五周目 陸
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それから必ずと言っていいほど料理中は、勝手場の入り口を見張るかのように立ち塞がり、私を監視する杏寿郎さんがいた。
ちなみに、陽の光が入らぬよう、遮光性の高い布で窓や入口が塞がれていて、蝋燭の灯り下での調理だ。……暗い。
でも暗い中でも大きな目から繰り出されるその視線はいつだってよくわかる。
「そんなに見張らなくても、勝手場から逃げ出したりしませんよ。昼間だし……」
「そこは信用できない。陰になったところを伝い、逃げるやもしれんと思ってな。すまん」
前科があるからなあ……。
「もう勝手にいなくなったりしないし、勝手に死ぬなんてしないよ。
……有事の際には頸を斬ってほしいけど」
「断る」
「断るを断りたいんですが?」
「断るを断るを断る」
「断るをことわ……断るが多過ぎるからもういいや」
こればかりは堂々巡りのいたちごっこだ。
私が悪鬼と成り下がったら迷わずにこの頸を落としてほしいのに、柱だから斬らなくてはならないはずの杏寿郎さんはそれを嫌がる。
「今すぐ必要な食材でもあるのか?迷っているように見える。先程から手を動かしていなかろう」
「あー、主菜がね、鶏肉とか豚肉、牛肉がなくて。卵なんかはあるけど」
近所の人に頼んでばかりも気が引けるしなあ。
「買ってこよう。俺ならば四半刻で帰ってこれるだろうからな」
「嬉しいけどでも……杏寿郎さんが買いに出かけてる間って、また繋がれるんでしょ?」
「当たり前だろう。油断は禁物だ」
「……ほんっと、信用ないなあ。
頸斬るのは嫌がるくせに、なんでクナイで足貫いたり、鎖に繋いだりできるのさ。痛いのにはちょい慣れたけどさあ」
「それが君の為だからだ」
「あれのどこが私のた……うっ!!いきなり刺すのやめてよ!?せめてはい刺しますよー、くらい言ってよ!!」
どこから取り出したのか、藤毒が塗られたクナイが私の肩口にいきなり刺しこまれた。
「いつ刺しても変わらん」
「ひどい!……ぁあああ相変わらず痛いし気持ち悪い……」
「おっと。我慢してくれ」
ぐるぐる目が回る。よろめいていく体を抱き止められる感覚。あ、やばい意識を保っていられなさそう。
杏寿郎さんめ、いつもより藤毒多めに塗ったな……。がくっ。
「はっ!寝落ちてた……」
気がつけばまた、クナイが足にまで差し込まれ、その先が頑丈な鎖に繋がれた状態だった。
杏寿郎さんが出かけたり、任務へ赴く時はこうなるとはいえ、本当に痛くてつらくてむしろ殺してと思うほどだ。
「あまり私に痛い思いさせてほしくないなあ。この藤毒からの回復に、また血が必要になるってわからないのかしら……」
ただ、血を飲ませるために……私が杏寿郎さんを求めるようになるために、こうしている可能性もなくはない。
それからたっぷり半刻ほどして杏寿郎さんは帰ってきた。クナイやら鎖やらを外されながら抗議する。
「遅くない?四半刻って言ってませんでしたか」
私が目を覚ましてから半刻だったので、一刻近くは出かけていた計算になる。
「すまん、大人しく待っていてくれる朝緋に土産を買っていてな」
「お土産〜?鬼の私にお土産って何さ。角用の帽子とか言わないよね」
自分で言っといてなんだけど、角用帽子ってなんだろ……。
「外に出ないのに帽子は要らんだろう。
俺は食材の他にあいすくりんといなり寿司を買ってきただけだぞ」
中に氷が満ちているのだろう、冷気の漏れる箱がぱかりと開き、アイスクリームが出てきた。仕切りを挟んで他の食材やいなり寿司も入っている。
好物が!アイスクリームといなり寿司が輝いて見える!!まぶしい!!
「鬼に一番必要ないものーーっ!大好物だけど食べられないんですが!?」
「知っている。だから俺が代わりに食べればいい。俺が食べれば血に溶け込んで朝緋が血を飲んだ時に味がするやもと!そう思ったのだ!!」
「んなわけあるかいっ!どんな原理!?」
買ってきてもらったものを片付け、私は飲まなくともあたたかいお茶を杏寿郎さんに淹れる。
机に置かれたアイスクリームといなり寿司……これから杏寿郎さんの口の中に消えてゆく私のアイス……おいなり……くっ。
「いただきます!」
「…………、……ドウゾ」
ぱくっ。もぐもぐ……あむっ。ごくん、
「美味いっっ!!!!」
「〜〜〜っ!ああああずるい!ずるいずるいずるい!」
美味いの声。そしてその表情がまた、とてつもなく美味しそう過ぎて……腹立たしくて羨ましくて、子供のように転げ回った。
「落ち着け朝緋!クナイは抜いたがそんなに暴れると藤の毒が体に回るぞ!」
「キィー!もう回ってるんですけど!?ずるい!食べたい!ああーー!鬼なんてやっぱりやだー!美味しいご飯が食べたい!!
陽の光あびたい!常夏のハワイビーチでアイス食べながらリゾートしたい!!ハワイ行ったことないけど!!」
「何を言っているのかわからん!はわいとはどこだ!?」
「海外だよ外つ国だよ!いなり寿司の匂いさせてこっちこないでください!!鬼って人間の食べ物の匂い気持ち悪いんじゃなかったの!?お腹空くー!!」
甘く煮付けた油揚げという好物の香りを前に鬼も泣く。グスグス涙しながら、机向こうでいなり寿司とアイスを頬張る杏寿郎さんをジトリと睨む。
「そんなに恨みがましい目で泣くなら、一度駄目元で食べてみればいいではないか。好物なら食べられるかもしれんぞ」
「グスン、そだね……」
杏寿郎さんが鬼となった時、人間の食事が食べられなかったのをこの目で見た。だからと言って、私も同じとは限らないもんね。床に突っ伏したまま、芋虫のように杏寿郎さんの元に這い寄る。
「行儀の悪い移動法だな。まあいい、ほら、あーん」
「わぁい!あーん!」
念願のアイスクリームが私の口の中に!
んー、冷たくて甘……く感じない、アレ?……美味しくないどころか飲みこんだらものすごい吐き気がしてきた。
「っう、ぶぇ」
「……どうした朝緋!」
「ごめなさ、ちょっと席外すっ」
結果、吐き戻した。
「やはり鬼では食べられないのだな」
「うん……食べられない。胃が受け付けない……かなしみー」
「あいすくりんでこれなら、固形のいなり寿司も止めておいたほうが良さそうだな」
「そうね。悔しいけど全部杏寿郎さんが食べて。本当に悔しいけど」
「そう言うと思いもう食べた」
「早いよ味わって食べてよ」
一息で食べてしまうなんて、私の好物に失礼だ。
「鬼舞辻無惨の呪いも発動しないしさ、自分で言うのもなんだけど、私って結構特殊な鬼だと思うのよね。
だったら好物の一つや二つくらい、栄養摂取のためじゃなくて嗜好品として食べれても罰当たらないよね。なんで食べられないんだよ……鬼ってつらい」
「ふむ……食事とは四半刻もすれば、力になるのだったな」
「ええまあ、食べたものにもよるけど血糖値的にはそれくらいで上がり始めるわけだ、し……!?」
机に突っ伏し、いじけ虫になりつつ受けごたえしていれば杏寿郎さんが隣に来る気配からの。
ちなみに、陽の光が入らぬよう、遮光性の高い布で窓や入口が塞がれていて、蝋燭の灯り下での調理だ。……暗い。
でも暗い中でも大きな目から繰り出されるその視線はいつだってよくわかる。
「そんなに見張らなくても、勝手場から逃げ出したりしませんよ。昼間だし……」
「そこは信用できない。陰になったところを伝い、逃げるやもしれんと思ってな。すまん」
前科があるからなあ……。
「もう勝手にいなくなったりしないし、勝手に死ぬなんてしないよ。
……有事の際には頸を斬ってほしいけど」
「断る」
「断るを断りたいんですが?」
「断るを断るを断る」
「断るをことわ……断るが多過ぎるからもういいや」
こればかりは堂々巡りのいたちごっこだ。
私が悪鬼と成り下がったら迷わずにこの頸を落としてほしいのに、柱だから斬らなくてはならないはずの杏寿郎さんはそれを嫌がる。
「今すぐ必要な食材でもあるのか?迷っているように見える。先程から手を動かしていなかろう」
「あー、主菜がね、鶏肉とか豚肉、牛肉がなくて。卵なんかはあるけど」
近所の人に頼んでばかりも気が引けるしなあ。
「買ってこよう。俺ならば四半刻で帰ってこれるだろうからな」
「嬉しいけどでも……杏寿郎さんが買いに出かけてる間って、また繋がれるんでしょ?」
「当たり前だろう。油断は禁物だ」
「……ほんっと、信用ないなあ。
頸斬るのは嫌がるくせに、なんでクナイで足貫いたり、鎖に繋いだりできるのさ。痛いのにはちょい慣れたけどさあ」
「それが君の為だからだ」
「あれのどこが私のた……うっ!!いきなり刺すのやめてよ!?せめてはい刺しますよー、くらい言ってよ!!」
どこから取り出したのか、藤毒が塗られたクナイが私の肩口にいきなり刺しこまれた。
「いつ刺しても変わらん」
「ひどい!……ぁあああ相変わらず痛いし気持ち悪い……」
「おっと。我慢してくれ」
ぐるぐる目が回る。よろめいていく体を抱き止められる感覚。あ、やばい意識を保っていられなさそう。
杏寿郎さんめ、いつもより藤毒多めに塗ったな……。がくっ。
「はっ!寝落ちてた……」
気がつけばまた、クナイが足にまで差し込まれ、その先が頑丈な鎖に繋がれた状態だった。
杏寿郎さんが出かけたり、任務へ赴く時はこうなるとはいえ、本当に痛くてつらくてむしろ殺してと思うほどだ。
「あまり私に痛い思いさせてほしくないなあ。この藤毒からの回復に、また血が必要になるってわからないのかしら……」
ただ、血を飲ませるために……私が杏寿郎さんを求めるようになるために、こうしている可能性もなくはない。
それからたっぷり半刻ほどして杏寿郎さんは帰ってきた。クナイやら鎖やらを外されながら抗議する。
「遅くない?四半刻って言ってませんでしたか」
私が目を覚ましてから半刻だったので、一刻近くは出かけていた計算になる。
「すまん、大人しく待っていてくれる朝緋に土産を買っていてな」
「お土産〜?鬼の私にお土産って何さ。角用の帽子とか言わないよね」
自分で言っといてなんだけど、角用帽子ってなんだろ……。
「外に出ないのに帽子は要らんだろう。
俺は食材の他にあいすくりんといなり寿司を買ってきただけだぞ」
中に氷が満ちているのだろう、冷気の漏れる箱がぱかりと開き、アイスクリームが出てきた。仕切りを挟んで他の食材やいなり寿司も入っている。
好物が!アイスクリームといなり寿司が輝いて見える!!まぶしい!!
「鬼に一番必要ないものーーっ!大好物だけど食べられないんですが!?」
「知っている。だから俺が代わりに食べればいい。俺が食べれば血に溶け込んで朝緋が血を飲んだ時に味がするやもと!そう思ったのだ!!」
「んなわけあるかいっ!どんな原理!?」
買ってきてもらったものを片付け、私は飲まなくともあたたかいお茶を杏寿郎さんに淹れる。
机に置かれたアイスクリームといなり寿司……これから杏寿郎さんの口の中に消えてゆく私のアイス……おいなり……くっ。
「いただきます!」
「…………、……ドウゾ」
ぱくっ。もぐもぐ……あむっ。ごくん、
「美味いっっ!!!!」
「〜〜〜っ!ああああずるい!ずるいずるいずるい!」
美味いの声。そしてその表情がまた、とてつもなく美味しそう過ぎて……腹立たしくて羨ましくて、子供のように転げ回った。
「落ち着け朝緋!クナイは抜いたがそんなに暴れると藤の毒が体に回るぞ!」
「キィー!もう回ってるんですけど!?ずるい!食べたい!ああーー!鬼なんてやっぱりやだー!美味しいご飯が食べたい!!
陽の光あびたい!常夏のハワイビーチでアイス食べながらリゾートしたい!!ハワイ行ったことないけど!!」
「何を言っているのかわからん!はわいとはどこだ!?」
「海外だよ外つ国だよ!いなり寿司の匂いさせてこっちこないでください!!鬼って人間の食べ物の匂い気持ち悪いんじゃなかったの!?お腹空くー!!」
甘く煮付けた油揚げという好物の香りを前に鬼も泣く。グスグス涙しながら、机向こうでいなり寿司とアイスを頬張る杏寿郎さんをジトリと睨む。
「そんなに恨みがましい目で泣くなら、一度駄目元で食べてみればいいではないか。好物なら食べられるかもしれんぞ」
「グスン、そだね……」
杏寿郎さんが鬼となった時、人間の食事が食べられなかったのをこの目で見た。だからと言って、私も同じとは限らないもんね。床に突っ伏したまま、芋虫のように杏寿郎さんの元に這い寄る。
「行儀の悪い移動法だな。まあいい、ほら、あーん」
「わぁい!あーん!」
念願のアイスクリームが私の口の中に!
んー、冷たくて甘……く感じない、アレ?……美味しくないどころか飲みこんだらものすごい吐き気がしてきた。
「っう、ぶぇ」
「……どうした朝緋!」
「ごめなさ、ちょっと席外すっ」
結果、吐き戻した。
「やはり鬼では食べられないのだな」
「うん……食べられない。胃が受け付けない……かなしみー」
「あいすくりんでこれなら、固形のいなり寿司も止めておいたほうが良さそうだな」
「そうね。悔しいけど全部杏寿郎さんが食べて。本当に悔しいけど」
「そう言うと思いもう食べた」
「早いよ味わって食べてよ」
一息で食べてしまうなんて、私の好物に失礼だ。
「鬼舞辻無惨の呪いも発動しないしさ、自分で言うのもなんだけど、私って結構特殊な鬼だと思うのよね。
だったら好物の一つや二つくらい、栄養摂取のためじゃなくて嗜好品として食べれても罰当たらないよね。なんで食べられないんだよ……鬼ってつらい」
「ふむ……食事とは四半刻もすれば、力になるのだったな」
「ええまあ、食べたものにもよるけど血糖値的にはそれくらいで上がり始めるわけだ、し……!?」
机に突っ伏し、いじけ虫になりつつ受けごたえしていれば杏寿郎さんが隣に来る気配からの。