二周目 参
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戦闘でもそうだがその後も盛大に破け続け、負傷者の傷に巻いたりなどを繰り返したことで、私の袴やら袖はボロ切れのようになっていた。一部は自分の血に濡れて変色しているし、雑巾のがマシでは?なんて思うほどだ。
「邪魔だし動きやすくするのに引き裂くしかなさそう」
ただ、血のついた布はその辺に捨てるわけにいかない。この少量でも匂いで鬼は寄ってきて危険だし、捨てたこれを拾って鬼が舐めでもしたら鬼が強くなり、大変なことになる。稀血の血にはそれほどまでに力も価値もあるのだから。
大変……もそうだけど、その絵面を想像すると気持ち悪いな。どっからどうみても変態だ。
よし燃やそう。教室のゴミ捨て時に明槻がよく、汚物は消毒だー!って焼却炉の前で叫んでたし。あの方法を使って燃やしてしまえ。
ベースキャンプよりも奥。開けた大地で火を起こして燃やし、煙が燻る燃え滓を眺める。これでよし。感染性産業廃棄物と感染性一般廃棄物はしっかりと消毒、処理された。
「……なにこれ」
戻る手前、地面に巨大な手形があることに気がついた。熊?いや、手の形はどうみても人のものに近い。
それに熊だったらその辺の木よりも上背があることになる。熊は生体上ここまで大きくならない。
海外の熊なら大きい個体もいるかもしれないけれども。
ということは鬼の仕業に他ならない。
よくよく見れば、木々も歪に薙ぎ倒されているし。
薙ぎ倒し?いや、ねじ切られているようにも見える。すごいパワーだ。
巨大な手にこの力?どれほどの巨躯を持つ鬼かを考えてゾッとした。
バキバキバキ!
さらに奥から木が倒れる音がした。近くの鳥が一斉に飛び立つ。
えっ今来ちゃう感じ!?やばいやばいやばい!
獪岳と一緒に挑んだ戦闘からこっち、私はもう疲れていた。これ以上鬼と戦うのは、日輪刀の摩耗具合から言っても得策とは思えない。
私は遠くまで後退してから、鬼の風貌をそっと覗いた。
「…………っ!」
絶句した。
なんだあの肉の塊みたいな鬼は!肉っていうか、なにあれ手?まわりは全部手だ!!
簡単に頸を斬られないよう、急所を守っているようにも見えた。
無数の手を体に巻きつけ、生えた腕を駆使して周りの木々を薙ぎ倒しながら、のしのしと歩いている。
明らかなる異形の鬼だ。つまり異能……血鬼術をも使える鬼かもしれない。
最終選別にそんな鬼がいるなんて聞いたことない!
継子だった時、つまり階級が甲だった『前』ならともかく、今の私に倒すのは絶対に無理だ。日輪刀が摩耗していなくてもだ。
私はそうそうに離れた。
そしてようやく七日目の朝を迎え、私は山を降りた。
朝の日差しが眩しい。痛いほど目に沁みるが、待ち望んでいたそれに涙が滲んだ。生きている。……生きている!
早く杏寿郎さんに会いたい!会って話がしたい!!
体は痛いが軽やかに階段を降りる。
広場にいる他の参加者は、計六名。その全てが山の中で私が声をかけた人たち。二、三人しかいなかった前回より増えていて嬉しかった。
あっ、獪岳もいる!
ある程度待ってこれ以上は戻ってこないと分かったからか、始まりの時に挨拶をしていた産屋敷家の人が無事を祝ってくれた。
おかえりの言葉を聞くと体の底からほっとしてしまい、痛む体が余計に軋んだ。
そのあとは隊服支給のため、寸法を念入りに測られた。
なんだろうか。その際なんとも言えない邪な視線を感じたような。
でも太陽は出てるし鬼じゃないだろう。放っておく。
「朝緋」
呼ばれて振り向けば、獪岳自身の纏う黒い羽織が私に向かって投げてよこされた。
「わぷ」
「みっともねえ。足に巻いてろ」
「でも獪岳の羽織が」
「ほとんどぼろぼろで羽織として使い物にならねぇ。捨てる手間が省けるからくれてやる。
……てめぇにだけは特別だ」
「??あり、がとう」
足を出すなんて、卑しい女の証と思われることがいまだに多い時代。
モダンガールに、女性の社会進出。時代は変化しているが、根強く思われている習慣は変えられない。
獪岳もまた、袴がボロボロで足が見え放題の私を見てそう思ったのかも。ありがたく巻いて足を隠す。
その際、『特別』という言葉を使った獪岳が、頬を赤く染めていたことは、私にはわからなかった。
その時、声をかけられた。
「一人だけ女性隊士がいらっしゃいますね。あなたの分の隊服はすぐ御用意ができません。後日連絡します」
「あ、はい」
男性隊員にはサイズの合う隊服の用意があったようだが、女性用を持ってくるのを忘れてしまったらしい。仕方ないが、帰りの荷物が減るのは正直ありがたい。
次に手の甲に、藤花紋を刻み入れた。刺青のようで刺青ではない。普段は消えているそれは、階級を示す物。
十段回があり、再び一番下の癸から出発する。甲はまだまだ先。長そうだなあ。
パンパン!進行役が手を打ち鳴らすと、空から烏が次々に舞い降りてきた。その一羽が私の肩にスッと留まる。
鎹烏。
隊士一人につき一羽が担当する、伝書鳩のような存在だ。
頭がよく言葉は喋れるし、任務を言い渡したり鬼の情報を仕入れてきたり、荷物や文を運んだり……大事なパートナーである。
「カァーッ!」
「『また』よろしくね」
『前』と同じ烏の子。とある場所を掻いてやれば、うっとりと目を細めるところも一緒。
「では最後に日輪刀……鬼殺の武器の素になる玉鋼を選んでください。十日から十五かかりますゆえその間は此度の怪我等を治すため療養しつつ、鍛錬に励むように。
日輪刀が届いたのち任務を言い渡します」
猩々緋砂鉄に猩々緋鉱石。太陽に一番近い山、陽光山という一年中陽が差している山で採取される物だ。
台の上に大中小ごろりと置かれたそれは、太陽光を吸収しているとは思えぬくらい相も変わらず真っ黒。
大きすぎず小さすぎず、手頃な物をフィーリングで選ぶ。
『前』も思ったけど、選ぶ意味はあるのだろうか。あるとすれば鬼殺の覚悟の持つためのような気がするけれど、そういえば杏寿郎さんの色変わりの儀の時も数ヶ月前に選んでいた気がする。何か特別な理由があるのかもね。
それにしても、他の同期の子とお話しできてよかった。獪岳とも仲良くなれてよかった。
これからは烏でやりとりする約束もできた!情報を分け合うのは大事な事だもんね。
残念ながら、女の子の同期はいなかったけれど。
これで最終選別は終わりだ。
無事に合格できた。その嬉しい結果を胸に、獪岳や他の合格者と別れ、家へと急ぐ。
ただ、急ぐと言っても、その歩みは亀より遅い。家まではすごく、すごーく時間がかかった。
「行きは良い良い帰りはこわい。ね」
この『こわい』は蝦夷の方言で疲れた、のほうの意味で使った。
杏寿郎さんはここまで酷く疲れてなかったっぽいのになあ。最初から差があり過ぎる。
きー!身体中が本当に痛い!
「邪魔だし動きやすくするのに引き裂くしかなさそう」
ただ、血のついた布はその辺に捨てるわけにいかない。この少量でも匂いで鬼は寄ってきて危険だし、捨てたこれを拾って鬼が舐めでもしたら鬼が強くなり、大変なことになる。稀血の血にはそれほどまでに力も価値もあるのだから。
大変……もそうだけど、その絵面を想像すると気持ち悪いな。どっからどうみても変態だ。
よし燃やそう。教室のゴミ捨て時に明槻がよく、汚物は消毒だー!って焼却炉の前で叫んでたし。あの方法を使って燃やしてしまえ。
ベースキャンプよりも奥。開けた大地で火を起こして燃やし、煙が燻る燃え滓を眺める。これでよし。感染性産業廃棄物と感染性一般廃棄物はしっかりと消毒、処理された。
「……なにこれ」
戻る手前、地面に巨大な手形があることに気がついた。熊?いや、手の形はどうみても人のものに近い。
それに熊だったらその辺の木よりも上背があることになる。熊は生体上ここまで大きくならない。
海外の熊なら大きい個体もいるかもしれないけれども。
ということは鬼の仕業に他ならない。
よくよく見れば、木々も歪に薙ぎ倒されているし。
薙ぎ倒し?いや、ねじ切られているようにも見える。すごいパワーだ。
巨大な手にこの力?どれほどの巨躯を持つ鬼かを考えてゾッとした。
バキバキバキ!
さらに奥から木が倒れる音がした。近くの鳥が一斉に飛び立つ。
えっ今来ちゃう感じ!?やばいやばいやばい!
獪岳と一緒に挑んだ戦闘からこっち、私はもう疲れていた。これ以上鬼と戦うのは、日輪刀の摩耗具合から言っても得策とは思えない。
私は遠くまで後退してから、鬼の風貌をそっと覗いた。
「…………っ!」
絶句した。
なんだあの肉の塊みたいな鬼は!肉っていうか、なにあれ手?まわりは全部手だ!!
簡単に頸を斬られないよう、急所を守っているようにも見えた。
無数の手を体に巻きつけ、生えた腕を駆使して周りの木々を薙ぎ倒しながら、のしのしと歩いている。
明らかなる異形の鬼だ。つまり異能……血鬼術をも使える鬼かもしれない。
最終選別にそんな鬼がいるなんて聞いたことない!
継子だった時、つまり階級が甲だった『前』ならともかく、今の私に倒すのは絶対に無理だ。日輪刀が摩耗していなくてもだ。
私はそうそうに離れた。
そしてようやく七日目の朝を迎え、私は山を降りた。
朝の日差しが眩しい。痛いほど目に沁みるが、待ち望んでいたそれに涙が滲んだ。生きている。……生きている!
早く杏寿郎さんに会いたい!会って話がしたい!!
体は痛いが軽やかに階段を降りる。
広場にいる他の参加者は、計六名。その全てが山の中で私が声をかけた人たち。二、三人しかいなかった前回より増えていて嬉しかった。
あっ、獪岳もいる!
ある程度待ってこれ以上は戻ってこないと分かったからか、始まりの時に挨拶をしていた産屋敷家の人が無事を祝ってくれた。
おかえりの言葉を聞くと体の底からほっとしてしまい、痛む体が余計に軋んだ。
そのあとは隊服支給のため、寸法を念入りに測られた。
なんだろうか。その際なんとも言えない邪な視線を感じたような。
でも太陽は出てるし鬼じゃないだろう。放っておく。
「朝緋」
呼ばれて振り向けば、獪岳自身の纏う黒い羽織が私に向かって投げてよこされた。
「わぷ」
「みっともねえ。足に巻いてろ」
「でも獪岳の羽織が」
「ほとんどぼろぼろで羽織として使い物にならねぇ。捨てる手間が省けるからくれてやる。
……てめぇにだけは特別だ」
「??あり、がとう」
足を出すなんて、卑しい女の証と思われることがいまだに多い時代。
モダンガールに、女性の社会進出。時代は変化しているが、根強く思われている習慣は変えられない。
獪岳もまた、袴がボロボロで足が見え放題の私を見てそう思ったのかも。ありがたく巻いて足を隠す。
その際、『特別』という言葉を使った獪岳が、頬を赤く染めていたことは、私にはわからなかった。
その時、声をかけられた。
「一人だけ女性隊士がいらっしゃいますね。あなたの分の隊服はすぐ御用意ができません。後日連絡します」
「あ、はい」
男性隊員にはサイズの合う隊服の用意があったようだが、女性用を持ってくるのを忘れてしまったらしい。仕方ないが、帰りの荷物が減るのは正直ありがたい。
次に手の甲に、藤花紋を刻み入れた。刺青のようで刺青ではない。普段は消えているそれは、階級を示す物。
十段回があり、再び一番下の癸から出発する。甲はまだまだ先。長そうだなあ。
パンパン!進行役が手を打ち鳴らすと、空から烏が次々に舞い降りてきた。その一羽が私の肩にスッと留まる。
鎹烏。
隊士一人につき一羽が担当する、伝書鳩のような存在だ。
頭がよく言葉は喋れるし、任務を言い渡したり鬼の情報を仕入れてきたり、荷物や文を運んだり……大事なパートナーである。
「カァーッ!」
「『また』よろしくね」
『前』と同じ烏の子。とある場所を掻いてやれば、うっとりと目を細めるところも一緒。
「では最後に日輪刀……鬼殺の武器の素になる玉鋼を選んでください。十日から十五かかりますゆえその間は此度の怪我等を治すため療養しつつ、鍛錬に励むように。
日輪刀が届いたのち任務を言い渡します」
猩々緋砂鉄に猩々緋鉱石。太陽に一番近い山、陽光山という一年中陽が差している山で採取される物だ。
台の上に大中小ごろりと置かれたそれは、太陽光を吸収しているとは思えぬくらい相も変わらず真っ黒。
大きすぎず小さすぎず、手頃な物をフィーリングで選ぶ。
『前』も思ったけど、選ぶ意味はあるのだろうか。あるとすれば鬼殺の覚悟の持つためのような気がするけれど、そういえば杏寿郎さんの色変わりの儀の時も数ヶ月前に選んでいた気がする。何か特別な理由があるのかもね。
それにしても、他の同期の子とお話しできてよかった。獪岳とも仲良くなれてよかった。
これからは烏でやりとりする約束もできた!情報を分け合うのは大事な事だもんね。
残念ながら、女の子の同期はいなかったけれど。
これで最終選別は終わりだ。
無事に合格できた。その嬉しい結果を胸に、獪岳や他の合格者と別れ、家へと急ぐ。
ただ、急ぐと言っても、その歩みは亀より遅い。家まではすごく、すごーく時間がかかった。
「行きは良い良い帰りはこわい。ね」
この『こわい』は蝦夷の方言で疲れた、のほうの意味で使った。
杏寿郎さんはここまで酷く疲れてなかったっぽいのになあ。最初から差があり過ぎる。
きー!身体中が本当に痛い!