やっぱりそうなんだね」
「姉上の出立については兄上が父上に伝えてくださいましたが、その時も大層御立腹されて。兄上はまた庭に沈められてしまいました。
それからずっと、今も父上は御怒りのままで」
「えっ!投げ飛ばされたってことだよね?……怪我とか大丈夫だったの?」
「受け身をとられていたので怪我一つされていません」
ほっとした。杏寿郎さんは体だけは丈夫だもんね。
「千寿郎は大丈夫だった?家で何か困り事とか変わったことはなかったの?」
槇寿朗さんに当たられたり手を挙げられたりしてないか、それが気になる。しかしそんな事を直に聞くには躊躇いを感じる。
もしもかわいい千寿郎が叩かれでもしていたなら……親子喧嘩も辞さないぞ!
「特に何もありませんでした。父上も気は立っていても、僕には受けごたえも普通で」
僕には、か。鬼殺隊に入る私への当たりはどんなだろうか。
「はー、帰還の報告は必要だよね……いやだなー、怖いな。気が滅入る……」
鬼より怖い。とそう言えば、千寿郎は何も言わずに苦笑するのみだった。
明槻なら『決戦のバトルフィールド』とか言いそうだ。その部屋からは、怒りのオーラのようなものが放たれていた。
障子の隙間からそれが漏れてくる。……声をかけるにも開けるのにも躊躇するなあ。
「とうさま、朝緋です。ただいま帰りました。
……とうさま?入りますよ」
障子戸を開けた瞬間、ブォン!と風を切って飛んでくる物があった。反射的に避ければ、それは酒の壺瓶で。
空っぽだったとはいえ、大きなそれは重量もあり、当たったら無事では済まないだろう。
でも恐ろしいのは瓶でもなくそれによる負傷でもなかった。目の前の父・槇寿朗だった。
「お前……よくもまあ、俺を謀ったな。随分と好き勝手してくれたな……。
なぜ家長の俺の許可も取らず選別に行った!!お前は俺を馬鹿にしているのか!!」
怒りを絞り出すように静かに言われたかと思うと、そのあとすぐに怒号が飛んできた。まるで炎の呼吸のそれのように、荒々しい怒り。
「思えば俺は、娘だからとお前にわがまま放題をさせすぎた。お前も愚かだが、それを許した俺が愚かだった。間違っていた」
「わがまま放題?
とうさまとかあさまが許可をくださったものではないですか!隊士を目指すことだって、」
「瑠火が本心でそう思うはずがない!!」
瑠火さんの話はタブーだった。
怒号が響く度に体が跳ねてしまうが、瑠火さんの話題を出した瞬間の声が一番大きい。
「お前は稀血だ!おなごだ!剣を学ぶ価値はなかったのだ!!
杏寿郎に続きお前も鬼殺隊に入るだと!?何にもならない!死ぬだけだ!無様に鬼に食われて終わりだ!」
そこまで言うことなくない?何か反論しようと顔を上げると、すくっと立った槇寿朗さんと目があった。
「もうどこにもいかせん。鬼殺隊になど入らせん。
女は女らしくして男に嫁いでいればいいのだ。それがお前の幸せなのだとなぜわからない」
大正の世だからしかたないとはいえ、男に嫁いでいればいい。その考えはいただけなかった。怖いから言い返せないけど。
まあぶっちゃけ、言い返さなくても叩かれると思った。仁王立ちした彼からは怒りの感情しか読み取れないし。
杏寿郎さんと同じように、庭に投げ飛ばされるのだと思った。それで済むならいいと、身を固くして衝撃に備える。
しかし叩かれる代わりに、私は腰を掴まれ米俵のように担がれた。
いきなり高くなる視界と、予想外の行動に私の思考は一瞬停止した。
「え、ちょ……はぁ?と、とうさま!?」
私を抱えたまま下駄も履かずに庭に出ると、蔵の扉をおもむろに開け放つ。
埃の立つそこは、昼間もひんやりしていて暗い。
「考えが変わるまでここに入っていろ!!」
「そんな!?ここ物置……、使ってない蔵じゃないですか!!わ、私はこんなところ入りません!入りません……ってばぁ!
いやだ!離して!!」
蔵にぶち込まれる!それがわかった私の行動は早く、投げ入れられた瞬間に空中でくるりと体勢を立て直し蔵の入り口に跳んで降り立つ。
我ながら天晴れな身体能力!百点満点!
「なっ、」
槇寿朗さんは猿のように身軽な私の身体能力にびっくりしていた。ふふん。鬼殺隊なりたてだけど、これでも元階級甲の炎柱継子なのでね!
……でも危なかった。
かつての私が素早さ特化型の隊士でなければ、そのまま蔵の中行き。鬼殺隊に入るどころではなかった。
この蔵はただでさえ、鬼でもぶち破れぬほど頑丈なのだ。一度入れば、槇寿朗さんが許すまで私は閉じ込められていただろう。
心配なのはわかるけど、今時蔵に閉じ込めて反省させるとか流行らないよ!あ、もしかしてこの時代では最先端?
「私の思いは変わらない!!やっと鬼殺隊に入れるんです!やめたりなんか絶対にしない!!杏寿郎さん達鬼殺隊の人の隣に立ち!鬼に苦しむ人のために剣を振るいたい!!一人でも多くの、大切な人達を助けたい!!
その思いの前に女も男も関係はない。
止めないで。私を思うなら、私の思いを否定しないで。私の炎を消そうとしないで!」
必死で言いながら泣いたら、槇寿朗さんは止まった。
勝手にしろ。そう吐き捨てて部屋へと戻り、それ以上は何も言わなかった。
槇寿朗さんがいなくなって自分の部屋へと戻ると、そっと寄り添うように千寿郎が駆け寄ってきた。
「姉上、大丈夫ですか」
「千寿郎…うん……大丈夫。
聞こえてたよね、見てたよね。恥ずかしいなぁ」
姉として不甲斐ないところを見せてしまったと、苦笑が漏れる。
笑って欲しいのに、千寿郎は涙した。
「すみません。何もできなくて、すみません」
ぽろぽろ涙をこぼす千寿郎を見ていたら、私まで涙があふれた。涙で声が掠れる。
「大丈夫なんて嘘だよ……」
ぬいぐるみでも抱くが如く、千寿郎を抱きしめる。まだ着替えていない状態で悪いとは思ったけど、我慢できなかった。
「千寿郎お願い。ちょっとの間、こうさせて。疲れた。癒しが欲しい。つらい……」
「あの、疲れてるなら余計早くお休みになられたほうがいいのでは?湯も沸かします。姉上が湯浴みをなされている間に、お布団も敷いておきますから」
「無理ぃ……背中ぽんぽんしてぇ……」
そういってぐすぐすと泣きつけば、同じように泣いていたはずの千寿郎は泣き止み、戸惑いながらも私の背をとんとんと、優しく叩いてくれた。
かつて、瑠火さんにしてもらったものとよく似ている。
「せ、千寿郎ぉーー!」
体の痛みも吹き飛ぶ気分だ。声を上げながら駆け寄れば、千寿郎も顔を上げ駆け寄ってきた。
不安そうだった顔が、泣き顔に変わる。嬉し泣きだった。
「姉上ぇぇっ!お帰りなさい姉上!生きてるんですよね!幽霊じゃないですよね!!」
「ただいま……っ!生きてる、生きてるよぉぉぉお!!幽霊じゃないよっ!怖い事言わないで……っ」
思い切り抱きしめて持ち上げ、くるくると回る。わあ、千寿郎も大きくなって抱っこしづらくなってきたなぁ。
その事実もまた嬉しくて、更に泣いちゃうよ。
「ご無事で何よりです!!よかった……!本当によかった!お弁当も全部食べたんですね!」
「もちろん!とっても美味しかったよ!千寿郎のおかげで、七日間を無事に生き残れた。ありがとう!」
「僕が姉上にできることなんてそれくらいですから……。それより怪我は!?」
そう言って改めて私の姿を上から下まで眺める。擦り傷切り傷多いもんね。
でも、いくら弟とはいえボロボロで薄汚れた姿はあまり見られたくないなあ。
「怪我はほとんどしてないよ。いや、したはしたけど重症ってわけじゃないし、あとで自分で消毒しておくね。今は疲れの方が深刻かな」
ふわぁ。
おっと、疲れすぎて大欠伸が。こりゃ失敬。
「でも、千寿郎の顔を見たら、生きて戻ってこれたって感じするなぁ。疲れも吹き飛びそう。現実に戻ってきたって感じする」
「現実……。あの、姉上。現実ついでに、父上が大層御立腹で……」
言いづらそうにちらちらと私の顔を見ながらいう。うん、槇寿朗さんが怒り心頭なのはわかってたから大丈夫。苦笑が漏れた。
「やっぱりそうなんだね」
「姉上の出立については兄上が父上に伝えてくださいましたが、その時も大層御立腹されて。兄上はまた庭に沈められてしまいました。
それからずっと、今も父上は御怒りのままで」
「えっ!投げ飛ばされたってことだよね?……怪我とか大丈夫だったの?」
「受け身をとられていたので怪我一つされていません」
ほっとした。杏寿郎さんは体だけは丈夫だもんね。
「千寿郎は大丈夫だった?家で何か困り事とか変わったことはなかったの?」
槇寿朗さんに当たられたり手を挙げられたりしてないか、それが気になる。しかしそんな事を直に聞くには躊躇いを感じる。
もしもかわいい千寿郎が叩かれでもしていたなら……親子喧嘩も辞さないぞ!
「特に何もありませんでした。父上も気は立っていても、僕には受けごたえも普通で」
僕には、か。鬼殺隊に入る私への当たりはどんなだろうか。
「はー、帰還の報告は必要だよね……いやだなー、怖いな。気が滅入る……」
鬼より怖い。とそう言えば、千寿郎は何も言わずに苦笑するのみだった。
明槻なら『決戦のバトルフィールド』とか言いそうだ。その部屋からは、怒りのオーラのようなものが放たれていた。
障子の隙間からそれが漏れてくる。……声をかけるにも開けるのにも躊躇するなあ。
「とうさま、朝緋です。ただいま帰りました。
……とうさま?入りますよ」
障子戸を開けた瞬間、ブォン!と風を切って飛んでくる物があった。反射的に避ければ、それは酒の壺瓶で。
空っぽだったとはいえ、大きなそれは重量もあり、当たったら無事では済まないだろう。
でも恐ろしいのは瓶でもなくそれによる負傷でもなかった。目の前の父・槇寿朗だった。
「お前……よくもまあ、俺を謀ったな。随分と好き勝手してくれたな……。
なぜ家長の俺の許可も取らず選別に行った!!お前は俺を馬鹿にしているのか!!」
怒りを絞り出すように静かに言われたかと思うと、そのあとすぐに怒号が飛んできた。まるで炎の呼吸のそれのように、荒々しい怒り。
「思えば俺は、娘だからとお前にわがまま放題をさせすぎた。お前も愚かだが、それを許した俺が愚かだった。間違っていた」
「わがまま放題?
とうさまとかあさまが許可をくださったものではないですか!隊士を目指すことだって、」
「瑠火が本心でそう思うはずがない!!」
瑠火さんの話はタブーだった。
怒号が響く度に体が跳ねてしまうが、瑠火さんの話題を出した瞬間の声が一番大きい。
「お前は稀血だ!おなごだ!剣を学ぶ価値はなかったのだ!!
杏寿郎に続きお前も鬼殺隊に入るだと!?何にもならない!死ぬだけだ!無様に鬼に食われて終わりだ!」
そこまで言うことなくない?何か反論しようと顔を上げると、すくっと立った槇寿朗さんと目があった。
「もうどこにもいかせん。鬼殺隊になど入らせん。
女は女らしくして男に嫁いでいればいいのだ。それがお前の幸せなのだとなぜわからない」
大正の世だからしかたないとはいえ、男に嫁いでいればいい。その考えはいただけなかった。怖いから言い返せないけど。
まあぶっちゃけ、言い返さなくても叩かれると思った。仁王立ちした彼からは怒りの感情しか読み取れないし。
杏寿郎さんと同じように、庭に投げ飛ばされるのだと思った。それで済むならいいと、身を固くして衝撃に備える。
しかし叩かれる代わりに、私は腰を掴まれ米俵のように担がれた。
いきなり高くなる視界と、予想外の行動に私の思考は一瞬停止した。
「え、ちょ……はぁ?と、とうさま!?」
私を抱えたまま下駄も履かずに庭に出ると、蔵の扉をおもむろに開け放つ。
埃の立つそこは、昼間もひんやりしていて暗い。
「考えが変わるまでここに入っていろ!!」
「そんな!?ここ物置……、使ってない蔵じゃないですか!!わ、私はこんなところ入りません!入りません……ってばぁ!
いやだ!離して!!」
蔵にぶち込まれる!それがわかった私の行動は早く、投げ入れられた瞬間に空中でくるりと体勢を立て直し蔵の入り口に跳んで降り立つ。
我ながら天晴れな身体能力!百点満点!
「なっ、」
槇寿朗さんは猿のように身軽な私の身体能力にびっくりしていた。ふふん。鬼殺隊なりたてだけど、これでも元階級甲の炎柱継子なのでね!
……でも危なかった。
かつての私が素早さ特化型の隊士でなければ、そのまま蔵の中行き。鬼殺隊に入るどころではなかった。
この蔵はただでさえ、鬼でもぶち破れぬほど頑丈なのだ。一度入れば、槇寿朗さんが許すまで私は閉じ込められていただろう。
心配なのはわかるけど、今時蔵に閉じ込めて反省させるとか流行らないよ!あ、もしかしてこの時代では最先端?
「私の思いは変わらない!!やっと鬼殺隊に入れるんです!やめたりなんか絶対にしない!!杏寿郎さん達鬼殺隊の人の隣に立ち!鬼に苦しむ人のために剣を振るいたい!!一人でも多くの、大切な人達を助けたい!!
その思いの前に女も男も関係はない。
止めないで。私を思うなら、私の思いを否定しないで。私の炎を消そうとしないで!」
必死で言いながら泣いたら、槇寿朗さんは止まった。
勝手にしろ。そう吐き捨てて部屋へと戻り、それ以上は何も言わなかった。
槇寿朗さんがいなくなって自分の部屋へと戻ると、そっと寄り添うように千寿郎が駆け寄ってきた。
「姉上、大丈夫ですか」
「千寿郎…うん……大丈夫。
聞こえてたよね、見てたよね。恥ずかしいなぁ」
姉として不甲斐ないところを見せてしまったと、苦笑が漏れる。
笑って欲しいのに、千寿郎は涙した。
「すみません。何もできなくて、すみません」
ぽろぽろ涙をこぼす千寿郎を見ていたら、私まで涙があふれた。涙で声が掠れる。
「大丈夫なんて嘘だよ……」
ぬいぐるみでも抱くが如く、千寿郎を抱きしめる。まだ着替えていない状態で悪いとは思ったけど、我慢できなかった。
「千寿郎お願い。ちょっとの間、こうさせて。疲れた。癒しが欲しい。つらい……」
「あの、疲れてるなら余計早くお休みになられたほうがいいのでは?湯も沸かします。姉上が湯浴みをなされている間に、お布団も敷いておきますから」
「無理ぃ……背中ぽんぽんしてぇ……」
そういってぐすぐすと泣きつけば、同じように泣いていたはずの千寿郎は泣き止み、戸惑いながらも私の背をとんとんと、優しく叩いてくれた。
かつて、瑠火さんにしてもらったものとよく似ている。