五周目 陸
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姿勢を正し、炭治郎が理由を語る。
「俺は御館様に頼まれて、朝緋さんの行方を探していたんです。朝緋さんは鬼退治の任務を独自に請け負っていた。でも突然消息を絶ってしまったから……」
「あー……、その、鬼殺の最中に杏寿郎さんに見つかってしまって……。杏寿郎さんにだけは、この姿を見られたくはなかったんだけどね」
醜い鬼の姿。今は杏寿郎さんに見つかったあの時ほど嫌悪してないけど、鏡を見るとやっぱり落ち込む。彼がどんなに鬼の姿も愛しいと言っても、独り占めしたいと私を大切そうに囲ってしまってもだ。
「彼は私の姿を誰にも見られないよう、周りから隠してしまったの。
御館様には居場所を言っておいた方がいいとは言ったのよ?でもそれも許してくれなくて。代わりにうちの鎹烏が察して御館様には伝えてくれるかと思ったんだけれど……その様子じゃそれも駄目だったのね」
「はい、お二人の鎹烏もその事に関しては知らないの一点張りでしたね」
杏寿郎さん、烏達に口止めしたんだ。徹底してるなぁ。私の鎹烏、あずまに会いたいなあ。
「煉獄さんに会ったのはあの列車任務以来でした。彼には鬼となった貴女の匂いが染み付いていた。
朝緋さんを探している間、もしかしたらもう鬼として誰かに頸を落とされて。それか太陽に当たって死んでしまったのではないかと不安でした。だから、煉獄さんといると分かった時、とても嬉しかった。好きあっているもの同士で過ごしているなら何よりだと思いました」
杏寿郎さんが怒るので口にはしない。でも炭治郎が不安に思うそれのように、本当は死んだ方がマシなのだ。なぜならば、
「けれど、煉獄さんからは血の匂いもしていました」
そう。話をし始めた時から、炭治郎の鋭い鼻がそれを嗅ぎ取っているのはわかっていた。杏寿郎さんの血を。杏寿郎さんが血を流す原因が私である事を。
「声が出るようになったんですね。それは、煉獄さんの血のおかげですね。血を飲みましたね。噛みましたね」
「うん……」
怒ってはいない、責めてもいない淡々とした口調。でも私には新しいクナイが体に刺さったかのようだった。
「最初は無理やりだった。けれど今は、私から杏寿郎さんの血を吸うようになってしまったわ。
ごめんね、炭治郎……炭治郎は血を飲まぬように、肉を喰らわぬようにと言ってくれたのに。なのに結局このザマだよ」
鬼化が進み出したのも、杏寿郎さんの血だけじゃなくて肉を喰らったせい。角がより凶悪に。爪が更に長くなってしまった。
「一度、我を忘れてね。杏寿郎さんを噛んでしまったの。肉に喰らい付いてしまったの。
私はもう、人の心を失った、人に仇をなす悪鬼なのよ」
「朝緋さん……。
自分でそうやって反省できるうちは、貴女は人間です。貴女のことだから、自ら藤の中に囲われているんですよね?足も手も、そうやって藤の毒と鎖で自ら繋がれている。自分を人として留めるために」
「そうね……これ以上鬼になりたくなくて、私は私を罰した。藤の中に自分を閉じ込めた。理由は私を死なせないためだったけれど、杏寿郎さんも私を閉じ込める事に賛同してくれてね……。
こんなに藤に囲まれて、まるで小さな藤襲山だよね」
そばにある藤の花房を手にする。
くさい、痛い、吐き気がする、燃やしてしまいたい。頭痛がしてきた……息苦しい。
「前はあんなにもいい香りだと思っていた藤が、こんなに憎らしいほど嫌な香りに感じるの。クナイに仕込まれた毒のせいもあってね、藤にちょっと触るだけで指がかぶれてしまう。皮膚が爛れてくるの。痛くてたまらない」
あまりの辛さに逆に握りしめてしまった。
指が、手のひらがジュウウと爛れ、腐ったような色に変わった。化学反応かな?まるで硫酸でもかかったかのよう。
って事は蟲の呼吸の技って相当痛いのね。
「……ああ、ほら」
「触らなくていいです。俺に見せるためだけに、怪我を負う必要はありません」
「ありがとう。でもこの程度はすぐ治るし平気」
だって鬼だから。
「朝緋さん……俺は貴女が怖いです。
どんなに心優しく、人の心を保っている鬼でも、一度血や肉を口にすればいずれは人の心を失ってしまう。今の朝緋さんは、必死に押し込んでいるけどそうなってしまう一歩手前の状態になっています。
俺は朝緋さんがいつ本当の悪鬼になってしまうのか、考えるだけで恐ろしい。俺達が、斬らなくてはならない鬼になってしまうのが怖いのです。俺は貴女の頸を斬りたくない。貴女を知っている誰もがきっと、貴女の頸を斬りたくない。
……でも」
「うん……。直に悪い鬼になるのは確定してるし、悪鬼になる前に私は……。
だから御館様に報告するんでしょ?私が今どこにいてどんな状態か。悪鬼に堕ちる一歩手前だと」
「はい。……義務ですから」
御館様はきっと、鬼に堕ちる前に私の頸を斬って欲しいと言えば、そうしてくれる。斬る方へと賛同してくれる。
炭治郎もわかっているから、言い淀んだ。
「そりゃそうよ。任務にも出れない状態で鬼殺隊の役に立たないし、今の私はただの鬼。
それも、悪い鬼にいつ変貌してもおかしくない、爆弾みたいなもの。頸を落とされて当然の鬼。
それも、鬼舞辻無惨が探しているような厄介なね。あちらの鬼達に私が捕えられたら鬼殺隊の情報を取られてしまうかもしれない。鬼殺隊が敗北する未来に繋がってしまうかもしれない。稀血だけは変貌していないし、鬼側に多大な力を与えてしまうかもしれない。
御館様が危惧して当然の存在。
早く殺したほうがいい。私はこの世から消えたほうがいい鬼よ」
「朝緋さん……何もそこまで……」
本当は今ここで、炭治郎の隣に置いてある日輪刀を奪って、自分の頸を刎ねてしまいたいくらいなのに。でもそれをすると、御館様への報告は満足にできない上に、炭治郎が杏寿郎さんの恨みを買うだろうね。
ああ、この考えはやめておくから炭治郎、君は日輪刀を隠すように握らなくていいよ?
「杏寿郎さんは私が死ぬのをものすごく嫌がっているけれど、私は頸を落としてもらいたいと思ってるよ。私が私である内にね」
貴方が鬼になるくらいなら私が鬼になる、とは思った。
けれど本当に鬼になって、その辛さを知った。恐怖を知った。鬼になるくらいなら、死んでしまった方がマシだ。
鬼になんてなりたくなかった。
「俺は御館様に頼まれて、朝緋さんの行方を探していたんです。朝緋さんは鬼退治の任務を独自に請け負っていた。でも突然消息を絶ってしまったから……」
「あー……、その、鬼殺の最中に杏寿郎さんに見つかってしまって……。杏寿郎さんにだけは、この姿を見られたくはなかったんだけどね」
醜い鬼の姿。今は杏寿郎さんに見つかったあの時ほど嫌悪してないけど、鏡を見るとやっぱり落ち込む。彼がどんなに鬼の姿も愛しいと言っても、独り占めしたいと私を大切そうに囲ってしまってもだ。
「彼は私の姿を誰にも見られないよう、周りから隠してしまったの。
御館様には居場所を言っておいた方がいいとは言ったのよ?でもそれも許してくれなくて。代わりにうちの鎹烏が察して御館様には伝えてくれるかと思ったんだけれど……その様子じゃそれも駄目だったのね」
「はい、お二人の鎹烏もその事に関しては知らないの一点張りでしたね」
杏寿郎さん、烏達に口止めしたんだ。徹底してるなぁ。私の鎹烏、あずまに会いたいなあ。
「煉獄さんに会ったのはあの列車任務以来でした。彼には鬼となった貴女の匂いが染み付いていた。
朝緋さんを探している間、もしかしたらもう鬼として誰かに頸を落とされて。それか太陽に当たって死んでしまったのではないかと不安でした。だから、煉獄さんといると分かった時、とても嬉しかった。好きあっているもの同士で過ごしているなら何よりだと思いました」
杏寿郎さんが怒るので口にはしない。でも炭治郎が不安に思うそれのように、本当は死んだ方がマシなのだ。なぜならば、
「けれど、煉獄さんからは血の匂いもしていました」
そう。話をし始めた時から、炭治郎の鋭い鼻がそれを嗅ぎ取っているのはわかっていた。杏寿郎さんの血を。杏寿郎さんが血を流す原因が私である事を。
「声が出るようになったんですね。それは、煉獄さんの血のおかげですね。血を飲みましたね。噛みましたね」
「うん……」
怒ってはいない、責めてもいない淡々とした口調。でも私には新しいクナイが体に刺さったかのようだった。
「最初は無理やりだった。けれど今は、私から杏寿郎さんの血を吸うようになってしまったわ。
ごめんね、炭治郎……炭治郎は血を飲まぬように、肉を喰らわぬようにと言ってくれたのに。なのに結局このザマだよ」
鬼化が進み出したのも、杏寿郎さんの血だけじゃなくて肉を喰らったせい。角がより凶悪に。爪が更に長くなってしまった。
「一度、我を忘れてね。杏寿郎さんを噛んでしまったの。肉に喰らい付いてしまったの。
私はもう、人の心を失った、人に仇をなす悪鬼なのよ」
「朝緋さん……。
自分でそうやって反省できるうちは、貴女は人間です。貴女のことだから、自ら藤の中に囲われているんですよね?足も手も、そうやって藤の毒と鎖で自ら繋がれている。自分を人として留めるために」
「そうね……これ以上鬼になりたくなくて、私は私を罰した。藤の中に自分を閉じ込めた。理由は私を死なせないためだったけれど、杏寿郎さんも私を閉じ込める事に賛同してくれてね……。
こんなに藤に囲まれて、まるで小さな藤襲山だよね」
そばにある藤の花房を手にする。
くさい、痛い、吐き気がする、燃やしてしまいたい。頭痛がしてきた……息苦しい。
「前はあんなにもいい香りだと思っていた藤が、こんなに憎らしいほど嫌な香りに感じるの。クナイに仕込まれた毒のせいもあってね、藤にちょっと触るだけで指がかぶれてしまう。皮膚が爛れてくるの。痛くてたまらない」
あまりの辛さに逆に握りしめてしまった。
指が、手のひらがジュウウと爛れ、腐ったような色に変わった。化学反応かな?まるで硫酸でもかかったかのよう。
って事は蟲の呼吸の技って相当痛いのね。
「……ああ、ほら」
「触らなくていいです。俺に見せるためだけに、怪我を負う必要はありません」
「ありがとう。でもこの程度はすぐ治るし平気」
だって鬼だから。
「朝緋さん……俺は貴女が怖いです。
どんなに心優しく、人の心を保っている鬼でも、一度血や肉を口にすればいずれは人の心を失ってしまう。今の朝緋さんは、必死に押し込んでいるけどそうなってしまう一歩手前の状態になっています。
俺は朝緋さんがいつ本当の悪鬼になってしまうのか、考えるだけで恐ろしい。俺達が、斬らなくてはならない鬼になってしまうのが怖いのです。俺は貴女の頸を斬りたくない。貴女を知っている誰もがきっと、貴女の頸を斬りたくない。
……でも」
「うん……。直に悪い鬼になるのは確定してるし、悪鬼になる前に私は……。
だから御館様に報告するんでしょ?私が今どこにいてどんな状態か。悪鬼に堕ちる一歩手前だと」
「はい。……義務ですから」
御館様はきっと、鬼に堕ちる前に私の頸を斬って欲しいと言えば、そうしてくれる。斬る方へと賛同してくれる。
炭治郎もわかっているから、言い淀んだ。
「そりゃそうよ。任務にも出れない状態で鬼殺隊の役に立たないし、今の私はただの鬼。
それも、悪い鬼にいつ変貌してもおかしくない、爆弾みたいなもの。頸を落とされて当然の鬼。
それも、鬼舞辻無惨が探しているような厄介なね。あちらの鬼達に私が捕えられたら鬼殺隊の情報を取られてしまうかもしれない。鬼殺隊が敗北する未来に繋がってしまうかもしれない。稀血だけは変貌していないし、鬼側に多大な力を与えてしまうかもしれない。
御館様が危惧して当然の存在。
早く殺したほうがいい。私はこの世から消えたほうがいい鬼よ」
「朝緋さん……何もそこまで……」
本当は今ここで、炭治郎の隣に置いてある日輪刀を奪って、自分の頸を刎ねてしまいたいくらいなのに。でもそれをすると、御館様への報告は満足にできない上に、炭治郎が杏寿郎さんの恨みを買うだろうね。
ああ、この考えはやめておくから炭治郎、君は日輪刀を隠すように握らなくていいよ?
「杏寿郎さんは私が死ぬのをものすごく嫌がっているけれど、私は頸を落としてもらいたいと思ってるよ。私が私である内にね」
貴方が鬼になるくらいなら私が鬼になる、とは思った。
けれど本当に鬼になって、その辛さを知った。恐怖を知った。鬼になるくらいなら、死んでしまった方がマシだ。
鬼になんてなりたくなかった。