五周目 陸
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スラリと抜かれた炎はいつにも増して美しく綺麗で。杏寿郎さんに今まで斬られてきた鬼達が羨ましいな。
今から大好きに人に斬ってもらえるのね。美しい炎の刀身で斬ってもらえるのね。
私はそれを光栄に思う。
「朝緋……、」
刀身の向こう、悲しみの雫に彩られた貴方の目瞳が見える。
そんなに泣かないでほしい。貴方には笑っていてほしいのに。貴方には笑顔が似合うのに。
「……杏寿郎さん」
「なぜ、こんな事になってしまったのだろうな。俺達の進む先は。未来は、明るかったはずなのに。
君とずっと一緒にいたい。それこそが、俺の一番の願いだったのに」
日輪刀の鋒が上がる。鋭利に光る刃に炎が灯る。
「愛しているよ。ずっと、ずっと君だけを愛している。……朝緋」
「私もです、杏寿郎さん。貴方を愛してる……」
振りかぶられた日輪刀。
「──炎の呼吸 壱ノ型・不知火──」
不知火が龍神のように一直線に走り抜ける。私の頸という水面を目掛けて。
炎と共に、涙の滴が飛んだ。
視線が横に、下へとずれた。
ああ、斬られたのね。
不思議と痛くない。痛くない、あたたかい。
あたたかいのは、降ってくる涙のせいもあるのかな。
「あああ、朝緋!朝緋朝緋朝緋!!
ごめんなぁ、斬ってごめんな……!!こうするしかなかった俺を、許してくれ……!」
落ちた頭が抱きしめられた。まだ意識はあるのよ、苦しいよ杏寿郎さん。
でも悲しいな。最後に貴方の涙を見るなんて思わなかった。
ただこれで無限列車からは解放された。あそこで命を落とす貴方を見ずに済む。死なせないで先へと進めた。
「私こそごめんね。ごめん、こんなことさせてしまって。死んでごめんなさい」
前に私が死んだあの時より、酷いことをさせてしまった。杏寿郎さんの心に、深い傷を負わせてしまった。
「朝緋!!」
目線を合わせられる。
あ、首から少しずつ、ほろほろと消えていく。
消える時も痛みはないのね。でも、直に声も出せなくなる。完全に消えてしまう。
貴方が見えなくなってしまう。
本当のお別れが近づいてくる。
死神が私を迎えにくる。
そう思ったら、涙が溢れて止まらなくなった。
ああ、やっぱり。死にたくなかったなあ……。杏寿郎さんと一緒にいたかった。
そう思うのが遅すぎた。今更遅い。
「朝緋……。頸だけになっても君はかわいいのだな。綺麗なのだな。鬼とは思えんよ」
「やだなあ、お世辞がすぎますよ……」
頬を伝う涙を拭われ、撫でられた。
いつもと変わらない指のぬくもり。撫で上げるその強さ。
愛おしい……ここに腕があれば、貴方の手に手のひらを重ねられたのに。
「御館様、ありがとうございました。これで完全な鬼にならずに済みました」
いつもと同じ表情、柔らかな笑顔をたたえた御館様に声をかける。杏寿郎さんも共に、お礼を申しあげて首を垂れていた。
「うん。長らく鬼殺隊のために尽くしてきてくれたね。鬼になってもなお、その力を貸してくれたこと、嬉しく思う。ありがとう朝緋。
ゆっくり休みなさい」
仏の微笑みと共に言われ、肩の荷が降りた気分だった。鬼殺隊士としての責務も、もう私にはない。安心して目を閉じる。
まあ、鬼の首領を仕留められていないのはちょっと心残りだけどもね。
「申し訳ありませんお館様。奥の部屋をお借りします。最期は二人きりで終わらせたいのです」
許可を得て、奥の座敷をお借りする。
太陽の光が優しく明るく差し込む中での二人きり。もう消えるだけの私には、陽光が差し込もうとももはや関係がない。
「鬼でもいいから、朝緋とずっと一緒に生きていたかった。いつか君とやや子をもうけて、仲睦まじくいつまでも幸せに過ごしたかった……」
温かい腕の中、頬擦りとぶつかる吐息。
「鬼だから子供はできるかわからないと言ってるのに……」
「そんなもの、俺が頑張ればなんとでもなろう」
「前向きすぎるなあ。
でも、杏寿郎さんの前向きなところも、大好きなところの一つだよ」
他にも大好きなところは言い切れないほどある。その全てを言っていたら、私の体も頭も消えちゃう。もっと伝えたいこと、いっぱいあるはずなのにね。
「大好き?俺は愛している、だな」
「好きの最上級の愛情表現ね……」
「そうだな。愛する朝緋と共に、旅行もまた行きたかったし、美味しいものを食べ歩きたかった。どんな場所でもいい、手を繋いでいたかった。
……もう何もできないのだな」
「ごめんね」
願いの全てを潰してしまう私を許して。
「私がいなくなっても、体は大切にしてね。自暴自棄にならないでね。死を選ばないでね。無理、しちゃだめだよ」
「わかっている。それが朝緋の望みなのだから。柱として、これからも鬼殺隊のために努めていくよ」
「ならよかった……。ああ、なんだか眠くなってきちゃった、な」
ほっとしたら欠伸が出た。鬼は眠らないはずなのに、眠気が出てくるなんてね。
私の頭を何度も何度も愛おしそうに撫でる杏寿郎さんの、吸い込まれそうに優しくて明るい瞳を見つめる。
「ねぇ杏寿郎さん。最期に、おやすみのちゅーしてほしい。貴方のぬくもりと共に眠りたいな」
「ちゅー……ははは、口付けの事だな。
朝緋が望むならいくらでも、いつまででも」
「ありがとう……嬉しい」
初めてのキスのような、深くなくて優しくてまろみを帯びた甘いキス。
何度もふにふにと小さく唇を喰まれて、ちょっとくすぐったいくらいだ。
そんな触れるだけのようなキスなのに、不思議ととても心地よくて気持ちよくて。
愛されていると感じる。肉体が繋がっている時よりもなお、愛を感じられるキスだった。
「ふふ、あったかい、ねぇ……」
チリチリ、燃えるように消えていく私の頭。
私を構成していた最後のひとかけらが消えた。
命の灯火が消えた。
「朝緋、朝緋……、俺の愛しい…………、ぁ………………、あああああああああッッ!!!!」
最後に聞こえたのは大好きな人の、悲痛に泣き叫ぶ声だった。
初めて贈られたかんざしが。私達の瞳の色をした蜻蛉玉が。私達の色を宿した二人を繋ぐ指輪が。
空虚な音を立てて落ちた。
今から大好きに人に斬ってもらえるのね。美しい炎の刀身で斬ってもらえるのね。
私はそれを光栄に思う。
「朝緋……、」
刀身の向こう、悲しみの雫に彩られた貴方の目瞳が見える。
そんなに泣かないでほしい。貴方には笑っていてほしいのに。貴方には笑顔が似合うのに。
「……杏寿郎さん」
「なぜ、こんな事になってしまったのだろうな。俺達の進む先は。未来は、明るかったはずなのに。
君とずっと一緒にいたい。それこそが、俺の一番の願いだったのに」
日輪刀の鋒が上がる。鋭利に光る刃に炎が灯る。
「愛しているよ。ずっと、ずっと君だけを愛している。……朝緋」
「私もです、杏寿郎さん。貴方を愛してる……」
振りかぶられた日輪刀。
「──炎の呼吸 壱ノ型・不知火──」
不知火が龍神のように一直線に走り抜ける。私の頸という水面を目掛けて。
炎と共に、涙の滴が飛んだ。
視線が横に、下へとずれた。
ああ、斬られたのね。
不思議と痛くない。痛くない、あたたかい。
あたたかいのは、降ってくる涙のせいもあるのかな。
「あああ、朝緋!朝緋朝緋朝緋!!
ごめんなぁ、斬ってごめんな……!!こうするしかなかった俺を、許してくれ……!」
落ちた頭が抱きしめられた。まだ意識はあるのよ、苦しいよ杏寿郎さん。
でも悲しいな。最後に貴方の涙を見るなんて思わなかった。
ただこれで無限列車からは解放された。あそこで命を落とす貴方を見ずに済む。死なせないで先へと進めた。
「私こそごめんね。ごめん、こんなことさせてしまって。死んでごめんなさい」
前に私が死んだあの時より、酷いことをさせてしまった。杏寿郎さんの心に、深い傷を負わせてしまった。
「朝緋!!」
目線を合わせられる。
あ、首から少しずつ、ほろほろと消えていく。
消える時も痛みはないのね。でも、直に声も出せなくなる。完全に消えてしまう。
貴方が見えなくなってしまう。
本当のお別れが近づいてくる。
死神が私を迎えにくる。
そう思ったら、涙が溢れて止まらなくなった。
ああ、やっぱり。死にたくなかったなあ……。杏寿郎さんと一緒にいたかった。
そう思うのが遅すぎた。今更遅い。
「朝緋……。頸だけになっても君はかわいいのだな。綺麗なのだな。鬼とは思えんよ」
「やだなあ、お世辞がすぎますよ……」
頬を伝う涙を拭われ、撫でられた。
いつもと変わらない指のぬくもり。撫で上げるその強さ。
愛おしい……ここに腕があれば、貴方の手に手のひらを重ねられたのに。
「御館様、ありがとうございました。これで完全な鬼にならずに済みました」
いつもと同じ表情、柔らかな笑顔をたたえた御館様に声をかける。杏寿郎さんも共に、お礼を申しあげて首を垂れていた。
「うん。長らく鬼殺隊のために尽くしてきてくれたね。鬼になってもなお、その力を貸してくれたこと、嬉しく思う。ありがとう朝緋。
ゆっくり休みなさい」
仏の微笑みと共に言われ、肩の荷が降りた気分だった。鬼殺隊士としての責務も、もう私にはない。安心して目を閉じる。
まあ、鬼の首領を仕留められていないのはちょっと心残りだけどもね。
「申し訳ありませんお館様。奥の部屋をお借りします。最期は二人きりで終わらせたいのです」
許可を得て、奥の座敷をお借りする。
太陽の光が優しく明るく差し込む中での二人きり。もう消えるだけの私には、陽光が差し込もうとももはや関係がない。
「鬼でもいいから、朝緋とずっと一緒に生きていたかった。いつか君とやや子をもうけて、仲睦まじくいつまでも幸せに過ごしたかった……」
温かい腕の中、頬擦りとぶつかる吐息。
「鬼だから子供はできるかわからないと言ってるのに……」
「そんなもの、俺が頑張ればなんとでもなろう」
「前向きすぎるなあ。
でも、杏寿郎さんの前向きなところも、大好きなところの一つだよ」
他にも大好きなところは言い切れないほどある。その全てを言っていたら、私の体も頭も消えちゃう。もっと伝えたいこと、いっぱいあるはずなのにね。
「大好き?俺は愛している、だな」
「好きの最上級の愛情表現ね……」
「そうだな。愛する朝緋と共に、旅行もまた行きたかったし、美味しいものを食べ歩きたかった。どんな場所でもいい、手を繋いでいたかった。
……もう何もできないのだな」
「ごめんね」
願いの全てを潰してしまう私を許して。
「私がいなくなっても、体は大切にしてね。自暴自棄にならないでね。死を選ばないでね。無理、しちゃだめだよ」
「わかっている。それが朝緋の望みなのだから。柱として、これからも鬼殺隊のために努めていくよ」
「ならよかった……。ああ、なんだか眠くなってきちゃった、な」
ほっとしたら欠伸が出た。鬼は眠らないはずなのに、眠気が出てくるなんてね。
私の頭を何度も何度も愛おしそうに撫でる杏寿郎さんの、吸い込まれそうに優しくて明るい瞳を見つめる。
「ねぇ杏寿郎さん。最期に、おやすみのちゅーしてほしい。貴方のぬくもりと共に眠りたいな」
「ちゅー……ははは、口付けの事だな。
朝緋が望むならいくらでも、いつまででも」
「ありがとう……嬉しい」
初めてのキスのような、深くなくて優しくてまろみを帯びた甘いキス。
何度もふにふにと小さく唇を喰まれて、ちょっとくすぐったいくらいだ。
そんな触れるだけのようなキスなのに、不思議ととても心地よくて気持ちよくて。
愛されていると感じる。肉体が繋がっている時よりもなお、愛を感じられるキスだった。
「ふふ、あったかい、ねぇ……」
チリチリ、燃えるように消えていく私の頭。
私を構成していた最後のひとかけらが消えた。
命の灯火が消えた。
「朝緋、朝緋……、俺の愛しい…………、ぁ………………、あああああああああッッ!!!!」
最後に聞こえたのは大好きな人の、悲痛に泣き叫ぶ声だった。
初めて贈られたかんざしが。私達の瞳の色をした蜻蛉玉が。私達の色を宿した二人を繋ぐ指輪が。
空虚な音を立てて落ちた。